残業代を請求したいけど、うちの会社はタイムカードがない・・・。
このように、残業代請求において、勤怠管理のタイムカードシステムがない会社にお勤めの場合、悩まれる方も多いのではないでしょうか。
残業代を請求する際には、残業をしたという「証拠」が大切になってきます。
残業代の「証拠」で最もオーソドックスなのは、「タイムカード」です。
そのタイムカードを導入していない会社の場合、どのように「証拠」を確保すれば良いのでしょうか。
本記事では、
- タイムカードが無い会社で残業代を請求する方法
について解説します。
この記事がお役に立てば幸いです。
残業代の未払いについては以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、タイムカードがない会社は違法?
タイムカードがない会社は、それだけでは違法ではありません。
では、どうしてタイムカードを設置している会社が多いのでしょうか。
タイムカードを設置していることについて原則的な解説を行います。
(1)タイムカードは労働時間を把握するための方法の一つ
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者が、労働時間を適正に把握するなど、労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかです。
また、労働安全衛生法66条の8の3では、
「事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。」
と規定されております。
このように、事業者が、労働者の労働時間を適切に把握することは法律上の義務といえます。
そして、上記労働安全衛生法を受けて、労働安全衛生規則第52条の7の3には
1 法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。
2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
との規定があります。
このように、法律上は、タイムカードによる記録だけではなく、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法、その他の適切な方法でも良いとされています。
そのため、タイムカードは、労働者の労働時間を把握するための一つの方法として挙げられているものにすぎません。
(2)タイムカードがない会社は問題を内包していることも
このように、タイムカードがない事はそれだけで何か問題があるというわけではありませんが、代替的な方法が執られておらず、自己申告になっているときは注意が必要です。
厚労省が出している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも、自己申告によらなければならない場合は以下の点などに気を付けるべき、と規定されております。
- 労働者に対して、労働時間の実態を正しく記録し、適正に自己申告を行うことなどについて十分な説明を行うこと
- 労働時間を管理する者に対して、ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと
- 自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること
- 自己申告した労働時間を超えて事業場内にいる時間について、その理由等を労働者に報告させる場合には、当該報告が適正に行われているかについて確認をすること
- 使用者は、労働者が自己申告できる時間外労働の時間数に上限を設け、上限を超える申告を認めないなど、労働者による労働時間の適正な申告を阻害する措置を講じてはならないこと
ガイドラインには、このような注意点が規定されております。
タイムカードがなく、自己申告制による労働時間の管理になっている会社では、このような点がしっかりと遵守されているのかを確認する必要があります。
2、タイムカードがない会社の問題点
タイムカードがない会社の問題点について、詳述していきます。
タイムカードのない会社に勤務をしている方は、以下の点がしっかりとなされているのか確認を行いましょう。
(1)労働時間把握義務の違反
前述したとおり、労働時間の把握は会社の義務ではありますが、タイムカードによる必要はありません。
タイムカード以外でも、近年では、勤怠管理のデジタル化が進んでいます。
スマホやタブレットから利用する事ができ、外出先や在宅ワークにも対応をしているため、採用している会社は多いかと思います。
一方で、タイムカードもなく、その他の管理システムの構築も怠っている会社もあります。
そのような会社は、労働時間把握義務に反しているといえます。
なお、労働時間とは、雇用主の指揮命令下で勤務していることをいいます。
- 業務に必要な準備行為(例えば、着用を義務付けられている作業着の着替 時間)
- 業務から離れることが許されていない手待ち時間(例えば、通報があった場合に、即時に現場に向かわなければいけない警備員)
- 使用者の指示により、研修や教育訓練の受講、業務に必要な学習等を行っていた時間
これらも労働時間に含まれますので、この点も理解しておきましょう。
(2)その他犯しがちなリスク
労働時間を適切に把握することを怠っていると、労働時間の把握義務に反するだけではなく、長時間労働になり、法定労働時間(労基法32条)や時間外労働協定(労基法36条)で定められた時間を超える労働をさせてしまうおそれになります。
また、賃金は労働時間によって増減しますので、未払賃金等も発生することになり、労働者と使用者との間でトラブルに発展する危険性が出てきます。
3、タイムカードがない会社の労働者側のリスク
では次に、タイムカードがない会社で働く労働者側のリスクについてみていきましょう。
(1)残業代の適正額が不明である点
残業代を会社に対して請求する際には、正確な労働時間の把握が必須になります。
前述したとおり、労働時間の把握は、本来、使用者の義務ではありますが、残業代が未払いになっている場合は、労働者がしっかりと残業代を計算しなければなりません。
そのため、労働者は、タイムカードがなく、労働時間を適正に把握していない会社で働く際は、自ら労働時間を正確に記録しておくことが大切なのです。
(2)根拠資料の収集が困難である点
未払残業代を請求する場合、客観的な証拠が必要になります。労働者が労働時間測定をする際に最も簡単なのは、タイムカードになりますが、これがない場合は、別の証拠を収集しなければなりません。
タイムカードのない会社に勤めていて未払残業代があると考えられている方は、勤務中から客観的な証拠の収集をすることを意識する必要が出てきます。
4、タイムカードがない会社で残業代を請求する方法
タイムカードがない会社で勤務をしている場合に、残業代の請求について、注意をしなければならないことについて解説を致しました。
では、実際にはどのような証拠を収集して残業代を請求することになるのでしょうか。
以下解説致します。
(1)タイムカードに変わる記録で計算
以下、タイムカードに代わる記録となり得るものの一例を紹介します。
①パソコンのログ
パソコンのログとは、会社で利用しているパソコンの使用状況の記録のことをいいます。
パソコンの起動、終了時間などが記録されていますので、ログを見れば、始業時間及び退社時間がある程度分かる証拠となります。
②メールの送受信履歴、メール内容
また、メールの送受信履歴などで計算をすることも考えられます。
とはいえ、必ず、出勤時と退社時にメールを送信する会社も少ないかと思いますので、メールの送受信履歴から計算できるのは、労働時間の一部になります。
③労働者による記録
労働者が、日々カレンダーや手帳などに詳細なメモを残している場合も証拠になり得ます。
しかし、これらの証拠は労働者の主観が入っている可能性があり、信用性がやや低いといえます。
メモを残すときは、なるべく客観的に継続して残すことが必要となります。
(2)何ら記録がない場合は弁護士に相談
何ら記録がない場合は、早期に弁護士への相談をおすすめします。
労働者が思いつかない証拠がある可能性もありますし、証拠保全などによってタイムカードに代わる証拠を押さえる事もできるかもしれません。また、弁護士が動くことによって、防犯カメラの映像や入退出の記録などを入手できる可能性もあります。
いずれにしても、証拠がないからといって諦めるのではなく、何か別の方法がないか弁護士に相談することが大切です。
5、その他知っておくべき残業代請求のポイント
証拠を確保して、残業代の請求をしても、会社側からも何かしらの反論があることが考えられます。
ここでは、会社側から想定される反論について解説をし、その他の注意点についても説明をします。
(1)会社側の残業代未払の「理由」を整理!
会社側から考えられる残業代未払の理由としては、以下の点が挙げられます。
- 労働時間ではない
- 固定残業代を支払っている
- 管理監督者である
- 未承認残業
- 歩合制である
しかしこれらの反論については、不当であるケースが多々あります。
①労働時間ではないという反論に対して
労働時間とは、使用者の指揮命令下で勤務をしている時間のことをいいますので、上司などによる明示的な指示がなかったとしても、黙認されていた場合や業務が所定労働時間内に終わらないものである場合は、労働時間に該当します。
②固定残業代を支払っているという反論に対して
固定残業代を支払っているという反論とは、毎月固定残業手当を支給しているから、残業代は全て支払済みであるというものです。
しかしながら、固定残業代を支払っていたとしても、実際の残業時間から労働基準法に基づいて計算した残業代が固定残業代を上回る場合は、その差額を請求することができます。
③管理監督者であるという反論に対して
管理監督者(労基法41条2号)である場合、経営者と同等の立場にあると考えられ、残業代は請求できません。
しかし、管理監督者に該当するかどうかは、その名称だけではなく、実質的に判断されます。
- 経営に関与しているといえるような重要な職務と権限が与えられていること
- 出退勤をはじめとする労働時間について管理を受けていないこと
- 賃金面で、一般の従業員と比べてその地位に相応しい待遇がなされていること
このような実質を加味して会社側の反論に理由があるのかを判断しましょう。
④未承認残業
会社の中には、残業を許可制にしているものもあります。
そして、事前承認を得ずに残業をしていた場合、労働時間に該当しないという反論を使用者側がしてくることがあります。
しかし、勤務内容などによっては、所定労働時間内に業務を全て完了させるのが困難な場合もあります。
そのような場合は、未承認残業であっても、指揮命令下にあったとして残業代の請求が可能なケースといえます。
⑤歩合制であるという反論に対して
歩合給を基本給と別にもらっている場合、残業代の請求は別途できないようにも思えます。
しかし、法定労働時間を超えていれば、基本給と歩合給部分についても残業代は発生します。
そのため、歩合給の金額が、実際の労働時間に応じて適切に支払がない場合は、残業代の請求をすることができますので、会社側の反論には理由がない事になります。
(2)請求権の消滅時効には気をつけて
残業代請求の消滅時効は当面3年です(令和2年3月以前に支払われるべきであった残業代については2年になります)。消滅時効が完成している場合は、一部若しくは全部の残業代請求が認められないことになりますので、注意しましょう。
請求方法の詳細はこちらの記事も参考にして下さい。
(3)タイムカードがないだけで必ずしも不利になる訳ではない
上記3のとおり、タイムカードがない会社では、労働時間の証明のハードルが高くなりがちではあります。
しかし、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専ら会社側の責任によるものであって、これをもって従業員側に不利益に扱うべきではないとの趣旨のことを述べた裁判例もあり、裁判等になった場合には、裁判所が会社側に対して厳しい目を向ける可能性もあります。
したがって、タイムカードがないからと言って、必ずしもそれだけで大きく不利になる訳ではありません。
まとめ
今回はタイムカードがない会社で勤務をする際の問題点等について解説をしました。
タイムカードがないこと自体により直ちに違法性が生じる訳ではありませんが、適切に勤務時間の管理をしていない会社は、法律遵守の意識が低い会社といわざるを得ません。
タイムカードがない事に疑問を感じたり、未払残業代があるのではないかと思われる場合には、弁護士に早めに相談しましょう。