強要罪になる言葉にはどんなものが含まれるかご存知でしょうか?
つい感情的になって自分が使った言葉が強要罪に該当する可能性は決して稀有なことではありません。
今回は、
- 強要罪と脅迫罪・恐喝罪との違い
- 強要罪になる言葉・ならない言葉の例
- 強要罪に問われたときの対処法
等について解説します。
目次
1、強要罪になる言葉を知る前に~そもそも強要罪とは?
強要罪になる言葉にはどんなものが含まれるのかを知る前に、そもそも強要罪とはどんな罪なのかについて確認していきましょう。
(1)強要罪の構成要件
刑法第223条1項は「生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。」とし、同条2項は「親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。」と定めています。
(2)強要罪における「脅迫」の内容
強要罪における「脅迫」とは、強要される者又はその親族の生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知することを言い、一般に人を恐怖させる内容である場合に該当します。
そのため、害の内容をはっきりと告知していなくても、状況によっては「何をするかわからないぞ」等と何らかの害を加える旨の告知だけでも一般に人を恐怖させることもあり得ますから、強要罪の「脅迫」に該当する可能性があります。
(3)強要罪の刑罰
強要罪の法定刑は3年以下の懲役です。罰金刑が定められていないので、軽い気持ちで発言した言葉であっても強要罪に該当すると判断されれば実刑判決が下される可能性もあります。
2、強要罪と脅迫罪・恐喝罪との違いは?
強要罪と類似する罪として、脅迫罪・恐喝罪があります。
3つの罪は類似していますが、どの罪に該当するかにより法定刑が異なります。それぞれの犯罪はどのように違うのかを確認していきましょう。
(1)脅迫罪との違い
脅迫罪は、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫したときに成立します(刑法第222条)。
脅迫罪と強要罪の「脅迫」は同じ概念ですが、脅迫罪と異なり強要罪では「人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した」ことが犯罪成立の要件として必要となります。
すなわち、単に「脅迫」をしただけの場合は脅迫罪が成立し、「脅迫」に加えて「義務のないことを行わせ」または「権利の行使を妨害した」場合に強要罪が成立します。
なお、強要罪には未遂犯の処罰規定(刑法第223条3項)がありますから、「義務のないことを行わせ」ようとしたり、「権利の行使を妨害し」ようとしたりしたが、結果それが失敗したような場合には、脅迫罪でなく、強要未遂罪が成立します。
脅迫罪の法定刑は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金です。
(2)恐喝罪との違い
恐喝罪は、人を恐喝して財物を交付させたときに成立します(刑法249条1項)。
この方法により財産上不法の利益を得たり他人にこれを得させたりした場合にも恐喝罪が成立します(刑法249条2項)。
恐喝罪の「恐喝」とは、脅迫または暴行が反抗を抑圧する程度に達しないものをいいます。
強要罪と大きく違うのは、恐喝罪の「脅迫」は財物の交付や財産上不法の利益を得ることを目的としている点です。
たとえば、相手からお金を巻き上げたり借金を免除させたりする行為が恐喝罪の対象となります。
強要罪の場合は、財物の交付や財産上不法の利益を得ることではなく、人に義務のないことをさせる点で恐喝罪と異なります。
恐喝罪の法定刑は、10年以下の懲役です。
3、強要罪になる言葉・ならない言葉の例
つい感情的になって無意識のうちに強要罪になる言葉を使ってしまうことがあるかもしれません。
ご自身では強要罪にならないと考えている言葉でも、実は強要罪になる言葉に該当し強要罪が成立する可能性があります。
ここでは、強要罪になる言葉とならない言葉を確認していきましょう。
(1)強要罪になる言葉
強要罪が成立するには、単に相手を脅迫するだけでなく、「脅迫」を用いて「人に義務のないことを行わせ」または「権利の行使を妨害した」ことが必要です。
強要罪になる言葉としては以下のようなものが挙げられます。
- 秘密をバラす
「この家に住み続けないとお前の裸の写真をばらまくぞ」
→「お前の裸の写真をばらまくぞ」という脅迫を用いて「この家に住み続ける」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
「取引先との間の裏金をバラされたくなかったら今ここで土下座しろ」
→「裏金をバラす」という内容の脅迫をし、「土下座する」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
「〇〇課長との不倫の事実をバラされたくなければ今日の会議に出席するな」
→「不倫の事実をバラす」という内容の脅迫をし、「会議を出席する」という権利の行使を妨害しており、強要罪になり得ます。
- 大切な人に危害を加える
「妻子に危害を加えられたくなければこの書類にサインしろ」
→「妻子に危害を加える」という脅迫をし「この書類にサインをする」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
「もしこの仕事をしないのであれば、お前の家族がどうなるかわからないぞ」
→家族に危害を加えることを暗示する脅迫をし、「この仕事をする」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
- 大切なものを傷つける
「お前が飼っている犬が無事でいてほしいなら、俺の言うことに従え」
→「犬を傷つける」旨の脅迫をし、「言うことに従う」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
「この条件をのめないなら車を傷だらけにするぞ」
→「車を傷だらけにする」旨の脅迫をし「この条件をのむ」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
- 暴力をふるう
「痛い目に遭いたくなければさっさと〇〇まで行ってこい」
→「痛い目に遭わせる」旨の脅迫をし「〇〇まで行く」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
「この借用書を作成しないなら、お前を歩けなくさせてやるぞ」
→「歩けなくさせてやるぞ」という脅迫をし、「借用書を作成する」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
- 金銭を奪う
「有り金を取られたくなければ、今ここで土下座しろ」
→「有り金を取る」旨の脅迫をし「土下座をする」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
「この金を返してほしければ、自分が悪かったと謝れ」
→「金を返さない」旨の脅迫をし「自分が悪かったと謝る」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
- 移動をさせない(身体の自由を奪う)
「この部屋から出してほしければ、〇〇のパスワードを教えろ」
→「この部屋から出さない」という内容の脅迫をし「〇〇のパスワードを教える」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
「家に帰りたかったら〇〇会社から何と言われたのかをここに書け」
「家に帰さない」という内容の脅迫をし「〇〇会社から何と言われたのかをここに書く」という義務のないことを行わせており、強要罪になり得ます。
(2)罪とならない言葉
強要罪になるかどうかは、その場の状況や相手との関係性によっても異なります。
たとえば、「〇〇しないと殺すぞ」というような言葉を言われたとしても、バラエティー番組内で和やかな雰囲気の中、信頼関係のあるお笑い芸人同士の掛け合いの中で発せられたような場合には、(道義上の問題や教育上の問題はともかくとして、)通常言われた人が恐怖を感じることもなければ、相手の言うことに従わないといけないと考えることもないといえます。これに対し、同じ言葉であっても、特段信頼関係がない中で、双方何らか揉めているような状況で言われた場合は、通常言われた人が恐怖を感じて相手の言うことに従わざるを得ないと考えてもおかしくはありません。このように、その場の状況や相手との関係性によって、畏怖するかどうかや義務のないことを行わざるを得ないのか等が異なります。
また「警察を呼ぶぞ」など、発言内容が正当な権利行使に当たる場合がありますが、たとえ発言内容自体が正当な権利行使に当たる場合でも、実際には権利行使(警察を呼ぶ)意思がなく、「警察を呼ぶぞ」という言葉を契機として人に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりする目的がある場合は、強要罪が成立し得ます。
4、強要罪が認められた事例
さて、ここからは実際に強要罪が認められた事例を見ていきましょう。全く同じ事案が発生することはありませんが、強要罪が成立する具体的なケースとしてイメージしてみてください。
(1)内部通報があった際に、内部通報者であろうと考えた者に対して「絶対潰す」「辞めさせるまで追い込むぞ」などと言って脅迫したケース
被告人が、自身の二男に関する内部通報を行ったのが被害者なのではないかと考えて、被害者に対し、「局長の名前が載っちょったら、そいつらは、俺が辞めた後も絶対潰す」「辞めさせるまで追い込むぞ」等と言い、被害者が内部通報を行ったことを直ちに認める等しなければ、または後に被害者が内部通報を行ったことが明らかになった際には、郵便局長を辞めさせるなどする旨を伝え、内部通報を行ったことを認めさせようとしたけれども局長は認めなかったという事案において、強要未遂罪の成立が認められました。
(2)出所したら被害者のところに行って被害者を殴り、殺してしまう可能性が高いといった旨の手紙を警察宛てに郵送して脅迫したケース
ストーカー規制法に関する警告を受けていた被告人が、警察署宛てに、出所したら被害者のところに行って被害者を殴り、勢いで殺してしまう可能性が高いといった旨の文章を記載した手紙を郵送して、被害者に対して金銭の返還や謝罪等をさせるように求めたけれども、被害者はこれらの行為をしなかったという事案において、強要未遂罪の成立が認められました。
なお、被告人は警察に対して手紙を郵送したのであって、被害者に対して直接脅迫したわけではありませんが、警察を通じて被害者に手紙の内容が伝わる可能性が高く、被告人はこれを期待して警察に手紙を出したと認定され、強要未遂罪の成立が認められました。
5、強要罪に問われたときの対処法
強要罪に問われた場合、犯行内容や被害者の数等によっては起訴される可能性があります。起訴され有罪判決を受けると、今後の人生に大きな痛手となる人が多いでしょう。
強要罪に問われたらできる限り不起訴処分を目指して動いていきましょう。
(1)不起訴処分を目指す
強要罪に問われたからと言って、全てのケースで起訴されるわけではありません。前科がなく、犯行内容が軽微な場合は不起訴処分になることも十分考えられます。不起訴処分を獲得するために、強要罪に問われた場合は早急に弁護士に連絡をし、取調べでの受け答え等、今後の進め方について弁護士からアドバイスをもらいましょう。
(2)反省の態度を示す
罪を犯したことに間違いがなければ、取り調べでは素直に罪を認め、反省の態度を示すことが重要です。
単に「反省しています」と述べるだけではなく、自分のどのようなところが悪かったのか、相手にどれほどの迷惑をかけてしまったのか、犯行を繰り返さないために今後はどのようなことに注意していくのか、といったことを深く考え、ご自身の言葉で説明することが大切です。
深く反省していることと、再犯の恐れが乏しいことが認められると、不起訴処分を獲得できる可能性が高まります。
ただし、素直に罪を認めて反省することと、取調官に迎合することとは異なります。取調官から言われたことを何でも認めると、実際よりも悪質な内容の供述調書を作成され、罪が重くなってしまう恐れがあります。
作成された供述調書の内容に納得できない場合は訂正を申し入れ、十分に応じてもらえない場合はサインを拒否することができます。
また、取調官に言い分を聞き入れてもらえない場合は黙秘権を行使し、弁護士を呼んで対応を相談した方がよいでしょう。
(3)被害者との示談が最も重要
不起訴処分を目指すに当たっては、被害者との示談が重要な要素となります。
示談金を支払うことで示談できるのであれば、前科を付けないためにも示談をして不起訴処分を目指すべきでしょう。
一括して示談金を支払えない場合は分割払いの交渉をしたり、はじめにまとまったお金を払ったりする等、謝罪の姿勢や誠心誠意示談に応じる旨を示すことが大切です。
6、強要罪にあたる行為をしたかもしれないと思ったら弁護士に相談を
強要罪にあたる行為をしたかもしれないと思った場合は、早急に弁護士に相談をしましょう。
自分の発した言葉が強要罪に該当するのかどうかは、ご自身では判断できない場合もあると思います。
強要罪に該当しなくとも、脅迫罪や恐喝罪など他の罪に該当する可能性がありますので、まずはご自身の言葉が犯罪を構成するのかを弁護士に相談して確認しましょう。
強要罪に該当する場合、弁護士に依頼をしておけば被害者との間で示談交渉を弁護士が進めてくれたり不起訴処分になるよう弁護活動を進めてくれたりします。手遅れになる前に、まずは一度弁護士にご相談ください。
まとめ
「この程度の言葉なら他の人も言っているだろう」などと安易に考えて人を脅迫したものの、その行為が強要罪に該当するとして逮捕・起訴される可能性は十分にあります。
「他の人も言っている」「相手が悪い」などと軽い気持ちで相手を脅迫してしまった場合は、一度弁護士にご相談ください。
仮に逮捕されると身体拘束を受け、様々な自由がなくなります。できる限り早い段階で弁護士に相談し、今後の対策を一緒に検討していきましょう。