相続税申告の必要書類には、どのようなものがあるのでしょうか。
相続税の申告は、相続の開始から10か月以内の期間に完了しなくてはなりません。
申告書を作成するためには、さまざまな書類を集める必要がありますから、可能であれば遺産分割協議と同時進行で、早めに申告手続きを開始するようにしましょう。
この記事では、これから相続税の申告を行う方向けに、以下のような内容を解説いたします。
- 相続税申告の必要書類や添付書類一覧
- 相続税申告を自分でできる場合と、専門家に依頼すべき場合の判断基準
- もし相続税の申告期限に遅れたり、計算間違いをしてしまったりした場合のペナルティ
相続税の申告は自力で行うことも不可能ではありませんが、計算方法が複雑になるケース(遺産に土地や建物が含まれる場合など)は税理士などの専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。
この記事が、これから相続税申告の手続きを行う方の参考になれば幸いです。
相続税の申告手順に関して詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
目次
1、相続税申告の必要書類〜書類の意味とは
ここでいう「相続税の申告に必要な書類」とは、あなたが作成した相続税の金額が正確であることを証拠づけるための資料をいいます。
大まかに説明すると、以下のような内容の書類が必要となります。
- 相続の対象となっている遺産の内容
- 遺産の相続税評価額
- 亡くなった人とどのような関係の人が相続人となるのか
- 遺産分割はどのように行ったのか
- 相続税の税軽減特例を適用するのかどうか
つまり、相続税を計算するにあたっての情報裏付けとなる資料が必要であるということです。
具体的にどのような書類を取得する必要があるのかについては次の項目で説明いたします。
「相続税申告書に記載した、計算の内容が正しいことを証拠づけるための資料が必要である」ということを念頭に置いておけば、スムーズに必要書類の準備をすることができるでしょう。
2、まずはこれ!相続税の申告に絶対必要な書類|申告書等
相続税の申告を行うためには、まずは以下のような書類を集める必要があります。
- 申告書
- 被相続人の戸籍謄本など身分関係の書類
- 法定相続情報の写し
「3.」の法定相続情報の写しは必須のものではありませんが、取得しておくと便利です。
それぞれの必要書類の内容について、順番に解説いたします。
(1)申告書
相続税の申告書は、最寄りの税務署で配布されているほか、国税庁のホームページでひな形をダウンロードすることができます。
なお、相続税は法律が毎年のように変更されるため、相続税申告書の様式もそれに合わせて微妙に変わることがあります。
最新の様式でないと絶対にいけないというわけではありませんが、万が一の計算間違いを避けるためにも一番新しいものを使うのが望ましいでしょう。
(相続の開始があった日の属する年度のものを選ぶようにしてください)
決まったルールはありませんが、様式の変更は毎年7月ごろ(路線価が発表されるころ)に最新のものが公開されることが多いようです。
(2)被相続人の戸籍謄本など身分関係の書類
亡くなった人(被相続人)と相続人との親族関係や、遺産分割の内容を証明する書類として、以下のようなものが必要です。
- 亡くなった人の戸籍謄本
- 亡くなった人の住民票の除票
- 相続人となる人の戸籍謄本(全員分)
- 相続人となる人の住民票(全員分)
- 相続人となる人の印鑑証明書(全員分)
- 遺言書の写し(ある場合)
- 遺産分割協議書の写し(ある場合)
被相続人の戸籍謄本は被相続人の本籍地を管轄している市区町村役場、住民票の除票は死亡時の住所地を管轄している市区町村役場で取得しましょう。
この戸籍謄本には、被相続人の出生~死亡までの連続した情報が記載されている必要があります。
また、相続人となる人全員の戸籍謄本や住民票、印鑑証明書も取得しましょう(印鑑証明書は遺産分割協議書の作成に使用した実印のものを取得します)。
これらは、相続の開始をしてから10日以上経過した後に発行した、最新のものでなくてはなりません。
遺言書はある場合とない場合がありますが、ある場合は家庭裁判所で検認を受けた後にコピーをとって検認の証明書と一緒に添付します。
遺産分割協議書もある場合とない場合がありますので、ある場合のみコピーを取って添付してください(相続税申告のタイミングで遺産分割が完了していなければ、当然ながら遺産分割協議書はありません)。
(3)法定相続情報の写し
戸籍謄本を取得したら、法務局で法定相続情報一覧図(相続に関係する人の親族関係を図にしたもの)を提出し、「法定相続情報の写し」を取得できる状態にしましょう。
従来は、相続税の申告書には戸籍謄本を添付する必要がありましたが、平成29年5月以降は、法定相続情報証明制度というルールが施行されていますので、上の「法定相続情報の写し」を提出するだけで手続きができるようになっています。
(平成29年施行された法定相続情報証明制度は、平成30年に相続税についても対応しました。)
戸籍謄本は銀行や証券会社、保険会社の窓口でも相続に関する手続きを行うたびに原本を提出しなくてはなりませんでしたが、法定相続情報の写しを取得できるようにしておけば、この写しを提出するだけで済むため便利です。
(亡くなった人の戸籍謄本の原本は、改製原戸籍謄本や除籍謄本もまとめて発行されるため、枚数が多く発行費用も馬鹿になりません。手続きのたびに原本を発行するのは無駄なので、法定相続情報の写しを作れるようにしておくのが良いです。)
なお、法定相続情報の写しは必ず利用しなくてはならないというものではありませんので、従来通りに戸籍謄本をその都度提出しても手続きを行うことはできます。
(相続税申告については戸籍謄本はコピーでも良いですが、金融機関での手続きでは原本が必要なケースが多いです。)
3、相続税の申告に必要な添付書類たち
上で見た相続税の申告書等には、申告書内で記載した計算過程が正しいことを証拠づけるために、添付書類をつけなくてはなりません。
以下、遺産の種類に応じて異なる添付書類を分けて一覧にしましたので参考にしてください。
(1)不動産(土地や建物)がある場合
遺産に土地や建物といった不動産が含まれる場合には、以下のような書類が必要となります。
- 登記簿謄本(全部事項証明書):不動産の所在地を管轄する法務局で取得
- 固定資産税評価証明書(相続開始年分のもの):市区町村役場・都税事務所で取得
- 地積の測量図か公図の写し:法務局で取得
- 実測図
- 建物の間取り図
- 賃貸借契約書(貸家に住んでいる場合や借地に建物を立てている場合)
(2)上場株式がある場合
亡くなった人が株式投資などを行っていた場合には、遺産として上場株式があるはずです。
取引をしていた証券会社で以下のような書類を取得しましょう。
- 証券会社の預かり証明書(残高証明書):株式を管理している証券会社で取得
- 直近5年間の株式取引明細:株式を管理している証券会社で取得
- 配当金がある場合は配当金支払通知書
- 株券がある場合はコピー
(3)非上場株式がある場合
亡くなった人がオーナー会社の経営者であった場合、所有していた会社の株式は遺産として扱われます。
非上場株式の財産としての価値を評価するためには税法の専門知識が必要となりますから、会社の顧問税理士や相続実務を専門とする税理士にご相談ください。
なお、親族が会社の経営を引き継ぐ場合には、一定の要件を満たし手続きを行えば非上場株式については事業承継税制という特例措置を利用することで相続税を実質免除してもらうことができます。
- 非上場株式の評価に必要な書類(通常は専門家に計算を依頼するため、指示に従ってください)
- 直近3事業年度分の法人税申告書及び決算書控え
- 直近5事業年度の株主名簿など
(4)現預金がある場合
現預金に関しては以下のようなものを準備しましょう。
残高証明は相続の開始日(被相続人が死亡した日)の日付のものを取得してください。
- 預金残高証明書
- 既経過利息計算書
- 過去5年分の被相続人の通帳のコピー
- 相続人となる人の通帳のコピー(過去に被相続人からの預金の異動があった場合)
(5)保険に加入している場合
亡くなった人を被保険者として生命保険金を受け取った場合や、亡くなった人が返戻金のある保険に加入していた場合には、以下のような書類が必要です。
- 生命保険金の支払い通知:生命保険会社で取得
- 生命保険の保険証書コピー(満期返戻金がある場合)
- 火災保険の保険証書コピー(満期返戻金がある場合)
- その他保険に関する解約返戻金の分かる資料(相続開始日現在)
(6)退職金の受け取りがある場合
被相続人の死亡により、勤務先の会社から退職金を受け取った場合には、その支払額を証明する書類が必要となります。
- 退職金の支払い通知書など:被相続人の勤務先が発行
(7)借金など債務がある場合
被相続人が負っていた借金等の債務で相続開始後に支払ったもの及び支払うことになるものがある場合には、相続税の計算上、遺産総額から差し引きすることができます(その分だけ相続税が安くなります)。
債務の額を証明するためには、以下のような書類が必要です。
- 金銭消費貸借契約書のコピー
- 借入金の残高証明書及び返済予定表(相続開始日現在のもの):金融機関で取得
- 未払金の請求書明細など:債権者から送付された請求書など
(8)葬儀関係費用の支払いをした場合
葬儀関係費用の支払い額についても、遺産総額からの控除が可能なものがあります。
(香典返礼費用など控除できないものがあります。)
以下のような書類はなくさないように保管しておき、相続税の申告時に添付するようにしましょう。
- 葬儀社から受け取った請求書や領収書
- 領収書がない支払いをした場合は支払額を書き出したものなど
(9)相続税の軽減措置を適用してもらう際に必要な添付書類
相続税の申告では、税額が軽減される各種の特例制度を適用してもらえる可能性があります。
(遺産に宅地が含まれる場合の小規模宅地等の特例や、配偶者の税額軽減などがあります。)
なお、こうした軽減措置の適用を受けるためには、相続税申告時に遺産分割が完了している必要があります。
もし完了していない場合には、申告期限後3年以内の分割見込書という書類を提出して相続税をとりあえず納付しておき、その後に遺産分割が完了してから、更正の請求によって納めすぎた相続税の還付手続きを行うという方法もあります。
- 生前贈与の内容が分かる資料
- 贈与税の申告書控え
- 被相続人が確定申告していた場合には直近2年分の申告書控え
- 準確定申告書の控え(完了している場合)-準確定申告が完了していない場合は、各種控除証明や源泉徴収票などが必要です
- 申告期限後3年以内の分割見込書(特例の適用を受けたいが、遺産分割が完了していない場合に提出します)
(10)その他
その他、経済的な価値がある以下のような財産がある場合には、その評価額等が分かる書類を準備しておきましょう。
- ゴルフ会員権の預託証書
- 知人などへの貸付金がある場合は請求書や契約書など
- 宝石類や骨董品等の財産価値が分かるもの
4、申告期限は相続を知ったときから10ヶ月以内
相続税の申告期限は、「相続の開始を知った日から10か月以内」に行わなくてはなりません。
より具体的に言うと、あなたが「自分が相続人となる相続の開始を知った日の翌日から起算して、10か月経過する日まで」に、管轄の税務署に対して申告納税の手続きを行う必要があります。
「相続の開始を知った日」とは、近しい親族であれば、通常は家族が亡くなった日を指すでしょう。
しかし、遠方に住んでいる親族であったり、疎遠になっている親族であったりする場合には、相続の開始後かなり時間が経ってから死亡の事実を知るというケースも少なくありません。
こうした状況に備えて、法律では「相続の開始を知った日」を申告期限の起算点とするルールになっているのです。
なお、「相続の開始を知った日」とはいっても、あなた自身に相続の発生を知らなかったことに落ち度がある場合には異なる状況になるケースがあります。
例えば、葬儀を行う旨の通知が自宅に届いていたのに開封してなくて知らなかった、というような状況の場合は、その通知が自宅に届いた日を申告期限の起算点とされる可能性がありますので注意が必要です。
5、弁護士・税理士に依頼すれば書類の収集がぐっと楽に!
遺産相続の状況によっては、相続税の申告を行うための必要書類が非常に多岐にわたることも考えられます。
多くの書類は役所の受付時間(平日昼間)に取得を行う必要がありますから注意しておきましょう。
日中は仕事があって忙しいという方や、複雑な手続きに時間を取られたくないという方は、専門家に手続きを委任するのも一つの選択肢です。
ベリーベスト法律事務所では、遺産相続手続きを専門とする弁護士・税理士が所属していますから、ワンストップで相続税申告の手続きを相談することが可能です。
まとめ
今回は、相続税申告を行うための必要書類について解説いたしました。
本文でも見たように、相続税の申告は相続の開始後10か月以内に完了する必要がありますから、必要書類の取得は早めに行うようにしましょう。
手続きの進め方に不安がある方や、計算を自分でやる時間的な余裕がないという方は、相続実務を専門とする弁護士・税理士に相談することも検討してみてください。