離婚時の約束事を明確にするための離婚協議書は、財産分与や慰謝料、親権などを正確に記載し、後のトラブルを避けるために不可欠です。
口約束だけでは不十分であり、公正証書化することで強制執行も可能になりますが、その作成は専門知識を要します。
この記事では、ベリーベスト法律事務所の弁護士が離婚協議書の基本、書き方、公正証書の重要性について解説し、雛形も提供します。
ダウンロード可能な離婚協議書の雛形も用意していますので、ぜひご利用ください。
この記事が、離婚後のトラブルを未然に回避する手助けとなれば幸いです。
目次
1、書き方について知る前に!そもそも離婚協議書とは?
離婚協議書の書き方を解説する前に、まずは離婚協議書に関して知っておきたい基本的な事項についてご説明します。
(1)離婚協議書とは何か
離婚協議書とは、冒頭でもご説明したように、離婚時の話し合いで合意した内容を記載しておく書面のことをいいます。
協議離婚をする夫婦の間で交わす「契約書」に該当するものであり、適正に作成された離婚協議書には一定の法的効力があります。
(2)離婚協議書を作成する目的
日本では調停離婚や裁判離婚よりも協議離婚する夫婦が多いにもかかわらず、離婚協議書を作成する夫婦は多いとはいえません。
しかし、それが原因で離婚後に「言った・言わない」のトラブルが発生し、約束したはずの離婚条件が守られないという事態が多く発生しているともいえます。
離婚協議書は、このような離婚後のトラブルを防止するために作成するものです。
万が一、相手方が離婚後に態度を翻して「慰謝料を払うなどと言った覚えはない」と言ったとしても、離婚協議書に慰謝料の支払いについて明記してあれば、相手方の言い訳を封じることができます。
(3)誓約書とは違う?
離婚時に配偶者の一方が「誓約書」を記載するケースもあるかと思いますが、誓約書と離婚協議書は別のものです。
離婚協議書は、双方が合意した約束事を記載して、お互いが署名・押印する書面です。
そのため、作成後はお互いに記載した約束事を守る義務を負います。
それに対して、誓約書は一方の当事者のみが守るべき事項を記載して、その人のみが署名・押印する書面です。
記載した事柄を守る義務を負うのは署名・押印した人だけであり、誓約書を受け取った人は何らの義務も負いません。
このような違いがあるので、離婚協議書には、記載した約束事の他にはお互いに何の責任も負わないという「清算条項」を記載するのが一般的です。
一方、誓約書には清算条項は通常記載しません。
離婚条件は、離婚する夫婦二人で合意する約束事ですので、離婚する際には離婚協議書を作成した方がよいでしょう。
誓約書は、たとえば夫婦の一方が浮気をしたものの離婚はしない場合に、「もう浮気はしません」「もし約束を破ったら慰謝料として〇〇万円を支払います」といったことを誓約する場合等に作成されるものです。
誓約書の法的性質については以下の記事で解説していますので、参考になさってください。
2、離婚協議書を書く前に準備すべきこと
ここからは、離婚協議書の作成方法についてご説明していきます。
まず本項では、離婚協議書を書く前の準備事項をご紹介します。
(1)離婚条件を話し合って決める
最初に、離婚協議書に記載する内容を決めるため、まずは夫婦間で話し合いをします。
記載すべき内容に決まりはありませんが、離婚後に後悔しないように、じっくりと話し合うことが大切です。
決めるべき項目はケースバイケースですが、主に以下の項目があります。
- 離婚することについての合意
- 財産分与
- 慰謝料
- 親権者(監護権者)の指定
- 養育費
- 面会交流
- 年金分割
- 公正証書を作成するか否か
(2)パソコンがあれば用意する
離婚協議書を書く際は、手書きでもパソコンを使用しても、どちらでもかまいません。
一般的にはパソコンを使用した方がきれいに作成できますし、書き直す際にも便利です。
離婚協議書を書くためだけにパソコンを購入する必要はありませんが、パソコンがあれば使用した方がよいでしょう。
(3)実印を用意する
離婚協議書に押印する印鑑は認印でもかまいませんが、重要な書類ですので、実印を使用する方が望ましいです。
なお、パソコンで離婚協議書を作成するときにも印鑑は必要です。
実印を使用することで、万が一、相手方が離婚協議書に記載した約束を守らず裁判に発展した場合に、こちらの有利に裁判を進めることが可能となります。
なぜなら、裁判では離婚協議書が真正に成立したことを原告であるあなたが証明しなければならないのが原則ですが、署名と押印があることによって、その点を証明する必要がなくなるからです(民事訴訟法第228条1項、4項)。
つまり、双方の署名・押印した離婚協議書を裁判所に提出するだけで、お互いの自由意思によってその離婚協議書を作成したことまで証明できるということです。
相手方が「離婚協議書は勝手に作成されたものだ」と反論するのであれば、相手方の方で「勝手に作成されたこと」を証明しなければなりません。
このとき、認印を使用していた場合は、「勝手に三文判を押された」という相手方の反論が認められてしまう可能性があり得ます。
しかし、実印を使用しておけばこのような反論も防ぐことができます。
したがって、できる限り実印を使用した方が安心できるでしょう。
もし、実印をお持ちでない場合も、印鑑登録はお住まいの市区町村の役場ですぐにできますので、できれば印鑑登録をした上で実印を使用することをおすすめします。
3、離婚協議書の書き方
では、離婚協議書に書くべき内容について、詳しく解説していきます。
ここからのご説明は、雛形を見ながらお読みいただくと、よりわかりやすいと思います。
以下のリンクから離婚協議書の雛形を無料でダウンロードしていただけますので、ぜひご利用ください。
(1)離婚に合意したこと
まず初めに、夫婦がお互いに離婚について合意した旨を記載します。
その際、
- 離婚届の提出日
- どちら誰が離婚届けを役所に提出するか
などを記載することもあります。
(2)財産分与
財産分与とは、婚姻生活において夫婦が協力して増やした財産を清算して分け合うことをいいます。
具体的には、
- 財産分与の対象となる財産
- どの財産をどちらが取得するか
- いつまでに財産分与の支払いをするか
- 一括で支払うか、複数回で支払うか
などを記載します。
(3)慰謝料
慰謝料とは、不倫やDVなどといった不法行為によって精神的苦痛を受けた場合に、損害賠償金として支払われるお金のことです。
- そもそも慰謝料を支払うか
- 支払い金額はいくらか
- 支払期日はいつか
- 一回払いか、複数回払いか
などを記載します。
(4)親権者の指定
夫婦間に未成年の子供がいる場合は、どちらが親権者となるかを決めて、離婚協議書に記載します。
通常、子供の名前の前に「長男」「長女」「二男」「二女」等の続柄を記載していきます。
場合によっては、養育方針などを記載することもあります。
(5)養育費
養育費とは、子どもを育てるのに必要な費用のことをいいます。
養育費には、衣食住に必要な経費や教育費、医療費、最低限度の文化費、娯楽費、交通費など子どもが自立するまでにかかるすべての費用が含まれます。
離婚協議書には、
- そもそも養育費を支払うか否か
- 支払うとしたら、その金額
- いつからいつまで養育費を支払うか
- 支払い方法(短期間に集中してまとまった金額を受け取るか、1回に受け取る金額は少なくても長期に渡って支払うか、など)
などを記載します。
(6)面会交流
面会交流とは、離婚や別居で子どもと離れて暮らす父親や母親が、定期的に子どもと会って交流することをいいます。
離婚協議書には、
- どのくらいの頻度で面会交流を許すのか(例えば、月1回の頻度、年2回の1泊程度の宿泊等)
- 1回あたりの面会の時間
- 面会交流の方法
などを記載します。
(7)年金分割
年金分割とは、結婚している期間中に支払った保険料の納付割合を協議で定めた割合で分割して、将来の年金額を計算しよう、というものです。
分かりやすく言えば、例えば、専業主婦の場合は、夫が払った保険料の一部(最大で半分まで)を妻が払ったものとして、将来の年金額が計算されることになります。
離婚協議書には、
- 年金分割をするかどうか
- 年金分割をする場合には、分割割合(通常は0.5)
などを記載します。
(8)公正証書を作成するか否か
公正証書とは、法律の専門家である公証人が法律にしたがって作成する公文書です。
公正証書は高い証明力があるうえ、養育費などの支払を怠ると、裁判所の判決などを待たないで直ちに強制執行手続きに移ることができます。
離婚協議書を公正証書にする場合は、強制執行について認諾する文言を記載することにより、相手が金銭債務を履行しないときは財産を差し押さえる強制執行が可能となります。
なお、公正証書については次項で詳しく書いていきます。
(9)通知義務
離婚後に住所や連絡先、勤務先などを変更した場合には相手方に通知すべきことを離婚協議書に記載することもあります。
この記載は、特に養育費を継続的に受け取る側の方にとって重要です。
なぜなら、養育費の支払いがストップした場合、相手方の連絡先がわからなければ請求することが難しくなってしまうからです。
養育費を継続的に支払うことを取り決めた場合は、通知義務も記載しておいた方がよいでしょう。
(10)清算条項
清算条項とは、離婚協議書に記載した事項の他にはお互いに何らの債権債務も有しないことを確認し合うための条項です。
つまり、離婚協議書に記載した権利を実現し、義務を果たせば、他には何の請求もできないし、請求されることもなく、離婚問題は解決されたことを意味します。
(11)署名・押印
離婚協議書には、お互いが署名・押印をします。
パソコンで作成する場合には、氏名は印字でもかまいません。印字した場合は、氏名の後に押印します。
ただし、最も望ましいのは、「手書きの署名+実印」です。
前記「(3)」でご説明したように、署名と印鑑があることで、万が一裁判に発展した場合に離婚協議書が真正なものであることをこちらが証明する必要がなくなるからです。
手書きの署名と実印を使用しておけば、相手方の「勝手に離婚協議書を作成された」という反論が通ることはまずないでしょう。
そのため、パソコンで離婚協議書を作成する場合でも、できる限り署名は手書きして、実印で押印することをおすすめします。
(12)2部作成して1部ずつ保管する旨の記載
離婚協議書は離婚する夫婦間の契約書ですので、2部作成してお互いに1部ずつ保管します。
その旨を離婚協議書にも記載しておくのが一般的です。
4、離婚協議書はいつ作成すべき?
離婚協議書は、離婚届を提出する前に作成すべきです。
離婚協議書の作成時期について法律上の決まりはありません。
しかし、離婚時に慰謝料の支払いなどについて合意ができていても、いったん離婚してしまうと相手方の気が変わり、離婚時の合意どおりの内容で離婚協議書を作成してくれなくなる可能性があります。
また、別れた夫婦が離婚後に何度も連絡を取り合って話し合い、離婚協議書を作成することは現実的に難しいでしょう。
したがって、離婚協議書は離婚届を提出する前に作成することをおすすめします。
ただ、DVやモラルハラスメントなどの被害を受けていて、どうしても離婚前に離婚協議書を作成する余裕がない場合もあるかもしれません。
その場合は、以下の期限にご注意ください。
- 財産分与の請求期限:離婚から2年
- 年金分割の請求期限:離婚から2年
- 離婚慰謝料の請求期限:離婚から3年
5、離婚協議書は公正証書にするのがおすすめ!
離婚協議書を作成するなら、公正証書にしておくのがおすすめです。
特に、財産分与や慰謝料、養育費などの金銭を受け取る側の方にとっては公正証書にするメリットが大きいです。
ここでは、そもそも公正証書とはどのようなものなのかについてご説明した上で、離婚協議書を公正証書にすることのメリット・デメリットもご紹介します。
(1)公正証書とは?
公正証書とは、法律の専門家である公証人が公証人法・民法などの法律にしたがって作成する公文書です。
そのため、高い証明力があるうえ、債務者が金銭債務の支払を怠ると、裁判所の判決などを待たないで直ちに強制執行手続き(裁判所が強制的に金銭等を回収する手続き)に移ることができます。
慰謝料や養育費の支払など金銭の支払いを約束した場合、もし相手方の支払いが滞った場合、通常はまず裁判を起こして判決等を得なければ強制執行をすることができません。
しかし、公正証書を作成しておけば、すぐに強制的に回収する手続きに入ることができるのです。
(2)公正証書にするメリット
離婚協議書を公正証書にするメリットは、以下のとおりです。
①証拠としての価値が高い
離婚する夫婦2人だけで作成する離婚協議書は、私文書としての契約書に該当します。
私文書は容易に偽造できてしまうため、真正なものかどうかが問題となります。
つまり、証拠としての価値が低いのです。
しかし、公正証書は公文書の一つであり、慰謝料や養育費の支払い金額・支払日などが書かれていれば、その内容が夫婦間で約束されたものであることが公に証明されることになります。
つまり、後で「払う・払わない」の問題となったときに、公正証書があれば決定的な証拠となるのです。
②給料や預金を差し押さえることができる
公正証書には、確定判決と同一の法的効力があります。
相手方が慰謝料や養育費の支払いの約束を相手が破った場合、公正証書があれば既に裁判で勝訴判決を得たのと同じ状態なので、すぐに相手方の給料や財産の差押えが可能です。
つまり、裁判費用と手間(時間)をかけずに金銭を回収することが可能ということです。
養育費などは毎月確実に得ておきたい金銭ですので、その金額や支払い期日について公正証書を作成しておくことは非常に重要でしょう。
③内容に誤りがなく確実性が高い
公正証書は、法律の専門家である公証人が内容をチェックした上で作成します。
そのため、誤記や誤植の心配はありませんし、体裁の不備によって離婚協議書が無効となってしまうこともありません。
夫婦のみで離婚協議書を作る場合には誤記・誤植によって実際の合意内容とは異なる記載になったり、体裁の不備によって無効になってしまうことがありますが、公正証書にしておけばこれらの心配がなく、確実性が高くなります。
(3)公正証書を作成するデメリット
公正証書を作成することでデメリットが生じることはありませんが、作成する際には以下のような苦労があります。これらの点がデメリットといえるかもしれません。
①作成に費用がかかる
公正証書作成の費用は、原則として、その目的価額により定められています(公証人手数料令9条)。
目的価額というのは、その行為によって得られる請求側の利益、相手からみれば、その行為により支払わなければならない金銭的負担のことをいいます。
したがって、合意した財産分与や慰謝料の金額が高ければ高いほど、公正証書の作成費用も高額となってしまいます。
この費用をどちらが負担するかについても、離婚協議で決めておくべきでしょう。
なお、この目的価額は、公証人が証書の作成に着手した時を基準として算定します。
【法律行為に係る証書作成の手数料】
(目的の価額) | (手数料) |
100万円以下 | 5000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7000円 |
200万円を超え500万円以下 | 11000円 |
500万円を超え1000万円以下 | 17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 | 23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 | 29000円 |
5000万円を超え1億円以下 | 43000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3000円に5000万円までごとに、1万3000円を加算 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5000円に5000万円までごとに、1万1000円を加算 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に5000万円までごとに、8000円を加算 |
②作成に時間がかかる
公正証書は、公証人がその内容に誤りがないかチェックしながら作成するため、作成に時間がかかります。
また、公正証書を作成するときは、夫婦が公証役場への出頭が必要となります。
加えて、公証役場は平日の9時~17時までなので、この時間帯に合わせて行く必要があります。
③相手方が公正証書の作成に応じないことがある
上記のとおり、公正証書を作成するには夫婦ともに公証役場への出頭が必要ですが、相手方がその手間を嫌って公正証書の作成に応じないケースもあります。
私文書としての離婚協議書なら署名・押印するだけなので作成に応じてくれても、わざわざ公証役場へ出向き、場合によっては費用を負担してまで公正証書を作成することに反対する人も少なくありません。
6、相手方が離婚協議書の作成に応じないときの対処法
離婚協議書の作成でお困りのときは、弁護士に依頼するのが有効です。
弁護士があなたに代わって交渉すれば、相手方に心理的プレッシャーをかけることができます。
相手方としては、「きちんと対応しなければ、裁判を起こされて面倒なことになる」と考えるでしょうから、離婚協議書の作成に応じてもらえる可能性が高くなります。
また、離婚協議書に記載すべき内容についても、弁護士が漏れなく提案してくれます。
そして、離婚条件については弁護士が代理人として相手方と交渉しますので、あなたにとって納得のいく離婚協議書の作成が可能となることでしょう。
なお、公証人も離婚協議書の内容のチェックはしてくれますが、形式的におかしくないかを確認してくれるだけであり、あなたが離婚後に困らないかどうかまで考えてアドバイスをしてくれるわけではありません。
弁護士に依頼した場合には、あなただけの味方として弁護士が離婚条件を考え、交渉した上で誤りのない離婚協議書を作成してもらうことができるのです。
離婚協議書の書き方のQ&A
Q1.離婚協議書とは?
離婚協議書とは、離婚時の話し合いで合意した内容を記載しておく書面のことをいいます。
協議離婚をする夫婦の間で交わす「契約書」に該当するものであり、適正に作成された離婚協議書には一定の法的効力があります。
Q2.離婚協議書はいつ作成すべき?
離婚協議書は、離婚届を提出する前に作成すべきです。
離婚協議書の作成時期について法律上の決まりはありません。
しかし、離婚時に慰謝料の支払いなどについて合意ができていても、いったん離婚してしまうと相手方の気が変わり、離婚時の合意どおりの内容で離婚協議書を作成してくれなくなる可能性があります。
Q3.離婚協議書を書く前に準備すべきことは?
- 離婚条件を話し合って決める
- パソコンがあれば用意する
- 実印を用意する
まとめ
実際のところ、協議離婚する際に離婚条件を口約束はしても、離婚協議書を作成する夫婦は多くありません。
離婚協議書を作成したケースでも、体裁に不備があったり、離婚条件の内容が相当とは思われないようなケースが少なくありません。
離婚後に後悔しないためには、しっかりとした離婚協議書を作成しておくことが大切です。
お気軽に弁護士にご相談の上、準備を始めてみてはいかがでしょうか。