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休憩時間中のケガも労災になりうる!人事労務担当者の注意ポイント

休憩時間中のケガも労災になりうる!人事労務担当者の注意ポイント

「休憩中の労働災害は労災保険の適用外」

こんな風に思っていませんか?

人事労務の担当者としては、正確な知識を持って適切に対応したいところでしょう。

結論を先に言えば、休憩中のケガでも労災になり得ます。

では、なぜそうなるのか。
どのような場合に労災になるのか、どう対応すればよいのか。

そんなあなたの疑問に、弁護士がわかりやすく回答します。ご参考になれば幸いです。

労災の認定の内容に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。

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1、休憩時間中のケガでも労災になりうる

休憩時間中のケガでも労災になりうる

休憩時間中のケガでも労災になることがあります。

いくつかの事例をご紹介します。

以下の2つの例は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」の「労働災害事例」に掲載されていたものです。実際には死亡事故でした。

このような事例が労働災害(業務災害)に当たることは、どなたでも納得がいくのではないでしょうか。

(1)休憩中のタンクローリー車が海に転落

被災者は、海に隣接した事業所においてタンクローリーで魚油を運搬する作業に従事していました。
3回予定していたタンクから魚油をコンテナに移しかえる作業のうち、2回の運搬が完了し、タンクローリーへの魚油充填(3回目)が完了したところで、昼の休憩となった際、被災者がタンクローリーの運転席後部で休憩していたところ、タンクローリーが車両前方に動き出し、被災者を乗せたまま海に転落しました。
タンクローリーには、歯止めは使用されておらず、サイドブレーキも引かれていませんでした。

(2)休憩時間に吊り足場を移動中、川に墜落

橋梁塗装工事用の吊り足場解体作業において発生した労働災害です。

この現場では橋梁の塗装工事が行われていましたが、塗装工事終了後、作業用吊り足場の解体作業が始められており、前日までに墜落防止用の防網等が撤去されていました。

災害発生当日は、吊り足場板の解体撤去作業が行われることになっており、被災者は、職長の指示により船が通る際の目印としていた赤布(20cm)の取外し作業を一人で行っていましたが、休憩時間になったので作業を行っていた足場板の上で休憩をしていたところ、川に墜落してしまいました(被災者の近くの足場上では、他の4名の作業員が休憩をしていましたが、そのうち一人が被災者に側に来るように声を掛けた直後に「ぼちゃん」という音が聞こえたとのことです)

では、次の2つの事例はどうでしょうか。これらも実は、労働災害なのです。

公益財団法人「労災保険情報センターの「労災になりますか」という項目で紹介されているものです

(3)休憩時間中の社員食堂へ移動中のケガ

ほとんどの従業員が昼食で社員食堂を利用している会社において、ある日、被災者が社員食堂へ行こうとしたところ、階段で足を滑らせ骨折してしまいました。

(4)道路脇で休憩中のケガ

道路清掃工事に従事している被災者が道路脇で休憩していたところ、運転を誤った自家用車に接触し、負傷しました。
この現場では、休憩場所が道路脇しかないような状況でした。

2、休憩中のケガなのになぜ労災になるのか

休憩中のケガなのになぜ労災になるのか

休憩中の事故なのに、なぜ労災になるのでしょうか。

労災には「業務災害」と「通勤災害」の2種類があり、上記の事例は業務災害の事例です。

業務災害とは、労働関係から生じた災害、すなわち労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下において労働を提供する過程で、業務に起因して発生した災害をいいます。

つまり、業務災害であると認められるためには、「業務遂行性」(事業主の支配・管理下にあること)と、「業務起因性」(業務とケガの間に相当因果関係があること)のどちらの要件も満たす必要があります。

そこで、業務災害の要件である「業務遂行性」と「業務起因性」について確認してみましょう。

(1)業務遂行性

業務遂行性とは、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にある状態をいいます。

そのため、労働者が業務に従事している最中はもちろんのこと、業務に従事していなくても、休憩時間中など、事業主が指揮監督を行いうる余地があって、その限りで事業主の支配下にある場合には、原則として業務遂行性があると判断されます。

(2)業務起因性

業務起因性とは、「業務が原因」となってケガを負ったこと、すなわち、労働者が労働契約に基づいて事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したものと経験則上認められることをいいます。

したがって、業務遂行性がある場合でも、休憩時間中の個々の自由行動など私的行為が原因となった災害については、事業場の施設等の問題が相まって原因となった場合を除き、業務起因性が否定されることになります。

それでは、上記4つの事例について具体的に見ていきましょう。

上記1、(1)のタンクローリーの事故は、休憩中とはいえ、タンクローリーに乗ったままの休憩であり、事業主の支配下にあるといえ、かつ、事故防止教育が不徹底だったという事情もあいまって、そのタンクローリーのサイドブレーキが引かれず、タンクローリーごと海中に落下しており、事業主の支配下にあることに伴う危険が現実化したといえることから、業務遂行性・業務起因性があることは明らかです。

また、1、(2)の足場からの墜落事故も、作業現場での休憩であること、作業場が橋梁という高所であり、そこからの転落であることからして、業務遂行性・業務起因性があることは明らかです。 

では、1、(3)の休憩時間中の社員食堂への移動中の転倒事故はどうでしょうか。

休憩時間中でも、事業施設内にいる限り事業主の支配・管理下にあるとみられるので、業務遂行性が認められます。また、災害原因が階段で足を滑らせたということで、事業場の施設に関係していることから業務起因性も認められることとなります。

「本人がうっかり転んだから本人の不注意だ。労災ではない。」等と即断しないでください。

1、(4)の道路脇での休憩中の交通事故は、交通事故の危険性のある場所で休憩せざるを得なかったことが災害原因であることから、業務遂行性・業務起因性があると考えられます。

これも「被災者が交通事故に遭わないように十分注意していなかったのが問題だ。」等と考えてはなりません。

(3)休憩時間中の行為が業務災害となるかどうかの判断基準

休憩時間中は業務を離れており、業務と無関係な私的行為でケガをしたのなら、通常は業務災害にはなりません。

例えば、休憩時間中にキャッチボールをしてケガをした、といった場合です。

しかし、次のような場合には休憩時間中のケガでも業務災害となると考えられています。

①事業場施設もしくはその管理の欠陥に起因する場合

②業務に関連する必要行為,合理的行為による場合

③生理的必要行為に起因する場合(ex,休憩中にトイレに行く際に事故にあった場合)

④業務に付随する行為による場合(ex,他の従業員の手伝いをしている際に事故にあった場合) 

従って、キャッチボールの例のような「積極的な私的行為を行っている」といった特別な事情がない限り、休憩時間中のケガであっても、原則的には業務災害に該当すると考えておいた方が良いでしょう。

すなわち、休憩時間中のケガが労災と認められる範囲は案外広いということに注意してください。

後述の通り、労災が発生した場合には、会社の中で判断するのではなく、労働基準監督署等に相談しましょう。

3、会社が現場管理者はじめ社内に徹底すべきこと

会社が現場管理者はじめ社内に徹底すべきこと

以上で述べたことからすると、本項の冒頭で、現場管理者が「休憩時間中なのだから労災になどなるはずがない」と言い張っているのは、間違いだということが分かるはずです。

休憩時間中のケガなどがあった場合には、人事労務担当者としては、次のようなポイントで対応するのが良いのではないでしょうか。

また、現場の管理者などにも下記のポイントを周知しておくことをおすすめします。

(1)労災認定は会社ではなく労基署が行う

労災かどうかを認定するのは労働基準監督署です。会社の管理者などが自分の常識で判断してはなりません。現場管理者には、休憩時間中のケガであっても、ともかくすぐ人事労務に相談することを周知してください。そして人事労務担当者は、ともかくすぐに労働基準監督署に相談することを徹底するようにしましょう。

(2)会社施設や業務場所などに内在する危険は業務起因性が認められやすい

上記2、(3)の通り、事業場の施設や管理の欠陥、作業の関連する行為等に起因する行為については、広く業務災害と認められる可能性があります。

上記1、の(1)、(2)、(4)のように、作業場所そのものに危険性がある場合ならば、事故が起こればまず例外なく業務起因性ありと考えられるでしょう。また、上記1、(3)のように業務場所そのものでなくても、会社施設で発生した事故ならば、広く業務災害と認められる可能性があるのです。

労働者を守り労働災害を防ぐため、業務における内在的な危険について日ごろから十分に注意して対応しておく必要があります。

(3)労災はどんな業種でも起こりうる

休憩時間中に食堂で転んでも労災になる可能性があるわけですから、労災は製造業や建設業など特定の業種の問題というわけではありません。自分の業種には関係ないなどと思うのは禁物です。

現実に、転倒事故は第3次産業など多くの業種で発生しており、労働局等が大変問題視しています。

厚生労働省「転倒災害防止対策」ポータルサイトでは、様々な資料を用意して転倒防止を呼びかけています。

次のパンフレットやチェックリストなどは、ぜひ活用してください。実際の業務の場所だけでなく、食堂その他の会社施設全体についてチェックしてみてください。

ストップ転倒災害プロジェクト

転倒災害防止のためのチェックシート

店頭危険箇所の見える化ステッカー

また、東京労働局のパンフレットも活用してみてください。

職場の転倒災害を防ぎましょう!

(4)労災認定が労働者を守る

労働災害が発生したときには、ともかく、労働基準監督署に相談し、労災保険の給付の請求をしましょう。
間違っても「健康保険で対応しておいてください。」等といってはいけません。それは労災隠しです。しかも、労災の充実した給付を受けられなくなってしまいます。

労災については、リーガルモールで参考記事がたくさん掲載されていますので、是非参考にしてみてください。

いくつかご紹介しておきます。

(5)労災指定医療機関を把握しておこう

労災が発生したときは、原則として労災保険指定医療機関にて無償で治療を受けることができます。
次の厚生労働省のサイトで、いざという次に備えて最寄りの労災保険指定医療機関を確認しておきましょう。

労災保険指定医療機関検索

4、安全配慮義務についてしっかり認識しよう

安全配慮義務についてしっかり認識しよう

繰り返しですが、休憩時間中のケガは会社と関係ない、という決めつけをしてはなりません。

そのためにも、労災(業務災害)の要件である「業務遂行性」「業務起因性」が広く認められる理由を認識しておくことが大切です。

それは、会社が負う安全配慮義務です。

安全配慮義務は、労働者に安全に働いてもらう環境を提供する義務をいい、労働契約法第5条で「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています。

会社は自分の事業のために労働者に働いてもらっています。そのため、会社は快適な職場環境を整えて、労働者の安全と健康の確保に配慮しなければならないのです。

業務に直接関係する事故のみならず、休憩時間中の職場内の転倒事故でさえ労災認定されるのは、職場の施設やその管理全般について会社が安全配慮義務を負っているからです。

5、労災防止には専門家の力を借りよう

労災防止には専門家の力を借りよう

労災の防止は、会社だけでは十分対応できないかもしれません。

まずは、産業医、産業保健スタッフ等の力も借りて、安全衛生に万全を期すことが大切です。

また、万が一労災が発生したときには、労基署などに相談して、被災労働者やそのご家族を守るために最善の努力を尽くしましょう。

まとめ

休憩時間中のケガの問題は、労災の本質を考えるための絶好の材料といえます。

直接の業務以外は労災と無関係などと思っていませんでしたか。

ぜひこの機会に、職場のリスクをしっかり見直し、労災防止に全力を尽くしていただければと思います。

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