雇用保険や社会保険の有無は、就職や転職の際に気になる点です。
しかし、そもそも雇用保険と社会保険は何が違うのか、どんな目的があるのか、手続き等がよくわからないという方も多いのではないでしょうか?
ここでは、
- 社会保険制度のしくみについて
- 雇用保険と社会保険の違い
- 勤務先が社会保険の手続きをしてくれない場合の対処法
等の内容について詳しくお伝えします。ご参考になれば幸いです。
目次
- 1、 雇用保険と社会保険のしくみ|社会保険の概要とは?
- 2、雇用保険と社会保険のしくみ|社会保険は社会保障制度のもと成立している
- 3、雇用保険と社会保険の違い|社会保険の5つの種類を紹介
- 4、雇用保険と社会保険の違い|狭義の社会保険(一般的な「社会保険」の定義)
- 5、雇用保険と社会保険について知る|狭義の社会保険の加入
- 6、雇用保険と社会保険について知る|労働者なのに狭義の社会保険に入っていない?!
- 7、雇用保険と社会保険について知る|適用事業所の従業員は必ず加入しなければならない?
- 8、雇用保険と社会保険について知る|106万円の壁と130万円の壁
- 9、雇用保険と社会保険について知る|社会保険に加入するメリット・デメリット
- 10、雇用保険と社会保険の違い|雇用保険の概要とは?
- 11、雇用保険・社会保険に自分が加入しているか確認する方法
- 12、雇用保険・社会保険に勤務先が加入していなかった場合の対処法と対策
- 13、雇用保険・社会保険を利用するための加入の手続き
- 14、雇用保険・社会保険の受け取り方は?
- まとめ
1、 雇用保険と社会保険のしくみ|社会保険の概要とは?
まずは「保険」とは何かを確認して行きましょう。
(1) 保険とは
保険とは、人生における様々な事故(火災、病気等)による損害を補償するため、多数者が一定の保険料を出し合い、実際に事故が発生した時にその者に保険金を与える制度です。
例えば有名なもので「生命保険」。
生命に関わるリスクの発生により金銭的な支出が生じた場合、保険に加入した多数者の保険料から、その金銭的損害をカバー(補償)します。
このように、「保険」とは、 「何かのリスクが起こった時に発生する金銭的損害」に対する「セーフティネット」 と言い換えることができると思います。
上記に例示した生命保険は「民間」の保険会社が運営する保険であり、加入について任意です。
(2) 社会保険とは
(1)の生命保険と違うのは、運営が「国(又は市区町村等の公機関)」であるということです。
加入が強制であり、入りたい人だけではありません。
人間が生きる上で皆に等しく訪れるリスクについて、一律に国がセーフティーネットを作っているわけです。
強制加入、つまり、(要件に該当する場合)保険料は必ず支払わなければなりません。
2、雇用保険と社会保険のしくみ|社会保険は社会保障制度のもと成立している
日本国憲法には、
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(25条)
と定められています。
生きている間には様々なリスクがありますから、国は、国民が「健康で文化的な最低限度の生活」を営むことができるように、セーフティネットとして、社会保障制度を用意しています。
社会保険は社会保障制度の1つであり、病気、高齢化、介護、失業、労働災害などのリスクに備える保険です。
前述の通り、社会保険は国が運営主体であり、国民は原則として強制加入になります。
3、雇用保険と社会保険の違い|社会保険の5つの種類を紹介
広い意味での社会保険(=広義の社会保険)には、
- 健康保険(病気リスクへのセーフティネット)
- 年金保険(高齢化リスクへのセーフティネット)
- 介護保険(介護リスクへのセーフティネット)
- 雇用保険(失業リスクへのセーフティネット)
- 労災保険(労働災害リスクへのセーフティネット)
の5つがあります。
このうち、健康保険、年金保険、介護保険は全国民が強制加入となっており、この3つを狭い意味での社会保険(=狭義の社会保険)と呼ぶことがあります。
また、雇用保険と労災保険は労働者が加入する保険で、合わせて労働保険と呼ばれます。
【図1】社会保険の種類
広義の社会保険 | 健康保険 | 狭義の社会保険 =全国民 |
年金保険 | ||
介護保険 | ||
雇用保険 | 労働保険 =労働者 | |
労災保険 |
4、雇用保険と社会保険の違い|狭義の社会保険(一般的な「社会保険」の定義)
一般的には、狭義の社会保険である、健康保険、年金保険、介護保険のみを「社会保険」と称する場面が多く、さらには介護保険料(40歳以上のみが負担)が健康保険料と一緒に徴収されることからも、介護保険は健康保険に含まれるような扱いとされ、「社会保険」というと、主に、健康保険と年金保険のみを指すことが多いです。
実際、企業の求人などで「社会保険あり」「社会保険完備」という場合には、健康保険と年金保険を指すことが多くなっています。
5、雇用保険と社会保険について知る|狭義の社会保険の加入
狭義の社会保険の被保険者(保険のカバーを受ける者)は当然私たち個人ですが、その加入の方法は、事業所である勤務先を通して加入することになっています(「勤務先」のない個人事業主、専業主婦・子どもなどの誰かの扶養下にある方、定年後の方などは、また別の方法となります)。
勤務先を通して加入する場合、その保険料は勤務先と折半で支払うことになります。
6、雇用保険と社会保険について知る|労働者なのに狭義の社会保険に入っていない?!
労働者(事業又は事業所に使用される者で賃金を支払われる者を言います)は、勤務先を通して狭義の社会保険に加入しますが、事業所たる勤務先がそもそも社会保険に加入していることが前提となります。
これは法律で定められており、事業所は、以下の場合には社会保険適用の申請をしなければなりません。
- 会社などの法人の事業所
- 事業主が国や地方公共団体である場合
- 常時使用の従業員が5人以上いる(一部の業種を除く)個人事業所
上記の適用事業所に該当する場合には、事業主が年金事務所に新規適用届を提出して、新規適用の手続きをしなければなりません。
新規適用の手続きをしていない会社は、未加入の事業所として、年金事務所から指導を受けることがあります。追徴金や罰則のペナルティも法定されています。
なお、社会保険の加入が義務付けられている事業所以外の場合でも、次の要件をみたしていれば、任意適用申請を行い、社会保険の適用事業所になることができます。
- 従業員の半数以上が社会保険の適用事業所となることに同意している
- 事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受けている
7、雇用保険と社会保険について知る|適用事業所の従業員は必ず加入しなければならない?
では、適用事業所の従業員は必ず狭義の社会保険に加入しなければならないのでしょうか。
保険料が給料から天引きされ、手取り額が低くなってしまうため知りたいところです。
社会保険の適用事業所の正社員は、基本的に全員加入対象になります。
そのため、適用事業所の正社員であれば基本的に加入することとなります。
また、パートやアルバイトについては、次の条件をみたす場合に、社会保険に加入する必要があります。
- 所定労働時間が週20時間以上
- 1ヶ月の賃金が8.8万円(年収106万円)以上
- 勤務期間が1年以上になる見込みがある
- 従業員501人以上の企業で働いている
- 学生でない
平成28年10月に社会保険制度が変わり、社会保険の加入対象者の範囲は従来よりも拡大され、上記のようになりました。
また、平成29年4月からは、従業員500人以下の企業で働いている場合であっても、その他の要件を満たし、かつ、社会保険に加入することについて労使の合意がなされている場合には、加入対象になりました。
そのため、これまでは社会保険の加入対象でなかった人でも、社会保険に加入しなければならないケースがあります。
8、雇用保険と社会保険について知る|106万円の壁と130万円の壁
適用事業所に勤務する正社員はもちろん、そのような事業所に勤務しかつ上記「7、」に該当する場合、パート・アルバイトであっても狭義の社会保険に加入しなければなりません。
その保険料は給与から天引きされるため、手取り額が減ります。
(1)年収いくらになると社会保険の加入対象になる?
社会保険の適用事業所で正社員として働く場合には、社会保険の加入対象になります。
一方、パートやアルバイトで働く場合には、上述のとおり、年収106万円以上になれば、社会保険の加入対象となるケースがあります。
(2)主婦の場合にはどうなる?
主婦がパートやアルバイトで働く場合、年収130万円未満であれば、夫の社会保険の扶養に入ることができるため、「130万円の壁」と言われることがあります。
現在は、パート・アルバイトでも年収106万円以上の場合には、社会保険の加入義務が生じるケースがあるため、「106万円の壁」という言葉が使われることもあります。
これは、社会保険の加入要件が、年収130万円から106万円に引き下げられたわけではありません。
年収130万円未満というのは夫の扶養に入れる基準で、年収106万円以上というのは自分が社会保険に入る基準です。
年収106万円以上の主婦でも、他の要件をみたさず、年収130万円に届かない場合には、従来どおり夫の扶養に入ることができます。
9、雇用保険と社会保険について知る|社会保険に加入するメリット・デメリット
加入すると給与の手取り額が減ってしまう社会保険ですが、まずは狭義の社会保険に加入するメリットをみてみましょう。
(1)狭義の社会保険加入のメリット
勤務先の社会保険に加入することには、次のようなメリットがあります。
①保険料の負担が軽くなる
社会保険は強制加入ですから、勤務先で社会保険(健康保険・厚生年金保険)に入れない場合には、国民健康保険・国民年金に入る必要があります。
これまでご説明してきた通り、社会保険は強制加入です。
しかし勤務先の社会保険に入れば、事業主が保険料を半分負担してくれます。
また、社会保険には扶養の制度もあるため、世帯全体でみても、保険料を抑えられるケースが多くなります。
②将来受け取れる年金額が増える
厚生年金保険に加入していれば、老後には国民年金から給付される老齢基礎年金に上乗せして、厚生年金から老齢厚生年金が給付されます。
③手厚い保障が受けられる
健康保険に加入している場合、連続する3日間を含み4日以上病気やケガで会社を欠勤し、給料が支払われない場合には、傷病手当金が支払われます。
また、出産により会社を休んで給与を受けられない場合には、出産手当金が受けられます。 厚生年金保険に加入していれば、亡くなったときに遺族に対し、遺族基礎年金のほか遺族厚生年金も支払われます。
(2)狭義の社会保険加入のデメリット
社会保険に加入すれば、毎月の保険料を給与から天引きされるため、手取り額が減ることになります。
しかし、社会保険に加入していなくても、別途国民健康保険や国民年金の保険料を支払わなければならないことに変わりはありませんし、勤務先の社会保険に入れば事業主が保険料の半分を負担してくれます。
また、社会保険に加入していることで、将来の年金受取額は増えることになります。
たとえ手取り額が減っても、社会保険に加入した方が実質的には得と考えられるでしょう。
10、雇用保険と社会保険の違い|雇用保険の概要とは?
では、次に、雇用保険についてみてみましょう。
雇用保険は広義の社会保険の1つですが、これまで述べてきた狭義の社会保険には入りません。
雇用保険は広義の社会保険の中の「労働保険」のうちの1つとなります。
(1)労働保険
労働保険である雇用保険と労災保険は、労働者(パートタイマー、アルバイト含む。)を一人でも雇用していれば、業種・規模の如何を問わず労働保険の適用事業となり、事業主は加入手続きを行い、労働保険料を納付しなければなりません(農林水産の一部の事業は除きます)。なお、保険料の負担は、雇用保険は労働者と事業者で約1:2の割合となります、労災保険は事業者が全部負担です。
もし事業主が雇用保険・労災保険の加入手続きを行っていない場合、罰則の適用を受ける可能性もあります。
(2)雇用保険の加入要件
雇用保険の適用事業に雇用される労働者は、原則として、その意志にかかわらず被保険者となります。
但し,所定労働時間が週20時間未満である方や同一の事業主に継続して31日以上雇用されることが見込まれない方は雇用保険の適用除外となります。
(3)雇用保険の給付
雇用保険は労働者の生活や雇用の安定を図るための保険です。
雇用保険の給付には、次のような種類があります。
①求職者給付
求職者給付には、
- 基本手当
- 技能習得手当
- 寄宿手当
- 傷病手当(健康保険の傷病手当と異なります。仕事を辞め、求職中の人が病気やケガで働くことができない状態が15日以上続いた場合、支給されるものです。)
の4つがあります。
このうち、基本手当が、一般に失業保険と呼ばれているものになります。
②就職促進給付
早期の再就職を支援するために給付されるもので、
- 再就職手当
- 就業促進定着手当
- 就業手当
- 常用就職支度手当
があります。
③教育訓練給付
雇用保険の被保険者が厚生労働大臣の指定する教育訓練講座を受講し修了した場合に、教育訓練施設に支払った費用の一部が支給されます。
④雇用継続給付
再雇用で賃金が減った場合や育児・介護等で雇用の継続が困難になった場合に支給が行われるもので、
- 高年齢雇用継続給付
- 育児休業給付
- 介護休業給付
があります。
11、雇用保険・社会保険に自分が加入しているか確認する方法
(1)雇用保険加入の確認方法
雇用保険に加入すると、雇用保険被保険者証が発行されます。
会社から交付を受けていなければ、会社が保管しているはずですから、確認しましょう。
会社を通したくない場合には、ハローワークへ行って「雇用保険被保険者資格取得届出確認照会票」を提出すれば確認できます。
(2)社会保険加入の確認方法
社会保険に加入していれば、毎月の給与から保険料が天引きされていますから、給与明細を見て確認する方法があります。
健康保険に加入していれば、健康保険証も発行されているはずです。
厚生年金については、年金事務所に問い合わせるか、日本年金機構から毎年届く「ねんきん定期便」でも確認できます。
12、雇用保険・社会保険に勤務先が加入していなかった場合の対処法と対策
(1)雇用保険に加入していない場合
勤務先で雇用保険の手続きが行われていない場合には、勤務先を管轄するハローワークに相談して対処してもらいましょう。
なお、雇用保険と労災保険は労働保険としてセットで加入するものですから、雇用保険未加入であれば労災保険も未加入と考えられます。
労災保険については、労働基準監督署に相談することもできます。
(2)社会保険に加入していない場合
本来社会保険に加入しなければならないのに、会社が社会保険に未加入の場合や加入の手続きを行ってくれない場合には、年金事務所に相談するようにしましょう。
13、雇用保険・社会保険を利用するための加入の手続き
雇用保険や社会保険の加入手続きは、事業主が行う必要があります。
事業主は、ハローワーク及び労働基準監督署で必要書類を提出して雇用保険・労災保険の手続きをしなければなりません。
社会保険については、事業主が年金事務所に書類を提出する必要があります。
従業員として働いている場合には、事業主に加入手続きをしてもらいましょう。
14、雇用保険・社会保険の受け取り方は?
(1)雇用保険の受給方法
雇用保険のうち主なものは失業保険と呼ばれる基本手当です。
会社を退職後、雇用保険被保険者証と離職票を持ってハローワークで手続きします。
(2)狭義の社会保険の受給方法
健康保険については、医療機関で保険証を提出して診察を受けることで、2~3割の自己負担額となります。
厚生年金については、原則65歳から老齢給付が受けられるため、通知が来たら年金事務所で受給の手続きをします。
まとめ
雇用保険と社会保険、その違いをご理解いただけたでしょうか。
雇用保険は強制加入が原則ですから、未加入である事業所は違法であるケースが多いでしょう。
一方、狭義の社会保険(健康保険・厚生年金)は、事業所によっては加入できないケースもあります。
勤務先を選ぶときには、本来加入が必要な制度に加入しているか、会社側に必要な手続きをしてもらえるかなどもチェックしておきましょう。