有責配偶者からの離婚請求における、慰謝料について知りたいという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし「慰謝料の相場、可能な限り少なく収める方法」が分からないとお困りのこともあるかと思います。
そこで今回は、ベリーベスト法律事務所の弁護士監修の上で
- 有責配偶者が慰謝料を払って離婚できない/できるケース
- 有責配偶者からの離婚請求における、慰謝料の相場
- 慰謝料をできるだけ少なくする方法
等について、ご説明したいと思います。ご参考になれば幸いです。
また、離婚の慰謝料全般については「離婚慰謝料請求の金額の相場と300万円以上もらう方法」の記事でお伝えしています。
目次
1、有責配偶者からの離婚請求|慰謝料を払っても原則として離婚できない
(1)有責配偶者は離婚請求できない
有責配偶者とは、自ら民法770条1項所定の離婚原因を作った配偶者のことです。
たとえば不貞(不倫や浮気)した人、相手に暴力を振るった人、相手に対して生活費を渡さなかったり理由なく同居を拒絶したりした人などが有責配偶者となります。
有責配偶者であっても離婚を望むケースがあります。
たとえば不倫していて不倫相手が妊娠したら、なんとしてでも今の配偶者と別れて不倫相手との再婚を望む方が多いです。
しかし判例は、有責配偶者からの離婚請求を原則として認めていません。
有責配偶者は自分から離婚原因を作り出して夫婦関係を破綻させた責任のある人です。
そのような人から身勝手な離婚請求を認めるのは相当ではないと考えられているからです。
そこで相手が離婚を拒絶している限り、有責配偶者が離婚訴訟を起こしても原則として裁判官は離婚を認めず、請求棄却してしまいます。
(2)慰謝料を払っても離婚できない
有責配偶者からの離婚請求は「慰謝料を支払えば認められる」というものでもありません。
慰謝料を支払おうが支払うまいが「離婚請求自体を認めない」というのが判例の態度です。
離婚訴訟で、「慰謝料の支払いと引換えでいいから離婚を認めてほしい」と主張しても、認めてもらえません。
2、有責配偶者が「慰謝料」を払って離婚できるケースとは?
(1)被害者が離婚を受け入れたら離婚可能
ただし有責配偶者であっても離婚できるケースがあります。それは、被害者である相手が離婚を受け入れる場合です。
有責配偶者からの離婚請求が認められないのは、被害者が離婚を望んでいない場合です。
被害を受けた配偶者が自ら離婚を請求するなら離婚させない理由がありません。むしろこの場合、有責配偶者が離婚を拒絶しても裁判に至れば最終的には離婚させられます。
以上より、被害者である配偶者が離婚を受け入れるのであれば、有責配偶者からの請求であっても離婚させてもらえます。
(2)離婚するとき、慰謝料支払いが必要になる
ただし有責配偶者が離婚をするときには、ほとんど確実に相手に対する慰謝料の支払いが必要になります。
有責配偶者は、配偶者に対して不法行為を行った人ですから、被害者である配偶者は、離婚の際に有責配偶者に対して慰謝料請求できます。
被害者が「慰謝料は要らない」という考えの人であれば慰謝料を支払わずに済みますが、通常はなるべく多くの慰謝料を支払ってほしいと考えます。
有責配偶者の場合、一部例外のケースを除いては自分から離婚請求しても離婚を認めてもらえません。
原則としては、被害者である配偶者が離婚を受け入れる場合、もしくは被害者である配偶者が離婚を希望した場合のみ、離婚が成立します。
そのため、被害者である配偶者が離婚を希望しない場合は、離婚を受け入れてもらうしかありませんが、その場合多くのケースでは、多額の慰謝料を払うよう請求されます。
その額にそのまま応じることができれば即離婚できる可能性も高くなりますが、多くの場合はそうはいかないでしょう。
その場合は弁護士に依頼し、和解や裁判によって離婚自体を争うことになり、離婚できる場合は妥当な金額を模索することになります。
3、有責配偶者が支払う慰謝料の相場
実際に有責配偶者が支払うべき慰謝料は、どのくらいの金額になるのでしょうか?
慰謝料には、発生原因によって相場の金額があるので、それぞれについてみてみましょう。
(1)不貞のケース
不貞(不倫、浮気)は代表的な有責行為です。
不貞の慰謝料の相場はケースにもよりますが、だいたい数十万円~300万円程度です。
婚姻期間が1~3年など短い場合には、数十万円~150万円程度になり、婚姻期間が10年を超えると、300万円を超えるケースもでてきます。
また、不倫相手が妊娠出産した場合や不貞の期間が長い場合、不貞の頻度が高い場合、被害者がうつ病になった場合、被害者が仕事を辞めた場合、未成年の子どもがいる場合などには慰謝料は比較的高額になります。
(2)DVのケース
DVやモラハラも有責行為です。
これらが原因で離婚する場合の慰謝料の相場は、だいたい数十万円~300万円程度です。
暴力の頻度が高い場合、暴力の程度が激しい場合、暴力が振るわれた期間が長い場合などには慰謝料の金額が上がります。
(3)悪意の遺棄のケース
生活費不払いや同居拒否、家出などの「悪意の遺棄」のケースでも、加害者は有責配偶者となります。
これらの場合の慰謝料は、だいたい数十万円~200万円程度です。
生活費不払いの期間が長い場合や、家出した先が愛人の家だった場合、不貞しているので生活費を払わなくなったケースなどでは慰謝料が高額になります。
(4)慰謝料の相場金額の意味について
このように、有責配偶者が被害者に支払う慰謝料の相場は多くても300万円程度までであり、500万円以上になることはほとんどありません。
「その程度の金額なら支払える」と考える方も多いかもしれません。
しかし、この相場は、そもそも被害者である配偶者が離婚を求めた場合の慰謝料相場です。
上記の相場の金額によっては配偶者が離婚に納得しない場合には、増額を検討する必要があります。
ときには「慰謝料代わりに夫婦の財産を全部渡してほしい」「慰謝料代わりに妻と子どもが住む家の住宅ローンを全額支払ってほしい」というように、財産分与で大幅な譲歩を求められるケースもあります。
(5)「相場」を強調しすぎるのは危険
有責配偶者の場合「慰謝料の相場は〇〇円だから、法的にこの程度の支払いしかする義務がない。法外な主張はやめてほしい」などと言うと、相手が機嫌を損ねて離婚してくれなくなる可能性が高まります。
つまり、相場金額にこだわりすぎるとかえって相手との話合いがこじれてしまう可能性があるので、話の持っていき方に注意が必要です。
4、有責配偶者が慰謝料の支払いをなるべく少なくする方法は?
有責配偶者が慰謝料の支払い金額をなるべく少なくして離婚するには、どのようにすれば良いのでしょうか?
(1)証拠をとられているかどうかを見極める
まずは、配偶者に有責性を基礎づける事実の証拠をとられているかどうかが重要です。
たとえば不倫の場合、配偶者が「不倫しているのではないか?」と怪しんでいるけれど、確実な証拠がない、というケースも多いです。
そのようなとき、有責配偶者が離婚訴訟を起こすと、被害者は「不倫しているから有責配偶者である」と主張するでしょう。
しかし証拠がないと、裁判所も不倫の事実を認めません。
通常一般の離婚のケースと同様に、有責配偶者が別の離婚原因を主張立証できたら、離婚を認めてもらうことが可能です。
つまり、相手に証拠をとられていなければ、有責事実がない前提で離婚調停や訴訟などを進めることができるので、離婚も認めてもらえますし慰謝料支払いの必要もなくなるということです。
(2)弁護士を立てて交渉する
相手が有責事実の証拠をつかんでいる場合には、慰謝料を0にすることはできません。
何とか離婚を成立させ、かつ慰謝料を低額に抑えるには、弁護士に協議や調停などの対応を依頼することが重要です。
有責配偶者が自分一人で対応すると、被害配偶者は感情的になりやすいので、「絶対離婚しない」「慰謝料もびた一文負けない」などと頑なになってしまいがちだからです。
客観的な法律の専門家である弁護士が代理で話をすることにより、相手も冷静になって「本当に離婚しないのが良いのか?」「現実的な慰謝料を支払わせた方が良いのでは?」などの判断ができるようになります。
またこちらが弁護士に依頼すると、相手も弁護士に依頼することが多いです。
相手に弁護士がつくと、相手の弁護士が感情的になりがちな相手本人に対し、「現実的な解決方法」についてアドバイスをしてくれるので、相手が「支払い可能な範囲の慰謝料を受けとって離婚する」という解決方法に歩み寄ってくれる可能性が高まります。
(3)支払いが苦しいとき、分割払いにさせてもらう
有責配偶者が離婚しようとするとき、相手の請求金額が高いのでとても手元のお金では支払えないことが多いです。
その場合には、慰謝料を離婚後の分割払いにさせてもらう方法があります。
たとえば400万円の慰謝料でも、毎月5万円ずつ6年8か月の間であれば、支払えるという方もいるでしょう。
弁護士に代理を依頼していると、こういった分割払いの交渉もしやすくなります。
5、有責配偶者が慰謝料を払うときの注意点
有責配偶者が離婚の際に慰謝料支払いの約束をするなら、以下のような点に注意しましょう。
(1)無理な約束をしない
絶対に守っていただきたいのが「無理な約束をしない」ことです。
有責配偶者の場合、相手が納得しないと離婚できないので、必死になって相手の言う通りの条件を飲み、離婚後に到底実現できそうにない支払いを約束してしまうことがあります。
たとえば手取り30万円の人が、離婚後、養育費と住宅ローンと慰謝料の分割払いで毎月25万円払う約束をしてしまったら、残り5万円で生活していけるはずがありません。
結局すぐに支払いができなくなって自己破産してしまったり支払いを止めてしまったりして、元の配偶者や子どもに迷惑をかけてしまいます。
しかし被害者である配偶者の方も感情的になっていて、そういう非現実的な約束が不毛なことに気づかないことも多いです。
離婚協議で無理な要求をされたとき、たとえ相手の感情を一時的に害することになっても、このような無茶な約束をすべきではありません。
(2)離婚公正証書の効果を知っておく
離婚後慰謝料を分割払いする約束をしたときには、「離婚公正証書」の作成を求められることがよくあります。
しかし執行認諾文言付きの離婚公正証書を作成すると、支払いが滞ったときに、元妻からいきなり給料や預貯金、家などを差し押さえられてしまう可能性が高まります。
離婚公正証書を作成すること自体が悪いわけではありませんが、公正証書化には差押えのリスクがつきまとうので、離婚後に支払いを滞納しないように高い注意が必要となります。
公正証書を作成するなら、こういったリスクを認識し、覚悟しておく必要があります。
有責配偶者からの離婚請求の際の慰謝料まとめ
有責配偶者が離婚しようと思ったら、必ずしも相場にかかわらず、多額の慰謝料支払いが必要になる可能性が高いです。
なるべく支払いを抑えるには弁護士に対応を依頼するのがもっとも効果的です。
不倫相手と再婚したい場合など、離婚問題でお悩みの場合には、是非とも一度、弁護士までご相談ください。