今回の「同一労働同一賃金」において、一番大きな課題とされたのが実は「派遣労働者」の問題でした。
派遣労働者については次のような事情から通常の労働者と比較して同一労働同一賃金のための仕組み作りが複雑になる上、会社側で積極的な待遇改善を図る動機にも乏しかったからです。
①仕組みの複雑さ=雇用する事業主と指揮命令する事業主が異なる
雇用主(賃金の支払者)=派遣会社(派遣元)
実際の勤務先(指揮命令を受ける相手)=派遣先会社
②待遇改善の不十分さ
派遣社員は雇用の一次的調整弁とみなされ、待遇改善やキャリア形成が疎かにされがち
政府は、今回の同一労働同一賃金の制度で、派遣労働者についてはパートタイム労働者や有期労働者以上に様々な配慮を行い、不合理な待遇差の是正に積極的に取り組んでいます。
この記事では、その内容をご紹介します。
ご参考になれば幸いです。
同一労働同一賃金について知りたい方は以下の関連記事もご覧ください。
目次
1、派遣でも「同一労働同一賃金」を求めていいの?
「私は派遣社員なのに、正社員と同じような待遇を求めて良いのでしょうか。」
「求めて良い」どころか「求めるべき」なのです。
有期やパート、派遣などの非正規雇用労働者すべてについて、正社員との不合理な待遇差の解消を目指すのが「同一労働同一賃金」です。
いわゆる「正規」と「非正規」の不合理な格差は、非正規労働者のやる気をそぐものです。正規と非正規の理由なき格差を埋めていけば、非正規労働者にも自分の能力を評価されているという納得感が生じ、働く意欲が増し、労働生産性が向上します。その点、有期もパートも派遣社員も、全く同じなのです。
2、そもそも「同一労働同一賃金」とは
同一労働同一賃金とは、簡単にいうと「同じ労働には同じ賃金(待遇)を与えなさい」という制度です。
では、「同じ賃金(待遇)」とは、具体的にどういうことでしょうか。
具体的には、次の項目について同じにしなさい(不合理な差を設けることは許されない)ということです。
- 基本給
- 賞与
- 各種手当
- 福利厚生、教育訓練など
各項目についての詳細は、こちらの記事をご覧ください。
3、同一労働同一賃金における派遣の特殊性~雇用と指揮命令の事業主が異なること
派遣社員は、前述の通り、雇用する事業主と指揮命令する事業主が異なります。
雇用主(賃金の支払い者)=派遣会社
実際の勤務先(指揮命令を受ける相手)=派遣先会社
(参考)労働者派遣の仕組み
(出典)厚生労働省「派遣労働者の皆様へ派遣で働くときに特に知っておきたいこと
(1)派遣会社と派遣先会社が負担する同一労働同一賃金の義務
パートタイム労働者や有期労働者では、勤務先は、賃金や福利厚生、教育機会などを公平に扱う義務がありましたが、派遣の場合、どちらの会社にどういう義務があるのでしょうか。
以下、確認していきます。
①賃金など基本的な待遇=派遣会社
賃金関係(基本待遇)に関しては、派遣会社が対応します。賃金を支払うのは派遣会社だからです。
具体的な決め方は、派遣先の待遇に合わせる方法(「派遣先均等・均衡方式」)と、同種同業の一般労働者の待遇を考慮して労使協定で決める方法(「労使協定方式」)の二通りがあります。
詳細は次の(2)で解説します。
②派遣先での教育訓練・福利厚生=派遣先会社
派遣先会社では、これらについて、派遣社員にも自社の労働者と同様の待遇を行うことが求められます。
(2)派遣会社が行う基本的な待遇には2つの方式がある
派遣会社では、賃金等の基本的な待遇を決めます。
その方法が二通りあります。
①派遣先均等・均衡方式(労働者派遣法第30条の3)
派遣先の正社員との均等・均衡待遇をはかるというやり方です。
派遣社員が実際に働いているのは派遣先ですから、一見わかりやすく見えます。
しかし、派遣社員の賃金を払うのは派遣会社ですので、派遣先会社から賃金などのデータをもらわないと、派遣会社として待遇を決定できません。
しかも、派遣社員は現在の派遣先でなく、別の派遣先で勤務するようになることもあるでしょう。
派遣先が変わったら、そのたびに新しい派遣先から賃金データをもらわないといけませんし、新しい派遣先の賃金水準次第では、労働者には何の落ち度もないのに減給になる事態も生じうる、という問題点があります。
②労使協定方式(労働者派遣法第30条の4)
こちらは、派遣会社と派遣会社に雇用される労働者との間で労使協定を結んで、ふさわしい待遇を確保しようというものです。
その場合には「同地域の同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」を参考にして、待遇を決める仕組みになっています。
実際には、この労使協定方式が主流になるでしょう。本稿では、「②労使協定方式」を中心に説明します。
詳細は後述しますが、労使協定では、概ね次のような事項を定める必要があります。
- 賃金額が同種の業務の一般労働者の賃金水準の平均額以上であること
- 職務の内容等が向上した場合には改善されること
- 職務の内容等を公正に評価して賃金を決定すること
- 賃金以外の待遇については、派遣会社の通常の労働者と不合理な相違がないこと
(例えば、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有休保障, 病気休職、法定外休暇等) - 段階的体系的な教育訓練が実施されること
なお、①派遣先均等・均衡方式は、考え方や対応方法としてはパート・有期と同様の問題であり、次の記事を参考にしていただければと思います。
「同一労働同一賃金」パート・アルバイト・有期雇用労働者はここに注目」
③一つの派遣会社で2つの方式が併存することもある
一つの派遣会社の中でも様々なタイプの派遣社員がいることもあることから、ある派遣社員には「派遣先均等・均衡方式」を適用し、別のある派遣社員には「労使協定方式」を適用することも可能とされています。
もっとも、派遣労働者に不利益となる恣意的な運用は避ける必要があります。
派遣労働者の職務の内容や雇用契約期間等を考慮した上で、それぞれの方式の対象労働者の範囲を明確に定めることが重要です。
なお、「労使協定方式」については、対象労働者の範囲は労使協定で明確に定めることが求められています。
(3)派遣先会社が派遣労働者に対して対応すべき事項(労働者派遣法第40条)
派遣先の会社でも、「教育訓練・福利厚生」等については、派遣先で直接雇用されている労働者などと同様の取り扱いを行う必要があります。
このことは「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」いずれの場合も共通です。
派遣先で提供される教育訓練や福利厚生は労働条件の一部であり、派遣社員についても自社労働者と同様に取り扱われるべき事項だからです。
①教育訓練
「自社社員に対する業務遂行のための教育訓練」は、派遣労働者にも実施されなければなりません。
もっとも、派遣会社で実施可能な教育訓練は、この限りではありません。
例えば、基本的な礼儀作法とかパソコンの使い方などについては、派遣会社で教育が行われるのが通常でしょう。
そうではなく、派遣先会社での固有の業務ルール、機器類の使い方、マニュアルなどの教育は、派遣先の会社で行うべきものです。
②福利厚生
- 派遣先の会社で自社の社員に利用させている食堂・休憩室・更衣室の利用の機会の付与
- 自社の社員のために設置運営している物品販売所、病院、診療所、浴場、理髪室、保育所、図書館、講堂、娯楽室、運動場、体育館、保養施設などの施設の利用に関する便宜の供与
4、派遣の同一労働同一賃金で労使協定方式における注意点その1(同業界の賃金水準を下回らないこと)
労使協定方式で一番のポイントになるのは、賃金が「同地域・同種業務・同等の能力経験を有する一般労働者」と同等以上であること、という要件でしょう。
厚生労働省の「派遣労働者の同一労働同一賃金について」ポータルサイトにて、賃金水準が示されています。その一部を示しながらご説明します。
(1)基本的な要件「一般賃金と同等以上」「職務経験等の向上により改善されること」
労使協定方式により対象となる派遣社員の賃金を決定する際には,次の2つの要件を満たさなければなりません。
①同種業務の一般労働者の平均的な賃金額以上であること
②職務の内容等が向上した場合に改善されるものであること
(2)具体的な算出方法
計算の仕方については様々な注意事項があります。代表的なものをお示しします。
厚生労働省職業安定局長から毎年6、7月頃に発出される通達(以下、「局長通知」といいます。)により「同種同業の一般労働者の平均賃金額」及び「地域指数(地域ごとの換算指数)」が示されます。
この局長通知に沿って次のように①一般基本給・賞与、②一般通勤手当、③一般退職金を計算し、計算結果を参考に労使協議で自社の実情に合わせて賃金を決定することになります。
①一般基本給・賞与
【計算式】
(イ)一般労働者の職種別の勤続0年目の基本給・賞与等
×(ロ)能力・経験調整指数
×(ハ)地域指数
【具体例(詳細は後述)】
百貨店店員で勤続3年目の一般労働者に相当する能力・経験を有している人で、東京で勤務している場合=「1,489円」
(イ)一般労働者職種別の基本給・賞与等の基準値(賃金構造基本統計調査)=1,004円
×(ロ)3年目の能力・経験調整指数=1,300円(実際にはテーブルで示されています)
×(ハ)地域指数=114.5
=1,489円
「一般労働者の基本給・賞与の水準」は、「賃金構造基本統計調査」と「職業安定業務統計」の賃金水準を基に、一般労働者の所定内給与(基本給等)と特別給与(賞与)の合計額を時給に換算した形で、職種ごとに示されます。
(基礎となる上記2つの調査・統計にはそれぞれ特色があり、どちらを用いるかは労使で協議することになります。)
(A)第一ステップ
「令和元年の「賃金構造基本統計調査」による職種別平均賃金(時給換算)」を用いる場合
(無期・フルタイムの労働者につき、(所定内給与+特別給与÷12)÷所定内労働時間で時給換算)
能力・経験については、1年から20年まで表のように間を空けて数字が示されています。
実際の勤続年数ではなく、派遣労働者が同一の職種の一般の労働者の勤続何年目に当たる能力・経験を有しているかを、労使で議論して決める必要があります。
(職種別平均賃金の一例)
基準値 (イ) | 基準値に能力・経験調整指数(ロ)を乗じた値 | ||||||
1年 | 2年 | 3年 | 5年 | 10年 | 20年 | ||
401百貨店店員 | 1,004 | 1,173 | 1,259 | 1,300 | 1,373 | 1,580 | 1,976 |
402 販売店員(百貨店店員を除く。) | 1,009 | 1,179 | 1,265 | 1,307 | 1,380 | 1,588 | 1,986 |
403 スーパー店チェッカー | 858 | 1,002 | 1,076 | 1,111 | 1,174 | 1,350 | 1,689 |
(B)第2ステップ
上記は全国平均の数字なので、地域指数をかけてその地域の一般労働者の賃金を計算します。
これにより、「一般基本給・賞与」が算出される事になります。
令和元年度職業安定業務統計による地域指数の例(ハ)
| 都道府県別地域指数 |
全国平均 | 100.0 |
埼玉 | 105.5 |
千葉 | 105.5 |
東京 | 114.5 |
神奈川 | 109.1 |
前述の通り、例えば、百貨店店員で3年目に該当する人で、東京で勤務している場合。
1,300円×114.5=1,489円となります。
②一般通勤手当
通勤手当を定額支給する場合は、局長通知で示される一般通勤手当の額を使用します。(令和2年度の一般通勤手当の額は、1時間あたり72 円です。)
派遣労働者の通勤手当を実費支給する場合は、派遣労働者の通勤手当の実費を一般通勤手当とみなします。
③一般退職金
一般退職金と派遣労働者の退職金を比較する方法は3つあり、選択した比較方法により一般退職金を確認します。以下に概要を示します。
1.退職金制度の方法をとる場合
局長通知で示される統計を参考にします。
2.退職金前払いの方法をとる場合(すなわち基本給時給に退職金前払いにみあった金額を上乗せする場合
局長通知で示される前払い退職金費用水準を参考にします。
令和2年度の前払い退職金費用水準として示された数字は、「一般基本給・賞与の6%」です。
前述の「百貨店店員で3年目に該当する人で、東京で勤務している場合=「1,489円」ならば、退職金前払い分の6%を上乗せして1,489円×1.06=1,578円となります。
3.中小企業退職金共済制度等への加入の方法をとる場合
これも局長通知で掛け金水準が示されます。令和2年度の掛け金水準として示された数字は、「一般基本給・賞与の6%」です
(上記詳細については、「派遣マニュアル」82~87頁参照)
5、派遣の同一労働同一賃金で労使協定方式をとる場合の注意点その2(労使協定の適切な定め方)
派遣会社は、適切な労使協定を締結するために、過半数労働組合又は過半数代表者(過半数労働組合がない場合)と協議し、労使協定を締結します。そして、その内容は労働者に周知しなければなりません。
(1)過半数代表者選出のための5つのポイント
労使協定方式は、過半数代表者などと派遣元事業主との間で労使協定を書面で締結することが必要です。
ただし、過半数代表者が適切な選出手続きを経ていない場合には、その者が労働者代表となって協定を締結しても、その協定は無効となり、派遣先均等・均衡方式が適用されます。
①過半数代表者となることができる労働者には一定の制限があります。
過半数代表者となれるのは、「管理監督者」(労働基準法第41条第2号)でない労働者です。
部長、工場長など、労働条件の決定その他の労務管理について経営者と一体的な立場にある人は、過半数代表者になれません。
なお、派遣労働者についての労使協定なので「派遣労働者から選ばないといけない。」と思ってる人もおられますが、その必要はありません。
派遣労働者のことをよく考えて会社と交渉してくれる人であれば、例えば本社の正社員の方が選任されても構わないのです。
但し、選任の手続き自体は、派遣労働者からも過半数代表者を選出することが可能なやり方でなければいけません。
②選出の適正な手続きを取ること
派遣労働者の同一労働同一賃金の労使協定を締結するための「過半数代表者」を選任するという目的を明らかにした上で、民主的な手続きで選任します。
会社が勝手に過半数代表者を指名する事はできません。
例えば、会社の「親睦会」の代表等を会社が労働者代表に指名する。といったやり方は許されません。
要するに「会社にとって都合の良い人を会社が勝手に選ぶ」ということは許されないのです。
選出の方法は特に決められておらず、投票、挙手、話し合い、持ち回り会議でも構いません。派遣労働者も含めてすべての労働者が手続に参加できるようにします。
派遣労働者は通常、それぞれの派遣先で勤務していますので、派遣会社は、離れていても労働者が確実に投票に参加できるよう配慮しなければなりません。
例えば、社内ネットを使用する、あるいは給与明細に案内を同封(必ず目にする方法)など、公式に代表者を選出できる機会を設けることが求められます。
③メールの場合の注意点
過半数代表者選任についてメールで通知し、「返信がなければ信任したとみなす」という扱いは許されません。
「返信がなかった労働者について、電話や訪問等により、直接意見を確認する等の措置を講じるべき」とされています。
(労使協定方式に関するQ&A【第3集】 令和2年 10 月 21 日公表問1の9)
④派遣労働者の意思の反映
過半数代表者の選任は派遣労働者にとって、派遣会社との意見交換の格好の機会です。
投票などとあわせて、派遣労働者が意見や希望を提出して過半数代表者から会社に伝えてもらう仕組みなどにも対応していくべきこととされています。
⑤派遣会社には過半数代表者の活動への配慮が求められる
派遣会社は、過半数代表者が労働者の意見集約などを行うために必要な事務機器や事務スペースを提供するなどの配慮をしなければなりません。
(参考)過半数代表者の適切な選出手続きを~選出するにあたっての5つのポイントをご紹介します~
(2)過半数代表者に選ばれた人の注意
過半数代表者に選ばれた人がしなければならないことについて、「過半数代表者に選ばれた皆さまへ」というリーフレットに詳しい説明があります。
主な内容は次の通りです。
①手続き面などを確認する
前述(1)で記載の通りです。
「過半数代表者の選定手続きは適切でしたか?」
「派遣労働者の意思は反映されていますか?」
「過半数代表者が事務を円滑に遂行できるよう、派遣会社は配慮していますか?」
②協定の中身を確認する
前述「4」でご説明した賃金等の待遇の決定の仕方が適切かどうかを確認します。
「労使協定の対象となる派遣労働者の範囲は適切ですか?」
協定の対象となる派遣労働者の範囲を定める際には、職種(一般事務、エンジニアなど)や労働契約期間(有期、無期)などといった客観的な基準が必要です。
賃金の高い労働者だけに絞るとか、性別、国籍などで区別する事は許されません。
前述の通り、一つの派遣会社で「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の2つの方式が併存することもあり得ます。
専門的な知識を持ち、特定の会社に長期勤続が予定される人なら派遣先均等・均衡方式がふさわしいかもしれません。
一方で、特定の技量を持って様々な派遣先で働くことが予定されている人(プログラマー等が一例)ならば、労使協定方式の方がふさわしいでしょう。
労使協定方式を取るとしても、職種ごとに書き分けて定めるということも考えられます。
プログラマーに特化した協定、販売スタッフに特化した協定、などということもありうるでしょう。
それぞれの協定の対象とする派遣労働者の範囲を明確に定める必要があります。
「職種の選択は適切ですか。」
比較対象となる一般労働者について、協定対象となる派遣労働者の業務と最も近いものかどうかをチェックします。
例えば、選択された統計でふさわしい職種がない場合は、別の公的統計を用いるべきではないか、といったことも検討する必要が出てくるでしょう。
「通勤手当の支払い方法について確認しましたか?」
通勤手当の支払い方法は「実費支給」、「固定額(時給換算で72円以上)を支給する」などの方法があります。派遣元事業主がどのような方法を選択したか確認します。
「能力・経験調整指数の当てはめは適切ですか?」
能力・経験調整指数は、協定対象派遣労働者の能力および経験を踏まえて、一般の労働者の勤続何年目相当に該当するかを考慮し適切なものを選択します。
例えば同じプログラマーでも、能力経験の差により、上級、中級、初級と分かれるなら、たとえ派遣初年度でも、上級者は一般労働者10年目、中級者は3年目、初級者は0年目の賃金がふさわしい、といった検討です。
「一般賃金額と対象従業員の賃金額が同等以上となっていますか?」
協定対象派遣労働者のこれまでの賃金の額が一般賃金の額を上回るものとなっている場合に、一般賃金の額の水準に引き下げるなど、賃金を引き下げていないか、という点なども確認しましょう。
同一労働同一賃金の制度はあくまでも派遣労働者の待遇改善が目的であり、このような待遇引き下げは許されません。
「昇給規定などが定められていますか?」
職務の内容に密接に関連して支払われる賃金は、派遣労働者の職務内容、成果、意欲、能力・経験等、その他の就業の実態に関する事項の向上があれば改善されなければなりません。
その決め方は労使交渉に委ねられていますが、派遣労働者を実質的に昇給させないとか、恣意的な運用になっていないかなどを確認する必要があります。
「退職金について、どの方法を選択したか確認しましたか?」
前述「4」(2)③で三つの方式を示しています。退職金制度による場合は局長通知による一般労働者の退職手当と同額以上、退職金前払いや中退共に加入する場合は基本給・賞与・手当等の額の6%以上になっていること、などです。
「その他」
派遣労働者の公正な評価が行われていること。
協定対象の派遣労働者の範囲を一部に留める場合にはその合理的な理由があること。
などについて確認する必要があります。
6、派遣の同一労働同一賃金における労使協定の具体的なイメージ
労使協定の具体的なイメージは、派遣労働者の同一労働同一賃金についてポータルサイトに掲載されています。
また、「派遣マニュアル」98~100頁にも掲載されています。
労使協定イメージの一部分を抜粋してご紹介します。
【労働者派遣法第30条の4第1項の規定に基づく労使協定(イメージ)】 ○○人材サービス株式会社(以下「甲」という。)と○○人材サービス労働組合(以下「乙」という。)は、労働者派遣法第30条の4第1項の規定に関し、次のとおり協定する。 (対象となる派遣労働者の範囲) 第1条 本協定は、派遣先でプログラマーの業務に従事する従業員(以下「対象従業員」という。)に適用する。 2 対象従業員については、派遣先が変更される頻度が高いことから、中長期的なキャリア形成を行い所得の不安定化を防ぐ等のため、本労使協定の対象とする。 3 甲は、対象従業員について、一の労働契約の契約期間中に、特段の事情がない限り、本協定の適用を除外しないものとする。 |
7、トラブルの防止と解決方法
以上の通り、派遣労働者についての同一労働同一賃金の適用は、相当に複雑です。
そのため、派遣労働者を守るべく様々な配慮が行われています。
(1)派遣会社には厳格な説明義務が課される
今回の法改正で、派遣会社での派遣労働者への待遇に関する説明義務が強化されています。
①雇い入れ時と派遣時の説明義務の強化
派遣会社は、派遣労働者の雇い入れ時、及び派遣時の2つの時点で、一定の事項を説明しなければなりません。
これまでも労働条件の一定の事項を明示する義務がありましたが、これに加え、同一労働同一賃金すなわち「不合理な待遇差解消のための措置」の内容を説明しなければないとされました。
説明すべき事項として新たに規定された事項は、次の図表 1–7 のうち、四角い赤枠で囲った部分です。それ以外は従来からの説明事項です。
(出典)厚生労働省
不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~改正労働者派遣法への対応~
(以下、「派遣マニュアル」)
②派遣労働者からの求めにより説明すべき事項
【労使協定方式】の場合、派遣労働者が求めれば派遣会社は次の説明を行わなければなりません。説明を求めたことを理由に派遣労働者に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
◎ 賃金が、次の内容に基づき決定されていること
- 派遣労働者が従事する業務と同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金の額と同等以上であるものとして労使協定に定めたもの
- 労使協定に定めた公正な評価
◎ 待遇(賃金などを除く)が派遣元に雇用される通常の労働者(派遣労働者を除く)
との間で不合理な相違がなく決定されていることなど
(参考)派遣で働く皆さまへ
(2)裁判外紛争解決手続(行政ADR)の規定の整備
派遣労働者と派遣会社や派遣先の間で、次の事項についてトラブルとなった場合には、「都道府県労働局長による助言・指導・勧告」や「紛争調整委員会による調停」を求めることができます。
無料で利用でき、調停等の内容については秘密が保たれます。
これらを求めたことを理由とした不利益な取扱いは禁止されています。
【助言・指導・勧告や調停を求めることができる事項】
<派遣会社が講ずべき措置>
① 派遣先の通常の労働者との不合理な待遇差、差別的取扱いの禁止
② 労使協定に基づく待遇の決定
③ 雇入れ時・派遣時の明示・説明
④ 派遣労働者の求めに応じた説明と説明を求めたことによる不利益取扱いの禁止
<派遣先が講ずべき措置>
① 業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練の実施
② 食堂、休憩室、更衣室等の利用の機会の付与
(参考)派遣で働く皆さまへ
まとめ
派遣労働者についても同一労働同一賃金は適用されます。むしろ今回の制度の大きな目玉です。
しかし、これまで述べたように法律上は派遣会社、派遣先それぞれに義務が課されるものの、派遣労働者が自ら交渉して問題を解決することは実際には難しいでしょう。
そもそも複雑な制度の仕組みを理解すること自体が困難を極めるものと思われます。
ADR などの仕組みが整えられても、それを活用することも容易ではないでしょう。
ベリーベスト法律事務所では、同一労働同一賃金に関して、働く人に役立つアドバイスや会社との交渉を積極的にお引き受けしていきます。
とりわけ派遣労働者の皆様については、労使協定を結ぶところからぜひ弁護士のアドバイスを受けてください。
制度のスタートから専門的なアドバイスを受けることできっとあなたの未来が切り開かれていくでしょう。
(参考資料)「派遣先均等・均衡方式」「労使協定方式」の図解・比較表
①派遣先均等・均衡方式
②労使協定方式
③「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の概要と判断基準
(出典)厚生労働省の以下資料
①②:「派遣で働く皆さまへ」
③: 「派遣マニュアル」