「過去に暴行罪に当たる行為をしてしまったが、当時の行為について時効期間は経過しているのだろうか」と疑問を持つことはあるでしょうか?
今回は
- 暴行罪に関する時効期間
- 暴行罪で逮捕された場合の流れ
- 暴行罪に該当する行為を行ってしまったときの対処法
などについて解説します。
この記事が、暴行の加害者となってしまった方のための手助けとなれば幸いです。
暴行罪については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、暴行罪の時効とは?
(1)時効には2種類ある
時効と一口に言っても、種類が2つあります。それは「刑事の時効」と「民事の時効」です。それぞれどのようなものか解説します。
①刑事の時効(公訴時効)〜検察官が被疑者を起訴できる期間
「刑事の時効」にも、2種類あります。
1つには、「刑の消滅時効」というものです。
これは、刑事裁判において言い渡された判決に基づき、当該判決で下された刑罰を執行できる期間のことをいいます。
もっとも、刑の消滅時効が問題となるのは、判決の言い渡し後すぐに収監されない起訴後の身柄拘束がない被告人が、収監前に逃亡をした場合など、稀な場合なので、現実的に刑の消滅時効が適用されることはほとんどありません。
本記事でご説明したいのは、2つ目の「公訴時効」になります。
「公訴時効」とは、犯罪後に一定期間が経過することにより、その犯罪についての公訴権が消滅し、公訴提起ができなくなる制度です。
簡単にいえば、検察官が事件の被疑者を起訴して刑事裁判にかけることができる期間のことをいいます。
ニュースで「○○事件は時効まで1年」と伝えている場合の時効とは、公訴時効のことをさしましていることが多いです。
暴行罪の公訴時効については(2)暴行罪に関する時効期間の項目でご紹介します。
②民事の時効(消滅時効)〜不法行為に基づく損害賠償請求ができる期間
民法709条には、「故意または過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められています。
たとえば、暴行罪に該当する行為を行った場合、加害者は、「故意」に被害者の「権利又は利益」を侵害したとして、当該暴行行為により発生した財産的損害及び精神的苦痛にかかる損害について、被害者から賠償するよう求められる可能性があります。
民事上の消滅時効とは、民事上の権利を行使できる権利者が、その権利行使をすることができるにもかかわらず、一定期間行使をしないことにより、その権利を消滅させる制度をいいます。
簡単にいえば、被害者が加害者に対して損害賠償を請求できる期間のことをいいます。
民事上の消滅時効期間については(2)暴行罪に関する時効期間の項目でご紹介します。
(2)暴行罪に関する時効期間
繰り返しになりますが、時効期間については公訴時効(刑事)、消滅時効(民事)それぞれに異なる定めがあります。
こちらで暴行罪に関する具体的な時効期間を確認しましょう。
①公訴時効(刑事)の期間は3年
暴行罪の公訴時効までの期間は3年間です。
「長期5年未満の懲役もしくは禁錮または罰金に当たる罪」の公訴時効期間は「3年」とされており(刑事訴訟法250条2項6号)、後記2(2)にも述べるとおり、「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」という法定刑が定められている暴行罪はこれに該当します。
公訴時効期間のカウントが始まるのは、犯罪行為が終わった時、すなわち犯罪行為を実行してそれによる結果が発生した時です。
犯罪行為が終わった初日もカウントします。暴行罪の場合は、暴行行為及びそれによる結果発生が終わった時が公訴時効の起算点になります。
たとえば、2022年1月31日の23時59分から殴る蹴るなどの暴行行為を開始し、2月1日の0時1分に暴行行為が終わったケースを考えましょう。
この場合、当該暴行行為が終了し、被害者が当該暴行行為すべてを受けたといえる2月1日が起算点です。
したがって、その3年後の2025年1月31日の24時が経過すると、公訴時効が完成することになります。
②消滅時効(民事)の期間は要注意
民事の消滅時効期間については、2020年4月1日に改正法が施行されたため注意が必要です。
従来は、不法行為(民法709条)の時効期間はすべて「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」とされていました。
これが改正され、2020年4月1日からは、人の生命・身体を害する不法行為による損害賠償請求権については5年間に延長されました(民法724条の2)。
したがって、暴行罪に該当する行為を行った場合には、被害者等が損害及び加害者を知った時から5年が経過するまでは、被害者から民事上の損害賠償請求を受ける可能性があります。
また、もう1つの消滅時効期間として、人の生命・身体を害する不法行為であるか否かにかかわらず、「不法行為の時から20年間」が経過しても、消滅時効が完成します(民法724条2号)。
改正前民法では、中断や停止がない除斥期間と考えられていましたが、民法改正によって時効期間となりました。
なお、「不法行為の時」とは、加害行為終了時または加害行為によって損害の全部又は一部が発生した時をいいます。
よって、2020年4月1日より前に、暴行罪に該当する行為をした場合の損害賠償請求権の消滅時効期間は、被害者等が損害及び加害者を知った時から3年となり、除斥期間は不法行為の時から20年となります。
そして、2020年4月1日以降に暴行罪に該当する行為をした場合の人身損害に関する損害賠償請求権の消滅時効期間は、被害者等が損害及び加害者を知った時から5年、または、不法行為の時から20年となります。
(3)時効が停止する場合について
公訴時効については、一時的に停止する(時効期間が進行しないということ)場合もあります。代表的な例が、犯人が国外にいる場合です。
- 旅行
- 留学
などで海外にいた期間は公訴時効期間の進行がストップします。
時効期間の進行がストップするだけで、時効期間がリセットされて再びゼロから期間が進行するわけではないため、加害者が帰国するとカウントが再開されます。
なお、国外に行くことなどにより時効期間が一時的に停止するのは公訴時効(刑事)のみであり、消滅時効(民事)は加害者が海外に行っていたことがあったとしても、進行が一時的に停止することはありません。
(4)公訴時効と告訴期間の違い
公訴時効と勘違いしやすいのが、告訴期間です。
告訴とは、犯罪の被害者やその他一定の者(告訴権者)が捜査機関に対して、犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めることをいいます。
たとえば名誉毀損罪や器物損壊罪など、親告罪とされている犯罪については、被害者等が告訴をしなければ、検察官が当該犯罪について起訴することができません。
そして、親告罪における告訴は、「犯人を知った日から6か月」という告訴期間が設けられています。
したがって、親告罪に該当する場合に、6ヶ月の告訴期間のうちに告訴がされなければ、検察官は当該犯罪で起訴することはできません。
もっとも、暴行罪は親告罪には該当しないため、告訴や告訴期間は問題とはなりません。
2、暴行罪はどのような行為を行ったときに成立する?
以下では暴行罪はどのような行為を行ったときに成立するのかを確認していきましょう。
(1)暴行罪における「暴行」の定義
暴行罪が成立するための要件としては、刑法第208条に「暴行を加えたものが人を傷害にするに至らなかったとき」と定められています。
ここでいう「暴行」とは「人に対する有形力の行使」をいいます。
わかりやすい例を挙げると
- 殴る
- 蹴る
- 胸ぐらをつかむ
が有形力の行使として「暴行」にあたるとされています。
また、有形力が人の身体に接触する必要はなく、たとえば、人に直接当てるのではなくて人の近くに当てるつもりで物を投げつける行為も、暴行罪でいうところの有形力の行使として「暴行」に該当します。
(2)暴行罪と傷害罪は何が違う?傷害罪の時効は10年
暴行罪と類似する犯罪に「傷害罪」があります。
傷害罪が成立する要件としては、刑法第204条に「人の身体を傷害した」と定められています。
つまり、傷害罪とは、行為の結果として、人が「傷害」を負った場合に成立します。
そして「傷害」とは、人の生理的機能を侵害することまたは健康状態を不良に変更することをいいます。
暴行罪にいうところの「暴行」として、人を殴る・蹴るなどした場合に、たとえば、その人があざを作ったり、骨折をしたりすると、「傷害」を負わせたということになります。
傷害罪は、その法定刑や公訴時効にも、暴行罪との違いがあります。
暴行罪の法定刑は「2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料」であるのに対し、傷害罪の法定刑は「15年以下の懲役または50万円以下の罰金」となります。
また、傷害罪の公訴時効期間は10年であり、暴行罪に比べて長期です。
暴行罪が成立するのか、傷害罪が成立するのかは、被害者の怪我の有無によって異なりますので、注意しましょう。
3、暴行罪に該当する行為を行って逮捕されるとどうなる?
もしも暴行罪に該当する行為を行って逮捕された場合、どうなるのでしょうか?
逮捕後の流れを解説します。
(1)警察・検察による取り調べ
警察に逮捕されると、逮捕された被疑者には警察による取り調べがなされます。
そして、逮捕後48時間以内に釈放されない場合は、被疑者の身柄とその事件は検察庁に送致されます。
その後、検察官が「被疑者の身柄を引き続き拘束しておく必要がある」と判断した場合には、送致を受けたときから24時間以内に、裁判所に対して被疑者の勾留請求をします。
一方で、検察官がこれ以上の拘束の必要がないと判断すれば、被疑者は釈放され、在宅捜査(被疑者が今までどおりの日常生活を送りながら、取り調べなどの捜査を受けること)になります。
(2)最大20日間の勾留
(1)のとおり、検察官が被疑者に引き続きの身体拘束が必要であると判断すれば、検察官は裁判所に勾留請求をします。
裁判所がその勾留請求を認めて勾留決定の判断をした場合、勾留期間は10日間となります。
その後、検察官がさらに被疑者の勾留延長請求を行い、裁判所がこれを認めて勾留延長決定がなされると、さらに最大10日間は身体拘束が継続されることになります。
したがって、最大20日間は勾留される可能性があります。
(3)裁判になれば懲役刑になる可能性も
捜査の結果、検察官が被疑者を刑事裁判にかけるべきと判断して起訴をすれば裁判になります。
検察官が被疑者を起訴処分にするか不起訴処分にするかを判断する時期としては、被疑者が勾留されている場合は勾留期間中になりますが、在宅捜査の場合の判断期限は、当該犯罪に公訴時効があるということのほかには、明確には決められていません。
裁判といっても、ドラマなどからイメージされる正式裁判のほかに、略式手続という、正式裁判によらずに、公判を開くことなく書面審理によって一定範囲の財産刑を科する簡易な手続がとれることもあります。
略式裁判では、下される量刑は100万円以下の罰金または科料という一定範囲の財産刑に限られますが、正式裁判となれば、宣告刑の可能性としては、懲役刑の可能性も否定できないことになります。
4、暴行罪に該当する行為を行ってしまったらどうする?
暴行罪に該当する行為を行ってしまった場合には、どのように対処すればよいのでしょうか?
(1)早期に被害者と示談するべき
被害者と示談(被害者と加害者間の話し合いで解決すること)することは、検察官や裁判所が被疑者(被告人)の処分や量刑を判断するうえでは重要です。
検察官は、起訴処分とするかどうかの判断において示談の有無を重視します。
被疑者と被害者との間で示談が成立しており、まさに犯罪の被害を受けた者が被疑者の処罰までは望まないということであれば、被疑者に対する終局処分として、不起訴(起訴猶予)処分の可能性が高まります。
不起訴処分となれば、前科がつくことはありませんので、社会生活に大きな不利益が生じることもないでしょう。
また、仮に検察官によって起訴をされて正式裁判が開かれたとしても、たとえば起訴をされてから裁判までの間に示談が成立すれば、上記と同様に、被告人の刑を軽減させる事情になります。
5、暴行罪に該当する行為をしてしまいお悩みの方は弁護士に相談を
暴行罪に該当する行為をしてしまい悩みを抱えている場合には、お早めに弁護士にご相談ください。弁護士に相談すれば以下のメリットがあります。
(1)対応方法がわかる
弁護士は当該行為に関する事情を多角的に聞き取り、どのように対応するべきかのアドバイスをします。
- 取り調べの対処法
- 処分の見通し
などを聞くことも可能です。
なお、弁護士には守秘義務がありますので、相談内容を口外することはありません。安心してご相談ください。
(2)示談交渉をまかせられる
弁護士には被害者との示談交渉をまかせることができます。加害者本人による示談交渉の場合、加害者とは連絡を取りたくないという被害者も少なくなく、交渉のテーブルについてもらうことすら難しい場合もあります。
しかし、被害者と加害者を仲介する弁護士が示談交渉を申し出ることで被害者が話し合いのテーブルにつく可能性が高まり、かつ法律上過不足のない示談書を結ぶことができます。
まとめ
ここまで、暴行罪の時効期間、暴行罪に該当する行為をしてしまった場合の対処法などを解説してきました。
ひとりで悩んでいても、よい方法はなかなか浮かぶものではありません。まずは刑事事件の経験豊富な弁護士に相談してみてください。