大麻所持せず使用すれば逮捕されず、処罰もされないのでは?と考える方もいるかもしれませんが、実際は簡単に考えてはいけません。大麻取締法において「所持」が明確に規制されている一方、「使用」についての規制はありません。
しかし、刑事事件の現実では、「大麻所持せず使用」といったケースでも逮捕や処罰が行われることがあります。大麻を使用する際には、通常、一時的に所持することが避けられないからです。
したがって、大麻取締法における「所持」の意味を正確に理解することが不可欠です。
この記事では、
- 大麻所持せず使用で処罰される可能性
- 大麻所持せず使用での逮捕から処罰までのプロセス
- 大麻所持せず使用で実刑を回避するためのヒント
などについて、薬物犯罪の刑事事件に精通したベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事が、大麻の「所持」と「使用」に関する不安を抱えている方々の疑問を解消するお手伝いになれば幸いです。
目次
1、大麻所持せず使用とはどういうことか
「大麻所持せず使用」に当たりそうなケースとしては、
- 他人に勧められて大麻を使用したものの、自分で隠し持ってはいない
- 自分で入手した大麻があるが、他人に預けている
などの状況が考えられます。
これらの行為が処罰の対象となるかどうかは、大麻取締法にいう「所持」の意味に関わってきます。
(1)大麻使用が処罰されない理由
覚醒剤は、所持も使用も処罰の対象とされています。
対して、大麻は、所持することが処罰の対象とされているものの、使用することは処罰の対象とされていません。
その理由は、大麻草は私たちの日常生活の中で合法的に使用されることも多いため、尿検査で陽性反応が出ても、それだけでは不適切な使用か否かを判別できないからと考えられています。
日本では、大麻草の茎は麻織物の繊維に、種子は七味唐辛子に使用されています。
今後は、大麻草を原料とした医薬品の輸入・製造・販売・使用も認めようとする政府の動きもあるのです。
大麻草には、THC(テトラヒドロカンナビール)という有害成分が含有されており、THCが幻覚症状等を引き起こすといわれています。
しかし、大麻草の合法的な使用によって、THCが体内に取り込まれることもあります。
尿検査で陽性反応が出たからといって、必ずしも不適切な使用の証拠とはならないのです。
結局のところ、大麻の不適切な使用を処罰する必要性はあるものの、不適切な使用か否かを判別する方法がないために、処罰の対象から外されているといえるでしょう。
(2)大麻「所持」に当たる行為
実際には、大麻が不適切に使用されたケースで、大麻所持罪として逮捕・処罰されることも少なくありません。
そこで、「大麻所持の基準」と「大麻所持の方法」が問題となります。
そもそも刑罰法規における「所持」とは、対象物を事実上、自己が支配する状態に置く行為を意味します。
「大麻を自分の意思で管理、処分できる状態かどうか」が、大麻所持に当たるかどうかの基準となるのです。
大麻所持に当たる具体的な「方法」としては、以下のような行為を挙げることができます。
- 自分の手で持っている
- 自分のポケットやカバンに入れている
- 自宅等に隠し持っている
- 他人に保管を依頼している
大麻を他人に預けている場合でも「自分の意思で管理、処分できる状態」であれば、大麻所持に該当することに注意が必要です。
(3)「所持せず使用」はあり得ない
(2)で解説したように考えると、大麻を「所持せず使用」することは基本的にできないということが分かるでしょう。
大麻を使用する際には、自分の手に大麻を持つはずだからです。
理論上は、他人に体を押さえつけられて、無理矢理に大麻を使用させられたような場合に「所持せず使用」に当たることもあり得ます。
しかし、大麻はタバコのように吸煙するものですので、実際には自分の意思に反して使用させられるケースはほとんど考えられないと考えられます。
2、大麻取締法で規制されている行為と刑罰
大麻所持の罪は、5年以下の懲役に処せられます。
参考までに、大麻取締法で規制されている一般人の行為と刑罰(同法第24条、第24条の2)は、以下の表のとおりです。
規制される行為 | 刑罰 |
栽培 | 7年以下の懲役。 営利目的の場合は10年以下の懲役。情状によっては10年以下の懲役+300万円以下の罰金。 |
輸入 | |
輸出 | |
所持 | 5年以下の懲役。 営利目的の場合は7年以下の懲役。情状によっては7年以下の懲役+200万円以下の罰金。 |
譲受 | |
譲渡 |
以上のように、営利目的があった場合には、そうでない場合よりも重く処罰されます。
悪質な場合には、さらに罰金刑が併科されることもあるのです。
※大麻取締法には、他にも法令に基づき、大麻の栽培や研究を行う人の違反行為を処罰する規定もありますが、本記事では割愛します。
3、大麻所持せず使用で逮捕・起訴されるまでの流れ
「大麻所持せず使用しただけだ」と思っていても、処罰の対象となる場合は、通常以下の流れで逮捕や起訴に至ります。
(1)尿検査で陽性反応
大麻の不正使用を疑われると、まず、尿検査を求められます。
多くの場合は、任意捜査として尿の提出を求められるので、拒否することも可能です。
しかし、拒否すると、強制採尿が行われる可能性があるので、多くの人は素直に提出します。
尿検査の結果、大麻の陽性反応が出ると、本格的な捜査が始まります。
(2)家宅捜索等で「所持」の証拠が差し押さえられる
尿検査のデータだけでは、大麻「所持」の証拠として十分でないため、警察により自宅などの捜索が行われます。
大麻が発見されると、「所持」の証拠品として押収(差押え)されます。
(3)状況によっては逮捕される
一般論としては、犯罪の証拠をとられたとしても必ず逮捕されるわけではありません。
しかし、大麻を含む薬物事犯の場合には、多くの場合に逮捕されてしまいます。
特に、逮捕される可能性が高いのは、主に以下のようなケースです。
- 違法薬物の常習性が疑われる
- 大量の大麻を所持している
- 共犯者がいる
- 売人や大元の存在を検挙する必要性が高い
逮捕されるタイミングは、尿検査の直後のときもあれば、家宅捜索等が行われた後のときもあります。
逮捕するためにも、ある程度の証拠が必要なので、警察の捜査の進捗によって逮捕されるタイミングが異なることもあります。
(4)取り調べ等の捜査が行われる
逮捕されるかどうかにかかわらず、犯罪の成立が疑われる場合には、引き続き取り調べが行われます。
まずは、警察官によってひと通りの取り調べが行われた後、事件が検察官に送致されます。
送致後は、さらに警察官による詳しい取り調べが行われた上で、検察官による仕上げの取り調べが行われるという流れが一般的です。
被疑者の身柄を拘束する必要性が高い場合には、送致された段階で検察官が勾留請求を行い、裁判官がこの請求を認めると勾留されます。
被疑者本人に対する取り調べの他にも、売人や共犯者をはじめとする関係者の取り調べ、家族等に対する事情聴取、その他の裏付け捜査も行われます。
裏付け捜査は、大麻「所持」のより確かな証拠を確保するとともに、不適切な「使用」の事実を明らかにする目的でも行われる捜査です。
大麻の使用そのものは処罰の対象ではありませんが、不適切な使用が立証されると大麻所持罪の情状が悪くなり、刑罰が重くなる可能性が高まります。
たとえ「友人に勧められて大麻を吸っただけ」と供述していた場合であっても、以上の捜査によって実態が明らかとなり、大麻所持罪として刑事事件の手続きが進められていきます。
(5)検察官が起訴・不起訴を決める
捜査の最後に、検察官がその事件を起訴するかどうかを決めます。
薬物事犯では、犯罪を成立させるための十分な証拠そろっている場合には、前科がない場合でも起訴されることが多いといえます。
日本では起訴されてしまうと99.9%以上の確率で有罪となり処罰されてしますので、処罰がなされるかどうかは、十分な証拠がそろっているかどうかがが重要です。
その後、刑事裁判が開かれて、有罪の場合には裁判所で刑が決められます。
4、大麻所持せず使用で実刑にならないためのポイント
起訴されて刑事裁判が開かれ、有罪になったとしても、すべての人が実刑、つまり刑務所に行く、というわけでありません。
刑事裁判では、「懲役○○年」など刑務所にいくべきとの判決をくだしながら、その刑の執行を猶予する判断をして、実際には刑務所に行かない帰結とすることがあります。
これをいわゆる「執行猶予判決」といいます。
大麻所持の事件で実刑になるか、執行猶予になるかの判断では、所持・使用に至った動機や背景、所持・使用した量、違法薬物使用の常習性があるかどうかなどが重視されます。
ただ、同じような事案でも以下の対処法によって執行猶予判決に至る可能性を高めることが可能です。
(1)反省する
大麻を所持・使用したことが事実であれば、深く反省することが必要不可欠です。
ただ、取り調べで単に「反省しています」と述べるだけでは、裁判官には信用されません。
事件に至った動機や背景を詳しく振り返り、自分のどこが悪かったのか、どうしていれば大麻に手を出さずにすんだのかなどを自分でしっかりと追求する必要があります。
以上の追求をしたうえで、悔やむ姿勢を見せることが大切です。
また、以下のように、大麻の入手ルートを正直に話すことや、再犯防止対策をとることも反省の一環として認められます。
(2)大麻の入手ルートを正直に話す
捜査機関は末端の大麻所持者や使用者を検挙するだけでなく、売人や大元の存在を検挙したいと考えています。
取り調べでは、入手ルートを厳しく追及してきます。
薬物の入手ルートを捜査機関に明かすと、売人や大元から報復を受けるおそれがあると考えられるのが一般的です。
ですが、正直に入手ルートを話すということは、薬物との関係を絶つ決意の表れであるといえますので、プラスの情状として評価されます。
友人に勧められて使用した場合のように自分で大麻を入手したわけではない場合でも、大麻の入手方法を知っていれば、取り調べで正直に話すことが望ましいといえます。
(3)再犯防止対策をとる
再犯のおそれが強ければ、処罰する必要性が高いので、起訴される可能性が高くなります。不起訴処分を獲得するためには、再犯防止対策をとることも重要です。
具体的にとるべき対策は状況によって異なりますが、例えば、以下のような対策が考えられます。
- 大麻を勧めてきた友人との関係を絶つ
- ストレスから大麻に手を出してしまった場合はストレスの元を絶つ努力をする
- 再び違法薬物に手を出さないよう家族等に見張ってもらう
- ダルクを利用するなどして違法薬物への依存性を絶つ
(4)身元引受人を立てる
自分一人で更生を決意しても、人は再び罪を犯す危険性があります。
特に薬物犯罪では繰り返し犯行に至る人が多いため、今後の生活を指導・監督してくれる身元引受人を立てることが重要となります。
家族や親戚、上司、先輩などの中から、本人に対する影響力が最も強い人に依頼し、身元引受人になってもらいましょう。
5、大麻所持せず使用が警察に見つかったら弁護士に相談を
大麻を使用したものの所持はしていないと思っていても、警察に見つかった場合に一人で対応していては、最終的に執行猶予判決を獲得することは容易ではありません。
そんなときは、薬物犯罪の弁護経験が豊富な弁護士に相談すると、適切な対処法をアドバイスしてもらえます。
特に、逮捕されたときはすぐに弁護士を呼びましょう。
一人で取り調べに対応していると、捜査機関の思うままに供述調書を作成され、重く処罰されてしまうおそれがあります。
万が一、起訴されてしまった場合でも、執行猶予付き判決などの軽い処分を獲得するためには弁護士のサポート受けることが重要です。
一人で悩まず、弁護士の力を借りて適切に対処することを心がけましょう。
まとめ
大麻の「使用」そのものは処罰されませんが、基本的に「大麻所持せず使用」というケースは考えがたいのが現状です。
使用した以上は、処罰される可能性が高いということがお分かりいただけたでしょうか。
今後は、「大麻使用罪」を新設しようという政府の動きもあるようなので、大麻を自分で保管していない場合であっても、決して軽く考えることはできません。
現行法上の大麻所持罪で検挙されてしまった場合でも、執行猶予判決を獲得できる可能性はあります。
もし、出来心で大麻に関わってしまった場合は、弁護士に相談するようにしましょう。