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誘導尋問のルールとは?刑事裁判で証言をするときの対処法

「刑事裁判で誘導尋問されたら、どう対応したらいいのだろう…」と戸惑っている方も多いかもしれません。基本的には主尋問での誘導尋問は禁じられていますが、法的には例外が存在します。

もし、検察官が主尋問で誘導尋問を行った場合、適切な対応をしなければいけません。

この記事では、誘導尋問とは何か、禁止されるケースと許容されるケース、そしてその結果について弁護士が分かりやすく解説しています。

刑事裁判における尋問について詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧ください。

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1、誘導尋問とは

誘導尋問とは

誘導尋問とは、尋問をする人が希望する答えを暗示して行う質問のことです。

このような質問は「はい」「いいえ」で答えられる質問になることが多く、一般にクローズドクエスチョンといいます。

逆に「はい」「いいえ」で答えられない質問のことをオープンクエスチョンといいます。
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」といった5WH聞く質問がオープンクエスチョンといえます。

たとえば、「あなたは1月1日の午後7時頃、A公園にいましたね」と質問し、「はい」と回答させるのは、「1月1日の午後7時頃、A公園にいた」という答えを暗示して、そのような答えを引き出そうとする質問です。
このような質問は、誘導尋問にあたります。

他方で、「あなたは1月1日の午後7時頃、どこにいましたか?」という質問であれば誘導には当たりません。

2、刑事裁判で誘導尋問は禁止されている?

刑事裁判で誘導尋問は禁止されている?

刑事裁判では、誘導尋問が禁止されている場合があります。

どのような場合に誘導尋問が禁止されているのか、逆にどのような場合に誘導尋問が許されているのかを解説します。

(1)主尋問では原則禁止

尋問は、主尋問→反対尋問→再主尋問→再反対尋問→……という流れで行われます。

主尋問とは、証人尋問を申請した側が証人に対して行う尋問のことです。

反対尋問とは、証人尋問を申請していない側が証人に対して行う尋問のことです。

主尋問では、誘導尋問は原則として禁止されています(刑事訴訟規則第199条の3第3項本文)。

同様に、再主尋問でも誘導尋問は原則として禁止されています。

証人は、基本的に、主尋問では尋問者に対して好意的な態度になります。

そのため、主尋問での誘導尋問を無制限に許してしまうと、証人が、自分が体験した出来事から離れて、尋問者の希望どおりの答えに誘導されてしまうおそれがあります。

そのため、刑事裁判では、主尋問や再主尋問での誘導尋問を原則禁止しています。

(2)例外的に誘導尋問が許されるケース

例外的に、次のような場合には、主尋問でも誘導尋問が許されています(199条の3第3項但書)。

  • 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先だって明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき
  • 訴訟関係人に争いのないことが明らかな事項に関するとき
  • 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき
  • 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき
  • 証人が証言を避けようとする事項に関するとき
  • 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき
  • その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき

主尋問で誘導尋問が許されないのは、証人が尋問者に対して好意的な態度になり、尋問者の希望どおりの答えに誘導されてしまうおそれがあり、真実が発見できなくなってしまうからです。

しかし、準備的な事項や争いのない事項について誘導することで争点に絞って尋問することは、むしろ真実発見のために有益です。

また、証人の記憶が曖昧な場合は、誘導することが真実発見に資することもありますし、証人が主尋問者に敵意や反感を示す場合には、証人が誘導されるおそれが低いといえます。

そのため、上記に挙げた場合には、例外的に誘導尋問が許容されています。

(3)反対尋問では誘導尋問は禁止されていない

反対尋問では、誘導尋問は禁止されていません。

反対尋問では、尋問者と証人は敵対する関係であることが多く、好意的な態度をとることもないため、証人が尋問者に誘導されるおそれが低いからです(刑事訴訟規則199条の4第3項)。

そのため、反対尋問では基本的に「はい」「いいえ」で答えられるようなクローズドクエスチョンで質問をすることが多いです。

通常、反対尋問では、尋問者と証人が事前に供述の内容を打ち合わせしておくことができないため、クローズドクエスチョンで質問することで、できるだけ想定外の事実を証言されないようにします。

(4)誤導尋問は一切禁止

誘導尋問が許される場合であっても許容されないものとして、誤導尋問というものがあります。

誤導尋問とは、争いがある事実、または供述されていない事実についてこれが事実であることを前提としてする尋問をいいます。

たとえば、被告人が被害者を包丁で刺したかどうかが争われているときに、目撃者である証人に対して「被告人が被害者を包丁で刺したのは右手ですか?左手ですか?」と質問すると誤導尋問となります。

誤導尋問は、証人が、自己の認識と異なる事実を前提として供述をしてしまうおそれが高いため、主尋問でも反対尋問でも一切許されません。

3、主尋問で誘導尋問をするとどうなる?

主尋問で誘導尋問をするとどうなる?

前述のとおり、主尋問での誘導尋問は原則として禁止されていますが、もし主尋問で誘導尋問をしてしまったらどうなるかを解説します。

(1)検察官から異議を出される

主尋問で誘導尋問をすると、検察官から異議が出されます(刑事訴訟法309条1項)。

異議を出すときは、裁判官に対して「異議があります」などと申し立てたうえで、異議の理由を簡潔に述べることになっています(刑事訴訟規則205条の2)。

裁判所から求められれば、異議の理由を詳細に述べることもあります。

検察官から異議が出たら、裁判所は相手方である弁護人に意見を求めます(刑事訴訟規則33条1項)。

意見を求められたら、弁護人は、反論があればその場で述べます。

たとえば、例外的に主尋問における誘導尋問が許される場合であるなどの意見を述べます。

弁護人の意見を聞いたうえで、裁判所は遅滞なく異議を認めるか否かを決定します(刑事訴訟法309条3項、刑事訴訟規則205条の3)。

検察官の異議が認められれば、弁護人は質問の仕方を変えるか、次の質問に移ることになります。

検察官の異議が認められなければ、弁護人はそのまま証人の回答を待って、尋問を続けます。

(2)供述の信用性が低下する

異議が出なかった場合、誘導尋問とそれに対する回答は刑事裁判の尋問調書に記載され、裁判官が事実認定をする材料となる証拠となります。

しかし、誘導尋問によって得られた供述は、証人が自身の体験した事実に基づいて証言していない疑いがあります。

そのため、裁判官は、このような誘導尋問による供述は信用できないと判断する可能性があるのです。

このように供述の信用性が低下することで、裁判官による事実認定にも影響する場合があることに注意が必要です。

4、検察官が誘導尋問をしたときの対処法

検察官が誘導尋問をしたときの対処法

検察官が検察側証人に対して誘導尋問をした場合、被告人のご家族はもちろんのこと、被告人自身にも事実上、なすすべがないのが実情です。

そこで、一般論として、検察官が誘導尋問したときに、弁護人がする対処法を解説します。

(1)異議を出す

検察官が誘導尋問をした場合、証人が回答をしてしまう前に、弁護人から異議を出します。

弁護人から異議が出たら、裁判所は相手方である検察官に意見を求めます(刑事訴訟規則33条1項)。

検察官は、反論があればその場で述べることになります。

たとえば、例外的に主尋問における誘導尋問が許される場合であるなどの意見を述べます。

検察官の意見を聞いたうえで、裁判所は遅滞なく異議を認めるか否かを決定します(刑事訴訟法309条3項、刑事訴訟規則205条の3)。

弁護人の異議が認められれば、誘導尋問による証言が法廷に出ることはないため尋問調書に記載されず、証拠として採用されることはありません。

この場合、検察官は質問を変えて尋問しなければいけません。

(2)反対尋問で供述の矛盾を突く

もし検察官の誘導尋問に対して証人が被告人に不利な供述をしてしまうと、一度法廷に出てしまった以上は、尋問調書に記載されてしまうので、その供述を取り消すことは困難です。

そのため、弁護人としては、主尋問で誘導された不利な供述と反対尋問での証言内容で矛盾する点を突いて供述の信用性を低下させることができないかを考えます。

証人が主尋問で証言していた内容と矛盾する内容を反対尋問で証言していれば、供述の信用性に疑いが生じ、結果的に裁判所が事実認定をする際に、主尋問での供述は信用性がないと判断する可能性があるからです。 

そのため、弁護人による反対尋問において、主尋問でされた不利な供述と矛盾する供述を引き出し、その点を突いて供述の信用性を低下させることが考えられます。

(3)誘導された供述は信用できないことを主張する

弁護人が、検察官の誘導尋問に対してあえて異議を出さずに放置することがあります。

異議を出さないことで、誘導尋問によって不利な供述が法廷に出て、尋問調書にも記載されることになり、一見、被告人にとって不利になってしまうようにも感じます。

しかし、反対尋問で、不利な供述と矛盾する供述があったことなどを指摘して、誘導された不利な供述は信用できないということを最終弁論において主張することで、被告人に有利になるように主張するという戦略も考えられます。

5、取り調べにおける誘導尋問にも要注意!

取り調べにおける誘導尋問にも要注意!

刑事訴訟法上の誘導尋問とは、刑事裁判の公判廷における質問を指します。

しかし、捜査段階において、警察官や検察官といった取調官から取調べを受ける際の質問においても、誘導されることがあるので注意が必要です。

取調官が希望する答えを暗示して誘導尋問をされても、それに対して、不用意に肯定してしまってはいけません。

「はい」「いいえ」で答えられるようなクローズドクエスチョンで質問されたときには、不用意に「はい」と答えてしまわないようにしてください。

できる限り、自分から「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」といった5WHを意識して答えるようにします。

もし、取調官から誘導されて不利な回答をしてしまったら、その場で供述調書の訂正を求めるようにしましょう。

どうしても取調官が訂正をしてくれない場合は、供述調書の末尾の署名・押印を拒否して、内容に異議があることを示します。

6、誘導尋問による不利益を回避するには弁護士のサポートが重要

誘導尋問による不利益を回避するには弁護士のサポートが重要

在宅事件(逮捕・勾留されていない事件)であれば、弁護士が警察署に同行し、取調室の前の廊下等で待機することができます。
在宅事件であれば、被疑者は取調室に留まる義務はないため、いつでも廊下に出て、弁護士のアドバイスを求めることができます。

刑事裁判の公判段階では、主尋問において誘導尋問が基本的に禁止されているため、検察官が呼んだ証人に対して検察官が誘導尋問をしていれば、弁護人から異議を出したり、反対尋問で矛盾を突いたりして対応します。

また、被告人質問や弁護人側の証人に対する検察官からの反対尋問であっても、誤導尋問は一切禁止されているので、検察官が誤導尋問をしようとすれば、弁護人は異議を出したり、反対尋問で矛盾を突いたりして対応します。

誘導尋問によって、不利な供述が法廷に出て、尋問調書に記載されても、その供述と矛盾する供述があれば、その矛盾を指摘し、供述の信用性がないという主張をして、被告人を弁護します。

捜査段階でも公判段階でも、弁護士がいることで不利な供述をしてしまうことを避け、被告人にとって不利な事実認定がされないように最大限のサポートを受けられます。

これから刑事事件の捜査で取調べを受ける人や、刑事裁判で公判が開かれる人は、誘導尋問によって不利な供述が引き出されないように、弁護士に相談することをおすすめします。

誘導尋問に関するQ&A

Q1.誘導尋問とは

誘導尋問とは、尋問をする人が希望する答えを暗示して行う質問のことです。

このような質問は「はい」「いいえ」で答えられる質問になることが多く、一般にクローズドクエスチョンといいます。

逆に「はい」「いいえ」で答えられない質問のことをオープンクエスチョンといいます。
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」といった5WH聞く質問がオープンクエスチョンといえます。

たとえば、「あなたは1月1日の午後7時頃、A公園にいましたね」と質問し、「はい」と回答させるのは、「1月1日の午後7時頃、A公園にいた」という答えを暗示して、そのような答えを引き出そうとする質問です。
このような質問は、誘導尋問にあたります。

他方で、「あなたは1月1日の午後7時頃、どこにいましたか?」という質問であれば誘導には当たりません。

Q2.主尋問で誘導尋問をするとどうなる?

・検察官から異議を出される

主尋問で誘導尋問をすると、検察官から異議が出されます(刑事訴訟法309条1項)。

異議を出すときは、裁判官に対して「異議があります」などと申し立てたうえで、異議の理由を簡潔に述べることになっています(刑事訴訟規則205条の2)。

裁判所から求められれば、異議の理由を詳細に述べることもあります。

検察官から異議が出たら、裁判所は相手方である弁護人に意見を求めます(刑事訴訟規則33条1項)。

意見を求められたら、弁護人は、反論があればその場で述べます。

たとえば、例外的に主尋問における誘導尋問が許される場合であるなどの意見を述べます。

弁護人の意見を聞いたうえで、裁判所は遅滞なく異議を認めるか否かを決定します(刑事訴訟法309条3項、刑事訴訟規則205条の3)。

検察官の異議が認められれば、弁護人は質問の仕方を変えるか、次の質問に移ることになります。検察官の異議が認められなければ、弁護人はそのまま証人の回答を待って、尋問を続けます。

・供述の信用性が低下する

異議が出なかった場合、誘導尋問とそれに対する回答は刑事裁判の尋問調書に記載され、裁判官が事実認定をする材料となる証拠となります。

しかし、誘導尋問によって得られた供述は、証人が自身の体験した事実に基づいて証言していない疑いがあります。

そのため、裁判官は、このような誘導尋問による供述は信用できないと判断する可能性があるのです。

このように供述の信用性が低下することで、裁判官による事実認定にも影響する場合があることに注意が必要です。

Q3.取り調べにおける誘導尋問にも要注意?

刑事訴訟法上の誘導尋問とは、刑事裁判の公判廷における質問を指します。

しかし、捜査段階において、警察官や検察官といった取調官から取調べを受ける際の質問においても、誘導されることがあるので注意が必要です。

取調官が希望する答えを暗示して誘導尋問をされても、それに対して、不用意に肯定してしまってはいけません。

「はい」「いいえ」で答えられるようなクローズドクエスチョンで質問されたときには、不用意に「はい」と答えてしまわないようにしてください。

できる限り、自分から「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」といった5WHを意識して答えるようにします。

もし、取調官から誘導されて不利な回答をしてしまったら、その場で供述調書の訂正を求めるようにしましょう。

どうしても取調官が訂正をしてくれない場合は、供述調書の末尾の署名・押印を拒否して、内容に異議があることを示します。

まとめ

ここまで、誘導尋問とは何か、刑事裁判や取調べで誘導尋問をされたときの対応、誘導尋問による不利益の回避のために弁護士にしてもらえるサポートなどについて解説してきました。

誘導尋問によって被告人に不利な供述が引き出されると、尋問調書に不利な供述が記載されてしまい、事実認定にも影響が出てしまう場合があります。

誘導尋問による不利益を可能な限り回避するためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。

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