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黄犬契約(おうけんけいやく)とは?会社の意図と対応策を弁護士が解説

黄犬契約(おうけんけいやく)とは?会社の意図と対応策を弁護士が解説

黄犬契約(おうけんけいやく)とは、労働者を雇い入れるときに、労働組合に加入しない、もしくは労働組合から脱退することを雇用の条件とするものです。(「こうけんけいやく」とも呼ばれます。)

入社前の労働者は、基本的に入社を希望しています。ですから、会社からの条件には可能な限り従おうとするでしょう。

しかし、黄犬契約は不当労働行為であり、応ずるべきではありません。

とはいえ、労働組合に入らないことでどんな不利益があるのか、すぐにピンとこない方も多いことでしょう。本記事では、そのような方に向けて

  • 労働組合に加入しないことの意味
  • 黄犬契約を迫られたときの対処法

について、解説していきます。お役に立てば幸いです。

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1、黄犬契約(おうけんけいやく)とは

まずは、黄犬契約の意味について確認していきましょう。

(1)黄犬契約の定義

黄犬契約とは、労働者を雇い入れるときに、労働組合に加入しないまたは、労働組合から脱退することを条件とするものです。例えば、入社試験の面接で「組合に加入しないなら当社に来てもらいますが、どうですか」といって、応募者に組合に加入しない約束をさせて採用するような場合です。

このような条件が許されると、新たに雇用される社員が労働組合に加入できず、また労働組合からしても、新たな加入者がいなくなることとなります。

そうすると,労働組合の会社に対する交渉力は非常に弱体化することになります。

では、労働組合が弱体化する事にはどのような問題があるのでしょうか。労働組合の役割について説明いたします。

(2)労働組合はなぜ必要なのか

①労働組合とは

まず労働組合とは、労働者が主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図る目的で組織する団体です(労働組合法第2条)。

②労働組合が必要である理由

ア 会社に対して弱い立場にある労働者へ交渉力を与えるため

労働契約は労働者が労働力を提供し、会社がそれに対して賃金を支払うことで、互いに対等な関係を前提にした契約です。

しかし、実際には、労働者は労働力以外の財産は乏しく、労働力の貯蓄もできません。そのため,使用者である会社の支払う賃金が低くとも、労働者はこれに応じざるを得ない場合が多々あります。

一方で、会社には生産設備をはじめ、様々な資産があります。一人の労働者が会社の提示する条件を拒んでも、会社に与えられるダメージは小さいです。
このような点で個々の労働者と会社では、圧倒的な力の差があると言えます。

このように個々の労働者と会社との関係は、対等ではありません。

しかし、例えば個々の労働者と会社との交渉が、他の労働者へも影響する状態になれば、労働者と会社の関係は対等になります。経済的に弱い立場にある労働者も、集団で活動・交渉すれば、会社と実質的な対等関係を築くことが可能となります。

これが、労働組合の本質的な役割です。 

イ 労働組合の存在は、会社の利益にもなるため

また、労働組合があることは、労働者だけでなく、会社にとっても次の二つの点でメリットとなります。

一つは、会社が、労働者の全員に関わる契約の内容について、労働者の代表者と、纏めて交渉出来る点です。
労働者一人一人と交渉する必要がなくなり、効率的な交渉が出来ます。

また、労働者が不満を持ったとき、会社に対して声を上げられる環境を作ることで、労働者のやる気や定着率も高まり、生産性の向上にもつながります。

一人一人で声を上げることが難しくても、労働組合があれば、集団として声を上げやすい環境を作ることができます。これが会社の風土を変えることに繋がります。

このように労働組合は、労働者が会社と交渉をするにあたって、重要な役割を担います。

そして、黄犬契約が締結されることによって、労働組合が弱体化されることになると、労働者と会社との対等な関係が崩れてしまいます。

このことから、黄犬契約が認められるか否かは、労働者にとって重要な事柄であるのです。

(3)黄犬契約の背景

現在日本の法律では、労働組合、ひいては労働者の団結権を守るため、黄犬契約を不当労働行為として禁止しています。

ここでは黄犬契約という言葉の由来、合わせて黄犬契約が禁止されるまでの背景をみていきましょう。

①黄犬契約の言葉の由来

黄犬契約は、英語の「yellow dog contract」という言葉を和訳したものです。アメリカにおいて”yellow dog”とは、「卑怯な裏切り者」という意味の俗語として使われています。

この俗語が転じて、使用者の圧力に屈し、労働者仲間の団結に背を向ける労働者が、”yellow dog”と呼ばれていました。

②日本において黄犬契約が禁止された経緯

日本の法律で最初に黄犬契約の禁止が規定されたのは第二次世界大戦直後に制定された労働組合法です。

当初の労働組合法では不利益取り扱いとして、次の2つが禁止されました。

その1:労働組合の組合員であることをもって解雇その他の不利益取り扱いをなすこと(狭義の不利益取り扱い)

その2:労働組合に加入しないこと、または脱退することを雇用条件とすること(黄犬契約)

その1の規制では、既存従業員に対して、不利益取り扱いをチラつかせて組合からの脱退を促すことを禁止しています。また、その2の規制では、新たに雇用される従業員に対して組合への加入を妨げる扱いをすることを禁止しています。

その後、米国の労働組合法(ワグナー法)をモデルとして、1949年の労働組合法全面改正で不当労働行為の禁止が定められました。

このときには、上記の「不利益取り扱い」「黄犬契約」のほかに「団交拒否」「支配介入」も禁止行為に加えられました。現在までにさらに改正はされていますが、この4点は今も残っています。

これらの不当労働行為に対しては、労働委員会が救済申立てを受け、調査・審問の上で、不当労働行為の可否を認定し、救済命令等をだす仕組みになっています。

(参考)

労働組合法第7条(不当労働行為)

1号「不利益取り扱い」「黄犬契約」(前掲(1)、2号「団交拒否」3号「支配介入」)

2、黄犬契約は不当労働行為!そこまでする会社の狙いとは?

(1)黄犬契約は憲法、労働組合法違反

そもそも、黄犬契約は、憲法28条の団結権を侵害するものであり、効力を有しません。
また、日本では、黄犬契約は「不当労働行為」の代表的なものとして、労働組合法で禁止されています。

(参考)労働組合法7条(不当労働行為)

第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること。以下略

また、次のようなことも不当労働行為に該当すると考えられています。

  • 採用時に労働組合を結成しないことや、積極的に組合活動をしないことを約束させる。
  • 試用期間中に労働組合に加入することを禁止する。
  • 組合の不加入や組合からの脱退を応募条件とする。

(2)なぜ会社は黄犬契約を締結するのか

現行法上、黄犬契約は不当労働行為であり、これが表に出れば当然問題視されるため、会社の利益とはなりません。

では、会社はどのようにして労働者と黄犬契約を締結しようとするのでしょうか。

会社が黄犬契約を結ぼうとする相手は多くの場合、「これから社員になろうとする者」です。
採用を希望する応募者は、会社との関係で、圧倒的に弱い立場にあります。

また、初めて社会人となる採用希望者の場合には労働組合の活動に疎いのが一般的です。黄犬契約がなぜ問題なのかもよく理解できずに、会社の言いなりになる可能性が高くなります。

加えて、採用希望者と会社との間でどのような交渉がされているかは、労働組合としても把握することが難しいのが現実です。

こうして、黄犬契約は労働組合や第三者の知らないところで結ばれます。つまり、表沙汰になる可能性が非常に低いわけです。

3、黄犬契約を会社から要求されたらどうすればいい?

もし、入社試験の面接で「組合に加入しないなら当社に来てもらいますが、どうですか」と言われたら、あなたはどうすればよいでしょうか。

「それならば結構です。お断りします。」と言えれば問題ありません。

しかし、やりたい仕事が待っているこの会社を早々諦められる人は殆んどいないでしょう。

以下では、効率的な対応方法を弁護士がお伝えしていきます。

(1)労働組合に相談する

まず、取りうる方法は、労働組合に相談することです。

労働組合に相談すれば、その代表者を通して、会社に対して交渉をしてもらえます。ひとりで会社と交渉するわけではないため、会社も交渉に応じてくれる可能性は高くなります。

入社後には労働組合への加入の勧誘もあるかもしれません、そのような場面で相談してみるのが有効でしょう。

(2)職場の先輩などに相談する

いきなり労働組合に相談するのも、新入社員にとってはハードルが高いかもしれません。

そういう場合には、職場の先輩や身近な上司に相談してみてください。その先輩などが労働組合に加入しているのなら、労働組合に取り次いでくれる可能性もあります。

なお、仮にその先輩などが「労働組合など何の役にも立たない。入らないほうが無難だよ。」等と言われたら、どうすればよいでしょうか。

そんなものかと諦めてしまうのではなく、ぜひ他の先輩の意見も聞いてみてください。異なる意見を持っている場合もあります。納得がいかなければ、労働組合に直接相談してみましょう。

(3)公的機関に相談する〜総合労働相談コーナーがお勧め

黄犬契約は労働組合法違反です。公的機関に相談すれば、適切な対応をしてくれます。

労働契約上の問題であれば,本来は労働基準監督署に相談することが適切です。しかし、監督署は取締機関であり、やはり新入社員としてはハードルが高いかもしれません。

そういうときに、相談を聞いてもらえる場所が、都道府県労働局の「総合労働相談コーナー」です。職場のトラブルに関するご相談や、解決のための情報提供を行っています。必要に応じて、労働基準監督署にも取りついでくれます。

就活生からの相談も受けてくれます。面談だけでなく、電話でも対応してもらえます。予約不要、利用は無料です。

黄犬契約に限らず、入社後の様々な困り事についても、ぜひ活用していただきたい機関です。

(参考)

①都道府県労働局「総合労働相談コーナー」

全国労働基準監督署の所在案内全国に320ヶ所以上あります。

(4)弁護士への相談

一番確実な方法は、労働問題に詳しい弁護士と相談することです。

これについては、「5」で解説します。

(5)組合に加入しないことを約束して入社したうえで、入社後に組合に加入する

入社後に組合に加入しても、それを理由として解雇したり、給料を下げたりするような不利益な取り扱いをするのは不当労働行為です(労働組合法第7条1号の前半部分)。

会社が約束違反だ、等といっても通りません。強行法規に違反する約束は、そもそも公序良俗違反であり、無効なのです(民法第90条(公序良俗))。

労働委員会のQ&A でも、次のような例が挙げられています。

(質問)

当社に労働組合ができたため、今年度の社員採用面接時に、労働組合活動に関心があるかどうかを確認し、組合活動に関心がないと答えていた者2名を採用しました。ところが、入社後間もなく、この2名は労働組合に加入してしまいました。

会社としては、期待に反して労働組合に加入したこの2名を解雇しようと思うのですが、問題はありませんか。

(回答)

労働者が労働組合に加入したことを理由とする解雇は、労働組合法第7条1号により不当労働行為として禁止されていますので、そのことを理由とする解雇はできません。

(参考1)労働組合法(不当労働行為)

第七条 使用者は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。

一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつて、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすること(著者注:不利益取り扱い)

又は労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること(著者注:黄犬契約)以下略

(参考2)民法(公序良俗)

第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

4、ユニオン・ショップ協定について

黄犬契約と同様に、労働組合に関して、使用者と労働者の間で結ばれる契約に「ユニオン・ショップ協定」というものがあります。黄犬契約と混同されることがないように、ここで簡単に説明します。

ユニオン・ショップ協定とは、労働組合の拡大強化のために、労働組合と会社の間で、当該組合の組合員でないものを解雇する義務を負う、という協定です。これは、労働組合法の上で締結が認められています(労働組合法第7条1号但書)。

このような協定は、よく結ばれています。労働者としては、当該労働組合に入ることが義務付けられるので、安心して組合活動もできます。

問題となる場面は、その組合の活動方針に納得がいかない場合です。

例えば組合が会社の言いなりでしか動かず、労働者を守ってくれない、といったことです。

そのような場合、労働者の取りうる方法は、別の組合に加入することができます。例えば外部の労働組合でも良いでしょう。

裁判例では、労働者が組合を脱退・除名などされて他の組合に加入したり、別の組合を作ったりする場合、あるいは、他の労働組合に加入する場合には、かかる労働者に対しては、ユニオンショップ協定の会社の解雇義務を定める部分は無効となり、会社は解雇できない、とされています(三井倉庫港運ショップ制解雇事件・最一小判平成元年12月14日)。労働者の組合選択の自由や、他の労働組合の団結権を損なうことはできないからです。

この点も、労働者としては把握しておいていただきたい問題です。

5、困ったら弁護士に相談を

黄犬契約を雇用の条件とするなどは、組合を潰して会社の言いなりになる従業員だけを雇おうとしているのです。

前述「1」(3)で申し上げた通り、労働組合があることで、労働者は適切な労働条件・労働環境を守り、生産性の向上にもつながるのです。そして、本来的には会社のためになるのです。

それにもかかわらず組合つぶしを行う会社に対して「この会社はそんな会社なのだ、先輩もみんな我慢している。」というような、思い込みはしないでください。

黄犬契約の話を会社から持ち掛けられた場合には、ぜひ一度、労働問題に詳しい弁護士の門を叩いてみてください。広範な視野から適切な解決策を見つけ、あなたのために、会社ともしっかり交渉してもらえるでしょう。弁護士に話してみると、黄犬契約以外にも会社の問題点が見つかるかもしれません。

まとめ

黄犬契約は、これから社会に出ようとするあなたを待ち構える卑劣な罠と言えます。

この記事では、黄犬契約の意味や対応策にとどまらず、労働組合の本来の意味や大切な役割まで掘り下げて解説しました。

卑劣な罠に引っかからず、職業人としての精一杯の活動に誇りをもって取り組んでください。適切な労働組合活動を通じて、あなたご自身も会社の仲間も一緒になって、労働条件や労働環境の整備に邁進してください。それがあなた自身の成長に役立ち、あなたの会社を発展させることにも繋がります。

この記事がそのような皆さんのお役に立つことを、切に願っています。

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