出頭(しゅっとう)とは、自ら警察などの公的な場所に出向くこと一般を指す言葉です。
刑事法上明確な定義がある法律用語というわけではありません。
今回の記事では、
- 出頭してくださいと言われたときの対応
- 出頭することのメリットや無視した場合のリスク
といった点を中心にご案内します。
刑事事件と民事事件との違いについて詳しくはこちらをご覧ください。
1、出頭とは?
冒頭で触れたように「出頭」とは、警察などの公的な場所に出向くことをいいます。
これに対し、「自首」という言葉をお聞きになったことがあるかもしれません。
「自首」とは、事件自体が発覚していないか、事件は発覚していても犯人が特定されていない段階で、自らが犯人だと名乗り出ることをいいます。
「自首」は下記のとおり刑法に規定があります。
刑法第四十二条 自首等
罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
引用:刑法第42条
この条文にもあるように、「自首」が成立する場合は、刑が減刑となる可能性があります。
他方、事件自体が発覚しており、犯人の特定ができている状態で”警察に出向くことは、「自首」には該当しませんので、減刑がされることはありません。
今回の記事では、「自首」にはあたらない場合で警察などに出向く場合を、「出頭」と呼び、「出頭」とは何かをご説明したいと思います。
「被疑者」として任意に警察に来るよう要請されるのは典型的な「出頭」です。
また、警察に呼ばれたとしても、必ずしも「被疑者」として呼ばれているとは限りません。
単に、特定の事件について何か知っているかもしれない「参考人」として、任意で話をしてもらえるよう求めているだけかもしれません。
2、出頭要請を拒否・無視するとどうなる?
では「出頭」の要請を拒否・無視するとどうなるでしょうか?
「被疑者」として呼ばれているのか、「参考人」として呼ばれているのかによって、無視するデメリットは大きく異なります。
自分の扱いが気になるようでしたら、どちらの立場として呼ばれているのか聞いてみてもいいでしょう。
(1)参考人の場合
「参考人」として出頭を要請されている場合には、拒否・無視をすることも基本的には自由です。
警察ではなく自宅での聴取を希望することもできます。
ただ、多くの人は「参考人」としての聴取に応じるため、拒否・無視をしているのは事件に関係している…犯人ないし犯行に近い人物である、と捜査機関が考えるかもしれません。
拒否・無視を続けているうちに、重要参考人、被疑者と、立場が変わってしまうリスクがありますのでご注意ください。
(2)被疑者の場合
「被疑者」として出頭を要請されている場合には、出頭の拒否・無視は逃亡や証拠隠滅のおそれがあるという判断の根拠とされ、逮捕に発展する可能性があります。
実際、警視庁の発表(平成30年12月3日)によれば、速度超過や信号無視などの交通違反で摘発されたにもかかわらず出頭要請に応じなかったなどとして、同年11月だけで385人が道路交通法違反の疑いで逮捕されています。
忙しくて…と無視し続けた結果、逮捕されてしまった方も逮捕されているなど、交通違反容疑での出頭を無視し続けることのリスクが高いことを示すニュースといえるでしょう。
3、出頭に不安がある場合、弁護士にご相談ください
逮捕される可能性がある場合や、犯行に近い立場であったことから重要な証言をしなければならない状況の場合、おひとりでは「出頭」を躊躇してしまうかもしれません。
そんなときは、ぜひお早めに弁護士にご相談ください。
出頭にあたり弁護士にご相談されることのメリットをご紹介します。
(1)精神的なサポート
弁護士が事情を伺った上で、今後予想される流れについて詳しく説明します。
これからの見通しが見えることで、お気持ちが落ち着くかもしれません。
また、ひとりでの出頭に不安があれば、同行もお願いすることができます。
(2)今後の生活に対するサポート
逮捕や起訴が予定されるケースでは、学業やお仕事など、今後の生活についての不安もあることでしょう。
どのように継続をしていくか、周囲への説明をどうするかなど、法律論以外の点についても弁護士に相談することができます。
(3)書面を弁護士が用意したり、作成をサポートしてくれる
捜査機関へ提出すべき法的な書面を弁護士が用意してくれます。
また、反省文など自身で書かなければならない書面の作成にあたっても、犯行によって被害者がどんな被害を受けたのか説明されたり、犯行を繰り返さないためにどのような取り組みを行うべきかアドバイスを受けることで、具体的な内容を記すことができます。
(4)早期に身柄が解放される・刑罰が軽減される可能性がある
弁護士が、依頼者にとって有利な事実がないかつぶさに検討し、裁判官や捜査機関に対して説得的にアピールすることで、早期の身柄解放や刑罰の軽減が期待できます。
4、警察以外への「出頭」
最後に、警察以外への出頭について、少し触れたいと思います。
(1)裁判所
裁判所からの出頭要請については、従っておくことを強くお勧めします。
出頭しないこと自体から、その呼び出しを受けた事件に関連して自身が不利に取り扱われる可能性がある上、呼び出しを無視していても最終的には強制的に裁判所まで向かわされる可能性が高いからです。
(2)入国管理局―不法滞在外国人の場合
日本に不法残留(オーバーステイ)等している外国人が自ら入国管理局へ出頭すると、次のようなメリットがあります。
不法残留等外国人は摘発されると、入国管理局に収容された上で強制送還され、その後5年間(場合によっては10年間)日本への再入国ができなくなってしまいます。
しかし、一定の要件を満たす方については、自ら入国管理局に出頭することで、入国管理局に収容されることがなく、再入国の解禁も1年間と大幅に短くなります。
これを「出国命令制度」といい、出頭を含んだ以下の5つの要件があります。
- 速やかに出国することを希望して,自ら入国管理局に出頭したこと。
- 不法残留している場合に限ること。
- 窃盗その他一定の罪により懲役刑等などの判決を受けていないこと。
- これまでに強制送還されたり,出国命令により出国したことがないこと。
- 速やかに出国することが確実であること。
引用元:入国管理局
まとめ
今回は「出頭」に関して解説をしてきました。
既にご案内したように、交通違反など刑事事件について「出頭」を求められた場合には、素直に応じた方がいいでしょう。
もしも「出頭」に関して不安なことがあれば、ぜひ弁護士までご相談ください。