奨学金破産とは?奨学金を返しきれず自己破産するデメリット4つ

奨学金破産とは|自己破産を回避する方法などを弁護士が解説

奨学金を返しきれないので、破産を検討したい……。

しかし、破産してしまったら今後の人生にどのような影響が出てしまうのかわからず、不安……という方は多いのではないでしょうか。

破産手続きをとる前に、他の手段を選択できる可能性があります。

今回は、

  • 奨学金利用者の自己破産の実態
  • 日本学生支援機構の救済制度の紹介
  • 破産以外の債務整理手続の紹介
  • 自己破産のメリット・デメリット

などについて、解説します。

他にも、自己破産を検討する際に弁護士に相談するメリットについても紹介します。

この記事が、奨学金を返済できず自己破産を検討している方の参考になれば幸いです。

自己破産に関してはこちらの記事をご覧ください。

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1、奨学金を返済できず自己破産!?

(1)自己破産をして奨学金債務が免責になった件数

日本学生支援機構に対して奨学金を返還している人のうち、自己破産した人の数が公表されています。

平成24~28年度において、自己破産したために奨学金の債務が免責になった件数は、返還者本人について8,108件で、うち保証機関分が475件です。

自己破産した返還者8,108件のうち、平成28年度に新たに自己破産した件数は2,009件となり、返還者の総額約410万人の0.05%にあたります。

保証債務が免責となった件数については、連帯保証人について5,499件、保証人については1,731件にのぼります。

連帯保証人が破産したもののうち、返還者本人が破産していた件数は134件です。

そして、保証人が破産したもののうち、返還者及び連帯保証人が破産していた件数は13件です。

(2)奨学金の救済制度が機能しないケースもある

①救済制度にはどのようなものがある?

日本学生支援機構は、返済が難しい返還者に対して3種類の救済制度を用意しています。

奨学生本人に返済が難しい一定の事由が生じた場合には、まずは次のような救済制度を利用して返済を継続できるか否かを検討しましょう。

救済制度を利用して立て直せる段階であれば、積極的に申請することが賢明です。

  • 減額返還制度

約束どおりの返還は難しいものの、減額した金額であれば返還が継続できる場合には「減額返還制度」を利用できます。

「減額返還」とは、災害・傷病・経済困難・失業などの返還困難な事情が生じた場合に利用できる救済制度です。

一定期間「当分割賦金を2分の1または3分の1に減額」して、減額返還適用期間に応じた分の返還期間を延長することにより、返還しやすくする制度です。

減額返還制度は、返還予定総額が減額されるものではなく、既に延滞している場合は利用できない制度であるため、注意が必要です。

  • 返還期限猶予制度

現在返還が困難であるため、一定期間返還を待って欲しい場合には「返還期限猶予制度」を利用できます。

「返還期限猶予」とは、災害・傷病・経済困難・失業などの返還困難な事情が生じた場合に利用できる救済制度です。

一定期間「返還を猶予し先送りにする」ことにより、その後の返還がしやすくなります。

返還期限猶予制度は、返還すべき元金や利子が免除されるものではありませんので注意が必要です。

1回の申請で1年間返済が猶予され、通算10年まで返済期限を延長できます。

この制度は、延滞している人でも、傷病・生活保護受給中で返済が難しい場合には申請によって利用できる可能性があります。

猶予期間中の利息・延滞金が、返済予定額に加算されることはありませんので、返還予定総額に変更はありません。

  • 返還免除

本人が死亡・障害により返還できなくなった場合や、教育又は研究の職に就いた場合には、「返還免除」の制度を利用することができます。

「返還免除」とは、下記のような事情によって奨学金を返還ができなくなったときに申請すると、返還未済額の全部または一部の返還が免除される救済制度です。

  • 本人が死亡し返還ができなくなったとき
  • 精神若しくは身体の障害により労働能力を喪失または労働能力に高度の制限を有したとき

また、次の要件すべてに当てはまる場合には、返還免除の人勢によって、返還未済額の全部または一部の返還が免除されます。

  • 平成15年度(2004年3月31日)以前に大学院の第一種奨学生に採用となったこと
  • 奨学金の貸与を受けた方が所定の要件を満たしていること
  • 教員または研究の職についていること

②救済制度が機能しない理由

3種類の救済制度を紹介しましたが、これらの制度が機能しないケースもありえます。

なぜなら、多くの奨学生は借入時に返済を意識していません。

将来返済することを念頭に人生設計を考えておらず、仮に返済ができなくなったとしても、救済制度の存在を知らず、救済制度で立て直せる段階で願い出る時期を逃すようなケースが多いのです。

(3)破産の原因〜破産に至る事情とは

①根底は低収入

奨学金の返還者が破産に至る原因の根底は、低収入にあります。

例えば、次のようなケースです。

  • 非正規雇用で就職し給与が低い
  • 卒業後も夢を追い定職に就かず収入が得られていない
  • 心身の不調により継続的な仕事に就くことができず収入が不安定

以上のようなケースでは、奨学金の返済に回す原資が確保できない状態に陥っているといえるでしょう。

②奨学金は地味に怖い

低収入の場合には、日々の生活費が足りなくなり、消費者金融から借金をするケースも多いです。

その結果、消費者金融への返済が優先されます。

返済の請求が緩く利息が低い奨学金の返済は後回しになり、長期にわたり延滞してしまう負のスパイラルに陥ってしまうでしょう。

そして、多額の奨学金の返済請求が一気にのしかかり、とどめとなるのです。

以前と異なり、近年では奨学金債権者であっても、財産の差止・強制執行などの強制手続きに入ることが多い傾向にあります。

2、奨学金の債務整理で自己破産が多い理由

(1)日本学生支援機構は任意整理に応じない

「任意整理」とは、裁判所が関与する「法的整理」ではなく、私人間で話し合いにより、返済総額の見直しなどを交渉する債務整理手続です。

具体的には、将来利息のカットと月々の分割での返済について、債権者(奨学金を貸し付けている日本学生支援機構)と話し合います。

日本学生支援機構は、任意整理の交渉に応じないといわれています。

仮に、任意整理の交渉に応じてくれたとしても、日本学生支援機構は金融機関とは異なります。元々、長期間での分割払いを前提とした低金利での貸付です。

したがって、任意整理手続を行ったとしても、借金が減額調整されるというメリットの享受は期待できないでしょう。

(2)低収入や不安定な収入では個人再生ができない

個人再生手続」は、裁判所を介して行う法的整理による債務整理手続です。

個人再生手続の内容としては、経済的に困窮状態にある債務者について、その債権者の多数の同意を得て、裁判所の許可を受けた再生計画に従い返済していく手続きです。

個人再生をすることで、利息と遅延損害金がカットされ、元金についても原則として5分の1に圧縮された金額を3年程で返済していくことになります。

個人再生をすることで、借金の減額は実現できるものの、返済義務は残ります。

個人再生手続は、3~5年の返済計画について裁判所から許可を受ける必要があります。

しかし、低収入の方や収入が不安定な方は、個人再生手続は難しくなります。

そもそも返済計画が立てられなかったり、返済計画のとおりの履行可能性に疑義が生じたりするからです。

3、奨学金を自己破産するデメリット

「破産手続」は、裁判所を介して行う手続になりますので、法的手続に分類されます。

破産手続の内容としては、支払不能や債務超過に陥った債務者の財産を換価・処分して債権者に弁済・配当する手続きです。

手続きの結果、債務者は借金返済の免除が可能となります。

奨学金債務も、自己破産による免責の対象です。

奨学金の返済に困っている返還者が、裁判所に対して自己破産を申し立てて支払不能と認められ免責許可を得られれば、今後の奨学金の返済義務はなくなります。

自己破産手続は、債務者の債務が免除されるという強力な効果がある一方で、デメリットもありますので、次に解説していきます。

(1)保証人に請求が行く

債務者が自己破産手続を行い免責決定が出されると、債務者本人の奨学金返還義務が無くなります。

しかし、連帯保証人や保証人に奨学金返還を請求されるので、注意が必要です。

奨学金を借りるときに「人的保証制度」を選択していた方は、連帯保証人が付されています。

奨学金を借りる人の父母や、4親等内の親族が保証人となっているケースが一般的です。

自己破産しても、連帯保証人・保証人になっている両親や親族の返済義務は残ってしまい、一括返済を請求されてしまいます。

連帯保証人や保証人が一括返済に応じられる場合は問題ありませんが、経済的余裕がない場合には、破産者と同じように債務整理手続を検討しなければなりません。

(2)破産後は一定期間借金ができない

自己破産すると、現在利用中のクレジットカードは全て強制的に解約になり、今後は利用できません。

また、自己破産を含む債務整理手続を行うと、個人信用情報機関に事故情報が登録されます。

信用情報機関に事故情報が残っている状態のことを、俗に「ブラックリストに載っている」と表現します。

事故情報の登録機関は5~10年です。

登録されている期間は、クレジットカードを作ったり、ローンやキャッシングを利用したりすることが難しくなるので注意が必要です。

(3)一定の財産は処分しなければならなくなる

自己破産手続では、自己名義の一定の財産を処分しなければなりません。

例えば、以下の財産です。

  • 自己名義の土地・建物
  • 99万円を超える現金
  • 自動車・預貯金・生命保険・宝石など各裁判所の基準額を超える価値のある財産(東京地裁の場合は20万円)

他方で、破産手続開始決定後に取得した財産は処分する必要はありません。

また、差押えが禁止されていて、破産者の手元に残せる財産もあります。

その財産は、「自由財産」と呼ばれるもので、99万円以下の現金などが該当します。

(4)一定の職業に就くことができなくなる

破産手続には、資格制限のデメリットがあります。

資格制限とは、破産開示決定から免責許可が確定するまでの期間に、一定の職業に就けないことをいいます。

以下に挙げる職業は、自己破産手続中に就くことができません。

  • 士業:弁護士、公認会計士、税理士、弁理士、司法書士など
  • 金融関連業:貸金業者、質屋、古物商、生命保険募集人など
  • 公務員:都道府県公安委員会、公正取引委員会、教育委員会等の一部の公務員
  • 企業の役員:商工会議所、金融商品取引業などの役員
  • その他の資格:旅行業務取扱管理者、警備員、風俗業、廃棄物処理業など

資格制限の期間は、破産開始決定から免責許可が確定するまでの期間です。

短ければ3か月、長くとも半年程度で復権されると考えられます。

しかし、弁護士や税理士などの登録制の職業の場合には、再登録をする必要があるため注意してください。

4、奨学金の返済がきついと思ったら、放置せずに弁護士に相談を|自己破産を回避できる方法

返還者の状況によっては、自己破産手続ではなく日本学生支援機構の各種救済制度を使用したり、借入額の多い消費者金融に絞って任意整理をしたりということが可能です。

また、債務整理手続をするとしても、債務整理には任意整理や個人再生・破産などの手段があります。

弁護士に相談することで、自分のケースに合った解決策を説明・提案してくれるでしょう。

あなたが自己破産をするとしても、弁護士は新たな人生のスタートとなるように適切なアドバイスをしてくれるはずです。

まとめ

今回は、奨学金破産について解説しました。

あなたの現在の状況によって、自己破産しなくとも各種さまざまある手段を併用して解決できる場合もあります。

しかし、長期で延滞したあとでは遅延損害金が膨らみ、選択できる手段にも制限が出てきてしまいますので注意が必要です。

奨学金の返済に困っている方は、債務整理に精通した弁護士に相談しましょう。

債務整理に強い弁護士を探す際には、法律事務所のホームページなども参考になります。

事務所によっては、解決事案の実績や債務整理についての解説を掲載している事務所があります。

まずは、法律の専門家のサポートを受けて、ご自身の負担を軽減できる手段を検討しましょう。

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