未成年の子供を持つ夫婦が離婚する際には、親権者の決定が重要となります。
以前は母親が圧倒的に親権者とされるケースが多かったですが、最近では父親が親権を主張するケースも増えてきました。
離婚時の親権をめぐる争いは年々激化しているのが実情です。
ただ、親権には権利だけでなく義務と責任も伴います。
そこで、子供の親権とは何か、親権者の決定方法、親権を獲得できなかった場合の対処法などについて、経験豊富なベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
数多くの離婚事件を解決に導いてきた専門家のアドバイスを参考にすることで、離婚はするけれども子供との関係を守りたいという方々の手助けとなれば幸いです。
離婚したいとお考えの方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、子供の親権とは?
親権とは、未成年の子供を育てる親に認められた権利や義務、責任のことをいいます。
父母の婚姻中は父母が共同親権者ですが(民法第818条3項)、離婚する際には父母の一方のみを親権者と定めなければなりません(同法第819条1項、2項)。そのため、父母の双方が親権を主張する場合には、離婚時に激しい親権争いが生じがちです。
親権を主張する人のほとんどは、「子供と一緒に暮らす権利」を手放したくないと考えることでしょう。しかし、親権にはそれだけでなく、他にも重要な権利や義務が伴います。
具体的には、大きく分けて「身上監護権」と「財産管理権」の2つの要素があります。
以下で、身上監護権・財産管理権それぞれについて、権利・義務の内容をチェックしていきましょう。
(1)身上監護権
身上監護権は、子供と日々の生活を共にし、身の回りの世話やしつけ・教育を行う権利のことです。
一般的に「親権」と聞いてイメージされるのは、ほとんどがこの身上監護権に当たります。
「子供と一緒に暮らす権利」も身上監護権に含まれますが、それだけでなく、子供が健全に成長するように衣食住の面倒をみて、必要なしつけや教育も行わなければならないという義務と責任も伴っています。
子供の衣食住の面倒に不足がなくても、しつけや教育が不足していると、「親権者としてふさわしくない」と判断される可能性があることに注意が必要です。
(2)財産管理権
財産管理権は、子供の所有する財産(子供名義の預貯金など)を管理し、その財産に関する法律行為を代理で行う権利のことです。
たとえば、未成年の子供がアルバイトをする際には親の許可が必要になりますが、その「親」は厳密に言うと財産管理権者を指します。
また、交通事故などで損害賠償請求を行う際にも、この財産管理権を所有する親が代理人となって手続きを行います。
財産管理権は、権利というよりも義務の側面が強いといえます。
まだ自分で財産を管理しきれない子どもに代わって、親が適切に管理する義務を負うのです。
当然ですが、子供の財産を親の私利私欲のために消費することがあってはなりません。
(3)財産管理権と身上監護権は分けることもできる
この2つの権利は、たとえば身上監護権は母親、財産管理権は父親というように分けることもできます。
その場合は便宜上、財産管理権の取得者を「親権者」、身上監護権の取得者を「監護権者」と呼ぶこともあります。
監護権を取得した側は、親権を取得した側の親に、養育費を請求できます。
夫婦のいずれも親権を譲る気がなく、どこまでいっても話が平行線のまま決着がつきそうにない場合は、このように親権と監護権を分けることで形上はどちらの親にも子供に関わる権利が与えられるため、早期に解決できることもあります。
ただ、実務上は親権と監護権を分けるケースは多くありません。
親権争いをしている人のほとんどは「監護権」を譲りたくないと考えるからです。
ただし、子育てを円滑に行うためには、安易に親権と監護権を分けることは望ましくないと考えられています。
親権と監護権が分けられるのは、親権者が病気などで身上監護を十分に行えないような場合に限られているのが実情です。
そのため、「親権を獲得できなくても監護権を獲得できればいい」と安易に考えるのは禁物です。
(4)共同親権はまだ導入されていない
なお、諸外国では離婚後も父母が共同して子育てに関わっていく「共同親権」の制度が導入されている国が数多くあります。
日本では、現在、法務省の法制審議会で共同親権制度を導入すべきかどうかの検討が行われていますが、まだ結論は出されていません。
数年後に共同親権制度が導入される可能性はありますが、現行法では離婚後は父母のうちどちらかによる単独親権制度とされています。
したがって、いま離婚をお考えの方は、単独親権制度を前提として、離婚後の親権を獲得できるかどうかを考える必要があります。
2、親権は子供が何歳になるまで続く?
親にとって我が子はいくつになっても子供ですが、法律上の親権はいつまでも続くわけではありません。
では、親権は子供が何歳になるまで続くものなのでしょうか。
(1)2022年4月1日からは18歳まで
2022年4月1日からは、民法の改正により成人年齢が満18歳に引き下げられました。
したがって、子供が満18歳になった時点で法律上の親権が消滅することになります。
(2)養育費は基本的に20歳まで
親権者は元配偶者に対して子供の養育費を請求できますが、請求できるのは基本的に子供が20歳になるまでと考えられています。
ただし、法律上は何歳までと明確に定められているわけではありません。
子供が自活可能な状態に成熟するまでは養育費の請求が可能です。
そのため、子供が20歳を過ぎても大学に通っていて自活できない場合は養育費を請求できますし、逆に子供が高校を卒業して就職した場合は20歳未満でも養育費を請求できなくなることもあります。
以上の点は、改正民法が施行された後も変わらないものと考えられています。
したがって、成人年齢が18歳に引き下げられた後も養育費の支払いは18歳で打ち切られるわけではなく、基本的に20歳まで請求できます。
3、離婚時に子供の親権を決める方法は?
では、離婚時にどのようにして子供の親権を決めればよいのでしょうか。
ここでは、身上監護権と財産管理権の両方を合わせた「親権」を決めるための具体的な方法を解説します。
(1)まずは話し合い
まずは、夫婦間で話し合いましょう。
話し合いによって合意ができれば、どちらでも自由に親権者を定めることができます(民法第819条1項)。
ここですんなり話がつけば、決定した親権者を離婚届に記入して、あとは提出するだけで終了します。
ポイントは、どちらが親権者となるのが子供の成長のために望ましいかという観点から冷静に話し合うことです。
お互いに親権を譲らず、話し合いがまとまらない場合は、次のステップに進みます。
(2)話し合いがまとまらないときは調停
夫婦のみで問題を解決することができないときには、家庭裁判所に離婚調停(離婚届には親権者を記入しないと提出できないため、離婚だけ先行させることはできず、離婚調停のなかで親権者についての話し合いをすることになります)を申し立て、調停委員を間に挟んで話し合いを継続します。
専門的な知識や経験を有する調停委員からの助言や説得を交えて、当事者双方がさまざまな条件を譲り合い、合意を目指していくことになります。
調停は1月に1回のペースで、落としどころを探るために複数回実施される(つまり、数ヶ月にわたる)こともありますので、仕事がある方などは必要に応じてスケジュールを調整しましょう。
(3)最終的には離婚訴訟
調停でも合意できなかった場合、裁判で親権を争うことになります。
裁判では、自分の方が親権者としてふさわしいことを証明できる証拠を提出することが重要となります。
裁判所が証拠を精査し、あなたの方が親権者としてふさわしいと判断すれば、最終的に判決によって親権を獲得できます。
ここまでくると争いの長期化は避けられませんが、自分が折れる=子供と離れ離れになるということなので、後悔しないためにも最後まで最善を尽くしましょう。
(4)子供自身が親権者を選ぶことは可能?
結論から言いますと、15歳以上の子供は自分で親権者を選ぶことも事実上、可能です。なぜなら、親権者を指定する審判が行われる場合、家庭裁判所は子供の意見を聴かなければならず(家事事件手続法第169条2項)、その意見は最大限に尊重されるからです。
したがって、絶対とまでは言えませんが、15歳以上の子供が親権者について希望を述べた場合には、基本的にその希望に従って親権者が指定されることになります。
なお、子供が15歳未満の場合でも、家庭裁判所は審判をするに当たり、子供の意思を把握するように努め、その意思を考慮することとされています(同法第65条)。
おおむね12~13歳以上の子供の意見はある程度尊重されますので、子供の希望に従って親権者が指定されるケースも多くなってきます。
子供が12歳未満の場合、その意見は参考にされる程度に過ぎませんのが、調査官による調査で意向は把握されるでしょう。
4、子供の親権者を獲得するための条件は?
話し合いがまとまらない場合、どのような基準によって親権者が決められるのかは気になるところでしょう。
ここでは、裁判所が親権者を決めるにあたって重視する判断基準について、ポイントをご紹介していきます。
親権を獲得するための条件は、以下の判断基準についてできるだけプラスの評価を得ることです。
(1)子供に十分な愛情を注いでいるか
当然のことですが、子供に対する愛情が深いほど親権を獲得できる可能性が高くなります。
ただ、愛情は目に見えないものですので、裁判では客観的な事情も考慮して愛情の深さが測られます。
したがって、普段から子供とどれくらいの時間を過ごしていたか、どのように子供と接していたのかが重要となります。
父親の場合、平日は仕事で忙しくても休日には子供との時間を優先していたか、学校や保育園の行事に参加していたか、母親の家事を手伝うことによって子育てをサポートしていたかなど、子供との関わり方が重要視されます。
(2)これまで子育てに十分に関わってきたか
これまで子育てに十分に関わってきたかどうかという点は、子供に対する愛情の深さを測る以外にも、非常に重要な意味を持っています。
養育の状況はできる限り変更しない方が子供にとって望ましいと考えられているので、これまで主に子育てを行ってきた側の方が親権争いで有利となります。
一般的には母親が主に子育てを行っている家庭が多いため、離婚後も母親が親権者となるケースが多いのです。
そのため、毎日外で働いている父親がどうしても不利になることは否定できません。
父親が親権を獲得するためには、忙しくてもできる限り子育てに関わる努力をしていたという点をアピールすることが必要です。
(3)今後も子育てに十分な時間を割けるか
子育ては今後も子供が成人するまで続いていきますので、離婚後も子育てに十分な時間を割けるかどうかという点も重要です。
この点、母親は婚姻中に専業主婦として子供の面倒をずっと見ていたとしても、離婚後は自分も仕事をしなければならないことも多いでしょう。
そうすると、子育てに割ける時間は減ってしまいます。
それに対して、父親は仕事を調整したり、場合によっては部署異動や転職をすることによって子育てに割ける時間を増やすことも可能でしょう。
親権を獲得するには、子供のことを第一に考える姿勢が重要となってきます。
(4)子供の面倒を見てくれる人が他にもいるか
離婚後、一人で子供を育てていくのは大変なことです。どうしても子育てに手が回らないということもあるでしょう。
そんなとき、自分の代わりに子供の面倒を見てくれる人がいれば、親権を獲得できる可能性が高まります。
例えば、近くに自分の実家があり、自分が仕事に行っている間は両親が子供預かってくれるなど、子供の世話をする人の手が多ければ多いほど、それはプラスの判断材料になります。
(5)子供の生活環境に大きな変化を及ぼさないか
両親の離婚後に子供の生活環境が変わることは、子供にとって大きな負担となります。
そのため、基本的に今の子供の生活環境をなるべく変えずに済む方が親権を獲得しやすいという傾向があります。
具体的には、家の引っ越しや転校をせずに済む方が、この点では有利になります。
(6)経済状況が安定しているか
子供に人並みの生活や教育を与えるためには、それなりのお金が必要となります。
したがって、経済力がある方が親権争いで有利になるといえます。
ただし、経済力が乏しければ親権を獲得できないわけではありません。
離婚後、親権者の経済力が不足する場合は、もう一方の親から支払われる養育費で補うべきと考えられているからです。
したがって、専業主婦などで本人の経済力がなくても親権を獲得できる可能性は十分にあります。
もっとも、借金を抱えていたり、浪費癖があるなどの理由で、養育費をもらっても生活が苦しいというような場合は不利となる可能性があります。
(7)親の健康状態に問題はないか
親が心身ともに健康であることも、親権を獲得するための重要な条件です。
どれだけ子供への愛情が深くても、病気などのため現実的に子供の身の回りの世話ができないということであれば、やはり親権者としては不適格だからです。
精神的な病を抱えている場合も、症状や生活状況によっては親権者として適していないと判断される可能性があります。
持病があれば親権の獲得は不可能というわけではありませんが、子育てに支障がない程度に心身が健康であることは必要です。
(8)子供がどちらとの生活を望んでいるか
前記「3」(4)でもご説明したように、15歳以上の子供がどちらの親と生活したいかを裁判所に対して述べた場合は、基本的に子供の意思に従って親権者が指定されます。
子供が15歳未満の場合でも、子供の意思はある程度考慮されます。
したがって、子供から慕われているかどうかという点も、親権を獲得するための重要な条件となります。
そのためにも、普段から子育てに積極的に関わり、十分な愛情を注ぐことが大切です。
ただし、子供の気を引くために配偶者の悪口を吹き込むようなことは子育てにおいてよくないことですので、親権争いでもマイナスの判断材料となります。
5、子供の親権を獲得するための3つのコツ
では、実際に離婚時に子供の親権を獲得する可能性を高めるにはどうすればよいのでしょか。
ここでは、子供の親権を獲得するためのコツを3つご紹介します。
(1)親権者としてふさわしい実態を作る
親権を獲得する条件をひとことで言うなら「親権者としてふさわしい親になる」ということに尽きます。具体的には、子育ての実績を作ることを中心として、前記「3」の条件をできる限り満たすようにすることです。
もっとも、これまで条件をあまり満たしていなかったという場合、すぐに条件を満たすのも難しいことです。
どうしても親権を獲得したいのであれば、離婚を1~2年先延ばしにしてでも、子育ての実績を重ねることも考えてみましょう。
(2)面会交流に適切に応じる
自分が親権者になったら、もう一方の親との面会交流に応じることを約束することによっても、親権獲得の可能性を高めることができます。なぜなら、子供の成長にとっては両親からの愛情を受けることが望ましく、そのために離婚して離れて暮らしている親とも定期的に会って親子の交流を図ることが大切だからです。
この考え方のことを「寛容性の原則」といいます。
「離婚後は相手と子供を会わせたくない」という親よりも、積極的に面会交流を認めて「親子の交流を図ってほしい」という親の方が親権者としてふさわしいと判断される傾向にあるのです。
(3)調停委員を味方につける
離婚調停で親権については話し合う際には、調停委員を味方につけることがポイントとなります。
調停では、調停委員が当事者双方から話を聞き、それを相手に伝える形で話し合いが進められます。
ただ、調停委員は単なるメッセンジャーではなく、必要な助言や説得を交えて、当事者が合意に至るように話し合いを導いていく役割を果たします。
自分の言い分を調停委員に理解してもらえれば、調停委員が相手の説得を図ってくれることもあります。
そのためには、これまで子育てのために懸命の努力を重ねてきたことや、子供に深い愛情を注いでいることを調停委員にしっかりと伝えることが大切です。
6、子供の親権を獲得できなかった場合の対処法
離婚時に「もし親権を獲得できなかったら、子供とお別れになる……」と考えている人は多いでしょう。
たしかに親権を獲得できなければ、毎日子供と暮らすことはできなくなります。
しかし、夫婦が離婚しても子供との関係は続きます。
万が一、親権を獲得できなかった場合には、以下にご紹介する方法で子供との関係をつないでいきましょう。
(1)共同養育の提案
離婚して親権者でなくなったら、子育てに関わってはいけないということではありません。
まずは、離婚後も子育ての負担は元夫婦で分担する「共同養育」を提案してみましょう。
たとえば、親権者が用事で家を離れるときは非親権者側で子供の面倒をみたり、部活や塾の送り迎えを非親権者が担当するというように、お互いが助け合って子供を育てていくことを提案するのです。
離婚後も両親が親権者となる「共同親権」の制度は日本ではまだ導入されていませんが、お互いが子育てに関わっていく「共同養育」は現在の日本の制度下でも実行可能です。
実際にも、お互いに手が回らないところを補い合って上手に共同養育を実践している元夫婦も最近は増えてきています。
離婚後はお互いに一切関わりたくないようなケースでは難しいですが、子供にとっても両親と関わる方がプラスになりますので、可能な範囲内で提案して話し合ってみるとよいでしょう。
(2)面会交流権の獲得
現在の日本の制度下で離婚後に子供と関わる方法としては、「面会交流」があります。
面会交流とは、両親の離婚後に親権者とならなかった親と子どもとが継続的に会い、親子の交流を図ることをいいます。
面会交流の頻度や方法、会う場所などは、両親の話し合いで自由に決めることができます。月に1~2回、半日程度ずつ会うのが平均的です。
話し合いがまとまらない場合は、調停で決めることもできます。
ぜひ、面会交流権を獲得して子どもに愛情を注ぎ、親子の絆を築いていきましょう。
(3)親権者の変更
いったん親権者が指定されても、将来的に変更することも可能な場合があります。
離婚時には相手方の方が親権者にふさわしいと判断されても、その後に事情が変われば、親権者を変更できる可能性があるのです。
子供が15歳以上になれば、子供の意思で親権者の変更が認められる場合もあります。
そのためにも、面会交流で子供との絆を深めつつ、養育できる環境を整えていきましょう。
なお、親権者を変更するためには、家庭裁判所へ「親権者変更調停」を申し立てる必要があります。
詳細は、こちらの記事をご参照ください。
7、子供の親権についてよくあるQ&A
子供の親権の獲得については、他にも知っておいていただきたいことがいくつかあります。
ここでは、よくある質問とその答えを8つご紹介します。
(1)専業主婦などで収入が少なくても親権はとれる?
結論からいうと、専業主婦でも親権はとれます。
今まであなたが中心になって子供を養育していて、愛情を十分に注いでいるのであれば、親権を取れる可能性は高いといえます。
子育てに要するお金の不足を補うために「養育費」という制度がありますので、親権者の収入が少なくても、子供を引き取って養育していくことはできると考えられているからです。
もっとも、養育費はあくまでも子育てに充てるために相手方に請求できるお金であり、離婚後のあなた自身の生活まで保障してもらえるわけではありません。
したがって、離婚後も無収入で自分の生活もままならないという場合には、親権が取れない可能性があります。
離婚後は、両親などから十分な援助を受けられる場合は別として、ある程度は仕事をして経済的に自立する必要があります。
(2)父親が親権を獲得するのは無理?
父親でも親権を獲得することは可能です。現状では母親が親権を獲得するケースがほとんどですが、実際に父親が親権を獲得しているケースもあります。
父親が親権を獲得する方法は、前記「3」でご紹介した8つのポイントを可能な限り満たすことです。
今まで仕事が忙しくて子供と過ごす時間をあまり取れていなかったのであれば、離婚を切り出す前に時間をかけてその状況を改善した方が、親権を獲得できる可能性が高まります。
最大のポイントは「父親だから親権は無理」「母親には勝てない」などといって諦めるのではなく、子供を愛する気持ちを大切にして、できる限りの努力をすることです。
(3)自分の浮気が原因で離婚した場合でも親権は取れる?
「離婚の原因が自分にある場合、やっぱり親権者を決める上で不利になってしまうのかな…」という点が気になる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、結論から言うとその心配は基本的に不要です。
たとえ離婚の原因が自分の浮気にある場合でも、その事実と親権者の決定は基本的に別の問題として扱われます。
夫婦の問題に対して落ち度があったかどうかに関わらず、裁判所が親権者を指定する上で考慮するのはあくまでも前記「3」でご紹介した8つのポイントになりますので、諦めずにこれまでの監護の状況や子供への愛情をしっかり主張していきましょう。
ただし、浮気相手に夢中になるあまり小さい子供を長時間1人で放置した、浮気相手が子供に暴力を振るっていたなどのケースでは、親権を与えることで子供にさらなる危害が及ぶと判断される=親権が取れない可能性もあります。
配偶者もその点を武器に自分のほうが親権者にふさわしいと主張してくることが多いので、「浮気中も子供をないがしろにしたことはない」「いつでも子供のことを最優先で考えてきた」という反論の準備をあわせて進めておきましょう。
(4)浪費癖があっても親権は取れる?
ご自身に浪費癖があっても、親権をとることは可能です。
しかし、浪費癖のために借金を抱えていて離婚後の生活がままならない場合や、遊びで浪費していたことで子育てがおろそかになっていたような場合には、親権を取れない可能性もあります。
より確実に親権をとるためには、浪費をしていても子育てに手を抜くことはなかったことを主張するとともに、今後は節度ある生活を心がけることがポイントとなります。
(5)兄弟(姉妹)で親権を分けてもいい?
たとえば子供が2人いる場合、上の子の親権は父親に、下の子の親権は母親に、というように兄弟(姉妹)で親権を分けることも可能です。
ただし、一般的にこれは望ましいことではありません。
兄弟(姉妹)は一緒に育てる方が子供にとって利益が大きいと考えられるからです。
この考え方のことを「兄弟(姉妹)不分離の原則」といいます。
やはり、親権を決める際には親の都合ではなく、子供の利益を第一に考えなければなりません。
離婚協議で合意すれば兄弟(姉妹)で親権を分けることもできますが、調停や裁判では、基本的に分離は認められません。
ただし、すでに長期間にわたって兄弟(姉妹)が離れて別居している場合や、兄弟(姉妹)が15歳以上で自発的に希望している場合には、分離が認められることもあります。
(6)親権者が決まったら子供の戸籍はどうなる?
両親が離婚して親権者が決まっても、子供の戸籍は原則として元のまま残ります。
つまり、母親が父親の戸籍から抜ける場合、たとえ母親が親権者になったとしても子供の戸籍は父親の戸籍のままということです。
戸籍は「いつ誰が誰と誰の子として生まれた」「いつ誰が誰と結婚(離婚)した」という身分関係が記録されているものです。
親権とは無関係に作成されているので、親権者の指定と子供の戸籍は連動しないのです。
上記のケースで子供を母親の戸籍に入れるためには、以下の手順が必要となります。
- 母親が新しい戸籍を作る
- 家庭裁判所で「子の氏の変更許可」の審判を受ける
- 審判で許可されたら、役所へ子供の入籍届をする
(7)親権を獲得できなくても子どもの扶養義務はある?
親権者でなくなった後も法律上の親子関係は続きますので、扶養義務は続きます。
子供が成熟するまでは養育費を支払う義務がありますし(民法第766条1項、2項)、成熟した後も場合によっては直系血族としての扶養義務を果たさなければならないことがあります(同法第877条1項)。
したがって、たとえ親権を獲得できないとしても、子供の将来には責任を持つ必要があるといえます。
(8)成人した子とどちらが同居するかでもめたときの対処法は?
子供が成人したら親権は消滅します。
しかし、実際には両親が離婚する際に、成人した子とどちらが同居するかでもめることも少なくありません。
その場合、結論としては子の意思に委ねるしかありません。
子が成人した以上、すべてのことは自分の意思で決めるべきものだからです。
子に自分を選んでもらうためには、やはり、これまでにどれだけ愛情をかけて子供を育ててきたかがポイントとなるでしょう。
8、親権を決める前に子供を連れ去られたときの対処法
もし、親権を決める前に配偶者が無断で子供を連れ去った場合は、一刻も早く適法な手段で子供を取り戻すことが重要となります。
なぜなら、相手方が実際に子供を養育する状態が長く続くと「継続性の原則」により、結局は相手方が親権を獲得してしまう可能性が高くなってしまうからです。
ただ、子供を連れ去られたからといっても、実力行使で取り戻す行為は絶対に控えてください。
両親が子供の取り合いをすることは子供にとって大きな精神的負担となってしまうので、親権争いで決定的に不利となってしまうおそれがあります。
無断で子供を連れ去る行為は、場合によっては「未成年者略取罪」(刑法第224条)に該当しうるので、相手方に対して警察に通報すると警告しつつ、子供を元に戻すように説得すると良いでしょう。
それでも子供を取り戻せない場合には、家庭裁判所へ「監護者指定・子の引渡し審判」を申し立てます。
ただ、この審判には時間がかかりますので、緊急的に子供を取り戻す手段として「審判前の保全処分」も併せて申し立てましょう。
また、連れ去り行為は親権者としてふさわしくない行為のひとつです。
しかし、相手方連れ去り後に子供を平穏に養育し続けている場合には、調停や裁判では「現在の平穏な養育環境を継続する方が望ましい」と判断されやすい傾向にあります。
そのため、上記のように適法な手段で一刻も早く子供を取り戻すようにしましょう。
なお、外国人の妻が子供を母国に連れ去るような行為は「ハーグ条約」で禁止されています。
日本もハーグ条約に署名しており、条約を実施するための法律もありますので、国際的な子供の連れ去りのケースでは、その法律に基づいて子供の返還を求めることになります。
9、いったん親権を獲得しても失う場合~親権喪失と親権停止
いったん親権を獲得しても失わせる制度として、次の2つがあります。
- 親権喪失
- 親権停止
親権喪失とは、親権者が子どもに対して虐待や世話を放棄していたり、あるいは親権者が重度の疾病やアルコール・薬物中毒などによって適切に親権を行使することができないような場合に、強制的に親権者でなくする制度のことです。
親権停止は、親権を喪失させなければならないほどではないものの、不適当な親権の行使により子の利益が害されている場合や、親権者による親権の行使が難しい場合に、一定の期間(最長2年)まで親権を停止して親権者と子どもを引き離す制度です。
どちらも、子どもの親族などが審判を申し立てることによって家庭裁判所の判断が下されます。
あなたが親権を獲得できなかった場合、面会交流などで子どもの様子がおかしいと感じたら、元配偶者による養育状況を確認して、必要であれば審判の申し立てを検討しましょう。
一方、あなたが親権を獲得できた場合は、親権喪失や親権停止の審判を申し立てられることがないように、しっかりと子育てをしていきましょう。
10、親権の獲得を目指すなら弁護士へ相談してみよう|相談するメリット
ここまで子供の親権を獲得する上で押さえておきたいポイントを色々とご紹介してきましたが、実際に相手と交渉を進める際には、弁護士を味方につけておくことが何よりのアドバンテージになります。
あらかじめ弁護士に相談しておくと、
- 有利に話を進められる=親権獲得の可能性がアップする
- スムーズな問題解決を目指すことができる
- 調停や裁判に発展したときにも、煩わしい手続きから解放される
といったメリットを得ることができ、みなさんの状況に合わせたアドバイスを適宜行ってもらえるところが最大の強みです。
「絶対に子供を手放したくない」「何が何でも親権を取りたい」という切実な思いがある方は、ぜひ交渉を始める前に弁護士に依頼し、具体的な戦略を練っていきましょう。
まとめ
親権を獲得できれば、子供と一緒に暮らして子育ての喜びを味わえる反面で、とても重い責任を負わなければならないため、大変な思いをすることも多いでしょう。
親権の協議をする際には、どちらが親権者となるのが子供にとって幸せかを第一に考えて配慮する必要があります。
どうしても親権を獲得したいのであれば、重い責任を負っていく覚悟を持ち、「自分こそが子供を幸せに育てる親権者としてふさわしい」と言える自信がなければなりません。
この姿勢がなく、ただ子供と離れたくない一心で親権を主張しても、親権を獲得することは難しいかもしれません。
親権争いで困ったことがあれば、ひとりで悩まずに弁護士の力を借りることをおすすめします。