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遺留分を渡さなくていい方法〜生前にできることを紹介

遺留分を渡さなくていい方法〜生前にできることを紹介

遺留分を渡したくない推定相続人に対しては、その理由や代替案を作成することで、相続開始前に遺留分放棄の手続きを取ってもらうことができます。

遺留分は法定相続人に保障された最低限度の権利ですので、遺留分を放棄させることは難しいといわざるを得ませんが、「遺留分を渡すと事業の継続が困難になる」など弊害がある場合にはそうは言っていられないでしょう。

本記事では、

  • 遺留分を渡さなくていい方法
  • そもそも遺留分がなくなる場合
  • 遺留分を渡さなくてもいい事業承継における特例

について解説をいたします。ご参考になれば幸いです。

遺留分について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

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1、遺留分を渡さなくていい方法はあるのか

遺留分とは被相続人の法定相続人(ただし被相続人の兄弟姉妹を除く)に最低限保障されている相続財産の一定割合のことをいいます。
遺留分は、被相続人の遺言の内容よりも優先されるものであり、被相続人が相続人の遺留分すら渡さないということは原則としてできません。そのため、相続財産のうち遺留分相当分は、原則として渡さなければならないものです。

例外として、遺留分権利者が自ら遺留分の放棄をすることはできます。そのため、遺留分を渡したくないと考えた場合、遺留分を放棄してもらうよう、遺留分権利者を説得することが必要ということになります。 

また、法定相続人であっても、相続欠格事由がある場合や、相続廃除された場合には、そもそも相続人ではなくなりますから、遺留分は保障されません。

ただし、これらの場合は、代襲相続が生じますので、相続欠格や相続廃除により相続人でなくなった者の子が相続人となりますが、その子には遺留分が保障されます。子が既に亡くなっている場合は、再代襲により孫が相続人となり、遺留分が保障されます。

この場合、相続欠格や相続廃除により相続人でなくなる前に遺留分の放棄をしていた場合には、代襲相続により相続人となった子には遺留分が保障されないと解されています(再代襲により孫が相続人となった場合も同様です)。

以上をまとめますと、

  • 遺留分を放棄する同意(相続の前であれば家庭裁判所の許可が必要となります)
  • 相続欠格の場合(ただし、相続欠格事由のある相続人にとなるはずだった者に子や孫がいない場合)
  • 相続廃除できる場合(ただし、相続廃除された相続人となるはずだった者に子や孫がいない場合)

には、遺留分を渡さなくてよくなります。

それでは以下、それぞれの内容や方法について解説をしていきます。

2、遺留分を渡さなくてもいいという遺留分権利者の同意を得る方法

まず本項では、遺留分権利者の同意を得る方法等について解説をします。

一般的に、遺留分権利者の同意を得るためには、

  • 遺留分の代替案を用意すること
  • 遺留分を渡すことが出来ない理由をきちんと伝えること

が大切と言えます。具体的にはどのようにすれば良いでしょうか?以下で詳述致します。

(1)代替案を提示する

相続開始前に遺留分放棄の同意を得る際に、最も納得してもらえるものとしては代替案の提示が考えられます。

相続人は遺留分として遺産が欲しいのではなく、公平に相続を受けたいと考えていることが大半ですので、代替案を受けることができるのであれば、同意に応じる可能性は高くなるでしょう。

また後述致しますが、代替案(代償)は、相続開始前の遺留分放棄について家庭裁判所が許可するかどうかを判断する要素の1つになりますので、代替案の提示をする方がよいでしょう。

①遺留分相当額の財産を与える

代替案としてまず考えられるのは、生前に相続人の一人に遺留分相当額の財産を与えることになります。財産とは、現金などが一般的ですが、いま住んでいる不動産を生前贈与することや株式譲渡も考えられます。

遺留分権利者としても、被相続人の生前に遺留分相当額の財産を受け取れることから、この提案には応じやすいといえます。

②生命保険の受取人に指定する

また、遺留分権利者を生命保険の受取人に指定することも考えられます。

生命保険は、受取人固有の権利と考えられていますので、原則として、被相続人の相続財産とはならず、遺産分割をする必要はありません。そのため遺留分権利者が受取人となっていた場合、保険金額によっては遺留分に代わる金額を受け取ることができるといえます。

この方法によっても、実際に受取人に指定をされている以上、保険金を受け取ることができる可能性は高いといえますので、遺留分権利者の納得も得られやすいでしょう。

③老親扶養を引き受ける

これは、何か遺留分権利者に財産を与えるというものではありませんが、親(被相続人)の介護を遺留分権利者以外の相続人が行うということも考えられます。

周知の事実ですが、親の介護はとても大変であり、仕事などにも影響を与え兼ねません。親の介護も含めた扶養を引き受けるということは、遺留分放棄の同意を得る上でも考えられるところです。

④生前に資金援助をしていたことを理由とする

遺留分放棄の説得をする際には、何か今から新しく贈与などをしなくてはならないというわけではありません。遺留分に相当する資産を有していないこともあるでしょうから、過去の贈与などを理由にあげる事も考えられます。

例えば住宅購入資金や学資費用、事業資金などの援助を受けていた場合には、既に資金援助があったといえます。一部の相続人にだけそのような資金援助がある場合は、遺留分放棄の同意を得る上での大きな材料となります。

過去の口座履歴などを参考にして、具体的にどの程度の援助があったのかを計算して説得をしましょう。

(2)理由をしっかりと説明する

遺留分を渡したくない場合、それには、事業の継続に必要など理由や必要性があることと思います。まずはその必要性について、しっかりと相続人に話をするということが大事です。

その上で代替案を提示することにより、相続開始前の遺留分放棄の同意を得たいところです。

(3)遺留分放棄の許可を裁判所から受ける

遺留分放棄については、相続の開始前であれば家庭裁判所の許可が必要となります(民法1049条1項)。
これは、遺留分が相続人に保障されている最低限度の権利であることから、何らかの圧力を受けて放棄することを防ぐことにその趣旨があります。

遺留分放棄の許可の申立てがなされると、家庭裁判所は、

①放棄が推定相続人の自由意思に基づくものであるか

②放棄理由に合理性・必要性が認められるか

③放棄の代償があるか

などを基準に許可すべきかどうかを判断します。
そのため、①~③にあたる事情を申立書に記載して、家庭裁判所に提出します。許可を得るためには、なるべく具体的な記載を心がけましょう。

なお、相続が開始された後であれば、遺留分は自己の意思のみで放棄することが可能であり、①~③のような要件はありません。しかし、当然ながら、相続開始後の動きに期待するのは、どのような状況であれ、「賭け」に近いものがあります。遺留分の放棄を確実にしたいとお考えであれば、被相続人の生前に遺留分放棄をしてもらっておくことが重要です。

3、遺留分がなくなる「相続欠格」とは

民法に相続人となるべき者と定められている者は、相続開始後、相続人になり、遺留分権利者となりますが(兄弟姉妹を除く)、民法891条に定められている相続欠格事由に該当する場合には、相続人ではなくなります。

(1)相続欠格の要件は厳しい

相続欠格は、相続人としての地位を剥奪するものです。相続欠格により相続人でなくなると、遺留分もなくなります。

非常に効果の大きいものですので、相続欠格事由は、被相続人や相続人の生命を侵害した場合や、遺言に不当な干渉・介入をした場合などに限定されています。

(2)相続欠格に該当していれば当然に遺留分もなくなる

相続人の欠格事由に該当した場合、裁判所への請求なども必要なく、当然に相続人としての地位が剥奪されます。そして、同時に遺留分も無くなります。

そのため、相続人の欠格事由に該当する相続人は、遺留分を請求する権利を持ちません。

(3)ただし「子」がいる場合は要注意

相続欠格者に子どもがいた場合は注意が必要となります。

民法第887条第2項には、代襲相続の規定があります。

代襲相続とは、相続人が相続開始以前に死亡した場合や、欠格事由に該当する場合、廃除により相続人でなくなった場合に、その相続人の子どもが相続人になるという規定です。

子も既に死亡しているという場合には、再代襲が生じ、孫が相続人となります。

この規定により、仮に相続欠格事由に該当した場合であっても、当該相続人で亡くなった者に子どもがいる場合は、代襲相続人となる当該子どもに遺留分を渡さなければならないということになります。

なお、もともと相続人となるべき者が遺留分の放棄をしており、その後に相続欠格により相続人でなくなった場合には、代襲相続人となる子は遺留分を保障されないと考えられています。

4、遺留分がなくなる「相続廃除」とは

相続人としての地位を失う規定として、推定相続人の廃除というものがあります。

推定相続人の廃除により相続人としての地位を失った場合、遺留分を受け取る資格もなくなります。

(1)相続廃除の要件

民法第892条では以下のように規定をされています。

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

このように、相続人が被相続人に対して虐待、重大な侮辱などをした場合に被相続人の意思により請求をする規定となっています。

推定相続人を廃除する意思表示は、被相続人が遺言で行うことも可能です。この場合は、遺言執行者が廃除を家庭裁判所に請求します。

(2)家庭裁判所の審判が必要

相続人の欠格事由に該当した場合と異なり、廃除の要件に該当した場合であっても当然に相続人の地位が剥奪されるものではありません。

家庭裁判所に請求をして審判が得られた場合に初めて、相続人としての地位がなくなります。

(3)「子」がいる場合の注意点は欠格事由の場合と同様 

相続人として廃除された場合であっても、その相続人に子どもがいる場合は、欠格事由の場合と同様に、その子どもが代襲相続により、相続人となります。子も既に亡くなっている場合には、再代襲により孫が相続人になります。

そのため、廃除をした相続人に子(孫)がいた場合は、代襲相続人となる当該子(孫)に、遺留分に相当する財産を渡す必要が出てきます。

なお、推定相続人が、廃除の効果が生じる前に、既に遺留分を放棄していた場合には、代襲相続人となる子(孫)にも相続分はないと解されています。

5、事業承継における遺留分の取扱い         

被相続人が事業をしている場合、事業の後継者にはまとまった事業資金が必要となりますし、自社株や事業用資産を後継者に集中して引き継がせたいとお思いになる方も多いと思います。

前述のように、原則としては、遺留分を考慮しなければならず、後継者である相続人に財産を集中させることが難しいため、相続をきっかけに事業の存続が危機にさらされてしまうおそれがあります。

これに対処するため、経営承継円滑法において、事業承継の際の遺留分に関する特例が定められています。

(1)除外合意(法4条1項1号、5条) 

除外合意とは自社株式や事業用資産の贈与等の一部又は全部について遺留分の算定に加えないとする合意をいいます。相続によって株式が分散することにより経営困難になることを防ぐための規定です。

除外合意には、法定相続人全員の同意が必要です。

(2)固定合意(法4条1項2号)

固定合意とは自社株式や事業用資産の生前贈与の一部又は全部について合意時における価格に固定する合意のことをいいます。

遺留分の計算において、株式を評価する場合、その評価基準時は相続開始時と考えられています。そのため、株価が値上がりをすればするほど、被相続人の生前に多額の贈与を受けた事になり、多額の遺留分侵害額の請求を受けてしまうことになってしまいます。

会社の業績が上がることにより遺留分額侵害請求を受けてしまうと会社の成長を妨げてしまうことにもつながります。固定合意ではそのようなモチベーションの低下を防ぐ点にその趣旨があります。

固定合意についても法定相続人全員の同意が必要です。

(3)遺留分算定額

例として相続人が妻、長男、二男の三人であった場合をみてみます。

①長男に7000万円の自社株式を生前贈与していた場合(遺産は5000万円)

遺留分算定の基礎となる財産は、

7000万円+5000万円=1億2000万円です。

それぞれの遺留分は

妻 1億2000万円×4分の1=3000万円

長男1億2000万円×8分の1=1500万円

二男1億2000万円×8分の1=1500万円

となります。

この時、それぞれ遺産を1666万円ずつ相続したとすると、妻の遺留分は1334万円侵害されていることになります。

しかし、除外合意がある場合、長男に対して贈与していた7000万円を基礎財産から除いて考えることができるため、遺留分算定の基礎となる財産も5000万円となり、妻の遺留分は5000万円×4分の1=1250万円となりますので、相続により1666万円受け取れていれば、遺留分は侵害されていません。

②長男に贈与当時の時価1000万円の自社株式を生前贈与していたところ、相続時にこの株式が7000万円に値上がりをしていた場合

この場合は、遺留分の算定の基礎となる財産が、①と同様、1億2000万円(5000万円+7000万円となり、それぞれの遺留分は、

妻 1億2000万円×4分の1=3000万円

長男1億2000万円×8分の1=1500万円

二男1億2000万円×8分の1=1500万円

となります。

このとき、それぞれが1666万円ずつ相続すると、妻の遺留分は侵害されていることになります。

しかし、自社株式の価格につき贈与当時の時価である1000万円に固定するという合意(固定合意)をしていれば、遺留分の算定の際の自社株式の評価額は1000万円となりますので、遺留分算定の基礎となる財産は、5000万円+1000万円=6000万円となります。

そうすると、妻の遺留分は、6000万円×4分の1=1500万円となりますので、1666万円受け取っていれば、遺留分は侵害されていません。

これらの除外合意や固定合意を利用するためには、経営承継円滑法の定める要件を満たした上で、推定相続人全員及び後継者の合意を得て、経済産業大臣の確認及び家庭裁判所の許可を受けることが必要です。

このように、相続に事業承継が関わる際は、生前に対策を取れば、遺留分侵害額の請求を未然に防ぐ事が可能となります。

6、遺留分について困ったら弁護士へ相談を

遺留分については法的な知識が必要なだけではなく、遺産の評価や遺留分の複雑な計算も必要です。

相続開始後の遺留分について疑問点がある場合や対処をしておきたい場合は、専門家である弁護士に相談をしてみると良いでしょう。

まとめ

遺留分を渡さなくていい方法について解説をしました。

遺留分が相続人保護の規定であることから、基本的には遺留分が侵害される相続人の合意が必要となります。
いかに上手く合意を得るかは、具体的な相続状況によって異なります。弁護士などの専門家に相談をしつつ交渉を進めていきましょう。

※この記事は公開日時点の法律を元に執筆しています。

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