雇止めとは、どのように回避することができるのでしょうか。
雇い止めは、人事から「従業員を若返らせたいから、来期は契約の更新はしないね」と言われ、長年契約社員として勤めてきた会社を、ある日突然放り出される…といった状況です。
しかし、「雇い止めにあった場合の対処手段」が分からないとお困りのこともあるかと思います。
そこで今回は、
- 契約の更新を止める会社側の手段
- 雇い止めが無効になる場合
- 雇い止めをされてしまった場合の対処法
- 雇い止めされた場合、何か保険は効くのか
等について、ご説明したいと思います。ご参考になれば幸いです。
目次
1、雇い止めとは?
いわゆる「雇い止め」とは、有期雇用契約において、雇用期間を更新せずに契約を終了させることを言います。
なお、契約期間の満了を待たずに契約関係を解消する解雇とはこの点で異なります。
2、契約を更新させないために会社側が採り得る手段
会社側は、契約期間満了で労働契約を終了させるために、事前に更新回数に上限を設けるなどして、更新しない旨を労働者に合意させることがあります。
以下、3つのパターンをご紹介しますが、このような合意に安易に応じないことが重要です。
(1)雇用契約締結後に会社側が一方的に更新しないと言ってきた場合
会社側が労働者に対して契約を更新しないと伝えるまでに、労働者が、契約が更新されることについて合理的期待(このままならば契約は更新されることになるだろうという期待のことです)を持った場合には、たとえ会社側が一方的に更新しないと言ってきたとしても労働者の契約更新への合理的期待は失われないと考えられています。
このように判断した裁判例も多くあります。
(2)雇用契約締結後、労働者が真に自由な意思に基づいて会社側と不更新合意をした場合
労働者が、真に自由な意思(強制的ではないということ)に基づいて会社側と不更新合意をした場合には、契約更新に対する合理的期待を自ら放棄したといえ、契約更新に対する合理的期待は消滅すると考えられています。
このように判断した裁判例もあります。
(3)雇用契約の締結段階からすでに更新の回数や期間に関して上限が定められている場合
契約締結時点においてすでに、更新回数や期間の上限が明示され、そのとおりの説明がされていた場合には、契約更新に対する合理的期待は生じないこととなります。なぜなら、労働者は、使用者から提示されている更新回数・期間までしか働くことができないことを予め理解した上で契約を結んでいるので、契約が更新されることに対しての期待を抱かないからです。
もっとも、上限を超えて働く労働者が存在したり、上限を超えて働ける場合があると会社側が説明していた場合などは、かかる上限は無いものと同視でき、労働者は契約が更新されることはあるだろうという期待を抱く可能性があるので、更新への合理的期待が生じる場合もあると言えるでしょう。
3、雇い止めが無効となる場合
(1)雇い止めが無効となるための要件
雇い止めが無効となるためには、以下の要件①から③の全てを満たす必要があります。
①要件1
ア 契約期間が満了する日までの間に契約更新の申込みをした場合
又は
イ 契約期間満了後遅滞なく契約締結の申込みをした場合
上記アの契約更新の申込み、上記イの契約締結の申込みは、労働者が、使用者に対し、何らかの形で雇い止めに対する抗議や不満を述べれば十分です。
②要件2
ア 従前の契約が繰り返し更新されてきていて(例えば、契約期間が当初半年だったにもかかわらず更新が5回繰り返されてきた場合)、雇い止めをすることが、正社員に代表されるような期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇することと社会通念上同視できる(つまり、正社員などの期間の定めのない労働者を解雇するのと変わらないと常識的に考えることができることです)
又は
イ 有期雇用契約の契約期間満了時に今までの雇用契約が更新されると期待してしまうことについて合理的な理由がある
上記ア、イについては、
- 雇用の臨時性・常用性(契約上の地位や仕事内容が臨時的なものなのかどうか)
- 更新の回数や雇用の通算期間、契約期間中の管理状況(契約書を作成しないことがあったり、事後的に作成していないか)
- 雇用継続の期待をもたせる言動や制度の有無(採用面接で「希望する限り働けます」といった説明はなかったか、契約書に定年の記載はないか)
- 労働者の継続雇用に対する期待の相当性(他の有期労働者が繰り返し更新されていないか)
などの事情を総合考慮して判断します。
③労働者からの雇用の申込みを使用者が拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないとき
この3つ目の「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」の要件は、労働契約法という法律に書かれている文言そのものです。やたら長く小難しいように感じるかもしれませんが、要するに、常識的に考えて誰の目から見ても解雇されても仕方がないといったニュアンスです。
また、使用者は、労働者と契約を結ぶ段階で、労働者に対して契約を更新する場合の基準を書面で交付して説明しなくてはなりません。
なお、裁判で雇い止めが有効か無効かが争われた場合には、雇い止めをすることが客観的に合理的な理由があって社会通念上相当といえることは、使用者側において立証することが求められます。
(2)効果
上記の3つの要件を満たした場合には、使用者は、今までの有期雇用契約の内容である労働条件と同じ条件で労働者からの契約の申込みを承諾したものとみなされます。
そのため、更新あるいは新たに締結された後の労働契約は、従前と同じ条件の有期労働契約ということになります。
4、雇い止めに対し契約を終わらせないための手段
(1)無期転換申込権
同じ使用者の下で働き続け、契約の更新期間を合算してその期間が5年を超える場合には、労働者は、無期契約への転換を使用者に対して申し込むことができます。この権利を無期転換申込権と言います。そして、申し込む際には、例えば、「今回の有期契約が満了したら翌日から期間の定めのない契約として働きます。」と使用者に伝えることになります。
この申込みによって、使用者の意思とは無関係に無期労働契約が成立することになります。
(2)要件
では、どのような場合に無期転換申込権を行使することができるのでしょうか。
行使できるのは、以下の2つの要件を満たした場合です。
①同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える
この要件のうち、「5年」をカウントするのは、平成25年4月1日以降に締結・更新された有期労働契約に限定されています。そのため平成25年4月1日以前に5年を超えて反復更新されてきた有期雇用契約も平成25年4月1日以降に改めて再度5年をカウントすることとなります。これは、労働契約法という法律の改正に伴ってこのように運用することに決まったためです。
なお、連続した有期雇用契約の間に、働いていなかった期間(「空白期間」と言います)が6ヶ月以上あるときは、その空白期間よりも前の契約期間は、5年の通算期間には含めることができません。
また、通算対象の契約期間が1年未満の場合は、その2分の1以上の空白期間があれば、それより前の契約は5年のカウントに含めることができません。もし2分の1で端数が出る場合には切り上げることとなります。
②労働者が、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までに期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたこと
労働者は、使用者に対して、現在の有期労働契約の期間満了日までに無期労働契約の締結を申し込むことが必要です。その際には、前述のように、「今回の有期契約が満了したら翌日から期間の定めのない契約として働きます。」と使用者に伝えましょう。
5、雇い止めをされ契約が終わってしまった場合の対処法
最後に雇い止めされてしまった場合の対処法についてご紹介します。
(1)有期雇用契約であるのか確認する
まずは、ご自身の契約が有期契約であるのかを確認するようにしましょう。
契約書の文言や契約時の使用者の説明、契約当事者の合理的意思(お互いにどのようなつもりで契約したのか)等を考慮すると、実は有期契約ではなく無期契約であったと評価できる場合もあります。
(2)使用者に対して異議を述べる
使用者に対して、直ちに、雇い止めに対する不満、異議があることを伝えて、期間満了前であれば、契約更新の申込みを、期間満了後であればすぐに契約をしてくれるように使用者に伝えましょう。
(3)雇い止めする説明を使用者に求める
雇い止めの理由について、契約時に雇い止めの判断基準が記載された書面が交付されていたか否かを確認したうえ、使用者に対し、雇い止めについての説明を求めるべきです。
(4)弁護士に相談
以上によっても、解決できない場合には、弁護士に相談したうえ、労働審判又は訴訟で、雇い止めの無効を主張していくこととなります。
訴訟の場合には、解決までに1年以上の長期を要することもありますので、暫定的に裁判所の判断を仰ぐべく、従業員たる地位の保全及び賃金仮払いの仮処分も検討するべきです。
雇い止めに関するまとめ
今回は、雇い止めについて説明させていただきましたが、いかがでしたでしょうか。本記事をご参考にしていただき、もしも雇い止めを受けてしまった場合又は雇い止めを受けそうな場合に適切にご対応いただければ幸いです。