覚醒剤取締法とは、覚醒剤を取り扱うことを国が取り締まることを定めた法律のことです。
覚醒剤取締法違反の罪で警察に逮捕されると、他の犯罪と比較して起訴される確率が高く、刑罰も重いのが特徴的です。
とはいえ、具体的に何をすると覚醒剤取締法違反による処罰の対象となるのかが分からないという方も少なくないことでしょう。
この記事では、
- 覚醒剤取締法とは
- 覚醒剤取締法違反の法定刑
- 覚醒剤取締法違反で不起訴や執行猶予に向けた活動等
について、刑事事件についての経験豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が解説していきます。
目次
1、覚醒剤取締法とは?
覚醒剤取締法違反は、覚醒剤の濫用による保健衛生上の危害を防止することを目的として定められた法律です(覚醒剤取締法第1条)。
覚せい剤の濫用は、急性中毒時における錯乱、幻覚、妄想並びに長期的継続使用によって精神的依存を発現し、次第に幻覚・妄想を主とする精神病状態を引き起こします。それだけではなく、不安神経症や人格変化といった残遺症候群が残存する可能性もあり、使用者自身の精神や身体を蝕み、ひいては覚醒剤関連の様々な社会的障害を引き起こすことによって、社会全体に甚大な被害をもたらします。覚醒剤取締法は、このような危害を防止することを主たる目的としています。
このような理由から、覚醒剤取締法では以下のような規制が定められています。
(1)禁止される薬物
この法律で規制されるものは「覚醒剤」ですが、その定義については覚醒剤取締法第2条1項で以下のように定められています。
- フエニルアミノプロパン、フエニルメチルアミノプロパン及び各その塩類
- 上記の物と同種の覚醒作用を有する物で、政令で指定されたもの
- 以上の物のいずれかを含有する物
覚醒剤は人間の脳神経系に作用するものであり、強い興奮作用によって一時的に気分が高揚するものの、効果は数時間しか続かず、覚醒剤の効果がおさまると暗い気持ちになり、イライラや不安な気持ちに襲われる場合が多いです。依存性が高いのが特徴で、濫用すると幻覚や妄想に襲われ、錯乱状態で暴行や傷害、殺人などの犯罪に至ることもあるといわれています。
このように、覚醒剤は非常に危険性の高い薬物ですので、違反行為に対しては他の薬物犯罪の場合よりも厳しい刑罰が定められています。
(2)禁止される行為と刑罰
次に、覚醒剤取締法で禁止されている主な行為と、それらの行為を行った場合の法定刑についてご説明します。なお、医師や研究者、専門の製造業者等が業務のために覚醒剤を取り扱う場合は処罰の対象外ですが、それらの場合でも取り扱い方法や管理方法について細かく規制されています。
一般の方が知っておくべき禁止行為とそれに対する刑罰は、以下のとおりです。
①輸入・輸出
まず、覚醒剤を輸入・輸出する行為が禁止されています(覚醒剤取締法第13条)。最近はインターネットが発達したことから、個人で覚醒剤を取引することが容易になりました。
しかし、輸入・輸出される品物については税関で厳重にチェックされていますので、覚醒剤を輸入・輸出しようとしても税関で発覚する可能性が高いでしょう。覚醒剤の輸入・輸出の禁止に違反した場合の法定刑は、1年以上の有期懲役です(同法第41条1項)。
有期懲役とは、1月以上20年以下の懲役のことですが(刑法第12条1項)、他にも犯罪を犯していて併合罪として刑が加重される場合は最長30年以下の懲役となります(刑法第14条2項)。
また、営利目的で覚醒剤を輸入・輸出した場合はさらに刑罰が重くなり、法定刑は無期もしくは3年以上の懲役、または情状により無期もしくは3年以上の懲役および1、000万円以下の罰金です(同法第41条2項)。
②所持
次に、法律に規定されている以外の人が覚醒剤を所持することは処罰の対象となります(覚醒剤取締法第14条1項)。この場合、法定刑は10年以下の懲役です(同法第41の2条1項)。
所持罪についても営利目的の場合はさらに刑罰が重くなり、法定刑は1年以上の有期懲役、または情状により1年以上の有期懲役および500万円以下の罰金です(同法第41の2条2項)。
③製造
また、覚醒剤を製造する行為も処罰の対象です(覚醒剤取締法第15条)。法定刑は、1年以上の有期懲役です(同法第41条1項)。
製造罪についても営利目的の場合は刑罰が加重されており、法定刑は、無期もしくは3年以上の懲役、または情状により無期もしくは3年以上の懲役および1、000万円以下の罰金となります(同法第41条2項)。
④譲り渡し・譲り受け
覚醒剤を譲り渡した場合は「譲渡罪」、譲り受けた場合は「譲受罪」が成立します(覚醒剤取締法第17条)。
法定刑は、どちらも10年以下の懲役です(同法第41の2条1項)。
譲渡罪と譲受罪が成立するのは覚醒剤を売買した場合が多いですが、法律上は無償で覚醒剤を受け渡した場合でもこれらの罪が成立します。
営利目的で譲受した場合の法定刑は、1年以上の有期懲役、または情状により1年以上の有期懲役および500万円以下の罰金となります(同法第41の2条2項)。
⑤使用
覚醒剤を使用した場合は、「使用罪」が成立します(覚醒剤取締法第19条)。使用とは、注射や吸入によって身体内に入れる行為が典型的ですが、その他にも覚醒剤を薬品として用いるすべての行為が該当します。
自分の身体に覚醒剤を注射する場合だけでなく、他人に注射する場合でも使用罪に該当する可能性があります。使用罪の刑罰は、10年以下の懲役です(同法第41の3条1項)。
営利目的の場合の法定刑は、1年以上の有期懲役、または情状により1年以上の有期懲役および500万円以下の罰金となります(同法第41の3条2項)。
⑥未遂でも処罰される
以上の各罪は、未遂でも処罰の対象となります。
例えば、覚醒剤を輸入・輸出しようとして税関で発覚した場合や、売人から購入しようとしたところを警察に取り押さえられたり、自分の身体に注射しようとしたところを警察に取り押さえられたような場合にも、未遂罪として罪に問われるのです。
未遂罪の刑罰について、法律上は上記のそれぞれの罪の既遂罪の場合と同じです。ただし、結果が発生していないため、実際には既遂罪の場合よりも処罰が軽くなる傾向にあります。
(3)覚醒剤取締法違反の時効
覚醒剤取締法違反の罪には、公訴時効が設けられています。公訴時効とは、一定期間が経過した場合に検察官の公訴権(起訴する権利)を消滅させる制度です。公訴時効が完成した場合に検察官が起訴したとしても、免訴判決が言い渡されます(刑事訴訟法第337条4号)。
覚醒剤取締法違反の罪の公訴時効を整理すると、以下のとおりです。
罪名 | 営利目的でない場合 | 営利目的の場合 |
輸入・輸出 | 10年 | 15年 |
所持 | 7年 | 10年 |
製造 | 10年 | 15年 |
譲り渡し・譲り受け | 7年 | 10年 |
使用 | 7年 | 10年 |
2、覚醒剤取締法違反に対する量刑の特徴
覚醒剤取締法で定められている禁止行為とそれに対する刑罰をご紹介しましたが、かなり刑罰が重いと思われたのではないでしょうか。実際にはさまざまなケースがありますので、なかには軽い処罰で済む事案もありますが、それでも他の犯罪に比べて重く処罰される事案が多い傾向にあります。
その理由は、覚醒剤取締法違反の罪には以下のような特徴があるからです。
(1)営利目的があると刑罰が重い
上記「1(2)」でみたように、いずれの罪についても営利目的で行った場合には刑罰が格段に加重されています。
なぜ営利目的があると刑罰が加重される理由は、①薬物犯罪は莫大な経済的利益をもたらすため、利益追及のために組織的継続的に行われることで、その場合にける薬物乱用による保険衛生上の危険が極めて大きいこと②行為自体の危険性が営利目的を有しない場合と比較してはるかに大きいこと、です。
(2)常習犯が多いので処分は厳しい
覚醒剤取締法違反の事案には、常習犯が多いという特徴があります。令和2年版犯罪白書によると、令和元年における同法違反の再犯率は66.3%とのことです。
*参考:令和2年度犯罪白書
そして、常習犯に対しては処分が厳しくなる傾向にあります。
なぜなら、覚醒剤の使用回数や購入回数が多ければそれだけ犯情が悪くなりますし、法律上も犯罪を繰り返した者に対しては刑罰を加重することとされているからです(刑法第56条、第59条)。
(3)被害者がいないため示談交渉をする相手がいない
覚醒剤取締法違反の罪には被害者がいないため、被害者と示談を成立させて検察官が処分を決定する際に有利な情状事実を獲得することが出来ません。
窃盗罪や暴行罪、傷害罪などのように被害者がいる犯罪であれば、被害者と示談が成立した場合、検察官が処分を決めるときに有利な事情として考慮されます。しかし、覚醒剤取締法違反ではそれができないのです。
3、覚醒剤取締法違反で不起訴や執行猶予を獲得する方法
覚醒剤取締法違反で逮捕された場合、他の犯罪と同じように検察庁に身柄を移送され(「送検」と言います)、検察官が起訴、不起訴の判断をします。
以上でご説明してきたように、覚醒剤取締法違反の罪は他の犯罪よりも法定刑が比較的重く、実際に起訴される可能性が高く、刑事裁判でも厳しい刑罰が言い渡される事案が多い傾向にあります。
とはいえ、事案によっては不起訴や執行猶予付き判決を獲得することは可能です。そこで、万が一、覚醒剤取締法違反の罪で逮捕されたときに、不起訴や執行猶予付き判決を獲得する方法についてご説明します。
(1)真摯に反省する
まずは、取り調べで真摯な反省を示すことです。
その際、単に「反省しています」と述べるだけでなく、覚醒剤に手を出した原因を真剣に追求した上で、どうすれば二度と手を出さずに済むのかについても具体的に考えて説明することが重要です。
自己の犯罪行為に対して反省の念を示すことは、検察官が処分を決定する際、裁判官が判決を下す際に有利な事情として考慮される場合があります。
(2)入手経路を正直に話す
次に、覚醒剤を入手した経路も正直に話すことが、処分や量刑を判断するうえで有利な事情として考慮される場合があります。
なぜなら、警察や検察といった捜査機関は、覚醒剤を違法に売りさばいている「大元」の特定・逮捕を目指しているからです。
覚醒剤の入手経路に大きな関心をもっている捜査機関に対して正直に話すことは、捜査に多大な協力をすることになります。
ただ、覚醒剤を入手する際に売人等から口止めをされて、捜査機関に入手経路を話すと報復を受ける心配があるケースが多いのも事実です。捜査機関もそのことは知っているので、勇気を持って入手経路を話すことは、反省と「二度と覚醒剤に手を出さない」という決意を示すことにもなります。
そのため、入手経路を正直に話すことが、検察官が処分を決定する際、あるいは裁判所が判決を下す際に有利な事情として考慮される場合があるのです。
(3)再犯防止のために家族に監視してもらう
再犯しないための対策として、同居する家族等に日常生活を監視することを誓約してもらうことも有効です。覚醒剤は依存性が強く、実際にも前記「2(2)」でご説明したように、覚醒剤取締法違反の事案では再犯率が高い傾向にあります。
そこで、再犯を防止するためにこそ、覚醒剤取締法違反では厳しく処罰される事案が多いといえます。ただ、一度、覚醒剤に依存してしまうと、自分でやめようと思ってもなかなか難しいという現実もあります。
そのため、同居の家族等に監視してもらう生活環境を整えることができれば、再犯防止対策が整っているとして、検察官が処分を決定する際、あるいは裁判所が判決を下す際に有利な事情として考慮される場合があります。
(4)薬物関係の仲間と関係を断つ
再犯を防止するための対策として、薬物を通じた仲間との縁を切るということも重要です。覚醒剤の売人とはもちろん、一緒に覚醒剤を使用していた仲間がいる場合は、そうした仲間との縁も絶ちきることです。
薬物依存症になると、強烈な快感と覚醒効果が脳に記憶されるため、自分では「やめたい」と思っていても、覚醒剤を目の前に置かれると「使用したい」という強力な欲求に駆られるといわれています。
そのため、薬物関係の仲間との関係が続いていると、ふとした瞬間に覚醒剤を使用したい欲求に駆られ、再犯に至る可能性が高いのです。したがって、薬物関係との関係を断つことも再犯の可能性を下げることになり、検察官の処分決定、裁判所の判決の際に有利な事情として考慮される場合があるのです。
(5)専門的な治療を受ける
薬物依存症は「病気」の一種とされているので、覚醒剤を本気で断ちたい場合には、専門的な治療を受けるべきでしょう。
送検された後、身柄を拘束されていない場合は早速、治療を開始しましょう。身柄を拘束されている場合は、治療を受け付けている医療機関を家族や弁護士等に探してもらい、身柄が解放された後はそこへの通院を誓約することです。
そうすることで覚醒剤を断ち切る決意を示すことにもなり、処分を決定する際や判決の際に有利な事情として考慮される可能性があります。最近では依存症専門の医療機関や、街中のクリニックでも「薬物依存症外来」を受け付けているところが増えていますので、通院可能なところが見つかるでしょう。
(6)自助グループに参加する
薬物依存症から立ち直るためには、自助グループに参加することも有効です。
自助グループとは、同じ問題を抱える人たちが交流し、お互いに励まし合い、援助し合って一緒に依存症という「病気」からの回復を目指す集団のことです。具体的な自助グループとしては「日本ダルク」や「ナルコティクス アノニマス日本」が有名ですが、他にもさまざまな団体があるようです。
通院先の医師や弁護士等に相談すれば、参加しやすい団体を紹介してもらえるでしょう。
(7)否認する場合の注意点
覚醒剤取締法違反で逮捕されても、犯行を否認したい場合もあるでしょう。
例えば、覚醒剤を所持していた場合でも他人から中身を知らされずに預かっていた場合や、自分で使用した場合でも覚醒剤だとは知らなかった、というような場合です。このような場合には、覚醒剤取締法違反の故意がないため、無罪となります。しかし、取り調べで「知りませんでした」と供述したとしても、直ちに覚醒剤取締法違反の故意がないと判断されるとは限りません。
覚醒剤だと知らなかった場合でも、何らかの違法な薬物かもしれないと思っていた場合は覚醒剤取締法違反の故意が認められてしまいます。本当に違法な薬物だという認識もなかった場合は、取り調べの対応が非常に重要となります。
いったん罪を認めて、自白内容が記載された供述調書が作成されてしまうと、その後否認したとしても、いったん自白した内容を後々裁判で争うことは大変困難です。そのため、無罪を目指す場合は取り調べの当初から適切に対応することが必要です。
そのためには、早めに弁護士を呼んで相談し、取り調べの対応方法についてアドバイスを受けることが大切です。
4、覚醒剤取締法は最近改正された~その内容とは?
覚醒剤取締法は最近改正されましたので、改正内容が気になる方もいらっしゃることでしょう。
大きな改正点は、法律の名称が旧来の「覚せい剤取締法」から「覚醒剤取締法」に変わったことです。個別の条文でも、「覚せい剤」という表記から「覚醒剤」に改められています。
この改正は「醒」という漢字が常用漢字に加えられたことによるもので、令和2年4月1日から改正後の「覚醒剤取締法」が施行されています。
他にも、医師や研究者、製造業者等の覚醒剤原料の取り扱いや保管に関する事項などが改正されていますが、一般の方に関わる事項については特に変更されていません。
一般の方にとって、法改正によって刑罰が厳しくなったわけではありませんが、従前どおりの厳しい法律であるといえます。
5、覚醒剤取締法違反の罪に問われたら弁護士へ相談を
覚醒剤取締法違反で検挙されると起訴される確率が高く、刑事裁判でも実刑判決が言い渡される可能性が十分にあります。不起訴や執行猶予付き判決を獲得するためには、早期に前記「3」でご説明した対策などを的確に行うことが重要です。
しかし、一般の方が適切に対応することは難しいですし、逮捕・勾留されてしまうと自分で動くこともできなくなります。そこで、覚醒剤取締法違反の罪に問われたときは、できる限り早めに弁護士に相談することが重要となります。
接見禁止が付いた場合、家族等との接見はできませんが、弁護士はいつでも接見できます。もし逮捕されたときは、すぐに弁護士を呼ぶようにしましょう。できれば、逮捕される前に弁護士に相談しておくことをおすすめします。
弁護士に相談すれば、取り調べの対応について専門的なアドバイスを受けられますし、家族等の監督者の確保や、通院する医療機関・自助グループなどの紹介もしてもらえるでしょう。
まとめ
覚醒剤取締法は、非常に厳しい法律です。出来心や興味本位で覚醒剤に手を出してしまった場合でも、逮捕されてしまうとそのまま裁判手続きに移行し、厳しい処罰を受けてしまう可能性があります。もし、実刑判決を受けてしまうと一定期間は社会生活から隔離されてしまいますし、出所後の社会復帰も容易ではないかもしれません。
今後の人生を円滑に進めるためには、できる限り一般社会内で生活を続けつつ、薬物依存症の治療を受け、更生に努めた方がよいでしょう。そのためには、できる限り早い時期に弁護士に相談することをおすすめします。まずは無料相談で、不安なことをお尋ねになってみてはいかがでしょうか。