飲酒事故の被害に遭った!飲酒運転の罰則と知っておきたい7つの知識

自動車の飲酒運転での交通事故に巻き込まれてしまった…。保険会社とのやり取りなどをどう進めたらいいか分からない。

もしかしたらあなたはいまそのような状況ではないでしょうか?

昨今の飲酒運転の違反厳罰化や飲酒運転防止イベントの活発化などに伴い、飲酒事故の件数自体は減少傾向にあるようですが、今日はあまり酔っていないから大丈夫、とか、少しの距離だからという理由で飲酒運転をしてしまい、交通事故や最悪の場合死亡事故を起こしてしまう方はまだまだ後を絶ちません。

その意味においては、誰でも飲酒事故の行為は被害者になってしまう可能性がありますし、前記のような軽い気持ちから加害者になってしまうことも十分あり得ます。

ここでは、弁護士法人ベリーベストの交通事故専門チームの弁護士が、

  • 飲酒運転が過失割合や慰謝料に及ぼす影響
  • 飲酒運転で交通事故を起こしてしまった場合の罰則等
  • 飲酒による交通事故の当事者になってしまった場合に知っておくべきポイント

について説明します。

また、以下の関連記事では交通事故での被害者が損をしないための知識について解説しています。突然の交通事故に遭遇されお困りの方は、以下の記事もあわせてご参考いただければと思います。

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1、飲酒事故とは

(1)飲酒運転とは

飲酒事故は、飲酒運転で交通事故を起こしてしまった場合をいいます。

飲酒運転とは、飲酒した後に、アルコールの影響がある状況下で自動車を運転することをいいます。
道路交通法上では、飲酒運転は禁止されており、刑罰の対象とされ、酒気帯び運転と酒酔い運転に分類されています。
酒気帯び運転は、血液1ミリリットル中のアルコール濃度が0.3mg以上、または、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ml以上の状態で自動車等を運転することをいいます。

これに対し、酒酔い運転は、飲酒し、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で自動車等を運転することをいいます。
この酒気帯び運転と酒酔い運転の違いについては、少量の飲酒なら酒気帯び運転で、一定程度を超えた飲酒の場合は酒酔い運転になると思われている方も多いと思いますが、必ずしもそうとは限りません。
なぜなら、酒気帯び運転は、血液や呼気中のアルコール濃度という客観的な基準で判断されるのに対し、酒酔い運転は、「正常な運転ができないおそれがある状態」であったかどうかによって判断されるため、アルコールによる影響を受けやすいかどうか等の個人の体質によって成立するかどうかが左右される可能性があるからです。

つまり、アルコールの影響を受けやすい方であったり、普段はお酒に強い方でも体調の影響でアルコールの影響を受けやすい状況であったりした場合、少量の飲酒でも酒酔い運転が成立する可能性がある、ということになるのです。

(2)飲酒運転の危険性

飲酒により血中のアルコール濃度が上昇すると、中枢神経が麻痺することで運動機能が低下してしまい、ハンドル操作やブレーキ操作が遅れてしまうといった危険が生じることや、理性や自制心等の働きをつかさどっている大脳皮質に影響を及ぼすことで、運転が普段より乱暴になってしまう等の悪影響があることから、飲酒して運転をすることは非常に危険であると言われています。

世の中にはアルコールに強い人とそうでない人がいますが、強い人であっても、このような影響が生じることは研究によって明らかになっていることから、自分はアルコールに強いという認識がある人でも注意が必要です。

また、飲酒事故による死亡率は、飲酒なしの交通事故の場合に比べて格段に高いという研究結果もあることから、万が一、加害者になってしまったときに負わなければならない責任のことを考えると、飲酒運転は非常にリスクの高いものと言わざるを得ません。

2、飲酒事故における過失割合

(1)交通事故における過失割合の判断方法

交通事故における当事者双方の過失割合は、様々なパターン毎に、これまでの裁判例を参考にした基本的な過失割合が定められており、その基本的な過失割合をもとに、その事案における特殊事情等の有無を考慮し、特殊事情等がある場合は基本的な過失割合を修正する、という方法で判断されます。

この基本的な過失割合は、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準【全訂5版】別冊判例タイムズ38号」に、交通事故のパターンごとに記載されています。

(2)交通事故の当事者の一方が飲酒運転していた場合の過失割合

交通事故の当事者の一方が飲酒運転していた場合、前記の基本的な過失割合が修正される(飲酒運転していた方の過失が大きくなる)傾向にあるといえます。

ただ、基本的な過失割合が修正されるためには、その飲酒の影響によって車線をはみ出して走行したとか、ブレーキをかけるのが著しく遅れたなどというように、飲酒の影響による運転が交通事故の原因となっている必要があります。

単に飲酒運転をしていた、というだけでは足りないという点に注意が必要です。
極端な話をすれば、仮に飲酒運転をしていても、飲酒の影響が全くない状態と同程度の運転をしていた(と裁判所が判断した)場合には、例外的に飲酒運転をしていても基本的な過失割合が修正されないこともあり得るのです。

実際、福岡地方裁判所小倉支部平成27年11月27日判決においては、運転手に「徐行義務違反や左端走行義務違反があったと認めることはできない」とした上で、「本件事故後、当該運転手の体内からアルコールが検出されたことが認められ、当該運転手の酒気帯び運転の疑いが残るところであるが、仮にそのような事実があったとしても、上記に照らすと、それが本件事故の発生可能性に具体的な影響を及ぼしたとは考え難く、本件事故についての過失と評価するのは相当ではない」として、飲酒運転による基本的過失割合の修正が否定されています。

もちろん、このような事例はあくまで例外的なもので、一般的には、飲酒によって注意力や判断力が低下しているのが通常ですから、飲酒をしていなければ事故を回避する行動がとれた(=飲酒が事故の原因となった)と判断される場合の方が多いといえますが、飲酒運転の事実があっただけで常に過失割合が修正されるわけではない点に注意が必要です。

3、飲酒事故における慰謝料額

交通事故の慰謝料の金額は、裁判では、裁判所が、その交通事故に関する一切の事情を考慮して判断することになっています。

当事者の一方が飲酒して事故を起こしたことは、この「一切の事情」の一つとして考慮されます。
ですから、飲酒運転の事実があれば具体的にいくら慰謝料が増額されるという基準があるわけではありませんが、悪質な交通違反であることを理由に、飲酒運転でなかった場合に比べて慰謝料額が増額される傾向にあるといえます。

4、飲酒事故における保険適用の有無

(1)事故の相手方が任意保険に加入していた場合

交通事故の加害者が飲酒運転だった場合、被害者は、その加害者が加入してした任意保険から損害賠償を受けることができるのでしょうか。

この点、保険制度は、被害者救済を第一の目的としていることから、加入者が飲酒運転という法令違反を犯していても保険を適用することができ、被害者は、「対人賠償保険」や「対物賠償保険」によって、被害者が怪我を負った場合の治療費や慰謝料等の人的損害(人損)、被害者の車両の修理費等の物的損害(物損)の賠償を受けることができます。

しかし、加入者自身が受けた損害については、仮に加入者が「人身傷害保険(人身傷害特約)」や「車両保険」に入っていたとしても、保険を利用することはできません。

これは、多くの保険商品において、飲酒運転が「免責事由」(保険会社が支払いをしなくてよい事由)とされているからです。

(2)事故の相手方が任意保険に加入していなかった場合

交通事故の相手方が任意保険に加入していなかった場合、まず相手方の加入している自賠責保険に対して損害賠償請求を行うことになります。

自賠責保険は、相手方が飲酒運転をしている場合でも適用されます。

ただ、自賠責保険は、人損(治療費や休業補償、慰謝料等)にのみ適用され、物損(車両の修理費等)には適用されないため、物損については、相手方に、直接支払い請求をするしかありません。

また、人損についても、自賠責保険から受け取れるのは120万円が限度なので、発生した損害が120万円を超える場合は、やはり、相手方に直接支払い請求を行うしかありません。

なお、このような場合に、被害者自身が加入している任意保険において、「人身傷害保険(人身傷害特約)」や「無保険車傷害保険(無保険車傷害特約)」に入っている場合、被害者自身が加入している任意保険を利用して保険金を受け取ることが可能です。

5、飲酒事故に遭った際の注意点と相談先

(1)飲酒事故に遭ったときの注意点

交通事故の相手方が飲酒していたときは、必ず警察に連絡するようにしましょう。

そもそも、交通事故においては、飲酒事故でなくとも、警察に連絡することが大切です。
なぜなら、警察に連絡しないと、交通事故証明書が発行されず、保険会社に保険金の支払い請求ができなくなってしまったり、警察による実況見分が行われないため、交通事故の状況が記録されず、後に事故状況を証明することが困難になったりするからです。

また、交通事故が起こった場合には、道路交通法上、警察に報告する義務があり、これに違反すると罰則を受ける可能性もあることもその理由です。

交通事故の相手方が飲酒していた場合、飲酒運転の発覚を恐れて、相手方が、損害は支払うから警察を呼ばないで欲しいと頼んでくることが考えられますが、そのような場合でも必ず警察に連絡することが大切です。

(2)飲酒事故に遭ったときの相談先

交通事故の相手方が飲酒していた際は、過失割合や慰謝料の額に影響を及ぼします。

ただ、黙っていても過失割合が有利になったり、慰謝料額が増額されたりするわけではありません。過失割合を有利に修正してもらうためには、相手の飲酒が直接交通事故の原因となっていることを主張・立証しなければなりませんし、慰謝料についても、きちんと主張しないと、通常の相場で決まってしまう可能性があります。相手方の保険会社は少しでも損害賠償額を減らしたいのが本音ですから、飲酒事故だからといって、何もしなくても賠償額があがるというわけではありません。
ですから、きちんと過失割合の判断や慰謝料の額の算定において、相手方が飲酒していたことを考慮してもらうためにも、交通事故の示談交渉の専門家である弁護士に相談することが大切です。
また、飲酒事故の場合、相手方が重い刑事罰を受ける可能性があることから、相手方に、弁護士が刑事事件の弁護人としてついていて、その弁護士が示談の申し入れをしてくる場合も少なくありません。

そのような場合、相手方の弁護士の示談の申し入れが妥当かどうかを見極めるためにも、飲酒事故に遭われたときには、弁護士に相談されることをおすすめします。

なお、自分が加入している任意保険において弁護士特約が付いている場合は、相談等にかかる弁護士費用を保険会社が負担してくれますから、自分の加入している任意保険に弁護士特約がついているかどうかを事前に確認しておかれるとよいでしょう。

6、飲酒して交通事故を起こした場合の罰則4つ

(1)行政処分

飲酒して人身事故を起こした場合、飲酒運転による違反点数に交通事故による違反点数が加算されます(物損事故の場合は、事故による加算はありません)。

①飲酒運転による違反点数

飲酒運転自体の違反点数は下記の表のとおりです。

違反の内容

違反の点数

酒気帯び運転

 

呼気1リットル中のアルコール量
0.15mg以上0.25mg未満

13

呼気1リットル中のアルコール量
0.25mg以上

25

酒酔い運転

35

②交通事故による違反点数

飲酒運転で人身事故を起こした場合は、飲酒運転による違反点数に加えて、下記の表のとおり、被害者の負傷程度による加算の合計点数が与えられます。

違反点数が13点となると、交通違反の前歴がなくても、1発で免停となり、違反点数が15点となると、同様に交通の前歴がなくても1発で免許取り消しとなります。

点数が増えると免許の欠格期間も長くなるので注意が必要です。

被害者の負傷程度

過失(不注意)の程度

違反点数

死亡事故

運転者の一方的な過失

20

相手方にも過失があった場合

13

傷害の程度

全治3か月以上

  又は

身体に後遺障害が残ったとき

運転者の一方的な過失

13

相手方にも過失があった場合

9

全治30日以上3ヶ月未満

運転者の一方的な過失

9

相手方にも過失があった場合

6

全治15日以上30日未満

運転者の一方的な過失

6

相手方にも過失があった場合

4

全治15日未満

  又は

建造物損壊事故

運転者の一方的な過失

3

相手方にも過失があった場合

2

(2)刑事罰

また、行政処分とは別に、飲酒運転で事故を起こした場合は、まず、飲酒運転自体について、道路交通法違反として、次のような処罰を受ける可能性があります。

血液1ミリリットル中のアルコール濃度が0.3mg以上、または、呼気1リットル中のアルコール濃度が0.15ml以上の状態で自動車等を運転した場合には酒気帯び運転が成立し、飲酒し、アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態で自動車等を運転した場合は酒酔い運転が成立します。

(3)道路交通法違反の内容

法定刑

・酒気帯び運転

3年以下の懲役または50万円以下の罰金

・酒酔い運転

5年以下の懲役または100万円以下の罰金

また、人身事故を起こした場合、過失運転致死傷罪が成立します。
過失運転致死傷罪は、飲酒運転とは関係なく、過失によって人身事故を起こした場合に成立します。

なお、アルコールの影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させたと判断された場合は、過失運転致死傷罪ではなく、危険運転致死傷罪が成立する可能性があり、その場合の法定刑は非常に重いものとなります。

成立する犯罪

法定刑

過失運転致死傷罪

7年以下の懲役または100万円以下の罰金

危険運転致傷罪(被害者が負傷)

15年以下の懲役

危険運転致死罪(被害者が死亡)

1年以上の有期懲役

(4)運転者以外の罰則

①同乗者、車両提供者

道路交通法では、飲酒運転をした本人だけでなく、同乗者等も処罰される可能性があります。

運転手が飲酒していることを知って車両を提供した者、また、運転手が飲酒していることを知って運転を頼んだ者が処罰の対象です。

②提供者

また、道路交通法では、同乗者等ではなくても、運転手が運転することを知っていたのに酒類をすすめた者や、酒類を提供した飲食店等も処罰される可能性があります。

7、飲酒して交通事故を起こしてしまった場合の相談先

昨今、飲酒運転に対する世論が厳しくなってきたことや、法改正による厳罰化に伴い、飲酒して交通事故を起こしてしまった場合には、捜査機関も厳しく対応するようになってきており、場合によっては現行犯逮捕されてしまうこともあり得ます。

また、逮捕されない場合でも、起訴されてしまうと、刑罰を科されるだけでなく、前科がついてしまう等様々な不利益が生じます。

そのようなことにならないためには、飲酒をしたら運転しないこと、また、運転させないことが大切ですが、もし飲酒運転をして交通事故を起こしてしまった場合には、早急に弁護士に相談されることをおすすめします。

飲酒運転で交通事故(特に人身事故)を起こしてしまった場合、被害者との間で示談が成立しているかどうかという点が、起訴されるかどうか、また、起訴されてしまっても執行猶予がつくかどうか、といった判断に大きな影響を与えます。

刑事処分の結果が出る前に被害者との間で示談を成立させるためにも、早期に弁護士に依頼をすることが大切です。

まとめ

交通事故において運転手が飲酒して運転していたという事実は、交通事故の示談の内容にも大きな影響を与えますし、飲酒運転をした本人の行政処分や刑事処分も重くなることが予想されます。

飲酒運転に対する厳罰化が進む中、飲酒運転自体の数は減りつつあるようですが、まだまだ、ついちょっと、という気持ちから飲酒運転に及んでしまう人がいることも事実です。

通常の交通事故でも、被害者(または加害者)になってしまうとその後の対応には様々な負担が伴いますが、飲酒事故となるとその負担も大きくなることが想定されます。

ですから、被害者としてであっても、また加害者としてであっても、飲酒事故の当事者になってしまった場合は、早期に弁護士に相談されることをおすすめします。

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