カサンドラ症候群は、発達障害をもつ人の配偶者が陥る状態です。
この状態になると、抑うつ状態や体重の増減、不眠、自己評価の低下など、精神的にも身体的にも様々な症状があらわれるようになります。そのため、カサンドラ症候群の人の中には、配偶者との離婚を考え始める人が少なくありません。
では、カサンドラ症候群になったことを理由に、もっと言えば、配偶者に発達障害があることを理由に、離婚することはできるのでしょうか。
この記事では、
- カサンドラ症候群とは?離婚すれば治るのか?
- カサンドラ症候群の人が離婚する方法
- 離婚はせずカサンドラ症候群を改善する方法
- 離婚を考えているカサンドラ症候群の人におすすめの相談先
などについてご紹介します。
この記事が、カサンドラ症候群の症状と、発達障害をもつ配偶者との離婚に苦悩しているあなたのお役に立てれば幸いです。
目次
1、カサンドラ症候群とは?離婚すれば治る?
配偶者と話し合いをしようとしても話が噛み合わず、強いストレスを感じている。
配偶者との関係に疲れ切り、うつ状態や睡眠障害、摂食障害など、心身に様々な症状が出ている。
そんな悩みはありませんか?
それはもしかしたら、発達障害を持つ人の配偶者が陥りやすい、カサンドラ症候群のせいかもしれません。
ここではまず、カサンドラ症候群とは何なのか、詳しくご紹介します。
(1)カサンドラ症候群とは
カサンドラ症候群とは、発達障害(特にアスペルガー症候群)を持つ人の配偶者が陥る「状態」のことをいいます。
共に生活する人に発達障害があると、その配偶者は様々なストレスを抱えます。
そして、ストレスが重なると、抑うつ状態や睡眠障害、自己肯定感の低下といった、心身症状が引き起こされることがあります。
こういった状態のことを、「カサンドラ症候群」と呼ぶのです。
症状のあらわれ方は人によって異なりますが、代表的なものが以下の3つです。
カサンドラ症候群の代表的な症状 |
●睡眠障害…寝つきが悪い、寝てもすぐ目が覚めてしまうなど ●抑うつ状態…憂鬱、気分が沈んで何もする気にならない ●自己肯定感の低下…配偶者とうまくいかないのは自分のせいだと、自分を責める |
これら3つの症状の他にも、摂食障害や不安障害、PTSD、偏頭痛など、人によって様々な症状があらわれます。
(2)発達障害を持つ人の配偶者がカサンドラ症候群に陥る理由
アスペルガー症候群の人は、相手の気持ちを理解したり、察したりする能力が欠如しており(共感性の欠如)、他人と情緒的な相互関係を築けません。
例えば、結婚生活の中で何らかのトラブルが生じた際、一般的には話し合いをすることで、一つずつ解決していきます。
ところがアスペルガー症候群の人と話し合おうとしても、話が噛み合わなかったり、質問をしてもちぐはぐな答えが返ってきたりして、話し合いによる解決が難しいという場合もあります。
こういったことが何度も重なると、配偶者は、「どうして自分の気持ちを理解してもらえないのか」「なぜこの人とは話し合いができないのだろうか」といったストレスを抱えるようになります。
1つ1つのストレスは小さなものでも、それが積み重なると、大きなストレスとなります。
するとその結果、心身に不調をきたすようになるのです。
(3)もしかして私もカサンドラ症候群?セルフチェックしてみよう
カサンドラ症候群になる人は我慢強い人が多く、本人も気づかないうちにストレスを溜めこんでいることが少なくありません。
配偶者と話が噛み合わないと感じている方、配偶者との関係にストレスを抱えている方は、カサンドラ症候群の兆候がないかどうか、チェックしてみましょう。
カサンドラ症候群セルフチェックリスト |
□ 片頭痛や摂食障害、不眠など身体の不調がある □ 抑うつや無力感など、心の不調がある □ 配偶者に対する違和感を相談できる人がいないか、相談しても理解してもらえない □ 自分の行動や考えを無視されたり、否定されたり、責められたりして辛い □ 配偶者が怒るポイントがわからず、顔色ばかりうかがっている □ 配偶者と会話が噛み合わない □ 配偶者の言動に対して常にイライラし、強いストレスを感じる □ 最近、攻撃的になっているように感じ、そんな自分が嫌いだ □ 配偶者には何を言っても無駄だと感じる □ 配偶者と共感しあえないことに絶望している □ 自分に自信を持てなくなった □ 配偶者と同じトラブルばかり繰り返している |
当てはまる項目がある方は、カサンドラ症候群の可能性がありますので、一人で悩まず、信頼できる人や専門家に相談してみることをおすすめします。
(4)カサンドラ症候群は離婚すれば治る?
心身に様々な不調をきたす、カサンドラ症候群。
配偶者の発達障害が原因なのであれば、「離婚」をすることで辛い症状が改善するのでしょうか。
カサンドラ症候群の治療には、「相手と距離を置く」という方法があります。配偶者と物理的な距離を置くことでストレスが軽減し、症状が改善する場合があるのです。
ただし、不眠や抑うつをはじめとするカサンドラ症候群の諸症状は、離婚すれば必ず治るわけではありません。中には、離婚後も辛い症状が改善されず、治療を続けなければならない方もいます。
カサンドラ症候群は、配偶者との関係性から生じる状態であり、その原因やきっかけは人によって様々です。また、症状のあらわれ方や程度も、人によって異なります。そのため、カサンドラ症候群を治すには、離婚だけにこだわらず、その人に合った治療をすることが大切です。
2、カサンドラ症候群になった人が配偶者と離婚する方法
アスペルガー症候群の配偶者との生活に限界を感じ、離婚を決意したとしても、一筋縄ではいかない可能性があります。
というのも、「配偶者が発達障害である」という事実は法定離婚事由にあたらず、相手が離婚に同意しない場合、話し合いが難航するケースも珍しくないのです。
では、カサンドラ症候群になった人が配偶者と離婚するには、どうすればいいのでしょうか。
(1)配偶者の発達障害は離婚事由にならない
アスペルガー症候群の配偶者と結婚した方の中には、その生活に限界を感じ、離婚を考える方が少なくありません。
しかし、「配偶者がアスペルガー症候群である」という事実だけでは、離婚することができません。
民法で定められる離婚事由には、以下の5つがあります(民法770条)。
法定離婚事由 |
① 配偶者に不貞な行為があったとき ② 配偶者から悪意で遺棄されたとき(生活費を渡さないなど) ③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき ④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき ⑤ その他、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき |
配偶者に発達障害があることは、「④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」に該当するようにも思えます。
確かに、アスペルガー症候群をはじめとする発達障害は、回復の見込みがない障害です。しかし、「強度の精神病」とまでは言えません。
裁判でも、発達障害が「強度の精神病」と認められる可能性は低いでしょう。
「配偶者が発達障害である」ことが法定離婚事由に該当すると主張して離婚をするのは、かなり難しいと言えます。
(2)発達障害の配偶者とは離婚の話し合いが難航することも
離婚は、話し合いによる方法もありますが、相手に発達障害がある場合、かなり難航する可能性があります。
というのも、アスペルガー症候群の人は話が噛み合わないことも多く、話し合いが難航するケースが珍しくないのです。
また、アスペルガー症候群は知的障害を伴わない発達障害で、本人がそのことについて自覚しておらず、困ってもいないことがほとんどです。
そのため、アスペルガー症候群を持つ人は、その配偶者がどんな苦労をしているのか、理解することもできません。
そうすると、離婚を切り出したとしても、その理由を理解してもらえず、拒否されてしまう可能性があります。
話し合いで離婚をしようとするならば、かなり時間がかかるかもしれないことを覚悟しておきましょう。
(3)離婚したいならまずは別居がおすすめ
アスペルガー症候群など、発達障害のある配偶者に離婚を切り出しても同意してもらえない場合、離婚を進めるには、「その他、婚姻を継続しがたい重大な事由がある」ことを離婚事由とするほかありません。
「婚姻を継続しがたい重大な事由」がある場合、夫婦関係が破綻していると判断され、離婚が認められるからです。
「婚姻を継続しがたい重大な事由」の例 |
・相当期間別居している ・これまでに、離婚についての話し合いを行ったことがある ・同居はしているが、相当期間、夫婦間の接触がない(家庭内別居状態) |
離婚について配偶者の同意を得られない場合、まずは別居してみることをおすすめします。
相当期間別居をすることで、夫婦関係が破綻している、つまり、「婚姻を継続しがたい重大な事由」があるという既成事実を作るのです。
夫婦関係が破綻していると認められる別居期間は、概ね5~10年ほどです。長期戦にはなりますが、どうしても離婚したいのであれば、こういった方法も選択肢のひとつでしょう。
3、離婚はせずカサンドラ症候群を改善するためにおすすめの方法5つ
諸事情からすぐに離婚をするのが難しいとしても、カサンドラ症候群の辛い症状は、できるだけ改善していきたいですよね。
では、結婚生活を続けつつカサンドラ症候群を改善するには、どうすればいいのでしょうか。
(1)心療内科を受診する
睡眠障害や抑うつ状態など、カサンドラ症候群による心身症状に悩まされているならば、まずは心療内科を受診することをおすすめします。
心療内科の治療では、薬物療法や認知行動療法、カウンセリングなどにより、辛い症状を改善していく効果が期待できます。
心と体の状態が良くなっていけば、色々な行動を起こしやすくなりますので、まずは、自分の心身を健康な状態にすることから始めてみましょう。
(2)発達障害の特性について理解する
カサンドラ症候群は、発達障害のある相手との関係性が原因となり生じる状態です。そのため、カサンドラ症候群を改善するには、発達障害の特性について理解することも有効です。
「他人の感情を理解できない」「空気を読めない」といった、アスペルガー症候群の特性を理解し、「この人はこういう人なのだ」と考えられるようになれば、相手に期待して落胆したり、話し合いができず絶望したり、といったことが減るかもしれません。
(3)第三者を入れて話し合う
カサンドラ症候群を改善するには、第三者を交えた話し合いをすることも効果的です。
夫婦2人では平行線のまま変化がない話し合いも、第三者を入れ、客観的な視点を交えてみることで、妥協点が見つけられるケースがあるからです。
話し合いに交える第三者は、医療関係者や共通の知人など、夫婦双方が納得できる人を選ぶことをおすすめします。
(4)距離を置く
アスペルガー症候群の人との生活に限界を感じているならば、一度、距離を置いてみてはいかがでしょうか。
別居が難しい場合は、寝室を別にするなど、住環境を変えて1人で過ごす時間を増やしてみるのもいいでしょう。ストレスの原因である配偶者から離れると、辛い症状が改善され、今後の夫婦関係について冷静に考えられるようになるかもしれません。
4、カサンドラ症候群になった人が離婚を考えたときの相談先
夫婦間の問題を1人で抱え込んでいると、カサンドラ症候群の症状が悪化してしまうことがあります。
「もしかして、配偶者には発達障害があるのかもしれない」
「私は、カサンドラ症候群なのかもしれない」
と思ったら、1人で悩まず、信頼できる人に相談することをおすすめします。
(1)アドバイザー・カウンセラー
辛い心身症状に悩まされているならば、まずは心療内科を受診したり、カウンセラーやアドバイザーに相談してみたりすることをおすすめします。
配偶者に対する不満や、1人で抱えている悩みを第三者に話すだけでも、気持ちが楽になることがあります。
最近は、離婚問題を得意とするアドバイザーや夫婦関係の修復を得意とするカウンセラーも増えていますので、1人で抱え込まず、こういった専門家に頼ってみてはいかがでしょうか。
(2)発達障害者支援センター
アスペルガー症候群の配偶者との関係を良好に保ちたいならば、発達障害者支援センターを利用してみるのもひとつの方法です。
ここでは、アスペルガー症候群をはじめとする発達障害への理解を深めるためのセミナーや、発達障害のある人の家族を支援するためのプログラムなどが、多数用意されています。
できることなら離婚をせず配偶者とうまくやっていきたい方、離婚をするかは後々決めるとして、配偶者との生活の中で感じるストレスをなるべく軽減したい方は、発達障害者支援センターを利用してみてはいかがでしょうか。
(3)弁護士
相手が離婚に同意してくれない場合、離婚には同意しているものの条件面での話し合いがまとまらない場合などは、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、法的な観点から離婚に関するアドバイスを受けられるのはもちろん、話がうまく噛み合わない配偶者とも、粘り強く交渉してもらえます。
また、離婚調停や離婚裁判となると色々な書類を用意しなければなりませんが、弁護士に依頼すれば、書類の作成から提出まで、その全てを代行してもらうことが可能です。
離婚を決意した方にとってはもちろん、離婚するかどうか迷っている方にとっても、弁護士は心強い味方になってくれるでしょう。
まとめ
カサンドラ症候群は、発達障害をもつ配偶者との関係性が原因で生じる状態です。
ただ、配偶者に発達障害があることは法定離婚事由に当たらず、この事実だけをもって離婚することはできません。相手が離婚に同意してくれない場合、話し合いを続けるか、長期間にわたり別居をするほかありません。
ただし、発達障害がある人との交渉は難航することが珍しくなく、夫婦2人で話し合いを続けても、平行線のままで埒が明かない、というケースも多くあります。
発達障害のある配偶者との離婚を考えているならば、まずは弁護士に相談してみましょう。弁護士に依頼すれば、離婚に関する交渉や書類の作成など、その全てを代行してもらえますので、身体的・精神的な負担をかなり軽減できるはずです。