強制認知をご存知ですか?
交際中の男性との間に子どもができたにもかかわらず、男性が結婚も認知も拒否している場合に採ることのできる法的手段です。
この記事では、強制認知の概要や具体的な手続きについて詳しく解説します。さらに、強制認知を求める際の条件や注意点、そしてその効果についてもご紹介します。強制認知に関わる法的手段や社会的な背景についても触れながら、読者の皆さんに理解を深めていただけるよう努めます。
強制認知についての疑問や関心をお持ちの方は必見の内容となっておりますので、ぜひご一読ください。
目次
1、強制認知とは
まず強制認知の制度について説明します。
強制認知とは、父の意思に反して子が認知を求める場合ですが、手続きとして
- 調停を経る必要がある
- 訴えによる必要がある
という特徴があります。すなわち、
①父が認知をしてくれない場合には、まずは家庭裁判所における認知調停を行い、なぜ父が認知をしないのか、どうしたら認知をしてくれるのか等話し合いを行う必要がある
とされています。それでも父が認知を行ってくれない場合には、
②訴えによって認知を求める
という必要があるのです。
2、認知とは?認知の効果について
では、そもそも認知とはどういう制度なのでしょうか。
婚姻中に妻が懐胎した子供は、夫の子と推定されます(民法772条1項。この規定を「嫡出推定」といいます。)。
婚姻関係にある男女の間で妊娠し、生まれた子は、生まれた時から法律上父がいる状態ですが、婚姻関係にない女性から生まれた子供(婚外子)は、嫡出推定が及ばないため、当然、法律上の父がいません。
そのため、このような婚外子と法律上の父子関係を設定するには一定の行為が必要となり、その行為を「認知」というのです(民法779条)。
なお、法律上は、母子関係の設定についても認知が必要としていますが、最高裁は、分娩という事実によって母は明らかだから、認知の必要がないとしています(婚外子であっても、生まれた時に法律上の母は当然いることになります)。
したがって、本ページでは、今後、単に認知といった場合は、父子関係を設定するものを指すものとします。
3、認知の種類
このような認知ですが、2つの種類が存在します。上で解説した「強制認知」と、「任意認知」です。
任意認知は、名前のとおり、父となる者が自発的に認知届を出す場合です。
それに対して、強制認知とは、任意に認知をしてもらえない場合に、父の意思に関わらず、子から認知を強制する場合です。
任意認知の制度があるのに、なぜ強制認知が設けられているのでしょうか。
任意認知の制度しか存在しないと、父が認知を拒みつづけた場合、それがいかに不合理な理由であっても、父の意思次第で父のいない子供が生じてしまいます。
このような父のわがままによって婚外子の福祉が害されるのを防ぐために強制認知の制度が設けられたのです。
4、強制認知のメリットとデメリット
では、父が任意認知に応じてくれない場合に、常に強制認知にまで踏み切るべきなのでしょうか。メリットとデメリットを比べてみましょう。
(1)メリット
なんといっても、強制認知によって子供は法律上の父を得ることができます。法律上の親子関係が生じると、父は、子供に対して扶養義務を負いますし、父に万が一のことがあった際は、子は父の相続人として、遺産を相続することができます。
(2)デメリット
一方で、強制認知には、3でみたように調停や裁判という手続きを行う必要がありますから、認知までに時間も費用もかかります。特に裁判になった場合には自分で行うには限界があるでしょうから弁護士を頼む必要があるでしょう。
5、このような場合には強制認知の手続きを!
次のような場合には、強制認知の手続きを取った方がいいでしょう
(1)養育費をもらいたい場合
いくら生物学上の父だといっても、法律上の父子関係がないのであれば、子供に対する扶養義務を負いません。したがって、認知をしてもらえない場合は、任意に支払ってもらえない限り養育費用を負担してもらえないのです。
そのため、どうしても父に対して養育費の支払いを求めたい場合には、強制認知の手続きをとって、法律上の親子関係を設定する必要があります。
(2)父の財産を相続したい
また、法律上の親子関係がないと、父の財産を相続することができません。したがって、たとえば、今のところ養育費は払ってもらっているが、父に万が一のことがあったら、経済的なあてがなくなるといったような場合には、強制認知によって父子関係を生じさせておく必要があると言えるでしょう。
6、認知を求める調停の方法について
では、認知を求める調停はどのように行えばいいでしょうか。流れを確認しましょう。
認知を求める調停は、父の住所を管轄する家庭裁判所に、認知を求める子や子の法定代理人などが申立を行います。
申立に当たっては、定型の申立書が利用でき、その際に子と父の戸籍謄本、1,200円分の収入印紙などが必要になります。詳しい内容については、「家庭裁判所のウェブサイト」をご覧ください。
申立の後、1カ月程度で初回の期日が設定されます。その後はひと月に1回程度の割合で期日が指定されます。毎回の期日では、申立人→相手方という順番で交互にお互いの主張を調停委員に話し、これを調停委員から相手方の主張を聞くという形で話し合いを進めて行きます。1回の調停はおよそ2時間です。申立時点でどれだけ証拠があるか、双方の主張の内容がどういったものなのか等によって調停がまとまるまでの期間は区々ですが、5~6回(半年から8カ月)程度が一つの目安のようです。
調停がまとまり、父が認知をしてくれるということになると、合意に従った審判がなされます。
7、認知を求める裁判の方法について
認知を求める調停がまとまらず、それでもなお認知を求めたい場合には、家庭裁判所に対して認知を求める裁判を提起する必要があります。
家庭裁判所での手続きですが、基本的に民事訴訟と同様の手続きで進みますので、申立に当たっては訴状を準備しなければなりませんし、証拠を提出し、親子関係があることを主張立証していく必要があります。期間も半年から1年程度かかることが多いようです。
ご自身で行えば、かかる費用は印紙代等2万円程度ですむでしょう。しかし、これらの作業には法的知識が不可欠であり、全て自分で行うのは難しいです。弁護士に手続きを代理してもらうのが現実的だと言えますが、弁護士に依頼する場合は着手金として30万円程度、成功報酬として30万円程度はかかることが多いでしょう。
8、強制認知を成功させるポイントは
強制認知を成功させるためには、生物学上の父子関係の存在を証明することが不可欠です。したがって、特に訴訟においては、この点を意識して活動をする必要があります。
生物学上の父子関係の有無はDNA鑑定を行えばすぐに分かりますので、相手方が協力してくれるのであれば、DNA鑑定によって父子関係の存否を確認するのがよいでしょう。仮に相手方がDNA鑑定に協力してくれない場合(DNA鑑定拒否)には、母の陳述書や証人尋問等によって証明していかざるを得ないでしょう。もっとも相手方がDNA鑑定に協力しないという態度も、裁判所にとっては認知を認めるべきか否かの判断材料の一つとなります。
まとめ
今まで見てきたように生物学上の父子関係があっても、当然に法律上の父子関係が認められるわけではありません。そして、法律上の父子関係がないと、扶養してもらえなかったり、相続ができなかったり、大きな不利益を被る可能性があります。したがって、子供にとってはなんとか認知をしてもらうのが一番良いと言えます。
ここでご説明したことを参考にして頂き、認知の手続きを進めて頂ければと思います。