置引きをしたと打ち明けられた場合、家族や周りの人はどんなことができるでしょうか?
この記事では、
- 置引きで問われる罪
- 置引きで逮捕される場合と逮捕された場合の不利益
- 置き引きでの逮捕を回避するためにご家族ができること
など、逮捕前に犯罪事実を打ち明けられたご家族に有用となる事柄についてご説明したいと思います。
この記事が、そうした方々のお役に立つことができれば幸いです。
窃盗罪の基本については、以下の関連記事をご覧ください。
1、置引きとは?
置引きとは、置いてある他人の財物(荷物やバッグなど)を持ち去る行為をいいます。
「置引き」は、刑法等法令に規定された犯罪名ではなく、「万引き」や「車上狙い」などと同様、慣用的に、具体的な犯行態様を表す言葉として使われています。
なお、平成30年度版犯罪白書によれば、平成29年度に警察に認知された窃盗罪の事件数中、非侵入窃盗の割合は全体の52.9%(侵入窃盗は11.2%、乗り物窃盗は36%)で、そのうち、主な類型としては、
- 万引き 16.5%
- 車上・部品狙い 12.5%
- 置引き 4.7%
- 色情狙い 1.4%
- 自動販売機狙い 1.3%
だったようです。
窃盗事件全体の数は年々減少傾向にあり、かつ、置引きの割合自体も少ないものの、非侵入窃盗の中では3番目に多い犯罪です。
2、置引きはどんな罪に当たる?
では、置引きはどんな罪に当たるのかといえば、
- 窃盗罪
- 占有離脱物横領罪
のいずれかに当たり得ます。
まずは、それぞれの罪から解説いたします。
(1)窃盗罪
窃盗罪は刑法235条に規定されています。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
「他人の財物」というためには、何もその物につき所有権を有していることを必要とせず、他人が事実上支配している(占有している)物であればよいとされています。
なお、法定刑は、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と比較的重たい罪の部類に入ります。
(2)占有離脱物横領罪
占有離脱物横領罪は刑法254条に規定されています。
刑法254条
遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
「遺失物」も「漂流物」も「その他占有を離れた物(占有離脱物)」の例示にすぎませんから、これらをまとめて占有離脱物と呼ぶこともあります。
法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料」であり、窃盗罪の法定刑とは大きな差があることが分かります。
(3)窃盗罪と遺失物横領罪を区別するポイント
では、窃盗罪と占有離脱物横領罪を区別するポイントはどこにあるのでしょうか。
それは、
- 被害者の支配が、財物に対して及んでいるかどうか
という点につきます。
簡単にいうと、支配が及んでいる場合にその財物を奪えば窃盗罪、支配が及んでいない場合にその財物を奪えば占有離脱物横領罪が適用されるのです。
そして、その支配が及んでいるかどうかは、
- 財物の特性
- 被害者の支配の意思の強弱
- 被害者が置き忘れた場所から取り戻しに行くまでの時間や距離
などを総合的に考慮して決められます。
たとえば、同じ自転車を奪ったという事案でも、被害者(自転車の所有者)が乗って帰るつもりで駐輪場に駐輪していた自転車を奪えば窃盗罪に当たります。
他方、何者かが盗難した自転車を奪えば、その自転車に対する被害者の支配は及んでいませんから、占有離脱物横領罪に当たる可能性が高くなるのです。
3、置引きの刑事処分、量刑を決めるにあたってのポイントは?
置引きも立派な犯罪ですから、捜査機関に発覚し検察官の元へ送致されれば、検察官によって起訴か不起訴かの刑事処分が下されます。
また、起訴された場合は、最終的には裁判で、裁判官により、刑の種類(懲役刑か罰金刑か)や、刑の重さやが決められます。
窃盗罪も占有離脱物横領罪も、人の財産を侵害する罪です。
したがって、刑を決める際には、その物の価値、すなわち被害額がどの程度かといった点が重要視されます。
被害額が大きければ大きいほど、起訴に傾きやすいですし、量刑も重たくなります。
他方で、相手方に生じた損害額を弁償することも可能です。
したがって、被害弁償されたどうか、被害者と示談をしているかどうか、といった点も重視されます。
仮に、被害弁償が済み、被害者と示談を成立させ、被害者の処罰感情も緩和されていれば、刑事処分としては不起訴に傾くでしょうし、起訴されるとしても罰金刑で済む可能性が高くなります。
4、置引きで逮捕される?
置引きも犯罪ですから逮捕される可能性はもちろんあります。
(1)逮捕されるのはどんな場合?
逮捕されるとしても、後日逮捕される場合と、現行犯として逮捕される場合があります。
前者(後日逮捕=通常逮捕)の場合は、
- 被疑者が窃盗罪や占有離脱物横領罪を犯したと疑うに足りる相当な理由(逮捕の理由)があり、
- 逮捕の必要性が存在する場合
に逮捕されることがあります。
逮捕の必要性は、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及びその態様その他諸般の事情から、被疑者に逃亡の虞がないかどうか、罪証隠滅のおそれがないかどうか、という観点から決められます。
(2)逮捕された場合の流れは?
逮捕後は、釈放されない限り、勾留という比較的長い身柄拘束を受ける可能性があります。
勾留による身柄拘束の期間は、原則として10日間と決まっており、その後、「やむを得ない事由」がある場合に、最大10日間の範囲で延長されることがあります(ただし、不服申し立てなどによって途中で釈放されることもあります)。
その勾留期間中に警察、検察の捜査を受け、証拠がそろった段階で、検察官によって起訴か不起訴かの処分を受けます。
起訴された場合は、刑事裁判を受けなければなりません。この段階でも勾留されており、身柄の釈放を望むのであれば、弁護人に保釈請求をしてもらう必要があります。
裁判で有罪と認定されれば、裁判官により刑罰が言い渡されます。
(3)逮捕された本人はどんな不利益を受ける?
①肉体的、精神的負担
警察に逮捕されると警察署内の留置場に収容されてしまいます。
つまり、社会と隔離された生活を余儀なくされますから、肉体的にも精神的にも相当な負担となります。
②逮捕を理由に会社、学校の処分を受ける?
逮捕された段階ではまだ「疑い」の段階ですから、逮捕の事実のみで何らかの処分を受けることは多くはありません。
しかし、逮捕され、身柄拘束が続けば、その期間は会社や学校に行けなくなりますから、欠勤、欠席扱いとされ、それを理由に処分を受けることはあり得ます。
③世間に知れ渡る?
マスコミが興味を示す事件であれば、報道されるリスクがあります。
報道されれば、置引きで逮捕されたことを隠すことはもはや困難となります。
そして、職場、学校、就職先等に知れ渡れば、仕事、学校へ行きづらくなり、就職の内定等にも影響を与えるかもしれません。
5、逮捕前から家族ができること
(1)金銭的援助をする
①弁護士費用を工面
弁護士に弁護活動を依頼すると、費用がかかります。
ご本人が負担することが難しい場合は、ご本人とよく話し合い、費用をどのように分担するのか(家族が全額負担なのか、何割負担なのか、立替という形にするのかなど)きちんと決めておくことが必要です。
ご家族が負担する場合は、その費用にかかるお金を事前に準備する必要があります。
そして、ご本人に合った弁護士を選任することが必要です。
なお、逮捕前は私選でしか弁護人を選任することができません(国選の選任は逮捕後勾留されてからとなります)。
②示談金を工面
逮捕による不利益を少しでも軽減させるためには、被害者とコンタクトを取り、被害弁償、示談に向けての話を先行させることが先決です。
被害者とコンタクトを図るには、弁護士を通じて、捜査機関から被害者の連絡先等を教えてもらう必要があります。
被害弁償や示談では、被害金額以上のお金が必要となることもあります。
ご本人が準備することが困難であれば、弁護士費用同様、ご家族で準備しておく必要があります。
(2)家族と一緒に安定した生活を送る
逮捕の要件のところでもご説明しましたが、逃亡のおそれがある(逮捕の必要性がある)と逮捕されやすくなります。
そこで、その事情を打ち消すためには、家族と同居し、安定した生活を送らせることが必要です。
家族と別居しているのであれば、少なくとも事件が終結するまでは同居する(引っ越しさせる)、無職であれば、就職するための支援をすることも有効です。
そして、それらの活動をしたことを証明することができる資料はきちんと保管しておきましょう。
まとめ
置引きの罪の内容、逮捕された場合のリスクについてご理解いただけましたでしょうか?
逮捕されてしまった後でも、様々な弁護活動によってリスクを必要最小限に抑えることは可能ですが、なによりまずは逮捕されないことが重要です。
そのためには、早めに私選の弁護士に相談することが重要です。