余罪とは、逮捕・勾留された被疑事実とは別にその被疑者が犯している罪のことです。
捜査機関は、犯された罪のすべてを同時に把握できるわけではありません。また、把握している罪のすべてを同時に処理するとは限りません。
そうすると、余罪はどのように扱われるのかが気になる方も多いことでしょう。
そこで今回は、
- 余罪があると刑罰が重くなるのか
- どのようなきっかけで余罪が発覚するのか
- 余罪が立件されるのはどのような場合か
などについて解説していきます。
いくつかの罪を犯してしまい、どのような刑罰を受けるのか不安な方のご参考になれば幸いです。
刑事事件と民事事件の違いについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
1、余罪とは
まずは、そもそも余罪とは何か、逮捕・勾留された場合に余罪はどのように扱われるのかについてご説明します。
(1)余罪の定義
余罪とは、起訴前の時点では、逮捕状・勾留状に記載された被疑事実とは別の犯罪事実のことをいい、起訴後の時点では、起訴状・勾留状に記載された公訴事実や判決書に記載された罪となるべき事実とは別の犯罪事実のことをいいます。
逮捕・勾留や起訴、判決といった刑事手続きにおいては、どの事実についてその手続を行うのかについて具体的な事実が特定される必要があります。
例えば、逮捕・勾留される場合は逮捕状や勾留状に誰が・いつ・どこで・誰に対して・何をしたのかという被疑事実が具体的に記載されています。
そこに記載された事実のことを「本罪」と呼び、それ以外で同じ人が犯した罪のことを「余罪」と呼びます。
余罪については本罪とは別に処理されることになります。
(2)余罪の取り調べは原則として禁止
捜査機関は「本罪」の被疑事実を具体的に特定して逮捕・勾留した以上、原則として本罪に関する事実しか取り調べることはできません(事件単位の原則)。
本罪による逮捕・勾留を利用して余罪の取り調べを行うことは、実質的に令状なしで余罪についての逮捕・勾留をすることになるため、被疑者の人権を侵害する違法なものとして許されないのです。
(3)余罪取り調べが許される場合
ただし、「事件単位の原則を機械的に適用すれば、犯罪事実ごとに被疑者に対し逮捕・勾留を繰り返すことになり、かえって被疑者に不都合な結果をもたらす」(幕田英雄『実例中心 捜査法解説 第4版 捜査手続・証拠法の詳説と公判手続入門』333頁)ことになります。
そこで、本罪と余罪が密接な関係にある場合や同種事犯の場合、被疑者から進んで余罪の取調べを希望したような場合には例外的に余罪の取り調べも許されるとされています。
2、余罪がある場合は刑が重くなる?
余罪についても立件される場合は、一罪の場合よりも刑が重くなる可能性があります。しかし、必ずしも余罪が立件されるとは限りません。
ここでは、余罪が立件されない場合でも余罪があることで本罪の刑が重くなるのかという点についてご説明します。
(1)余罪そのものが処罰されるわけではない
まず、刑事裁判では、検察官が起訴した犯罪事実のみが対象となります。
したがって、本罪の刑事裁判で余罪が直接処罰されることはありません。
刑事裁判では余罪があることを検察官が主張・立証することがよくあります。
しかし、その場合でも裁判所が実質的に余罪を処罰する趣旨で量刑の資料とすることは許されていません。
ただ、実際には余罪があることで本罪の刑が重くなることはよくあります。
その理由は、次にご説明するとおりです。
(2)余罪が考慮されて刑が重くなることがある
本罪の刑事裁判で余罪そのものが処罰されることはありませんが、本罪に関する情状に関する資料として余罪を考慮することは許されています。
量刑を決めるに当たっては、「起訴された犯罪行為を構成し、あるいはこれに付随する様々な事実(一般的な分類でいえば、犯行の動機、態様及び結果等、いわゆる犯情)が参照されるし、また、予防の領域においても、訴訟手続に現れ、あるいはそこから推知できる範囲において、被告人の性格・性癖、経歴、生活状況といった事実(いわゆる一般情状)が考慮される。」とされており、「余罪を、犯情あるいは一般情状に該当する事実ないしこれらを推知させる事情として量刑上考慮することは、その必要があると同時に、許容されるべきである。」とされています(『量刑に関する諸問題 第2量刑諸要素の検討 Ⅰ 犯情に関するもの21余罪と量刑(1)』判タ1297号92頁)。
その結果、余罪があることによって、本罪の刑が重くなってしまうことがあります。
3、余罪が発覚するきっかけ
余罪があるもののまだ捜査機関に発覚していない場合は、どのようにして余罪が発覚するのかが気になるところでしょう。
ここでは、余罪が発覚する主なきっかけについてご説明します。
(1)被害届
余罪が発覚する直接的なきっかけとして多いのは、被害者から被害届が提出されることです。
被害者同士が知り合いの場合は、一人が被害届を提出すると他の人も次々に被害届を提出することがよくあります。
(2)余罪があることが多い犯罪
被害者の方から被害届を提出しなくても、警察や検察が捜査を行う過程で余罪に気づくことも多くあります。
特に、余罪があることが多い犯罪については捜査機関が余罪の有無を慎重に調べることになります。
例えば、万引きなどの窃盗は常習的に行われるケースも多く、被害店舗の他にも近隣の店舗や住民への聞き込み調査などによって余罪が発覚することがあります。
盗撮の場合は、被疑者のスマートフォンやデジカメ、パソコンなどに保存された映像から多数の余罪が発覚することが多いです。
覚せい剤や大麻などの薬物犯罪の場合は、被疑者の携帯電話の通話履歴などから薬物の販売経路が割り出され、譲渡や譲り受けの余罪が発覚することもあります。
(3)余罪を自白すべきか
さらに、余罪が発覚するきっかけとして考えられるのは、被疑者が余罪を自白することです。
ただし、捜査機関にまだ余罪が発覚していない段階で自白すべきかどうかは悩ましいところです。
道義的には、罪を犯したことに間違いがなければすべてを積極的に自白すべきといえるでしょう。また、積極的に自白をしたことにより、反省していることの一事情としてみられることもあります。
しかし、結果的に余罪が発覚しなければ軽い処分で済む場合もあります。また、仮に警察官に余罪について自白するよう促されたとしても、刑事手続においては自分に不利益な供述を強要されることはないので、供述を拒むことができます(憲法38条1項)。
余罪を自白すべきかどうかについては、弁護士に相談して発覚する可能性がどの程度あるのか等を見極めた上で慎重に判断することをおすすめします。
4、余罪が立件される可能性
余罪が捜査機関に発覚しても、必ずしも本罪と別に立件されるわけではありません。
ここでは、余罪が立件されるケースと立件されないケースの違いをご説明します。
(1)立件されやすいケース
余罪が立件されやすいケースとして、立件する必要性が高い場合、例えば本罪とは異なる種類の余罪がある場合があげられます。
例えば、同じ被疑者が本罪である窃盗罪の他に余罪として傷害罪を犯している場合は、それぞれの犯罪について罪責を問う必要性が高いといえます。
したがって、このような場合は余罪が極めて軽微な事案でない限り、立件されやすいといえます。
また、本罪と余罪が同種事犯の場合でも重大な犯罪の場合は立件される可能性があります。
同じ被疑者が殺人罪や強盗致傷罪などの重大な罪を複数犯している場合、発覚した事件についてはすべて立件される可能性があります。
(2)立件されないケース
一方、余罪を立件する必要性が高くない場合や余罪を立証するための証拠がないと思われる場合は、立件されない可能性があります。
同じ被疑者がさほど重大とまではいえない同種の罪を複数犯している場合、必ずしも全件について罪責を問う必要性がない場合もあります。
そのような場合は、1件または数件だけを立件し、その他の余罪については被告人の悪情状として刑事裁判で検察官が主張・立証するという取り扱いになるケースもあるでしょう。
例えば、盗撮の場合は被疑者のスマートフォンなどから数十件から百件以上の余罪が発覚することもあります。
このような場合は、警察や検察としては、そのすべてを立件するのではなく、1件または数件のみ立件し、その他の余罪については犯情や一般情状として考慮することがあります。
5、余罪が立件されたときの流れ
余罪を立件する場合、事件単位の原則からすれば1件1件について逮捕・勾留の手続きを繰り返すべきことになります。
しかし、逮捕とそれに引き続く起訴前勾留の期間は、1件につき、原則として23日間と定められています(刑事訴訟法205条、207条、208条)。
これを犯罪事実の数だけ繰り返したのでは被疑者の身柄拘束期間が長引きますし、捜査機関の負担も重くなってしまいます。
そこで、実務上は以下のような流れで進められます。
(1)本罪の捜査と並行して余罪の捜査がなされ、余罪について逮捕・勾留されることなく起訴されるケース
上記1(2)でご説明したように、本罪による逮捕・勾留中に余罪の取り調べを行うことは原則として許されません。
しかし、上記1(3)でご説明したとおり、本罪と余罪が密接な関係にある場合や同種事犯の場合、被疑者から進んで余罪を自白したような場合には例外的に余罪の取り調べが許されます。
そこで、余罪の取り調べが許される場合にはできる限り本罪の逮捕・勾留中に余罪に関する捜査も進められます。
勾留期間の満期までに余罪も含めて捜査が終了した場合は、逮捕・勾留された被疑事実以外の犯罪事実(余罪)についても起訴される可能性もあります。
この場合、被疑者にとっても身柄拘束期間が短くなるというメリットがあります。
(2)余罪について逮捕・勾留するケース
本罪による逮捕・勾留中に余罪の捜査が完了しそうにない場合は、余罪について改めて逮捕・勾留の手続きがとられた上で捜査が続けられます(余罪について逮捕・勾留がされた場合は、上記1(1)の定義によれば余罪とはいえなくなるため、以下「別罪」ともいいます)。
別罪の捜査が完了したら、本罪とは別に起訴が行われます(本罪が起訴された後に別罪が起訴される場合、「追起訴」と呼ばれます。)。
その後の刑事裁判では、裁判所の判断によりますが、通常は、本罪で起訴された分と別罪で追起訴された分とが併合され、一緒に審理されるものと考えられます。
(3)本罪の起訴後に、余罪の逮捕勾留手続きをとらずに捜査がなされるケース
さほど重大とはいえない犯罪が余罪の場合、余罪について逮捕・勾留の手続きをとるのではなく、起訴後の勾留を利用して捜査が続けられ、余罪について起訴だけが行われる場合もあります。
(4)併合罪とは
本罪と余罪とが起訴された場合、それらの犯罪は刑事裁判で併合罪として扱われることがあります。
併合罪とは、確定裁判を経ていない2個以上の罪のことをいいます(刑法第45条)。
審理の結果、2個以上の罪について有罪判決が言い渡される場合、1個の罪についての法定刑よりも刑が重くなります。すなわち、有期の懲役刑または禁錮刑の場合は最も重い罪について定めた刑の長期の1.5倍(刑法第47条)、罰金刑の場合はそれぞれの罪について定めた罰金の多額の合計額(刑法第48条2項)が上限となります。
6、本罪での処分後に余罪が発覚した場合の処理
ここまでは、本罪についての刑事処分が行われる前に余罪が発覚したことを前提にご説明してきました。しかし、本罪での刑事処分が行われた後に余罪が発覚するケースもあります。
その場合、余罪はどのように取り扱われるのでしょうか。
ここでは、本罪が不起訴となって釈放された後に余罪が発覚した場合と、本罪について言い渡された有罪判決が確定した後に余罪が発覚した場合とに分けてご説明します。
(1)不起訴で釈放された後に発覚した場合
この場合、余罪については通常どおりの捜査が行われます。
必要に応じて逮捕・勾留もされますし、処罰する必要性があると検察官が判断した場合は起訴され、刑事裁判を受けることになります。
注意が必要なのは、いったん不起訴になった本罪についても起訴される可能性があるということです。
不起訴処分のうち多くされるものとしては、次の3種類があります。
- 嫌疑なし
- 嫌疑不十分
- 起訴猶予
このうち、「嫌疑なし」と「嫌疑不十分」の場合は同じ罪で起訴されることはありませんが、「起訴猶予」の場合は改めて起訴される可能性があります。
なぜなら、起訴猶予というのは「被疑事実が明白な場合において,被疑者の性格,年齢及び境遇,犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないとき」に行われる不起訴処分だからです(事件事務規程75条)。
「嫌疑なし」と「嫌疑不十分」の場合は検察官が「起訴しない」との判断を下していますが、「起訴猶予」の場合は、とりあえず今は起訴しないと判断されているに過ぎないのです。
したがって、発覚した余罪によって被疑者に常習性が認められるなどの悪い情状が明らかとなった場合は、本罪についても起訴されることがあります。
(2)有罪判決が確定した後に発覚した場合
余罪が発覚しないまま本罪の刑事裁判が行われて有罪判決が確定したものの、その後に余罪が発覚し、立件される場合もあります。
この場合も、立件された余罪(別罪)については通常どおりに捜査が行われ、必要に応じて逮捕・勾留を経て起訴され、別罪について刑事裁判を受けることになります。
ただし、この場合は確定判決を経た本罪と新たに起訴された本罪の裁判が確定する前に犯した別罪とが併合罪となります(刑法45条)。別罪の刑事裁判で有罪判決が言い渡される際には、上記5(4)でご説明した刑の加重がなされます。
まとめ
余罪がある場合、捜査機関は効率的に捜査を進めるために許される範囲内で余罪取り調べを行い、できる限り本罪と一緒に処理しようとします。
しかし、ときには違法な余罪取り調べが行われることもあります。
また、被疑者が本罪について否認している場合には、捜査機関が余罪について逮捕・勾留する可能性をちらつかせて自白をせまる可能性もあります。
さらに、余罪が捜査機関に発覚していない段階で自白すべきかどうかについては、一般の方が適切に判断するのは難しいところです。
もし余罪の問題で困ったときは、早めに弁護士に相談された方がよいでしょう。