「建造物侵入罪」とは、建物へ不法侵入した場合に犯される罪です。この罪には他の犯罪にも繋がる可能性があるため、決して「軽微な犯罪」と軽視すべきではありません。
今回は、以下のポイントを弁護士が分かりやすく説明します。
- 建造物侵入罪の要件と罰則
- 不法な侵入の目的に関する事項
- 他の犯罪との関連性
- 逮捕時に弁護士に相談する利点
もし、他の犯罪の容疑で逮捕された際に建造物侵入罪の疑いもある場合、または建物への侵入が心配な方々にとって、この情報がお役に立てば幸いです。
目次
1、建造物侵入罪とは?
建造物侵入罪は、住居侵入罪や不退去罪と並んで刑法第130条において規定されている犯罪です。
正当な理由がないのに建造物などに侵入したときに建造物侵入罪が成立します。
まずは、建造物侵入罪の構成要件(罪が成立するための要件)・刑罰について具体的にみていきましょう。
(1)構成要件
建造物侵入罪の構成要件は以下2点です。
- 人の看守する邸宅・建造物・艦船に、
- 正当な理由がないのに侵入すること
①人の看守する邸宅・建造物・艦船
「人の看守する」とは、他人が事実上管理・支配しているという意味です。
たとえば、管理人、監視員が置かれているとか、施錠されている場合がこれに当たります。
放棄された廃屋に入ったとしても建造物侵入罪は成立せず、他の犯罪(軽犯罪法1条1号)が成立します。
「邸宅」とは、居住用の建造物で、現在日常の生活に使用されていないものという意味です。
たとえば、居住者のいない空き家・閉鎖中の別荘がこれに当たります。
また、建物自体だけではなく、建物に付属する囲繞地(庭などのように塀で囲まれた場所)もこれに含まれます。
「建造物」には、住居・邸宅以外の建物が幅広く含まれます。たとえば、過去の裁判例では、大阪万博の太陽の塔(大阪高判昭和49年9月10日)、駅構内(最判昭和59年12月18日)、雑居ビルの駐車場(東京地判平成7年10月12日)などについても建造物性が肯定されています。
「艦船」とは、軍艦・船舶のことです。
②正当な理由がないのに侵入すること
「正当な理由がないのに」とは違法にという意味で(最判昭和23年5月20日)、日常頻繁に行われる建造物等への立ち入りの中で違法なものだけが犯罪となるという、いわば当然のことを確認する文言であると考えられています。
「侵入」とは、管理権者の意思に反して立ち入ることを意味します(最判昭和58年4月8日)。
管理権者があらかじめ立ち入り拒否の意思を積極的に明示している場合はもちろん、明示的に立ち入り拒否の意思表示をしていないとしても、建造物の性質・使用目的・管理状況・管理権者の態度・立ち入りの目的などを総合的に考慮して、当該立ち入り行為を管理権者が容認していないと合理的に判断できる場合には、建造物侵入罪における「侵入」が認められると考えられます。
具体的には、議事を妨害する目的で偽名を使って参議院の傍聴席に入る行為(東京高判平成5年2月1日)や、一般客を装って国体開会式を妨害する目的で陸上競技場に立ち入る行為(仙台高判平成6年3月31日)について建造物侵入罪が成立するとした裁判例があります。
また、管理権者の承諾があれば「侵入」に当たりませんが、管理権者が威圧されたり、騙されたりしている状態で承諾した場合その承諾は無効であり、「侵入」に当たります。
(2)刑罰
建造物侵入罪の法定刑は、「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。
また、建造物侵入罪は未遂犯も処罰対象とされます(刑法第132条)。
未遂となるのは、侵入行為を始めたが、身体の全部を建造物等の中に入れるに至らなかった場合で、具体的には塀を乗り越えようとしている最中に逮捕されたような場合です。
2、建造物侵入罪と住居侵入罪の違いは?
建造物侵入罪と住居侵入罪とは、侵入行為の対象という点で異なります。
つまり、刑法第130条では、侵入行為の対象として「人の看守する邸宅・建造物・艦船」以外に「人の住居」が挙げられているところ、前者に対する侵入行為が建造物侵入罪として、後者である「人の住居」に対する侵入行為が住居侵入罪として処罰されるということです。
住居侵入罪における「人の住居」とは、人の起臥侵食、すなわち日常生活に利用される場所のことです。
日常生活に利用されていれば、艦船や車両も「住居」に当たり、ホテルや旅館の客室のような、一時的でもある程度継続的に利用されている場合は利用者の「住居」に当たります。
また、共同住宅の各戸の室内だけではなく共用階段・通路・屋上・屋根の上まで含まれるとするのが裁判例実務です。
3、建造物侵入罪と他罪との関係
前で述べたとおり、管理者の意思に反する不法な目的で建物に侵入したときには、仮に侵入・立ち入り行為が平穏な態様で行われたとしても、建造物侵入罪が成立します。
それでは、建造物侵入罪の成否が問題となる代表的な事例について、立ち入りの目的ごとに具体的にみていきましょう。
なお、以下の目的以外で建物などに立ち入った場合でも、建造物侵入罪に問われる可能性がある点にご注意ください。
(1)窃盗目的の場合
窃盗目的で人の看守する建造物などに侵入し、他人の財物を窃取したときには、窃盗罪(刑法第235条)と建造物侵入罪の両罪が成立します。
この場合の刑罰はどうなるかというと、建造物侵入と窃盗は手段と目的の関係にあり、刑法第54条1項後段が適用される結果、
より重い法定刑が定められている窃盗罪の量刑の範囲内(10年以下の懲役または50万円以下の罰金)で処罰されます。
たとえば、深夜に空き巣が窃盗目的で被害者宅に立ち入って盗みを働いたときには、立ち入り行為について被害者の許諾が得られるとは考えにくいので、住居侵入罪と窃盗罪の両罪が成立し、より重い法定刑が定められている窃盗罪の量刑の範囲内で刑罰が下されます。
なお、窃盗目的で人の看守する建造物に侵入したものの、他人の財物を窃取するに至らなかった場合には窃盗未遂罪と建造物侵入罪が成立します。
(2)盗撮目的の場合
盗撮目的で建物に侵入した場合、建造物侵入罪が成立します。
たとえば、現金自動預け払い機利用客のカード暗証番号を盗撮する目的で行員が常駐していない銀行支店出張所に長時間滞在した場合、立ち入り行為の態様・外観が一般客と異なる点が見受けられないとしても、管理権者である銀行支店長の合理的意思に反することが明白である以上、建造物侵入罪が成立すると考えられます(最決平成19年7月2日)。
また、人の通常衣服で隠されている下着や身体を盗撮する目的で駅構内や公衆トイレなどに立ち入ったときにも、実際に盗撮行為に及ぶか否かにかかわらず、立ち入った段階で建造物侵入罪が成立します。
また、実際に盗撮行為を行った場合には各自治体において規定される迷惑防止条例にも抵触するため、両罪が成立し、重い法定刑が定められている犯罪で処断されます(建造物侵入罪と迷惑防止条例違反の罪数処理については次項を参照)。
(3)ストーカー目的の場合
被害者に対するストーカー行為を全うする目的で店舗・施設などに立ち入った場合にも建造物侵入罪が成立します。
なぜなら、立ち入り時に店舗・施設の正規の客を装っているものの、正当な目的をもって建物等に立ち入っているわけではないので、管理権者の許諾を得られないのが明らかだからです。
そして、ストーカー行為はストーカー行為等の規制等に関する法律で犯罪として定められているので、建造物侵入罪とストーカー行為についての犯罪の両罪が成立します。
この場合、より重い法定刑が定められている犯罪の量刑の範囲内で処罰されることは前に述べたとおりですが、注意が必要です。
というのも、ストーカー行為の法定刑が「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」と定められている一方(同法第18条)、建造物侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」と定められており懲役刑は建造物侵入罪の方が、罰金刑はストーカー規制法の方が重く規定されており、適用される量刑の範囲が問題となるからです。
判例によれば、重い罪(懲役刑の上限がより高い方)の罰金刑の上限が、軽い罪の罰金刑の上限より低い場合、罰金刑の上限は軽い罪の方を適用すると考えます(最判令和2年10月1日)。
つまり建造物侵入罪とストーカー規制法違反の両罪が成立するときには、「3年以下の懲役または100万円以下の罰金」の範囲内で処罰されることになります。
4、建造物侵入罪は初犯なら軽い処分で済む?
建造物侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」と定められている以上、理屈上は、建造物侵入罪を理由として有罪になると刑務所に入る可能性を否定できません。
しかし、後で述べるとおり比較的軽微な処分で終了する可能性もあるため、逮捕されたことだけをもって諦めるべきではないでしょう。
(1)建造物侵入罪だけなら処分は軽い傾向にある
建造物侵入罪で逮捕されたとしても、初犯で余罪がなければ比較的軽微な処分を期待できます。
なぜなら、刑事手続で下される処分は、前科の有無や犯行に至った経緯、余罪の有無などの事情が総合的に考慮されて決められるものであり、初犯かつ建造物侵入罪だけで立件されている状況なら、更生可能性が見込めると判断される可能性が高いからです。
建造物侵入罪のみの初犯であればいきなり執行猶予なしの実刑判決が下される可能性は低く、たとえば、以下のような比較的軽微な処分も期待できます。
- 微罪処分(事件を検察に送致せずに警察限りで処理すること)
- 不起訴処分
- 罰金刑
- 執行猶予付き判決
(2)他の罪を犯した場合は処分が重くなる可能性がある
建造物侵入罪で逮捕された経緯次第では、窃盗罪・迷惑防止条例違反などの別の罪責にも問われることもあるでしょう。
したがって、初犯でも厳しい処分が下されるおそれがあるので、少しでも有利な処分を獲得したいなら刑事手続きのステージごとに適切な防御活動に注力するべきでしょう。
5、建造物侵入罪で逮捕されたときの対処法
比較的軽微な犯罪とされる建造物侵入罪ですが、逮捕された以上は、他の罪を犯したときと同じように厳しい刑事手続が待っています。
したがって、日常生活への支障や今後の社会復帰の難易度を軽減するためには以下のような防御活動に集中して、少しでも軽微な処分を目指すべきだと考えられます。
- 早期に被害者との示談交渉をまとめる
- 捜査機関に対して反省の態度を真摯に示す
- 身元引受人を立てて更生可能性をアピールする
(1)被害者と示談をする
建造物侵入罪で逮捕されたときには、できるだけ早いタイミングで被害者との間で示談をまとめることをお勧めします。
なぜなら、告訴の取り下げや処罰感情の軽減には刑事処分を軽くする効力があるからです。
たとえば、建造物侵入罪のみで逮捕された場合には、建物の管理権者との間で示談交渉を進めましょう。
これに対して、ストーカー規制法違反のような罪も犯してしまい、他にも被害者がいる場合、建物の管理権者だけではなく、つきまとい行為の被害者などとの間でも示談を進める必要があります。
(2)反省の態度を示す
建造物侵入罪のような比較的軽微な罪で逮捕されたときには、反省の態度を示すことが重要です。
なぜなら、刑事処分の軽重は更生可能性に左右されるところ、自分の過ちを冷静に省みて真摯な姿勢で取り調べに向き合えば、再犯の可能性が低いと判断され軽い処分で済む可能性が高くなるからです。
もちろん、否認事件であれば対応は別ですが、建造物侵入罪の成否自体を争うつもりがないのなら、警察・検察官による取り調べには丁寧に対応するべきでしょう。また、謝罪文の作成なども効果的です。
(3)身元引受人を立てる
建造物侵入罪で逮捕された後、早期の身柄釈放や軽い処分を目指すのなら、身元引受人を立てると効果的です。
なぜなら、犯人の再犯可能性は身柄解放後の生活環境によって左右されるところ、親をはじめとする親族などの監護者がサポートを約束すれば更生可能性が高いと判断され軽微な処分となる可能性が高くなるからです。
したがって、逮捕後の身柄拘束期間を短縮したいなら、出来るだけ近しい人を身元引受人に立てると同時に、どのようなプランで身柄釈放後の更生生活を送るかを具体的に捜査機関に伝えるようにしましょう。
6、建造物侵入罪を犯してしまったときは弁護士に相談を
建造物侵入罪に問われる立ち入り行為をしてしまったときや、建造物侵入罪などで逮捕されたときには、すみやかに弁護士に相談することをおすすめします。
なぜなら、刑事事件の実績豊富な弁護士に相談すれば、たとえば以下のようなメリットを得られるからです。
- 身柄拘束中の被疑者の代わりに被害者との間で示談交渉を進めてくれる
- 感情的になっている被害者との間でも冷静に示談に向けて話し合ってくれる
- 微罪処分や不起訴処分、罰金刑など、なるべく軽微な刑事処分となるよう尽力してくれる
- 接見の機会を利用して身柄拘束中の不安な被疑者を励ましてくれる
- 捜査機関へのアピールに役立つような取り調べへの向き合い方をアドバイスしてくれる
建造物侵入罪だけなら比較的軽微な処分が期待できますが、迷惑防止条例違反など他の罪もセットで問われているときには効果的な防御活動が不可欠です。
身柄拘束期間が長期化したり、厳しい有罪判決が言い渡されたりすると、会社や学校への悪影響を避けられません。できるだけ早く人生を再スタートするために、弁護士の力を頼りましょう。
Q1.建造物侵入罪とは?
建造物侵入罪は、住居侵入罪や不退去罪と並んで刑法第130条において規定されている犯罪です。
正当な理由がないのに建造物などに侵入したときに建造物侵入罪が成立します。
建造物侵入罪の構成要件は以下2点です。
- 人の看守する邸宅・建造物・艦船に、
- 正当な理由がないのに侵入すること
Q2.建造物侵入罪の法定刑は
建造物侵入罪の法定刑は、「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。
また、建造物侵入罪は未遂犯も処罰対象とされます(刑法第132条)。
未遂となるのは、侵入行為を始めたが、身体の全部を建造物等の中に入れるに至らなかった場合で、具体的には塀を乗り越えようとしている最中に逮捕されたような場合です。
Q3.建造物侵入罪は初犯なら軽い処分で済む?
建造物侵入罪の法定刑は「3年以下の懲役または10万円以下の罰金」と定められている以上、理屈上は、建造物侵入罪を理由として有罪になると刑務所に入る可能性を否定できません。
①建造物侵入罪だけなら処分は軽い傾向にある
建造物侵入罪で逮捕されたとしても、初犯で余罪がなければ比較的軽微な処分を期待できます。
なぜなら、刑事手続で下される処分は、前科の有無や犯行に至った経緯、余罪の有無などの事情が総合的に考慮されて決められるものであり、初犯かつ建造物侵入罪だけで立件されている状況なら、更生可能性が見込めると判断される可能性が高いからです。
建造物侵入罪のみの初犯であればいきなり執行猶予なしの実刑判決が下される可能性は低く、たとえば、以下のような比較的軽微な処分も期待できます。
- 微罪処分(事件を検察に送致せずに警察限りで処理すること)
- 不起訴処分
- 罰金刑
- 執行猶予付き判決
②他の罪を犯した場合は処分が重くなる可能性がある
建造物侵入罪で逮捕された経緯次第では、窃盗罪・迷惑防止条例違反などの別の罪責にも問われることもあるでしょう。
したがって、初犯でも厳しい処分が下されるおそれがあるので、少しでも有利な処分を獲得したいなら刑事手続きのステージごとに適切な防御活動に注力するべきでしょう。
まとめ
建造物侵入罪は初犯なら軽い処分が期待できるものの、窃盗罪や迷惑防止条例違反などが合わせて立件されると重い処分となる可能性が高い犯罪です。
たとえば、勾留期間が長期化するだけでも会社の欠勤期間が長くなるので、会社には隠しにくくなってしまうでしょう。
したがって、建造物侵入罪に問われたときには、いかに早いタイミングで示談交渉などの防御活動に着手できるかが鍵になると考えられます。
刑事事件の経験豊富な弁護士に依頼すれば刑事手続きの段階に応じた適切なサポートが期待できるので、まずはご相談ください。