「黙秘権ってドラマとかでもよく聞くけど、本当に黙っていて大丈夫?」
「黙秘することで不利になることはないの?」
今回は、そんな皆さんの疑問にお答えするべく
- そもそも黙秘権ってどんな権利?
- 黙秘権を行使する方法
- 黙秘権のメリット・デメリット
- 具体的に黙秘権を行使すべきケース・行使すべきでないケース
について、詳しくご紹介していきます。
近々取り調べを受けることになるかもしれない方にとって、この記事が少しでも有利に話を進めるための役に立てば幸いです。
取調べについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、黙秘権とは
黙秘権(もくひけん)とは、刑事事件の捜査で取り調べを受ける際、陳述を拒み、警察・検察等からの質問に対して沈黙をする権利のことです。
ここではまず、押さえておきたい黙秘権の基本からまとめてチェックしていきましょう。
(1)取り調べで陳述を拒む権利
刑事事件で逮捕された際には、最初の手続きとして警察からの取り調べが行われます。
まだ逮捕に至っていない段階でも、参考人として呼び出されて取り調べを受けるようなケースがあり、こういった警察からの取り調べにおいて、「自分が不利になりそうなこと」や「言いたくないこと」に関する陳述を拒むことができる権利を、黙秘権と呼ぶのです。
また、黙秘権を行使する態様には「一部黙秘」と「完全黙秘」の2種類があり、それぞれ次のような特徴があります。
- 一部黙秘:自分が不利益を被りそうな内容だけを黙秘し、それ以外の内容については供述を行う
- 完全黙秘:すべての取り調べについて黙秘を貫く
どちらのスタイルを選択するかは個人の自由であり、どちらのほうが自分のメリットになるかもケース・バイ・ケースなので、具体的な戦略の練り方についてはまた後ほどご紹介する例を参考にしてください。
(2)憲法・法律に根拠づけられている
黙秘権は、憲法38条で定められている国民の権利です。
第三十八条第一項 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
参考:黙秘権
これをもとに、刑事訴訟法198条2項では、取り調べの際には、被疑者に対して本人の意思に反する供述をする必要がないことをあらかじめ伝えておかなければならない旨明記されており、取り調べの最初にこういった黙秘権に関する告知がない場合は法律違反となります。
第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
参考:刑事訴訟法
また、検察官によって起訴され、被疑者から被告人へと立場が移行した際にも、刑事訴訟法311条により黙秘権が認められていますので、覚えておきましょう。
第三百十一条 被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。
参考:刑事訴訟法
(3)黙秘できないこともある
黙秘権は憲法で保障されている国民の権利ですが、本人を特定するための氏名など、刑事事件の手続きを進める上で最低限必要な情報については、原則として黙秘権の対象外とする判例もあります。
どうしても黙秘したい場合はそこに合理的な理由が求められますので、どこからどこまでを黙秘の範囲とするかは状況に応じて検討しましょう。
2、黙秘権を行使する方法
実際に黙秘権を行使したいときには、以下のいずれかの方法を使用します。
- 「黙秘権を行使します」と伝える
- 何も言わずに黙ったままでいる
取り調べでは少し緊張してしまったり、軽いパニックに陥ってしまったりして、普段とは異なる精神状態になることも珍しくはありませんが、ひとまず黙り込んでいるだけでも黙秘権を行使することはできるため、その間に自分の中でしっかり状況を整理しましょう。
3、黙秘権のメリットとデメリット
ここからは、黙秘権を行使することのメリットとデメリットについて、それぞれ具体的に解説していきます。
(1)メリット
まず黙秘権を行使する最大のメリットは、なんといっても自分にとって不利な事実を供述しなくても済むということです。
取り調べで黙秘権を行使せず、自分に不利益な内容もすべて喋ってしまった場合、その内容は供述調書という書類にまとめられ、裁判で有力な証拠として扱われます。
一度署名した供述調書は、その内容が明らかに「脅されて無理やり供述させられた」というような不法な行為によって引き出されたものでない限り、後から発言を撤回したり取り消したりすることは非常に困難です。
被疑者・被告人の自白というのは、刑事事件を解決する上で重要視されているのが実情なので、この部分で黙秘を貫くことが、被疑者にとって有利に働くケースは多いでしょう。
また、黙秘権は憲法で保障された人権の一つであるため、黙秘権を行使したからといってそれが原因で不利な判決を下されたり、ペナルティを科せられたりすることはありません。
たとえば「このまま黙っているとどんどん罪が重くなるぞ」「罪を認めなければいつまで経っても釈放されないぞ」と自白を促されても、このような黙秘権の侵害によって引き出された供述は裁判で証拠として認めてはならないのです。
(2)デメリット
権利を行使することによって、直接的な不利益を被ることはないよう法律でも定められている黙秘権ですが、被疑者が供述を拒むということは、その分追加の捜査が必要になるということでもあります。
そのため、黙秘権を行使するとどうしても取り調べが長引きやすく、身柄の拘束時間も長期化しがちです。
さらに、目撃証言や物証など、他の客観的な証拠が出揃っているような状況では、黙秘権を行使することでいたずらに反抗していると捉えられるリスクもあり、反省の気持ちが感じられないということで心証を悪くしてしまう可能性もあります。
これも状況次第ではありますが、早い段階で素直に供述したほうが情状酌量の余地があると判断してもらえる=有利に話を進めることができるケースも多いため、本当に黙秘権を行使すべきなのかどうかは慎重に考えましょう。
4、黙秘権を行使すべきケース
黙秘権を行使したほうが良いのか、それともしないほうが良いのか…必ずしも被疑者にとって有利に働くとは限らない権利だからこそ、事件の内容や状況に応じてその方針を決定する必要があります。
ここではまず黙秘権を行使すべきケースについて具体例をご紹介していきますので、ぜひ目安の一つにしてください。
なお、黙秘権をどのような場合に行使すべきかについては、弁護士の間でも争いのあるところです。
以下にご紹介するのはその一例であり、これと異なる見解を否定する趣旨ではありません。
(1)正確に覚えていない
先ほども解説した通り、取り調べで話した内容は供述調書として裁判で有力な証拠になります。
だからこそ、記憶が曖昧でよく覚えていないことに関しては、不用意に発言すべきではありません。
結果的に皆さんの供述と客観的な証拠の内容が食い違っている場合などに、思わぬ不利な扱いを受けることがあるためです。
(2)否認する場合
疑いをかけられている事件自体が身に覚えのないもので、犯罪の事実を否認する場合、黙秘権を行使したほうが有利に事を運ぶことのできるケースが多いでしょう。
被疑者として逮捕されてしまうと、捜査関係者はどうしても被疑者が「罪を犯した者」であることを前提に取り調べを進めていきます。
そのため、同じ話を何度もさせてボロが出ないかを見る、少しでも供述内容に矛盾があるとその点を執拗に問いただすといった手法に出ることもあり、単純な記憶違いや言い間違いであったとしても、それが被疑者や被告人に向けられる疑いの眼差しをより厳しくしてしまうことになりかねないのです。
さらに、単純な記憶違いを矛盾のある話として供述調書にまとめられ、起訴された際に裁判で不利な証拠として扱われてしまう危険もあります。
無実であることを主張しようと焦るあまり、自分でも何を話しているのか分からなくなってしまうというような状況に陥るケースもゼロではありませんので、そういった不利な立場に追いやられないためにも、事件を否認する場合は基本的に黙秘権を行使しましょう。
(3)重大犯罪
比較的軽微な犯罪の場合、取り調べで速やかに罪を認め反省の態度を示すことで、裁判にかけられずに済む=不起訴処分となることもあります。
しかし、殺人などの重大犯罪で取り調べを受ける場合、そこでどれだけ素直に自白し反省の気持ちを伝えたところで、不起訴処分となることはまずあり得ません。
逆に反省の気持ちが過度に働くことで、本来であれば異論を唱えるべき内容にまで同意してしまい、その供述調書をもとに裁判で不当に重い判決が言い渡されてしまうリスクもあります。
こういった事情から、重大犯罪では罪を認める場合でも取り調べでは黙秘権を行使し、起訴された際に裁判で反省の態度を示すというのが戦略の一つとして考えられるでしょう。
5、黙秘権を行使すべきでないケース
一方、取り調べで黙秘権を行使せず、最初からすべて話してしまったほうが良いケースには次のような例があります。
(1)早期釈放を目指す
黙秘権を行使するとどうしても身柄の拘束期間が長くなってしまいますので、万引きなどの軽微な事件の場合は、素直に詳しい話をして早期釈放を目指したほうが、トータル的なメリットが大きくなることがあります。
(2)不起訴を目指す
同じく軽微な事件の場合で、真摯に反省している姿勢を見せることで不起訴処分を目指せる可能性が高いケースでは、黙秘権を行使しないほうが有利です。
特に被害者がいる事件の場合、被害者と示談が成立すれば不起訴処分となることも多いので、自ら罪を認め、謝罪することで反省の気持ちを伝えた方が良いでしょう。
6、黙秘権を使うべき?逮捕後は弁護士のアドバイスを受けることが大切
黙秘権を行使すべきケース・行使すべきでないケースについても具体的にご紹介してきましたが、「結局自分の場合どうすれば良いの?」と迷ったときには、すぐに弁護士に相談を行うことをおすすめします。
仮に「自分は何が何でも完全黙秘する!」と意思が固まっている場合でも、本当にそうすることが被疑者や被告人の利益に繋がるのかどうかは、一度弁護士からアドバイスを得ておいたほうが安全です。
また、部分的には供述を行う一部黙秘への切り替えの要否や、何を話して何を黙秘するのかといった範囲等に関して、予め弁護士と戦略を練っておくことでベストな対応を取ることができます。
早期釈放を目指したいケース、事件を否認するケースなど、刑事事件では実際のところ弁護士の力が必要不可欠となるシーンも多いものです。
弁護士は逮捕された本人だけでなく家族から呼ぶこともできます。
取り返しのつかない事態に陥らないためにも、具体的な取り調べが始まる前になるべく早く弁護士を依頼し、黙秘権の行使も含めたアドバイスを受けましょう。
まとめ
黙秘権は憲法と刑事訴訟法で定められた私たちの権利であり、上手く活用することで自分にとって不利な供述を行わずに済む=自分の利益を守ることができるのです。
ただし、事件の内容や皆さんの状況次第では、黙秘権を行使せず素直に供述を行ったほうが逆に有利に話を進められるケースがあることも事実です。
この見極めを正しく行うためにも、刑事事件で逮捕されたときにはまず弁護士を呼び、今後の取り調べでどういった振る舞いをするのがベストなのか、アドバイスを仰ぎましょう。
その際には自分が事件の結末としてどんな形を望んでいるのかも重要なポイントとなってきますので、今回ご紹介した事例も参考に、ぜひ自分の中で考えをまとめてみてください。