無断欠勤したら、理由なしに突然解雇されるのだろうか……。
無断欠勤による解雇に対して、不安を抱いている方は少なくないのではないでしょうか。
無断欠勤で労働者が解雇されるのは、相当の理由がある場合に限られます。
労働者を解雇するためには、会社の側としてもさまざまな手続きを踏む必要があります。
仮にあなたの側に非があっても、不当な処分を甘受する必要はありません。
この記事では、
- 無断欠勤で解雇され退職させられるる場合の手続き
- 無断欠勤で不当解雇され退職させられる具体例と予防法
- 無断欠勤で不当解雇され退職させられた場合の対策
- 無断欠勤で解雇され退職させられるケース
- 無断欠勤しても労働者が法律的に守られるケース
などについて解説します。
他方で、労働者側の不適切な対応は自らの不利に働くこともはっきりと示します。
プロの労働者として自らの権利を守り、義務と礼儀を尽くすことの大切さをこの記事から読み取っていただけると幸いです。
会社をクビにされそうだけど、それって不当解雇?とお悩みの方は以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、無断欠勤で解雇され退職させられるケースとは
(1)「無断欠勤」の意味を確認しておこう
労働契約は、労働者が会社に対して「労務の提供」を約束し、会社が労働者の「労務の提供」に対して賃金を支払う契約です。
「無断欠勤」は、労働者が「労務の提供」という基本的な義務を果たさないものです。
「無断欠勤」の意味に関して、「無届欠勤」だけでなく、「無許可での、正当な理由のない欠勤」も含まれるとした事例(福岡高判昭55・4・15労民集31巻2号480頁、東京地判平2・2・27労判558号14頁)が存在します。
会社としては、労務提供という基本的な義務を果たさない労働者を「即刻解雇したい!」という気持ちになるでしょう。
一方、労働者は働いて賃金を得ることによって、生活を成り立たせています。
クビになったら、労働者の生活が困窮してしまうことがほとんどでしょう。
裁判例に鑑みると、無断欠勤があったというだけで簡単に解雇してはならず、解雇には一定の事由が必要であることが分かります。
次項で、どの様な場合に無断欠勤を理由とする解雇が認められるのかを簡単に解説します。
(2)無断欠勤で解雇となってしまう実質的な要件
無断欠勤で解雇になるのは、客観的に合理的で社会通念上相当な場合に限られます。
一般的には、以下のようなケースで、解雇が認められます。
①2週間以上連続して無断欠勤していること
1日や2日程度の無断欠勤なら、通常、解雇にはなりません。
何日以上の無断欠勤であれば解雇ができるとする明確な基準は存在しませんが、解雇予告手当なしに解雇(労基法20条1項ただし書き)できるケースとして、厚生労働省の通達(昭23.11.11基発1637、昭31.3.1基発111)は、「原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」を挙げているため、一般的には、概ね2週間以上無断欠勤が続いた場合に、正当な解雇理由があると判断されるでしょう。
逆に言えば、無断欠勤期間が2週間に満たない場合、解雇は無効となる可能性が生じます。
②短期間の無断欠勤であっても無断欠勤が繰り返されていること
ただし、短期間の無断欠勤でも、度重なれば正当な解雇事由になりえます。
短期間の無断欠勤が度重なれば、勤務態度不良と判断され、合理的理由のある解雇と認められやすくなります。
(3)無断欠勤でも解雇にならない場合
無断欠勤をしても、解雇にならない場合もあります。
例えば、災害、事故、急病などで出勤できない場合(神戸地決平7・6・26労判685号60頁)や、会社に連絡が取れない場合です。
会社の上司のハラスメントで出社できなくなった、というのも該当するでしょう。原因は会社側にあるためです。
精神疾患によって無断欠勤が生じている場合、解雇ができないこともあり、具体的な事例は後述します。
ただし、精神疾患による無断欠勤として解雇ができなくとも、「労働能力が喪失した(働くことができなくなった)」という理由で解雇が認められることは有り得るでしょう。
2、無断欠勤で解雇される場合の手続き条件はとても厳格
前項で説明した、2週間以上連続の無断欠勤などで労働者を解雇する場合でも、必ず解雇が有効になるというわけではありません。
解雇の有効性に関する手続面を解説します。
(1)「懲戒事由」として就業規則に記載があるか
懲戒解雇であれば、就業規則上に定められていない懲戒理由を原因として懲戒解雇をすることは出来ません。
例えば、厚生労働省のモデル就業規則では、以下のように定められており、このように勤務先の就業規則で無断欠勤が懲戒理由とされているか確認しましょう。
第66条懲戒の事由
2 労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第〇条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
①重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
②正当な理由なく無断欠勤が○日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
③正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、○回にわたって注意を受けても改めなかったとき。(以下略)
(参考:厚生労働省「モデル就業規則」より)
(2)事実確認や本人の弁明の機会などがあるか
無断欠勤といっても、前述の災害、事故、急病、ハラスメントなど、労働者側に責任がないケースなら解雇は困難です。
無断欠勤をしたことの事実確認や本人への弁明の機会の付与は、重要な手続きです。
以上のような手続きもなく、いきなり解雇するのは手続面で社会通念上相当でない解雇と判断される可能性があります。
(3)会社からの指導や降格などの対応が行われているか
労働者が勝手に無断欠勤しても、会社としては、まず注意などで指導すべきでしょう。
懲戒処分に該当する場合でも、戒告や降格など軽い手続きから着手すべきと考えられています。
無断欠勤をしたから、指導や降格などの対応を飛ばしていきなり解雇というのは手続き上問題があります。
(4)その他就業規則に記載された手続きが実施されること
例えば、解雇に当たって懲戒委員会や労働組合との協議が、就業規則や労働協約などで定められているなら、記載された手続きが実施されなければなりません。
3、無断欠勤を理由とした不当解雇になりうる条件や具体例と予防法
すでに説明したとおり、無断欠勤でもそれなりの理由があったりする場合には、解雇は認められません。
本項では、無断欠勤を理由とした不当解雇になりうる具体例と予防法を紹介します。
(1)無断欠勤の理由が労働者側に責任のない場合
①急病・大怪我・災害など不慮の事故
急病や突然の大怪我、災害など不慮の事故などによって、労働者が無断欠勤してしまい、不当解雇されてしまうというケースもあります。
以上のような場合では、労働者自身が会社に欠勤連絡することが困難な場合もあるかもしれません。
ただし、労働者側としては、会社に連絡するための最善の努力はすべきです。
電話だけでなく、メールやLINEなど考えられる手は尽くすべきでしょう。
②職場環境(セクハラ、パワハラ等)
職場のハラスメントやモンスター社員などが原因で、出社困難になったという場合です。
このようなケースでは、休むことを告げただけで罵倒され、会社に連絡出来なくなってしまうこともあるでしょう。
しかし、「ハラスメントさえあれば無断欠勤しても構わない」ということではありません。
上司に罵倒されるなら、別の上司や信頼できる先輩や同僚に休むこととその理由を告げて、欠勤届を代わりに出すようにお願いしてみましょう。
社内に頼める人がいなければ、弁護士に依頼して代理で交渉してもらうことも一つの手段です。
労働者として、欠勤の事実とその理由を告げるべく、できる限り努力すべきです。
③本人の精神疾患
無断欠勤の原因として労働者の精神疾患が疑われる場合に会社が諭旨退職としてなした懲戒処分を無効とした有名な判例があります(最第二小判平24・4・27集民240号237頁(日本ヒューレット・パッカード事件))。
この事案は、労働者が、労働者の被害妄想などの精神的な不調により、実際には事実として存在しないにもかかわらず、加害者集団から盗撮や盗聴等を行われていると思い込み、問題が解決されるまでは出勤をしないとして、有給消化後も約40日間の欠勤を続けた事案です。
判決では、会社は、直ちに諭旨退職とするのではなく、精神科医による健康診断を行ったり、休職などで経過を見たりするべきであったと判断し、欠勤による諭旨退職処分を無効としました。
もっともこの事例は「自分に精神疾患があれば、無断欠勤しても構わない」という意味で捉えるべきではありません(札幌高判平28・9・29労判1148号17頁)。
自身の精神疾患を認識でき、会社に連絡ができる状態であるなら、欠勤の報告を行い、医師の診察を受けた上で、病気休職の手続を採るべきでしょう。
(2)軽微な無断欠勤
前述のとおり、一度きりの無断欠勤では、正当な解雇事由にはなりません。
仮に就業規則で、「3日間など短期間の無断欠勤」や「たった一度の無断欠勤」程度の軽微な無断欠勤を解雇理由としているならば、合理性・相当性を欠いています。
これは、「入社1年以内」などに限定した場合でも、同様に考えられます。
(3)欠勤後に突然の解雇
「欠勤中に使用者からの連絡が一度もなく、出社したら突然解雇された……。」という状況もあるかもしれません。
しかし、これまで説明したとおり、災害とか事故とか急病といった緊急事態の可能性もあり、事情の確認もせずに行う解雇は無効と判断される可能性があります。
(4)事前の欠勤連絡が会社に届いていなかった
例えば、急な事情で会社の上司にメール連絡をしたのに、上司が出張中でメールが読まれていなかったというケースもあり得ます。
「欠勤届けなしに勝手に休んだ」などと、会社が間違ってしまう可能性もあるのです。
急な欠勤の場合には、電話で連絡するように定めている会社が少なくありません。
電話なら、上司がいなくても必ず誰かが出る可能性が高く、本人の状況を直接その場で確認できるからです。
労働者としては、欠勤の連絡の有無が問題となった場合に証拠として残せるように、電話連絡に併せてメールも送信し、記録を残すようにしましょう。
(5)本人が会社の事情聴取に応じなかった
労働者が欠勤していて事情がわからないなら、事情聴取のため会社から連絡が来るはずです。
このとき、労働者側で正当な理由もないのに事情聴取に応じなければ、無断欠勤の事実と合わせて、解雇がなされる可能性があります。
例えば、ハラスメントにより欠勤したものの、事情聴取の場に、ハラスメントをしている上司が同席してしまうなど、事情聴取に応ずることができない事情があるなら、勤務先のハラスメント相談窓口や別の上司に事情を説明しましょう。
4、無断欠勤で不当解雇をされたときの対策
無断欠勤で不当解雇をされたときの対処法は、不当解雇一般の対応と同様です。
(1)解雇理由証明書を請求して解雇理由を確認する
解雇の際に受け取ることが多い解雇通知書にも、解雇理由が書いてあることもあります。
必要に応じて、解雇理由証明書を請求して、内容をよく確認しましょう。
(2)解雇理由が合理的かどうかを検討する
解雇理由証明書に記載されている解雇理由が、合理的かどうか検討します。
短期間の無断欠勤での解雇や、特別な事情による欠勤なのに無断欠勤とされていたり、欠勤届を出していたのに無断欠勤とされていたりすることが疑われるなら、会社と争うべきでしょう。
(3)会社との争い方
解雇理由が不合理と判断できたら、会社と争うことを検討します。
会社との争い方は、概ね次のとおりです。
- 会社に無断欠勤の理由を説明し、解雇の不当性を訴える。
- 復職条件や失業期間中の補償条件等について会社と交渉する
- 交渉で解決しない場合、労働審判申立や訴訟提起など法的手続を行う
自力での交渉が難しければ、労働局にあっせんを求めたり弁護士を立てたりするなど、公的機関や弁護士を頼ります。
詳細については、リーガルモールの次の記事を参照してください。
5、無断欠勤で会社を訴えるなんて大企業の場合だけしか意味がない?!
「会社を訴えろとはいうものの、中小企業なら裁判所も相手にしてくれないのでは……?」
不安になってしまう方もいるかもしれませんが、決してそんなことはありません。
(1)中小企業でも人事労務関係の紛争が多発している
人事労務関係の紛争は、中小企業でも実際に頻発しています。
経営者が労働法制に疎く、ワンマン経営の傾向にあるため、不当な解雇もしばしば起こっているのです。
労働者側にも十分な知識がなく、泣き寝入りになっていることも多いでしょう。
労働者が泣き寝入りしたままでは、いつまでも労働者の権利は守られません。
あなたが声を上げ、公的機関や弁護士の助力を得て、問題解決に努力してみてください。
(2)中小企業の労働者保護のための相談窓口「総合労働相談コーナー」
厚生労働省も、中小企業の労働者保護には大変注力しています。
総合労働相談コーナーが都道府県労働局に設置されています。
解雇や雇止め以外にも、賃金の引下げや嫌がらせ、パワハラなどのあらゆる分野の労働問題を対象としたワンストップの相談機関です。
相談の概要は次のとおりです。
令和元年の民事上の個別労働紛争相談件数は約28万件、そのうち解雇は34,000件でした。
労働局長の助言指導や、紛争調停委員会によるあっせんなどが行われています。
必要があれば、労働基準監督署にも取り次いでくれます。
6、無断欠勤による解雇が適法でも会社に請求すべき3つのお金
無断欠勤による解雇が適法でも、あなたがビタ一文もらえずに会社を追い出されるわけではありません。
次のようなお金がもらえる可能性がありますので、よく確認しましょう。
(1)解雇予告手当
会社が労働者を解雇しようとする場合には、30日以上前に予告するか、30日分以上の平均賃金を払わなければなりません(労働基準法20条1項)。
「30日分以上の平均賃金の支払い」のことを、「解雇予告手当」といいます。
労働者の当面の生活を支えるために、必ず支払われるお金です。
労働者による著しい非行などで、労働者が解雇される場合には、解雇予告手当の支払いが除外されることがあります。
しかし、解雇予告手当の支払い除外には、労働基準監督署長の「解雇予告手当除外認定」が必要です。
行政通達では、「解雇予告制度の保護を与える必要のない程度に重大又は悪質なものである場合に限って認定すべき」とされています。
前述の14日間以上の無断欠勤などを除き、よほどの場合でなければ、30日分の解雇予告手当はもらえる、または予告後30日間は勤務できると思って問題ありません。
懲戒解雇で退職金全額不支給とする場合でも、会社としては解雇予告手当除外認定手続の煩わしさから、解雇予告手当だけ払うことも多いようです。取りはぐれのないように、注意しましょう。
(2)退職金
会社の就業規則や退職金規定で退職金の定めがあるなら、退職金をもらえる可能性がありますが、懲戒解雇や諭旨解雇といった厳しい処分がされる場合には、退職金を不支給とされることがあります。
しかし、退職金を全額不支給とするには、労働者の永年の勤続の功を抹消してしまうほどの重大な不信行為が必要ですので(東京高判平15・12・11労判867号5頁(小田急電鉄事件))、就業規則上、退職金の全部が不支給となる場合でもあっても、規定の退職金の一部がもらえる場合もあります。会社に減額の根拠を確かめて、しっかり交渉すべきです。
(3)未払残業代
解雇された場合でも、未払い残業代が残っていることはしばしば見られます。
解雇について弁護士と相談したところ、未払残業代があることを指摘され、相当の額の残業代を手に入れるというケースも多いようです。
7、無断欠勤を理由に不当解雇された場合は弁護士に相談を
中小企業の経営者は労働法に疎いことが多く、不当な解雇が行われることがあります。
無断欠勤を理由に不当解雇されたら、会社に対してさまざまな請求をする必要があります。
しかし、自分自身で直接会社と交渉を進めようとしても、知識不足や手間がかかることなどから、自分の望む結果とならないこともあるでしょう。
無断欠勤による不当解雇の相談窓口として、総合労働相談コーナーを紹介しましたが、公的機関以外の相談先として最も心強いのが弁護士です。
少しでも悩みや不安があったら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
無断欠勤を理由とした不当解雇について、弁護士に相談するメリットは次のとおりです。
(1)あなたの代理人として会社と交渉してくれる
労働者が弁護士を立てて会社と交渉すれば、あなたは直接会社とやりとりする必要はありません。
ハラスメントを受けていた場合のように、会社とのやりとりに不安があるなら、弁護士に依頼することで精神的負担が大幅に減ることでしょう。
(2)法律のプロとして有利な主張をしてくれる
弁護士は、法律のプロです。
弁護士が会社に対して交渉を持ちかけることで、法律上の問題が明らかになり、早期の解決が期待できます。
復職を希望する場合には、すぐに復職できるかもしれません。
退職する場合でも、納得のいく解決金を獲得できるでしょう。
場合によっては、慰謝料請求等もできるかもしれません。
以上のことを、ワンストップで対応できるのは弁護士だけなのです。
まとめ
今回は、無断欠勤の解雇について解説しました。
心身不調や家庭の事情などでやむを得ず無断欠勤に至ったら、まずは原因対応をしっかり行いましょう。
差し支えなければ、会社にご自身の事情をお話ください。現場の上司が無理解でも、人事部などが真摯に対応してくれるケースもあります。病気休職や介護休業などの方法について、教えてくれるかもしれません。
無断欠勤の原因が会社に問題があるなら、泣き寝入りせずに争いましょう。
会社に原因がある場合、しっかり会社と争うことであなただけでなく、会社の仲間のためになります。会社の風土を変えて、会社の未来を拓くことになるかもしれません。
解雇に至るまでに、ご自身の対応などに問題がなかったかについても確認するとよいでしょう。
例えば、定められた届け出や手続き、上司同僚とのコミュニケーションをしっかり行っていたかなどです。ご自身の対応に非があるのなら、素直に認めた方が良いかもしれません。
無断欠勤による解雇を含めて、会社と紛争になっているのなら、必ず弁護士と相談してふさわしい対応を取りましょう。弁護士は必ずあなたの味方になります。