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内乱罪とは?国家の存立に対する罪の成立要件や刑罰を弁護士が解説

内乱罪

内乱罪とは国家の存立に対する罪のことです。
国の統治機構や憲法が定める統治の基本秩序の壊乱を目的とする暴動が規制対象とされており、暴動への関与具合によって法定刑が異なる点に特徴があります。

このように、内乱罪は国内で発生したいわゆるクーデターや革命行為等を処罰対象とするものですが、強権的な法規制であること、そして、政治動向や社会的気運にも大きな影響を与え得るものでもあるため、内乱罪が適用されて有罪となった事例は今までに存在しないのが実情です。

そこで今回は、

  • 内乱罪の構成要件や保護法益
  • 内乱罪に近接した犯罪や類似する犯罪
  • 内乱罪の適用が問題となった過去の事例

などについて、弁護士がわかりやすく解説します。
新型コロナウイルス感染症の蔓延や時々刻々と変化する国際紛争など、社会情勢の先行きが不透明な状況において、国家の存続自体を脅かす要因に懸念・関心を抱えていらっしゃる方の疑問解消に役立てば幸いです。

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1、内乱罪とは?

内乱罪とは?

内乱罪(刑法77条1項)は刑法において、内乱未遂罪(同条2項)、内乱予備・陰謀罪(同法78条)、内乱幇助罪(同法79条)と共に、「内乱に関する罪」として規定される犯罪類型のことです。
これらの内乱に関する罪の保護法益は、「国家の存続・国家の統治秩序の維持」であり、これを侵害しようとする行為に対しては、いわゆるクーデター・革命行為として厳しい刑罰が科されます。

通常の刑法犯であれば第一審は地方裁判所もしくは簡易裁判所ですが、内乱罪はその違法性の重さに鑑みて、高等裁判所が第一審裁判所として管轄権を有する点が特徴的です(裁判所法16条4号)。

それでは、以下のように規定される内乱罪とはどのようなものかについて、構成要件や法定刑、犯罪類型自体が有する特質という観点から、それぞれ具体的に解説します。

刑法第77条

1項 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。

1号 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。

2号 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。

3号 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。

2項 前項の罪の未遂は、罰する。ただし、同項第三号に規定する者については、この限りでない。

[e-GOV法令検索 刑法]

(1)内乱罪の構成要件

内乱罪の構成要件は、以下3点で区分するとわかりやすいでしょう。

  • 内乱罪の主体
  • 内乱罪の構成要件該当行為
  • 内乱罪が成立するために必要となる目的

①内乱罪の主体とは

後述するように、内乱罪の構成要件該当行為は「暴動」であり、暴動とは多数人による集団的な暴行・脅迫を意味することから、内乱罪は多数人の関与を前提とした犯罪と考えられています。
論者によって称し方は異なりますが、この点を捉えて、内乱罪は「集団犯」「必要的共犯のうちの多衆犯」などと呼ばれます。

そして、内乱罪の関与者は、暴動への関与の程度に応じて、以下のように区分されています。

  • 首謀者:内乱そのものの計画・遂行について、組織集団での最高の主導的役割を担う者
  • 謀議参与者:内乱の計画・謀議に関与して首謀者を補佐する者
  • 群衆指揮者:暴動に際して群衆を指揮する者
  • 諸般の職務従事者:内乱罪の実行に関して、謀議参与・群衆指揮以外の重要な職務に従事する者(食糧や弾薬の調達指揮など)
  • 付和随行者・単なる暴動参加者:上記4類型以外の暴動参加者又は暴動関与者

このような集団犯としての性質を有する内乱罪については、暴動に関与する限りこの5分類のいずれかに該当するのがほとんどであるため、一般の共犯規定の適用はないと考えられています。

ただし、暴動行為に直接関与しているわけではない「集団外の関与者」については、あえて共犯規定の適用を否定する意義も薄く、学説でも争いがあるのが実情です。

②内乱罪の構成要件該当行為とは

内乱罪の構成要件該当行為は「暴動」です。

暴動とは、多数人による集団的な暴行・脅迫のことであり、国家の統治秩序そのものに対する挑戦という性格を有するものである以上、ある程度組織だった集団による暴行が想定されます。

ここに言う「暴行」とは、人に対する有形力の行使だけではなく、物に対する有形力の行使も含まれます。また、「脅迫」については、告知される害悪の内容は問われません。

また、集団的な暴行・脅迫の程度については、一地方の平穏を害する程度を超えて、国家の基本組織に動揺を与える程度のものまでを要するとするのが通説的な見解です。

なお、内乱罪を構成する「暴動」に際して、殺人や放火、建造物侵入罪などの多数の犯罪構成要件に触れることになりますが、暴動に伴って実施されたこれらの犯罪は、すべて内乱罪に吸収されます(大判昭和10年10月24日)。

③内乱罪成立に必要な目的とは

内乱罪は、暴動行為が以下の行為を目的として行われる場合に成立する目的犯です。

  • 国の統治機構を破壊すること:議会制民主主義の下での議院内閣制の破壊を意味し、個別の内閣や政府、国会議員などを打倒するだけでは足りない。
  • 国の領土において国権を排除して権力を行使すること:日本の領土の全部または一部に対する領土主権を不法に排除し、不法に統治権力を行使すること。
  • その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱すること:国家の基本的統治組織を、不法に変革・破壊すること。

暴動はこれらを直接の目的として行わなければいけません。
つまり、暴動がきっかけで波及的に他の暴動が生じ、その結果、国家の統治機構が破壊されたような場合は、目的要件を満たさないという理由で内乱罪では処罰されないということです。
この場合、内乱罪は成立せず、騒乱罪(刑法106条)等の成立を検討することになります。

(2)内乱罪の法定刑

内乱罪の法定刑は、行為主体の属性によって以下のように分類されています。

  • 首謀者:死刑または無期禁錮
  • 謀議参与者・群衆指揮者:無期または3年以上の禁錮
  • 諸般の職務従事者:1年以上10年以下の禁錮
  • 付和随行者・単なる暴動参加者:3年以下の禁錮

(3)未遂も処罰される

内乱罪は未遂犯も処罰されます(刑法77条2項本文)。
たとえば、国家の統治機構破壊を目的として暴動が行われたが、実際には破壊は達成されずに事態が収束した場合等が未遂に当たるでしょう。

ただし、付和随行者に限っては、未遂処罰は否定されています(同項ただし書)。

(4)革命が成功したら処罰されない

内乱罪は、処罰対象である暴動行為が成功したときには処罰されないという特徴を有します。

なぜなら、内乱罪における暴動とは国の統治機構を破壊する行為を指すところ、破壊行為が成功して革命が成し遂げられた場合には当該暴動を是とする組織が権力を握ることになるため、内乱罪での処罰可能性がなくなると考えられるからです。

したがって、内乱罪はその性質上、現実に法益侵害が発生することをもって成立する「侵害犯」ではなく、法益侵害が現実には発生していないが侵害のおそれがある場合に成立する「危険犯」として規定するしかないと考えられています。

2、内乱罪に関連する犯罪

内乱罪に関連する犯罪

内乱罪に関連する犯罪として、内乱予備罪・内乱陰謀罪(刑法78条)、内覧等幇助罪(同法79条)が挙げられます。
それぞれ、引用条文に照らしながら、構成要件等について具体的に見ていきましょう。

(1)内乱予備・陰謀罪

第78条

内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。

[e-GOV法令検索 刑法]

内乱の予備又は陰謀に対しては、1年以上10年以下の禁錮刑が科されます。

内乱の予備とは、内乱罪を実行する目的でその準備活動をすることです。たとえば、武器や弾薬、食料などの調達行為や、参加者の勧誘、組織の拠点作りや連絡ネットワークの作成など、幅広い行為が含まれます。

内乱の陰謀とは、2人以上の者が暴動等について具体的に計画して合意形成を目指すことです。1人であれこれと考えているだけでは内乱陰謀罪には当たりません。

なお、内乱予備罪・内乱陰謀罪は、暴動に至る前に自首することによって刑が必要的に免除されます(刑法80条)。
これは、内乱が引き起こされることによって生じる被害規模に鑑みて、政策的見地から認められた免除規定と言えるでしょう。

(2)内乱等幇助罪

第79条

兵器、資金若しくは食糧を供給し、又はその他の行為により、前二条の罪を幇助した者は、七年以下の禁錮に処する。

[e-GOV法令検索 刑法]

内乱等幇助罪とは、兵器等の供給などによって、内乱罪・内乱未遂罪・内乱予備罪・内乱陰謀罪を幇助した場合に成立する犯罪類型です。
7年以下の禁錮刑が法定刑として定められています。内乱予備罪・内乱陰謀罪と同じように、暴動に至る前に自首することで刑が免除されます(刑法80条)。

本罪において規定されている「その他の行為」には、兵器・資金・食糧の供給に準じるものが幅広く含まれると解されています。
たとえば、場所や人材の提供などもこれに該当するでしょう。

なお、「幇助」という用語の性質上、正犯である内乱罪等との関係性が問題となりますが、内乱等幇助罪の成立のために、正犯である内乱罪等の成立が必要かどうかについては争いがあります。

3、今までに内乱罪の適用が問題となった事例

今までに内乱罪の適用が問題となった事例

内乱罪は刑法典で規定された犯罪類型であるものの、今までに内乱罪が適用されて有罪になった事例は存在しません。
これは、内乱罪の適用が疑われるケースであったとしても、殺人罪・傷害罪・公務執行妨害罪等の他の規定の適用によって対応することができるためであると考えられます。
また、内乱罪を適用することによる強権性が社会に与える影響を懸念して、検察・裁判所が内乱罪の適用について消極的な姿勢を維持していることも一因であると考えられます。

ただし、内乱罪の成否が問題となった事例は過去にいくつか存在します。

ここからは、内乱罪の成否が争われた代表的な3つの事件について紹介します。

  • 神兵隊事件
  • オウム真理教事件
  • 普天間基地移設問題に関連して当時の首相が告発された事件

(1)神兵隊事件

神兵隊事件とは、1933年に発覚した右翼団体によるクーデター未遂事件のことです。
閣僚や元老などの要人を暗殺して皇族による組閣を実現しようとしましたが、暴動を決行するために集合したところを検挙されてクーデターは未遂に終わりました。

裁判では内乱予備陰謀罪の成否が争点となりましたが、当該クーデターの目的が「閣僚などの殺害によって倒閣を目指すこと」でしかなく、憲法によって規定される国の統治機構転覆を目的としたものではないと認定されて、刑の免除という形で結審しました。

(2)オウム真理教事件

オウム真理教事件とは、1994年~1995年にかけて発生した一連のサリン散布事件のことです。
当該事件の犯行グループの主犯格については、13人の死刑判決・5人の無期懲役判決が確定しましたが、死刑判決を下されたひとりである新実智光の裁判において内乱罪の成否が争点となりました。

新実智光の弁護人側の主張は、「本事件は内乱罪が適用されるべきところ、新実智光は少なくとも内乱罪における『首謀者』ではないので、刑罰の範囲は無期禁錮が上限であり、死刑判決は科され得ない」というものでした。

しかし、判決では「憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを直接又は間接を問わずその目的として刊行されたものとは到底認められない」として、内乱罪の適用は認められず、11件26人の殺人に関与したとして死刑判決が確定するに至っています。

(3)普天間基地移設問題で首相が告発された事件

2018年以降の普天間基地移設問題に際して、元参議院議員の平野貞夫らが、当時の総理大臣である安倍晋三首相を内乱罪・内乱予備罪で刑事告発しました。
「辺野古の米軍新基地建設行為は憲法破壊行為に該当するために内乱罪等の適用を受ける」というものでした。

しかしながら、最高検が東京地検に回送後、不起訴処分が下されたため、内乱罪・内乱予備罪の適用について裁判所の判断は示されていません。

4、内乱罪と外患誘致罪の違い

内乱罪と外患誘致罪の違い

ここまで紹介したように、内乱罪は日本国内から国の統治機構等を破壊しようとする暴動行為を対象とする犯罪類型ですが、これと混同しがちな犯罪として「外患誘致罪」が挙げられます。

外患誘致罪とは、外患に関する罪として刑法81条に規定される犯罪で、日本国外からの侵害行為を処罰対象とするものです。
この点で、日本国内からの暴動行為を処罰対象とする内乱罪とは異なります。

第81条

外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する。

[e-GOV法令検索 刑法]

ここから分かるように、外国と通謀して日本国に対して武力を行使させた場合には、かならず死刑が科されます。
外患誘致罪のように法定刑が死刑に限られている犯罪は他になく、外患誘致罪は「もっとも重い犯罪」です。
この理由として、祖国に対する裏切りについての違法性が重視されているという見解等があります。

なお、外患誘致罪の未遂犯も処罰されますが(刑法87条)、未遂犯でも刑が減刑されるとは限らない(同法43条1項)ので、死刑が科される可能性を否定できません。

外患誘致罪の構成要件は以下の3点です。

  • 外国と
  • 通謀して
  • 日本国に対して武力を行使させた

まず、外患誘致罪における「外国」とは、国際法上承認された「国家」である必要はありません。
国民・領土・統治機構など、事実上国家としての機能があれば足りるとされています。
外国を拠点とするテロ組織等は国家としての機能があるとはいえないため、外患誘致罪の適用対象外となります。

次に、「通謀」とは、2人以上の者で日本国に対する武力行使等について意思の連絡が行われて合意を形成している必要があります。
したがって、外国に対して日本国への武力行使を依頼する程度では通謀には当たりません。

つづいて、「日本国に対して武力を行使させた」とは、軍事力を行使させて日本の安全を害することをいい、軍隊を領土・領海に侵入させたり、ミサイル等を撃ち込ませるなどの行為が該当します。
経済的な圧力やサイバー攻撃などは「武力」ではないので、外患誘致罪の適用対象外となります。

5、内乱罪と騒乱罪の違い

内乱罪と騒乱罪の違い

内乱罪と似て非なる犯罪類型として「騒乱罪(刑法106条)」が挙げられます。

騒乱罪とは、多衆で集合して暴行または脅迫をしたときに成立する犯罪のことです。
騒乱罪の保護法益は「公共の静謐または平穏」とされているため、内乱罪のような「国家転覆の意図」などを想定した犯罪類型ではありません。

騒乱罪の成立要件は「集合した多衆による暴行または脅迫」です。
つまり、内乱罪のような目的があることは要件に掲げられていないので、集合は組織化されている必要はありませんし、首謀者や共通の目的が欠けていてもかまいません。

ただし、暴行または脅迫が集団として行われることが構成要件とされているので、「暴行・脅迫は集合した多衆の共同意思(群衆の集団として暴行・脅迫を加えるという認識)に出たもの」であることが必要とされます(最判昭和35年12月8日)。

内乱罪と同じように、騒乱罪の法定刑は、役割・態様によって以下のように区別されています。

  • 首謀者(主動者として暴行・脅迫をなさしめる者のことで、現場の指揮統率までは必要ない):1年以上10年以下の懲役または禁錮。
  • 指揮者(多衆の一部または全部に対して指揮を司った者):6カ月以上7年以下の懲役または禁錮。
  • 率先助勢者(他人に率先して騒乱の勢いを助長した者):6カ月以上7年以下の懲役または禁錮。
  • 付和随行者(上記以外の騒乱の構成員であり、多衆が集合して暴行・脅迫を行う事実を認識しながら、多衆に加わった者):10万円以下の罰金。

内乱罪に関するQ&A

Q1.内乱罪とは?

内乱罪とは国家の存立に対する罪のことです。
国の統治機構や憲法が定める統治の基本秩序の壊乱を目的とする暴動が規制対象とされており、暴動への関与具合によって法定刑が異なる点に特徴があります。

このように、内乱罪は国内で発生したいわゆるクーデターや革命行為等を処罰対象とするものですが、強権的な法規制であること、そして、政治動向や社会的気運にも大きな影響を与え得るものでもあるため、内乱罪が適用されて有罪となった事例は今までに存在しないのが実情です。

Q2.内乱罪の構成要件該当行為とは?

内乱罪の構成要件該当行為は「暴動」です。

暴動とは、多数人による集団的な暴行・脅迫のことであり、国家の統治秩序そのものに対する挑戦という性格を有するものである以上、ある程度組織だった集団による暴行が想定されます。

ここに言う「暴行」とは、人に対する有形力の行使だけではなく、物に対する有形力の行使も含まれます。また、「脅迫」については、告知される害悪の内容は問われません。

また、集団的な暴行・脅迫の程度については、一地方の平穏を害する程度を超えて、国家の基本組織に動揺を与える程度のものまでを要するとするのが通説的な見解です。

なお、内乱罪を構成する「暴動」に際して、殺人や放火、建造物侵入罪などの多数の犯罪構成要件に触れることになりますが、暴動に伴って実施されたこれらの犯罪は、すべて内乱罪に吸収されます(大判昭和10年10月24日)。

 Q3.今までに内乱罪の適用が問題となった事例

内乱罪は刑法典で規定された犯罪類型であるものの、今までに内乱罪が適用されて有罪になった事例は存在しません。
これは、内乱罪の適用が疑われるケースであったとしても、殺人罪・傷害罪・公務執行妨害罪等の他の規定の適用によって対応することができるためであると考えられます。
また、内乱罪を適用することによる強権性が社会に与える影響を懸念して、検察・裁判所が内乱罪の適用について消極的な姿勢を維持していることも一因であると考えられます。

ただし、内乱罪の成否が問題となった事例は過去にいくつか存在します。

ここからは、内乱罪の成否が争われた代表的な3つの事件について紹介します。

・神兵隊事件

神兵隊事件とは、1933年に発覚した右翼団体によるクーデター未遂事件のことです。
閣僚や元老などの要人を暗殺して皇族による組閣を実現しようとしましたが、暴動を決行するために集合したところを検挙されてクーデターは未遂に終わりました。

裁判では内乱予備陰謀罪の成否が争点となりましたが、当該クーデターの目的が「閣僚などの殺害によって倒閣を目指すこと」でしかなく、憲法によって規定される国の統治機構転覆を目的としたものではないと認定されて、刑の免除という形で結審しました。

・オウム真理教事件

オウム真理教事件とは、1994年~1995年にかけて発生した一連のサリン散布事件のことです。
当該事件の犯行グループの主犯格については、13人の死刑判決・5人の無期懲役判決が確定しましたが、死刑判決を下されたひとりである新実智光の裁判において内乱罪の成否が争点となりました。

新実智光の弁護人側の主張は、「本事件は内乱罪が適用されるべきところ、新実智光は少なくとも内乱罪における『首謀者』ではないので、刑罰の範囲は無期禁錮が上限であり、死刑判決は科され得ない」というものでした。

しかし、判決では「憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを直接又は間接を問わずその目的として刊行されたものとは到底認められない」として、内乱罪の適用は認められず、11件26人の殺人に関与したとして死刑判決が確定するに至っています。

・普天間基地移設問題で首相が告発された事件

2018年以降の普天間基地移設問題に際して、元参議院議員の平野貞夫らが、当時の総理大臣である安倍晋三首相を内乱罪・内乱予備罪で刑事告発しました。
「辺野古の米軍新基地建設行為は憲法破壊行為に該当するために内乱罪等の適用を受ける」というものでした。

しかしながら、最高検が東京地検に回送後、不起訴処分が下されたため、内乱罪・内乱予備罪の適用について裁判所の判断は示されていません。

まとめ

内乱罪は、国家転覆や日本国憲法が定める秩序の倒壊を目的として行われる暴動行為であって、法定刑が死刑に限られている外患誘致罪と比較すると刑罰の幅は広いですが、首謀者等には厳しい刑罰が科される点で、非常に違法性の高い犯罪行為と考えられます。

ただし、理屈上は内乱罪の適用が疑われるケースであったとしても殺人罪・傷害罪・公務執行妨害罪などで柔軟に対応できるため、過去の謙抑的な運用や内乱罪の適用が争点となった過去の事例を鑑みるに、現実問題として内乱罪が適用される可能性は低いでしょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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