婚約破棄とは、結婚の約束をしたにもかかわらず、一方的にその約束を反故にして結婚を取りやめることをいいます。
いったん婚約しても、何らかのきっかけで、あるいは結婚式の日が近づくにつれて「やっぱりこの人とは結婚したくない……」という気持ちになる人も意外に多いものです。
ただ、婚約破棄をするとなると、どのような責任を負うことになるのか、手続きはどのように進めればよいのか、など、様々な悩みが出てくることでしょう。婚約を破棄することに対する罪悪感もあると思います。
そこで今回は、
- 婚約破棄でよくある理由
- 婚約破棄による費用負担や損害賠償金の相場
- トラブルにならずに婚約破棄の手続きを進める方法
などについて、弁護士が分かりやすく解説していきます。
この記事が、婚約を破棄したいとお考えの方の手助けとなれば幸いです。
目次
1、婚約破棄と婚約解消の違い
婚約破棄に似た言葉で、「婚約解消」というものもあります。
どちらも結婚の約束をなかったことにするという意味では同じですが、重要な違いがあります。
婚約破棄が結婚の約束を一方的に破るものであるのに対して、婚約解消は2人の合意によって結婚の約束を取り消すものです。
一方的に約束を破ると相手方には金銭的・精神的な損害が生じることが多いので、破った側は損害賠償をしなければならない可能性があります。それに対して、婚約解消では円満に合意が成立すれば、責任を負わないこともあります。
結婚を取りやめたいと思ったら、できる限り相手方と話し合い、合意による婚約解消を目指す方がよいでしょう。
2、婚約破棄したい実例
婚約破棄をしたいとお考えの方の中には、「このような理由で婚約を破棄してよいのだろうか」と悩んでいる方もいらっしゃることでしょう。
そこで、婚約破棄(したい)実例を取り上げて、婚約破棄のよくある理由をご紹介します。
(1)相手に原因があるケース
相手の言動や性格などに問題があり、このまま結婚しても幸せになれるとは思えないケースもあることでしょう。まずは、そんな実例をみていきましょう。
①浮気をされた
婚約中の浮気が発覚し、結婚が取りやめになるケースは少なくありません。
婚約破棄について
彼氏に浮気されました。1度目は2019年、2度目は今年の4月です。
不貞行為も証明できる写真、出会い系アプリのスクショ、女とのラインのスクショ
全て保存してあります。
①これらを使って慰謝料をとることはできますか?(不貞行為のあった女側からも取ることは可能なのでしょうか?)
②今現在同棲で婚約という状況なのですが家賃から生活費全て払っています。こちらを取り返すことはできますか。
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
状況にもよりますが、相手に浮気癖があるようなら、結婚は慎重に考えた方がよいでしょう。
②彼に借金があった
借金を抱えていることを隠したまま結婚する人も少なくありませんが、婚約中に借金問題が発覚することもあります。
婚約破棄しました。
理由は彼の借金です。
心も体もボロボロです。
もう誰かを好きになるのも怖いです。
こんな私でも幸せになれますか?
前向きになりたい。
頑張りたい。
どうすればイィですか?
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
借金の原因や金額にもよりますが、借金癖があったり、多額の負債を抱えているような場合、結婚後の生活で苦労する可能性が高いでしょう。
③暴力を振るわれた
夫婦間の暴力は離婚原因になりますが、恋人同士の間で暴力が振るわれることも少なくありません。
結婚予定の彼の暴力、婚約破棄?(長文です)
結納はまだ交わしていませんでしたが、1月末に結納、5月に結婚予定の彼がいました。
彼の不誠実なところにどこか嫌気がさしていたものの、同じ職場ということやつきあい始めてすぐに勝手につきあっていることを言いふらされたことなどから、世間体を気にして別れたい気持ちが少しはあったのでしょうが別れられずそのままずるずると上司に結婚の報告をするにまで至りました。
一ヶ月半ほど前から彼の暴力が始まり、首を絞められたこともありました。
それでも我慢していたのですが、10月30日に最後の暴力を振るわれ、あまりに痛かったため彼に救急に連れて行ってもらいました。その際、私の精神状態はおかしくなっていて泣いたり叫いたりする感じでした。
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
結婚前の段階で暴力を振るわれているようであれば、結婚後もDVが続き、エスカレートする可能性が非常に高いと考えられます。
程度にもよるかもしれませんが、暴力は危険な違法行為ですので、一般的には結婚を取りやめた方がよいでしょう。
④モラハラを受けている
身体的な暴力ではなく、言葉による暴力や嫌がらせのことをモラハラといいます。婚約者からモラハラを受けているという人もいます。
私27歳、お相手33歳。約2年のお付き合いです。
付き合って2ヶ月ごろ、四国→中国地方へ引越しし、同棲。今回のGWは私の両親へ挨拶する予定でした。
ここで問題が発生します。
両親への挨拶の2日前に喧嘩をしてしまいました。
内容は、ドライブ中に「左」と案内したのに、彼が「右」に行ってしまったことです。彼の機嫌を取り戻そうと帰り道も必死になり、私「ごめんね。今からでも○○公園に行きたいんだけどだめかな?一緒に遊びたいよ。」
彼「自分が悪くないって思ってるんでしょ?見え透いてわかる。謝ってるのも○○公園に行きたいから。心の底から謝ってないのに行かないよ。」
この後、彼より「挨拶へは行かない」「出て行け」と言われ、今は実家にいます。
※両親へは仕事が入ったと伝えています。
いつもであれば、出て行けと言われた後に謝っていましたが、”喧嘩→挨拶拒否”と短絡的な考えに呆れを感じ、謝りませんでした。
わたしが彼を怒らせなければ彼はいい人です。
ですが、私は彼を怒らせないために機嫌をとり続けねばなりません。
引用元:発言小町
身体的な暴力(DV)と同様、婚約中にモラハラを受けているようであれば、結婚後もモラハラが続き、エスカレートする可能性が高いです。
相手が心から反省して改善しようとする意思を有していないのであれば、結婚は考え直した方がよいでしょう。
⑤婚前からセックスレス
セックスレスは離婚原因にもなりますが、中には結婚する前からセックスレスだというカップルもいます。
婚約者とのセックスレス…婚約破棄できるでしょうか?
30歳女性です。長文ですみません。
1年前にお見合いで出会った彼と同棲してから3か月になりますが、今まで一度もしたことがありません。理由としては婚前交渉に対する罪悪感があるそうです。その割には子どもはほしいと言っています。
私以外の女性と付き合ったこともなく、もちろん経験もないのに結婚するなりすんなり授かれるとでも思っているのでしょうか。身近に不妊治療を受けたカップルがいるからか、現実から浮いている考えに見えてしまいます。
そのくせべたべた触ってくるし、下に手を伸ばすと拒否されるし、一体何がしたいのか?という感じで最近はもう正直うっとうしいです。
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
夫婦にとって性生活は重要な事柄であり、子作りにも影響することです。セックスレスがなかなか解消できないようであれば、結婚前に見切りをつけるのもひとつの選択肢です。
(2)相手に原因がないケース
次に、主観では相手に原因があると感じてはいても客観的には破棄原因になるほどではないとされてしまうようなケースや、自分自身に原因があるケースをみていきましょう。
①彼の収入が低い
特に女性にとって結婚相手の収入は重要な関心事かもしれません。いったんは愛し合って結婚の約束をしても、相手の収入が低ければ気が変わってしまうこともあるでしょう。
婚約破棄って訴えられますか?
28歳女です。
彼にプロポーズされて結婚の準備を進めていましたが、やっぱり彼と結婚したくないです
よくよく考えてみると、年収が普通くらいだし、もっと大企業の男性と結婚したくなりました
彼は大企業勤めでもないし、そんな人と結婚することに不安を感じました
両親からはもともと「あんた、もっと良いところに勤めてる男と結婚しなさいよ」と言いながら了承はしてくれました
しかし周りの友人を見ると旦那さまはほとんど大手企業勤めで、私だけ惨めな気持ちになりました
「彼じゃなくて、両親や友達のように私も大企業に勤めてる男性と結婚しよう」と思いました
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
愛をとるかお金をとるか、ではありませんが、結婚後に相手の収入でやりくりする生活に耐えられそうにないと思われるのであれば、結婚を考え直した方がよいのかもしれません。
②彼が忙しすぎる
相手の仕事が激務で2人の時間をあまり確保できないような場合には、結婚後の幸せな生活を思い描けないこともあるでしょう。
婚約破棄するか迷っています。8年間付き合った婚約者がいます。私27歳、相手29歳です。私関西、彼東海の遠距離です。
彼は激務で、休みは週1あるかないか、帰りは早くて0時です。もちろん有給もありません。私は彼との将来を考え、仕事を辞めて彼の元へ行き、同棲しました。が、慣れない土地で友達もいないため、すごく孤独を味わいました。
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
相手が真面目に働いているとはいえ、自分が寂しい生活に耐えられないのであれば、結婚前に関係を解消した方がお互いのためになるのかもしれません。
③婚約後に彼女の本性が見えた
交際中は相手の良い面しか見えなくても、結婚すると悪い面が見えてくることはよくあります。中には、婚約中に相手の本性が見えて、その人との結婚が嫌になるケースもあります。
入籍前ですが、婚約破棄をしようと思います。
私は男ですが、、、
お見合いで知り合い、お互いに了解して入籍前に子供も作りました、
妊娠2ヶ月目です。
婚約破棄したい理由は以下です。
・嫁が、婚約前に家事も仕事したくないと言い出して困ってる。初めは頑張ると言ってた。
・嫁の母親が、嫁の父親と、この結婚を機会に離婚して、私達に同居しようと考えてる。
しかも母親も仕事したくないと言ってる。
・嫁と同居して、一週間、何を話しかけても返事もしてくれない。自分の友達には話をするし、メールも返すが俺には何もしてこない。愛なんてない…
・とにかくワガママで、ワガママで、その母親もまたそれを上回るワガママで…もう耐えられない…
初めはこんな感じじゃなかったのに一気に風変わりした…
自殺したいぐらい今の状況が辛いです。
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
結婚後に相手の態度が豹変したとしても、通常は簡単に離婚できるものではありません。
婚約中に相手の態度が豹変したのなら、程度にもよりますが、結婚を取りやめた方が浅い傷で済むことが多いと考えられます。
④想像以上に彼女の家事スキルが低かった
多くの男性は、妻に対してそれなりに家事のスキルを求めるものです。ただ、相手の家事のスキルは一緒に生活してみないと分からないものです。婚約中に相手の家事のスキルが想像以上に低いことが分かると、結婚したくなくなることもあるでしょう。
婚約破棄を検討してます。
婚約者は、婚約してから突然に真の姿を私に見せてきました。
私は、家事しないから。あと、仕事もやめたい。もくしはもっともっと楽な仕事がいいと。
今日も実家でゴロゴロしてる婚約者。お母さんに料理を教えてもらったら?と言うと、面倒だから嫌だ。と言う。
まだ、共働きだから私は家事をしなきゃと思い、料理毎週末作ってみてる。
掃除洗濯はそんなに不安はない。
毎週スーパーへ行き、安いものを買い、料理をしてる。全ては将来のため…
本人は家事は分担だー!って言ってるが…本当に分担してやってくれるのだろうか?
私は一人で家事をする私の姿しかイメージできない…
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
このような問題についても、結婚後にもめるよりは婚約を破棄した方が浅い傷で済むケースが少なくないと考えられます。
相手に対して求めるレベルと、実際の相手のレベルにもよりますが、結婚する前に慎重に考えた方がよいでしょう。
⑤彼の実家が反対している
婚約中の2人の間には問題がなくても、どちらかの実家が結婚に反対しているというケースは少なくありません。まずは、相手の実家が反対しているという実例をみてみましょう。
婚約破棄を考えています。
先月にプロポーズをうけました。
一緒に婚約指輪を見に行き、結婚指輪も同時に決まりました。
2人の間にはとくに大きな問題はなく、同棲も1年ほど前からしている状態です。
しかし、問題は彼の御家族が私のことが嫌いだということです。わたしの作法がよくない、気遣いができない、母子家庭であることがいけない、などなにもかも許せないといわれました。
すごく礼儀などを重んじるご家庭みたいです。彼の祖父母、その娘である彼の母から嫌われています。
実際、おあいした時のわたしの手土産の包装があまりよくない状態であったり、服装は彼に合わせたつもりでしたが、ダメ出しをされてしまいました。
その後、申し訳ない気持ちもありささやかな贈り物をしたりしておりましたが、関係は修復できず、、。
また、私のことで家族間(祖母と母)で色々と揉めたそうで、「あなたとお付き合いをしてから私たちは不幸になった」と6時間ほど罵られました。わたしは土下座をし謝りましたが許しては頂けないようでした。
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
最初は反対されていても、時間をかけて相手の実家の人たちから信頼されるようになるケースも少なくありませんので、一概に婚約を破棄した方がよいとはいえません。
相手の実家からどの程度反対されているのか、それに対して自分が耐えられるのかという観点から、結婚して後悔しないかどうかをよく考えてみるべきでしょう。
⑥自分の実家が反対している
次は、自分の実家が結婚に反対している実例です。
プロポーズをされ、結婚を約束している彼がいますが、私の両親が反対をしています。理由は、公務員じゃないからだそうです。堅物の親を説得できる自信がなく、婚約破棄をするしかないと考えています。
彼には本当の理由を言うべきでしょうか?それとも、彼のことが嫌になった、などの別のことを言うべきでしょうか?
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
自分の実家が反対している場合は相手の実家から反対されている場合よりも、両親等を説得するという自分の努力で乗り越えられる可能性が高いといえます。
最終的には、どれくらい相手と結婚したいと思っているかという自分の意思と覚悟にかかっているともいえるでしょう。
⑦自身に原因がある(他に好きな人ができた)
相手には何の非もないのに、他に好きな人ができてしまい、自分の心に嘘をついて結婚することはできない、というケースもあるでしょう。
婚約破棄したけど、今は幸せな女性はいますか?
6年付き合いましたが婚約破棄をして相手を傷つけました。
慰謝料も式場のキャンセル料も私が払いました。
婚約破棄の理由は他の人が心に入ってきてしまい、どうにもならなくなってしまったからです。
たくさん悩み、泣きましたが、この先彼と結婚しても違う人を想いながら生活してしまうと思い決断しました。
こうゆう経験をしたけど、今は幸せだよ!というかたはいらっしゃいますか?
相手を傷つけて申し訳ないです…
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
相手にとっては迷惑極まりない話ですが、結婚してから「結婚相手を間違えた」といってもめるよりは、結婚前に決着をつけた方がお互いにとって傷が浅いということはいえます。その場合は、相手に誠意を尽くした上で、婚約を解消するのもひとつの選択肢となるでしょう。
⑧性格の不一致
交際中は恋心のため相手との性格の不一致に気付かないことが多いものですが、交際期間が長くなると、結婚前に性格の不一致に気付くこともあります。
付き合って8年、同棲5年目の彼氏がいて、プロポーズされて8ヶ月経ちました。
性の不一致、価値観の違いなど、一緒にいるとストレスが溜まることの方が多く、この人と結婚は違うと思いました。
昔からずっと我慢していたのですが、もう限界で、精神的にきついです。
別れ話をしたことはありますが結局なあなあになっています。
仲良い時はいいのですが、喧嘩になったり嫌なことがあると本気で嫌いと思ってしまいます。
私は情で一緒にいるのかなと思ったり、きっとそれは相手も思ってるとは思います。
引用元:YAHOO!JAPAN知恵袋
本当に性格が合わないのであれば、やはり結婚前に決着をつけた方がお互いにとってよいでしょう。
3、婚約破棄の法的性質
ここからは、婚約破棄に関する法的な問題について解説していきます。
(1)婚約破棄とは?
そもそも婚約とは、男女が結婚することをお互いに約束することであり、法律上は「契約」の一種です。婚約破棄は、この契約を一方的に解除することを意味します。
婚約して契約が成立した以上は、お互いに結婚の実現に向けて準備を進めていく義務を負うことになります。この義務を果たさなければ、契約によって負った債務を履行しない「債務不履行」に該当します。
また、不当な婚約破棄は相手の正当な権利・利益を侵害する「不法行為」にも当たります。
債務を履行しなかった者や不法行為を行った者は、相手に生じた損害を賠償する責任を負います(民法第415条1項本文、709条、710条)。
ただし、正当な理由による債務不履行では、損害賠償責任を免れます(同法第415条1項ただし書き)。
また、正当な理由による婚約破棄では、通常、不法行為は成立しません。
そのため、婚約破棄によって法的な責任を負うかどうかは、正当な理由があったかどうかにかかっています。
(2)相手に原因がある場合
婚約した2人が結婚しても円満で正常な夫婦生活を営めないような原因を相手が作った場合は、婚約を破棄する正当な理由があると認められます。
例えば、以下のような事情が相手にあれば正当な理由と認められる可能性が高いといえます。
- 浮気をした
- 暴力を振るった
- 暴言や侮辱行為をした
- 年齢、年収、職業など重大な事情について嘘をつかれていた
- 働けるのに働かず収入が激減した
- 多額の借金があることを隠していた
- 性交渉を求めても応じない
- 無断で行方をくらましたり、連絡を絶ったりした
状況によっては、むしろ婚約を破棄せざるを得なかったことについて、相手の責任を問うことも可能です。
(3)相手に原因がない場合
一方で、相手に上記のような原因がない場合は、婚約を破棄する正当な理由があるとは認められない可能性が高いといえます。例えば、以下のような事情は正当な理由とは認められないでしょう。
- 性格や価値観が合わないと思う
- 他に好きな人ができた
- もっと仕事(または家事)ができる人だと思っていた
- もっと優しい人だと思っていた
- 相手の(または自分の)親から反対されている
- なんとなく結婚したくなくなった
4、婚約破棄をする場合の費用負担・損害賠償の相場金額はいくら?
正当な理由なく婚約を破棄した場合は、結婚に向けて既に支払った(あるいは支払い義務が生じた)費用を負担したり、相手に対して損害賠償請をしなければならない可能性があります。
ここでは、どれくらいの金銭的負担がかかるのかを解説します。
(1)費用負担
婚約を破棄するときには、以下のような費用を既にどちらかが支払っているか、あるいは支払い義務が生じていることが多いでしょう。
- 結婚式・披露宴・新婚旅行などのキャンセル費用
- 新居の契約金
- 新居で使う家具・家電などの購入費用
- 仲人への謝礼金 など
婚約解消の場合であれば、これらの費用をどちらが何割負担するかを話し合って決めます。
婚約破棄の場合でも、話し合いで合意できるのであれば、負担割合を決めることが可能です。
しかし、正当な理由のない婚約破棄の場合は、破棄した側が全面的に負担しなければならないのが原則となります。
(2)慰謝料だけじゃない!損害賠償における損害の種類
正当な理由のない婚約破棄で相手に損害が生じた場合には、その損害を賠償する責任も負わなければなりません。損害の種類としては、以下のものが挙げられます。
①精神的損害
精神的損害に対する賠償金とは、慰謝料のことです。
婚約した時点で、相手はあなたと結婚して幸せな夫婦生活を送り、家庭を築いていこうという期待を抱きます。婚約という契約が成立した以上、この期待は法的に保護されます。
婚約破棄によってこの期待が裏切られることにより相手に精神的損害が発生しますので、あなたは慰謝料を支払わなければなりません。
②財産的損害
婚約破棄では、慰謝料だけでなく相手の財産的損害についても賠償しなければならないことがあります。
財産的損害は、主に物的な損害(積極損害)と逸失利益(消極損害)の2種類から成ります。
【積極損害】
積極損害とは、婚約破棄に伴って不要になった結婚の準備のための費用全般を指します。上記(1)でご紹介した「費用」のことです。
【消極損害】
一方、消極損害とは、結婚することを前提に会社を退職・転職したものの、結果的に婚約破棄となったことで本来得られていたはずの利益が得られなかった…というようなケースのことです。過去の判例では約1年分の逸失利益(=退職しなかった場合に受け取れていたはずの給与)が認められた事例もあります。
ただ、最近は昔に比べて共働きの夫婦が増え、結婚=退職の必然性も薄くなっていることから、消極損害については認められないパターンが増えていることも事実です。
(3)婚約破棄による損害賠償の相場金額
それでは、損害賠償金がどの程度の額となるのか、相場をみていきましょう。
①相手に原因がある場合
婚約破棄の原因が相手にある場合は、損害賠償金を支払う必要はありません。
むしろ、相手が浮気やDV、モラハラなどの不法行為を行った場合は、こちらから不法行為に基づく慰謝料を請求することが可能です。
慰謝料の相場は数十万円~300万円程度です。幅が広いですが、以下のような個別の事情に応じて金額が決まってきます。
【慰謝料が高くなる事情】
たとえば、
- 交際期間が長い
- 婚約破棄される側の女性が妊娠している
- 婚約破棄によって中絶を余儀なくされた
- 結婚の準備がかなり進んでいる
- 結婚準備のために会社を退職している
これらの事情に当てはまるケースでは、それだけ結婚への期待度が高い=婚約解消のダメージが大きいということで、高額な慰謝料が認められやすい傾向にあります。
【慰謝料が低くなる事情】
上記に対して、
- スピード婚(交際期間が短い)
- 両親や友人、会社の同僚などにまだ結婚の報告をしていない
- 慰謝料を請求する相手の支払い能力が低い
こういった事情がある場合、認められる慰謝料の金額も低くなりがちでしょう。
②相手に原因がない場合
婚約破棄の原因が相手にない場合は、こちらから債務不履行、あるいはさらに不法行為に基づく損害賠償金を支払わなければなりません。
財産的損害に対する賠償額については、上記(2)の解説をご参照ください。
慰謝料の相場は数十万円~300万円程度で、慰謝料が高くなる事情と低くなる事情については、上記②の解説と同様です。
5、婚約破棄による損害賠償請求の判例
ここでは、婚約破棄による損害賠償請求の可否や金額が争われた判例をいくつかご紹介します。
損害賠償請求が認められた判例も、認められなかった判例もご紹介しますので、参考になさって下さい。
(1)損害賠償請求が認められた判例
まずは、婚約破棄に正当な理由がなく、損害賠償請求が認められた判例をご紹介します。
- 慰謝料500万円が認められたケース(大阪地裁昭和58年3月8日判決)
女性が差別部落出身であることを理由に婚約を破棄された事案で、裁判所はこのような理由による婚約破棄は極めて違法性が高いと判断し、破棄した男性とその両親に対して連帯して500万円の慰謝料支払いを命じました。
- 慰謝料200万円が認められたケース(東京地裁平成29年12月4日判決)
同居期間が約3年に及び、その間、破棄された側の女性は2回にわたり妊娠し、中絶したとのことですが、慰謝料額としては相場的な200万円が認められました。
- 慰謝料50万円が認められたケース(東京地裁平成28年11月1日判決)
婚約中の女性が、他の男性と交際していた上に、少なくとも3件のデートクラブに登録していた事案です。これらの事実が発覚したことにより女性から婚約解消を申し入れたのに対して、男性から損害賠償請求をしたという事案です。
女性からの婚約解消の申し入れに正当な理由は認められませんでしたが、2人の交際期間がわずか3か月であり、結納も結婚式場の予約もしていなかったことなどから、女性が支払うべき慰謝料は50万円にとどめられました。
(2)損害賠償請求が認められなかった判例
婚約破棄に正当な理由があり、破棄された側からの損害賠償請求が認められなかった判例として、以下のものが挙げられます。
- 結婚式の10日前に相手が無断で家出をしたケース(大阪地裁昭和41年1月18日判決)
- 相手(男性)が性的不能であったケース(高松高裁昭和46年9月22日判決)
- 相手(男性)から性交渉を強要された上に侮辱されたケース(東京高裁昭和48年4月26日判決)
3つめの事案では、女性からの婚約破棄には正当な理由がある一方で、男性は婚約破棄を誘致する原因を作った上に、侮辱行為により女性に精神的苦痛を与えたとして、男性に対して50万円の慰謝料の支払いが命じられました。
6、トラブルに発展させない婚約破棄の手続き
婚約破棄をすると損害賠償請求の問題に発展しやすいので、どうしても婚約破棄をしたい場合は、できる限りトラブルを回避できるよう、慎重に手続きを進めた方がよいでしょう。
まずは、相手との合意による「婚約解消」で円満に解決することを目指しましょう。
その際には、なぜ婚約を破棄したいのかを明確にしてください。
「なんとなく結婚したくなくなった」というだけでは、相手が納得できるはずがありません。
本当にこれといった理由がない場合は仕方ありませんが、ほとんどの場合は何らかの理由があるはずです。
そして、相手に対して何が嫌だったのか、どうしてほしかったのか、自分はどうしたかったのかということを、包み隠さず伝えましょう。
本音で話し合うことにより、相手が反省して改善し、婚約破棄の必要がなくなる可能性もあります。
それでも解決できない場合は、関係を解消する方向で相手を説得することになります。
そのとき、相手を非難することはできる限り避けてください。
感情的な対立がエスカレートすると、話がまとまりにくくなります。
「私ではあなたにはついていく自信がありません」「他に良い人を探していただいた方がお互いのためになると思います」といった姿勢で話し合った方がよいでしょう。
先方の親族への報告は必須ではありませんが、トラブルを回避するためには自分で責任を持って報告を行い、お詫びの言葉を伝える方が望ましいです。
結婚式場等の予約のキャンセルは、できる限り自分で行ってください。
相手に任せておくと確実にキャンセルをしてもらえるとは限らず、余分な費用が発生するおそれがあるからです。
婚約指輪や結納金を受け取っている場合は、基本的にはすべて相手に返すべきです。
ただし、婚約破棄の原因が相手にある場合は、婚約指輪や結納金を慰謝料に充てることも考えられます。
その場合でも、必ずしも自分の希望どおりに慰謝料をもらえるとは限りませんので、損害賠償請求の話し合いや裁判が終了して解決するまでは、消費せずに取っておくことが大切です。
7、迷うなら結婚はストップ!婚約破棄より離婚の方が重い
本記事をここまでお読みになられても、婚約破棄をした方がよいのかどうかで迷われている方は多いことと思います。
一般論としてですが、迷うようならその結婚はやめておいた方がよいでしょう。
既に何度かご説明しましたが、結婚後の幸せな生活が思い描けないのであれば、結婚前に関係を解消した方がお互いに浅い傷で済むはずです。
日本では「法律婚」(婚姻届を提出し、法律上の夫婦となった状態のこと)は厚く保護されているため、いったん結婚すると簡単に離婚できるとは限りません。
「やっぱり嫌になりました」という理由では離婚できないのです。
しかし、婚約破棄はどのような理由でも、損害賠償の問題が発生することは別として、できないことはありません。
納得できない相手と結婚し、生涯つまらない結婚生活を送らなければない可能性があることを考えれば、多少の損害賠償金を支払ってでも、納得のいく人生を追及する方が賢明ではないでしょうか。
相手に原因がある場合には、あなたから損害賠償請求をすることができます。
闇雲に婚約破棄をおすすめするものではありませんが、結婚前に今一度、本当に後悔しないかをよく考え、迷うようなら婚約破棄を視野に入れた方がよいでしょう。
8、婚約破棄でお悩みの方は弁護士へご相談ください
婚約破棄をすべきかどうか、損害賠償はどうなるのか……このような悩みを抱えていても、一人で戦う必要はありません。そんなときは、弁護士に相談してみることをおすすめします。
相談するだけでも、その婚約破棄に正当な理由があるのかどうか、損害賠償金はもらえるのか、あるいは支払う必要があるのか、その金額はどれくらいになるのか……等、様々な悩みについて専門的なアドバイスが得られます。
婚約破棄をすることになった場合、弁護士に依頼すれば、あなたに代わって相手やその親族等に対応してもらうこともできます。弁護士が冷静かつ論理的に相手側と話し合うことによって、最善の形で解決することも期待できるでしょう。
損害賠償請求の裁判に発展した場合にも、証拠の収集から裁判所への出廷、主張・立証活動まで、全面的に弁護士のサポートが受けられます。
ただでさえ婚約破棄という重い悩みを抱えているのですから、弁護士を味方につけて、一緒に戦っていくことにしてはいかがでしょうか。
まとめ
婚約破棄をする場合、その原因がどちらにあるかという点が損害賠償の問題に大きな影響を及ぼします。
婚約破棄に正当な理由がない場合は損害賠償金を支払わなければならない可能性が高いですが、そうであっても、納得できない結婚は避けた方が賢明でしょう。
その場合には、弁護士のサポートを受けることで支払額をできる限り抑えたり、場合によって支払いを免除してもらえる可能性もあります。
婚約破棄の悩みを抱えてしまったときは、一人で抱え込まず弁護士に相談してみましょう。