物損事故の慰謝料請求は可能? 慰謝料請求できるケースとは

物損事故で慰謝料請求はできるのでしょうか。

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物損事故扱いにしたけど数日後に痛みが出てきた…どうしたらいい?

物損事故の場合、車の修理費以外に請求できるものはある?

交通事故に遭われた際に、このような疑問をおもちになる方も少なくないのではないでしょうか。

今回は、こういった疑問にお答えしながら、物損事故の際に知っておくべきことを解説いたします。

交通事故に遭った際の慰謝料獲得方法については以下の関連記事もご覧ください。

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1、物損事故でも慰謝料の請求は可能?

(1)慰謝料とは?

誰しもが慰謝料という言葉自体は耳にしたことがあると思いますが、そもそも、慰謝料とは何なのでしょうか。慰謝料とは、被害者が負った精神的苦痛に対する金銭的な補償のことです。

(2)物損事故とは?

交通事故には大きく分けて、人身事故と物損事故という2つの種類があります。人身事故とは、死傷者が存在する事故のことをいいます。反対に、物損事故とは、事故によって生じた被害が自動車や物品の破損にとどまる事故のことをいいます。

(3)物損事故における慰謝料請求の可否

それでは、物損事故において、慰謝料を請求することはできるのでしょうか。結論から申し上げますと、答えはNOです。物損事故においては、慰謝料請求は原則として認められません。

(4)物損事故において慰謝料請求が例外的に認められる場合

先ほど、物損事故においては、慰謝料請求は原則として認められないと述べましたが、ごくわずかながら例外的に認められる場合もあります。すなわち、被害物件が、被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有するような場合や、被害物件に対する侵害により被害者の生活が大きな影響を受けて人格的利益が毀損された場合等がこれに当たります。具体的には、以下のような場合に、裁判例で、物損に対する慰謝料請求が認められています。

①名古屋高裁平成20年9月30日

ラブラドールレトリバー(購入価格6万5000円)が、第二腰椎圧迫骨折の傷害を負い、後肢麻痺、排尿障害の症状が残った事故につき、飼い主に対して40万円の慰謝料が認められました。

②東京高裁平成16年12月22日

飼い犬を連れて歩いていた原告の妻が車で衝突され、妻と犬が死亡した事故につき、犬は原告が長年家族同然に飼っていたものであることから、犬の死亡による精神的苦痛に対する慰謝料として5万円が認められました。なお、この事案では、慰謝料とは別に、犬の火葬費用も認められています。

③大阪地裁平成15年7月30日

車両同士の衝突により、車が原告宅の玄関に突っ込んできた事故につき、玄関部分が損壊し、1か月以上も玄関にベニヤ板を打ち付けた状態で過ごすことを余儀なくされ、これにより生活上及び家業上の不便を被ったとして、20万円の慰謝料が認められました。

④大阪地裁平成12年9月6日

霊園内で運転操作を誤った墓石の上に車が乗り上げ、墓石が倒壊し、埋没されていた骨壷が露出する状態になった事故につき、墓石は通常その所有者にとって、強い敬愛追慕の念を抱く対象であることから、侵害された物及び場所の特殊性に鑑みれば、精神的苦痛に対する慰謝料も損害賠償の対象になるものとし、10万円の慰謝料が認められました。

⑤東京地裁平成15年7月28日

車がコンクリート塀に衝突し、原告宅と塀との隙間に保管していた、陶芸家である原告が制作した陶芸作品が破損した事故につき、慰謝料として100万円が認められました。

以上の裁判例からわかるように、ペット、墓石、芸術作品等、被害物件が被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有するような場合や、家の損壊等により被害者の生活が大きな影響を受けて人格的利益が毀損された場合には、物損であっても例外的に慰謝料が認められています。

これに対し、被害物件が自動車の場合には、たとえ当該自動車に対して強い思い入れがあったとしても、被害者にとって特別の主観的・精神的価値を有するとは認めてもらえず、慰謝料の請求は難しいのが現状です。

2、物損事故の場合に慰謝料請求できる場合がある?物損事故を人身事故に切り替える方法

(1)物損事故のデメリット

人身事故であっても物損事故であっても、損害賠償請求することは可能です。しかし、怪我したにもかかわらず物損事故扱いにされてしまいますと、以下のようなデメリットがあります。

①自賠責保険に賠償請求できない可能性がある

人身事故の場合には自賠責保険から賠償金(傷害の場合は120万円まで、死亡の場合は3000万円まで)を受け取ることができますが、物損事故の場合には自賠責保険から賠償金を受け取ることができません。従って、特に加害者が任意保険に加入していない場合、人身事故であれば自賠責保険から最低限度の保障を受けることが可能であるにもかかわらず、物損事故扱いにされてしまいますと、何らの賠償金も得られない事態になりかねません。

②相手方保険会社から治療費の支払いを早期に打ち切られる可能性がある

物損事故として処理されてしまいますと、怪我の程度が軽いと判断され、相手方保険会社が治療費の支払いを早期に打ち切る可能性があります。

③警察が実況見分調書を作らない

人身事故の場合には、警察は、実況見分調書といって、事故状況を詳細に記録した文書を作成しますが、物損事故の場合には、物件事故報告書といって、非常に簡略化された記録しか作成してくれません。また、実況見分調書は入手が容易であるのに対し、物件事故報告書は入手が困難といった違いもあります。

人身事故ですと、加害者は刑事処分や行政処分を受けますが、物損事故ですと加害者は処分を受けません。ですので、物損事故扱いにしたがる加害者は少なくありません。また、物損事故は人身事故に比べて処理が簡便であるため、警察官の中にも物損事故扱いにしたがる人がいるようです。

しかし、先ほど述べたように、物損事故扱いにされることは被害者にとっては大きなリスクとなりますので、たとえ軽傷であっても人身事故扱いにしてもらうことが肝要です。

(2)物損事故を人身事故に切り替える方法

事故直後は、特に怪我が見当たらなくても、数日後に痛みがあらわれることがあります。そういう場合には、物損事故から人身事故への切り替え手続きを行いましょう。

まず、病院に行き、人身事故に切り替えるための書類が欲しいと告げて、診断書を作成してもらいます。次に、作成した診断書を持って事故現場を管轄する警察署に行き、人身事故に切り替えたい旨を伝えます。

3、物損事故の場合に認められる損害賠償の範囲は?

物損事故の場合に、原則として慰謝料請求が認められないのは先ほど述べたとおりです。では、物損事故の場合であっても、認められる可能性のある賠償費目にはどのようなものがあるでしょうか。

(1)車両の破損に関する損害

①修理費

破損した車両に対する修理費用のことです。ただし、際限なく認められるわけではなく、必要性及び相当性の認められる範囲内に限られます。

②全損の場合

全損には、物理的全損と経済的全損の2種類があります。物理的全損とは、車両の損傷の程度が酷く、修理が不可能な場合をいいます。経済的全損とは、物理的には修理が可能であるが、修理にかかる費用が車両の時価額(消費税を含む)に買替諸費用を加えた金額を上回る場合をいいます。

全損の場合には、原則として、車両の時価額が賠償額として認められます。場合によっては、時価額に買換諸費用を上乗せした額が認められることもあります。

③評価損

修理を施しても、外観や機能に欠陥が生じたり、事故歴により商品価値の下落が見込まれる場合に認められることがあります。しかしながら、裁判例上全ての被害車両に評価損が認められているわけではなく、その多くは被害車両が高級車かつ比較的新しい車両である場合です。具体的には、外国車又は高級国産車の場合は、登録後5年以内かつ走行距離6万キロメートル以内、国産車の場合は、登録後3年以内かつ走行距離4万キロメートル以内がおおよその基準となっています。認められる額としては、修理代の10%から30%程度であることが多いです。

(3)代車使用料

相当な修理期間又は買替期間中に、レンタカー等の代車を使用した場合に認められます。ただし、代車を使用すれば必ずその分の使用料の賠償が常に認められるわけではなく、①代車の必要性、②代車の種類、③代車の認められる期間について、注意が必要です。

①代車の必要性

被害車両を営業に使用していたり、通勤に使用していて他に合理的な代替手段が無いといった場合には認められやすいです。これに対し、被害者が被害車両の他に3台の自動車を所有していた事案において、代車使用の必要性を認めなかった判例があります。

②代車の種類

破損した車両と同じ車種の車両を代車として認められるわけではありません。たとえば、外国車は国産高級車で十分に代替できると考えられています。

③代車の認められる期間

外国車等の特殊な車両で、部品の取り寄せに時間がかかる等の特別の事情が無い限り、通常は1~2週間、長くても1か月程度であることが一般的です。

(4)休車損害

被害車両が営業車(緑ナンバー等)であって、相当な修理期間又は買替期間中に、被害車両を使用することができないため営業損害が発生した場合に休車損害が認められることがあります。

休車損害が認められるためには、実際に営業損害が発生していることと、被害車両の代替となる遊休車が存在しないことが必要です。

(5)その他

レッカー代、被害車両の保管料、時価査定料・見積費用、廃車費用等が認められることがあります。

まとめ

今回は、物損事故を中心に説明しました。物損事故においては原則として慰謝料請求が認められないこと、怪我を負っている場合に物損事故扱いにすることはリスキーであること、物損事故の際に認められる可能性のある賠償費目等について、おわかりいただけたかと思います。

人身事故のみならず物損事故についても、弁護士が示談交渉をお手伝いすることは可能ですので、ご不安な方は一度ご相談されてみてはいかがでしょうか。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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