現代では既婚者の約半数がセックスレスの問題に直面しており、その解消が夫婦間の大きな課題となっています。
この記事では、セックスレスを理由にした離婚の事例、法的な可否、および離婚へのアプローチについて掘り下げています。
目次
1、セックスレスで離婚するのはあり?離婚した人の実例
セックスレスで苦しんでいる人でも、「こんな理由で離婚できるのだろうか」「セックスレスを理由に離婚をしてもよいものだろうか」と逡巡している人は多いことでしょう。
結論から言いますと、セックスレスを理由とした離婚は法律上可能ですし、実際に離婚した人もたくさんいます。
まずは、当事務所にご相談いただいたケースの中から、セックスレスで離婚した人の実例をいくつかご紹介します。
(1)セックスレスに耐えられず離婚した夫のケース
1つめは、Aさんという40歳の会社員男性のケースです。
Aさんには38歳の妻と7歳の長男がいましたが、妻が長男を妊娠して以来、ほとんど性交渉はなかったといいます。
最初はAさんも妻が妊娠・出産・育児で大変だろうと思って気遣っていましたが、子どもが乳離れするようになっても「疲れている」「今はそんな気分になれない」などと言われて断られ続けました。
そのうち妻をセックスに誘うのもはばかられるようになりましたが、Aさんは真面目な性格で不倫などとは無縁なので、他に性交渉ができるような相手はいません。
やがてまたAさんは妻に気遣いながら誘いかけるようになりましたが、「今さら無理」「しつこくしないで」などと言われ、もう一生、妻と夫婦関係を持つことはできないと悟りました。
その当時、Aさんはまだ39歳。しかも、31歳のときからほとんどセックスができていません。
Aさんは「このままセックスできない人生は考えられない。手を打つなら今だ」と決意し、妻に離婚を切り出しました。しかし、夫婦関係のことなど眼中にない妻との話し合いは噛み合いません。
そこでAさんから依頼を受けた弁護士が間に入ることになりました。
離婚調停を申し立てることになりましたが、調停委員からの説得もあり、調停で離婚が成立しました。
子どもの親権者には妻が指定されたので、Aさんは養育費を支払っていくことになりましたが、慰謝料はお互いに請求しないことになりました。
(2)セックスレスなのに浮気する夫と離婚した妻のケース
2つめは、Bさんという35歳の会社員女性のケースです。
Bさんには同い年の夫がいますが、子どもはいません。
Bさん夫婦は6年前に結婚しました。Bさんは結婚して子どもを授かることを望んでいましたが、夫は「忙しい」「疲れた」などといって夫婦生活に積極的ではなく、結婚後1年と少しでセックスレスになってしまいました。
その間、Bさんは「どうすれば夫婦関係を改善できるだろうか」と悩んでいましたが、あるとき、夫が不倫していることに気づき、離婚を決意しました。
Bさんから依頼を受けた弁護士が夫と交渉し、慰謝料200万円で協議離婚が成立しました。
このケースでは夫の浮気が直接的な離婚原因であり、慰謝料も浮気に対するものです。
しかし、Bさんが離婚を決意した本心は夫の浮気よりも、自分のプライドを引き裂かれたことが大きいと仰っていました。
子どもを切望する妻とはセックスをしないにもかかわらず、他の女性とはしている夫を許せなかったというわけです。
そこで、今後幸せな再婚をして子どもを授かるために早期解決を希望されたケースです。
(3)セックスレスで自分が浮気して離婚した妻のケース
3つめは、Cさんという42歳の主婦のケースです。Cさんには45歳の夫と小学校4年生の長男がいました。
10年前に長男が生まれた後、Cさんは二人目を望みましたが、夫はあまり乗り気ではなかったとのことでした。
そのためか、なかなか二人目を授かることができず、いつしかセックスレスとなりました。
Cさんは、二人目ができないこともさることながら、「愛してもらえない」「女性として扱われないまま年を取っていく」という深い悩みを持ち続けます。
そして2年前、趣味のサークルで知り合った男性と浮気をしてしまいました。
Cさんは自分の方が悪いと思いつつも、自分を愛してくれない夫と夫婦として続けていくことはできないと考え、自分の方から離婚を切り出しました。
Cさんから依頼を受けた弁護士が夫と交渉し、協議離婚が成立しました。
離婚条件としては、慰謝料はなし、子どもの親権者はCさん、夫は養育費を毎月3万円ずつ支払うということになりました。
2、セックスレスから解放されるためのベストな方法は?
セックスレスの悩みは、本人にとっては言い尽くせないほどに苦しいものです。
上記の3つ実例にも、「このままセックスできないまま人生を終わりにしたくない」という切実な思いが表れています。
このように苦しいセックスレスの悩みから解放されるためには、基本的に「夫婦関係を修復する」か「離婚するか」のどちらかの方法を選択することになります。
どちらがよいかは、個別の状況によって異なってきますが、以下で基本的なところをご説明します。
(1)夫婦関係を修復する
夫婦間にセックスレス以外の問題が特にないのであれば、可能であれば夫婦関係を修復するのがベストでしょう。
そのためには、一度冷静になって、相手の立場に立って考えてみましょう。
相手にもセックスを拒否する何らかの理由があるかもしれませんので、そこを考えてみるのです。
相手も「セックスしたい」というこちらの気持ちを理解してくれていないのかもしれませんが、一方では相手にとってセックスは「大変なこと」「疲れること」あるいは「痛い」「苦しい」などと感じているかもしれません。
このような相手の本心を知ることによって、問題解決の糸口が見つかる可能性があります。
セックスに関する問題は夫婦であっても口にしにくいかもしれませんが、お互いに何も言わずに悩んでいるからこそ、問題が深まっているというケースが非常に多いです。
セックスレスが辛いと感じるならば、まずはこちらから心を開いて、相手の心を柔軟にすることが第一歩となります。
そして、セックスが全てだとは考えずに、キスやハグ、その他のスキンシップを積極的に行ってみるのも一つの手段です。スキンシップで愛が伝わることもありますし、それをきっかけに夫婦生活につながる可能性もあります。
一朝一夕に夫婦関係を修復するのは難しいかもしれませんが、パートナーとの愛を取り戻したいと思う方は、地道に工夫してみましょう。
もしも夫婦のみで改善することが難しければ、夫婦関係のカウンセリングを受けてみるのも有効です。専門のカウンセラーが親身になって相談に乗ってくれます。
夫婦でカウンセリングに出向くのが難しい場合には、スカイプなどを使ったカウンセリングで対応してくれるクリニックもあります。その他身体的な悩みの相談もできますので、一度カウンセリングを受けてみてはいかがでしょうか。
(2)離婚する
これまでのセックスレスの期間や、夫婦仲の状況などによっては、離婚を検討した方がよい場合もあります。
セックスレスで夫婦仲が冷え切っている場合は、不倫・浮気やDV、モラハラなど、他にも問題があるケースも少なくありません。
そのような場合は、無理に夫婦としての生活を続けるよりも、離婚することで新たな道が開けることもあるでしょう。
セックスレスのみで離婚できるのかできないのかや、慰謝料の問題、離婚するための具体的な方法については、この後で詳しく解説していきます。
(3)「セックスはよそでする」はおすすめできない
セックスレスに悩む人の第三の道として、「セックスはよそでする」ことにして、家庭生活は家庭生活で今までどおりに続けるという人もいるのかもしれません。
しかし、この方法は法的にはおすすめできません。なぜなら、配偶者以外の異性とセックスをすることは「不貞行為」に該当し、パートナーから慰謝料を請求されるおそれがあるからです。
それに、この方法では一時の性欲は満たされたとしても、パートナーとの夫婦関係から目を背け、問題を放置しているに過ぎません。そのまま年月が過ぎ、やがて二人の関係に目を向けたときには取り返しがつかないほどに溝が深まっていて、離婚するにしてもさらに複雑な問題に直面することにもなりかねません。
セックスレスで悩んでいるなら、「今」のパートナーとの関係を見つめて、夫婦関係を修復するにせよ離婚するにせよ、建設的な対処法を考えましょう。
3、セックスレスで必ずしも離婚はできるわけではない!
前記「1」で、セックスレスで離婚することは法的に可能と申し上げましたが、どんなケースでも離婚できるというわけではありません。なぜなら、パートナーが離婚に反対する場合には、「法定離婚事由」がなければ離婚は認められないからです。
法定離婚事由とは、民法第770条に定められた、下記の5つの事由のことです。
セックスレスで離婚できるかどうかは、あなたが直面しているセックスレスの状況が「5. その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」に該当するかどうかにかかっています。
該当する場合は離婚できますが、当しない場合には離婚できないということになります。
そこで、離婚できるケース・離婚できないケースについて、もう少し詳しくみていきましょう。
(1)離婚できるケース
セックスレスが原因で離婚できるのは、こちらからセックスを誘いかけても拒否される状況が長期間に及んでいるケースです。
ひとことで「セックスレス」といっても、お互いにセックスを望んでいないというケースもあるわけですから、離婚が認められるには「誘いかけても拒否される」という状況にあることが必要です。
この状況がどの程度の期間続けば離婚が認められるのかは、他にもさまざまな事情が総合的に考慮されるため、一概に言うことはできません。最低でも数年は必要となります。
ただ、セックスレスが原因で夫婦喧嘩が絶えなくなっていたり、別居に至っているような場合には、比較的短期間のセックスレスでも離婚が認められる傾向にあります。
拒否する側が不倫やDV、モラハラなどをしている場合は、それを原因として離婚できます。
(2)離婚できないケース
お互いに加齢により自然にセックスがなくなったケースや、お互いに性交渉を望んでいないケース、どちらか一方が病気などでセックスが困難なケースなどではセックスレスを理由とした離婚は認められません。
ただ、セックスレスに悩んでいる方の多くは、このような状況にはないでしょう。
前記のとおり、相手から一方的に性交渉を拒否されているとしても、「こちらから誘いかけても拒否される」という状況でなければ離婚は難しいことにご注意ください。
4、セックスレスで離婚できる場合は慰謝料ももらえる
セックスレスが離婚原因に該当する場合は、慰謝料も請求することが可能です。
そもそも慰謝料とは、他人の不法行為によって受けた精神的損害に対して支払われる損害賠償金のことです。
セックスレスの場合であれば、夫婦生活を拒否されたことによる精神的苦痛に加えて、セックスレスが原因で子どもを授かる機会を逸したことによる精神的苦痛を受けることもあるでしょう。
パートナーが正当な理由なく夫婦生活を拒否した場合には、これらの精神的苦痛を根拠として慰謝料を請求できるのです。
(1)獲得できる慰謝料の相場
ただし、セックスレスで獲得できる慰謝料はケースバイケースです。
一応の相場としては、10万円~数十万円程度とお考えください。
セックスレスが原因でうつ病を発症した場合など、精神的損害が大きいと認められる場合には、100万円程度の慰謝料が認められる可能性もあります。
(2)獲得方法
セックスレスによる慰謝料を獲得する方法は、下記の4ステップです。
- 話し合いの際に請求
- 内容証明郵便等で請求
- 調停で請求
- 裁判で請求
以下で、それぞれのステップについて解説していきます。
(3)話し合いの際に請求
まずは、夫婦間の離婚協議の際に請求しましょう。
話し合いによって合意ができれば、金額は自由に決めることができます。
話し合いでは、どの程度の苦痛を味わったのか、だからいくらの慰謝料が欲しいのかということを具体的に説明することが大切です。
ただ、デリケートな話題なので、直接話をするのも苦痛になるかもしれません。証拠を残すためにもLINEやメール・手紙などのやり取りで話し合いを行うこともおすすめです。
(4)内容証明郵便等で請求
話し合いで慰謝料の合意が難い場合には、内容証明郵便で慰謝料の請求を行いましょう。
このような形を取ることで相手に精神的なプレッシャーをかける効果がありますので、話し合いが進むことが期待できます。
また、内証証明郵便を送付すれば、文書の内容や相手への送達日を郵便局が証明してくれますので、後に調停や裁判を起こす際の証拠にもなります。
(5)調停で請求
内容証明郵便でも相手が慰謝料に応じなかった場合には、離婚調停を申し立てることになります。
調停は家庭裁判所の調停委員を介して話し合いを行う手続きですが、相手がセックスレスの事実を否定する場合には、セックスレスの証拠が必要になる可能性があります。
そのため、証拠は早い段階で確保しておくことが重要となります。
(6)裁判で請求
調停も不成立に終わった場合には、離婚裁判(訴訟)で慰謝料を請求していくことになります。
裁判(訴訟)では、セックスレスの証拠が必要不可欠です。
証拠によって裁判所がセックスレスの事実とあなたが受けた損害を認定すれば、相手に対して慰謝料の支払いを命じる判決が言い渡されます。
詳しくはこちらの記事で解説していますのでご覧ください。
5、セックスレスで離婚するためには証拠集めが重要!
前項では、調停や裁判に発展した場合にはセックスレスを証明できる証拠が必要とご説明しましたが、証拠は離婚を切り出す前に確保しておくべきです。
なぜなら、相手が話し合いに応じようとしない場合、調停や裁判で使える証拠があることを示せば、話し合いが進む可能性があるからです。
それでは、セックスレスを証明するために集めるべき証拠をみていきましょう。
デリケートな証明なので、証拠を完璧に揃えるのは難しいかもしれません。
ですので、以下の証拠のうち、入手できるものをできる限り数多く確保していることが決め手になります。
(1)メールや録音などの実際に拒絶された証拠
実際に拒絶されたことがわかる文字や音声の記録は確かな証拠になります。
例えば、メールなどで、「今夜はセックスしよう」と送ったのに対して、「疲れているので無理です」などと返信されているような内容です。
「もう半年以上、セックスレスだよ」などと期間が分かるような内容であれば、なおいいでしょう。
(2)セックスレスが精神的な苦痛になったと分かる日記
セックスレスによる精神的な苦痛を綴った日記も証拠にできます。もしもあるなら証拠に使ってください。
今まで日記を書いてないなら、離婚を意識し始めた頃からでも書き留めれば証拠として使えます。
ポイントは、継続的に事実と感情を記録していくことです。
性交渉を長期間にわたって拒否されていることの証拠としては、日記が中心的なものとなるケースが多いです。
メールや録音などの客観的証拠があると、日記の記載内容の信用性を補強できます。
(3)夫婦の生活時間帯が分かる表など
実際に時間のすれ違いや病気などがなかったことを証明できるような、夫婦の生活時間が分かる表なども有効です。
起床時間、就寝時間、一緒に寝ていたなどの記録があれば証拠として保持しておきましょう。
セックスした日と拒絶した日がわかれば記載を忘れないでください。
これらのデータを日記と併せて書き留めていくのも有効です。
6、セックスレスで離婚するための具体的な方法
セックスレスの証拠を確保できたら、いよいよ相手に離婚を切り出し、離婚手続きを進めていくことになります。
具体的な進め方は、以下のとおりです。
(1)夫婦間の話し合い
まずは夫婦で話し合いを行います。
協議離婚では、理由はどうあれ離婚に合意さえ取れれば離婚ができます。
セックスレスの証明などが苦痛だと感じるなら、できるだけ話し合いによる決着を目指した方がいいでしょう。
ただ、やはり証拠がそろっている方が相手を説得しやすくなりますし、慰謝料や親権などの離婚条件についての話し合いも有利に進めやすくなります。
(2)離婚調停
もしも話し合いでは決着がつかない場合には、離婚調停で話し合うことになります。
離婚調停では、家庭裁判所の調停委員が話し合いを仲介し、適宜アドバイスや説得を行ってくれますので、当事者だけで話し合うよりも解決しやすくなります。
セックスレスというプライベートな話題に仲介者を挟むのは苦痛に感じるかもしれませんが、調停委員は中立公平な立場の人なので心配はいりません。
具体的な事実とあなたが受けた精神的損害を説得的に説明することで調停委員の理解が得られれば、調停委員を味方につけることも可能になります。
調停委員を味方につけることができれば、調停を有利に進めやすくなります。
(3)離婚裁判
離婚調停が不成立になった場合には、離婚裁判へと発展します。
裁判では、双方が提出する主張と証拠に基づいて、離婚が認められるかどうかの判決を裁判所が下します。
裁判は手続きが複雑である上に、セックスレスのケースでは話題が話題ですので、証拠の提出や証言が苦痛な場合もあるでしょう。
離婚問題に詳しい弁護士に裁判手続きを任せれば、精神的な苦痛が緩和されることでしょう。
7、セックスレスで離婚が頭をよぎったら弁護士に相談を
セックスレスで離婚したいと思っても、パートナーが反対する場合には簡単に離婚できないケースが多いものです。
そんなときは、ひとりで悩まずに弁護士に相談するのが有効です。
離婚問題に詳しい弁護士に相談すれば、あなたのケースですぐに離婚が可能かどうか、可能としてどれくらいの慰謝料の請求が可能かを判断してもらえます。
また、上手な離婚の切り出し方や離婚協議の進め方、慰謝料の交渉方法などのアドバイス、その他どのように離婚をしていくかについて、最善の具体的な方法を弁護士がともに考えます。
無料相談を受け付ける事務所も増えていますので、お気軽に相談してみてください。
セックスレス離婚のQ&A
Q1.セックスレスを理由に離婚できる?
どんなケースでも離婚できるというわけではありません。
パートナーが離婚に反対する場合には、「法定離婚事由」がなければ離婚は認められないからです。
Q2.セックスレスで離婚できる場合は慰謝料ももらえる?
セックスレスが離婚原因に該当する場合は、慰謝料も請求することが可能です。
パートナーが正当な理由なく夫婦生活を拒否した場合には、これらの精神的苦痛を根拠として慰謝料を請求できるのです。
Q3.セックスレスで離婚するためには?
以下のような証拠集めが重要です。
- メールや録音などの実際に拒絶された証拠
- セックスレスが精神的な苦痛になったと分かる日記
- 夫婦の生活時間帯が分かる表など
まとめ
セックスレスはそれ自体が大きな悩みである上に、離婚したいと思っても簡単ではないケースが多いものです。
しかも、セックスレスは夫婦間でもなかなか相談がしづらい話題でしょう。
そのため、実際に悩みを抱えている場合には、解決するのが難しい問題だともいえます。
そんな場合には、一人で悩みを抱え込まずに、離婚問題に詳しい弁護士に頼ることをおすすめします。
きっとあなたにとって明るい未来を切り開く手助けになることでしょう。