有給休暇を残したまま退職する場合、有給休暇はどのような扱いになるのでしょうか?
ここでは、損をしないための退職前の有給休暇の扱い方についてご紹介します。
目次
1、有給休暇の定義と日数
そもそも有給休暇がどのような休暇であり、有給休暇の日数がどのように決められているのか知らないという方もいるでしょう。
退職前の有給休暇の扱い方を知る前に、まずは有給休暇について知っておきましょう。
(1)有給休暇とは
有給休暇とは、要するに給料が発生する休暇日です。労働者の心身の疲労の回復や、ゆとりある生活を保障することを目的としています。一定期間の勤続等、労働基準法に定められている条件を満たした労働者に対して、有給休暇は付与されます。
有給休暇の取得は法律で定められた労働者の権利なので、使用者は労働者が有給休暇を使用することを拒むことはできません。
(2)有給休暇の日数について
有給休暇を取得できる要件に関しては、労働基準法第39条に定められています。
「雇い入れの日から6カ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤している」労働者に対して有給休暇は付与されます。
有給休暇の日数は最低でも10日間が付与され、勤続年数が長くなるほど増えていきます。勤続年数が6カ月で10日ですが、1年6カ月経過すれば11日に増え、2年6カ月で12日といったように1日ずつ増加する仕組みです。
そして、最終的には年間20日間の有給休暇が付与されることになります。
2、有給休暇が残ったまま退職するとどうなるのか?
条件を満たしていれば有給休暇を取得することができます。
中でも、有給休暇の日数の内5日分については、2019年4月から、労働者に取得させるよう会社に義務付けられることになりました(労働基準法39条7項本文)。
このことは、厚生労働省が公開している「年5日の年次有給休暇の確実な取得」にもわかりやすく記載されていますので、是非ご覧ください。
もっとも、5日分を越えて有給休暇が残った状態のまま、退職を検討しているという方もいることでしょう。有給休暇が残ったまま退職すれば、有給休暇はどのような取り扱いになるのでしょうか?
(1)有給休暇の時効について
これまで何年も有給休暇を全て使用することがなかった場合には、全ての有給休暇が残っているのではないかと考える方もいるでしょう。
しかし、有給休暇には時効があるとされており、一定期間が経過した有給休暇について取得することはできません。
実務上は、有給休暇の請求権は労働基準法115条に服すと考えられ、付与された日から2年で時効になると解されています。
そのため、付与された年に全ての有給休暇を消化できなくても1年まで繰越すことができますが、その期間が経過すれば有給休暇は消滅することになります。
(2)退職すれば有給休暇は消滅する
有給休暇は「労働者」であることが前提となっており、退職すれば有給休暇は全て消滅します。
もし有給休暇がたくさん残っていたとしても、退職日まで消化されなかった有給休暇に関しては消えてしまうことになるのです。
これは、本来取得できるはずであった有給休暇を捨てることになるので、労働者にとっては損だと言えます。
退職が決まってからでも退職日までは有給休暇を取得する権利が労働者にはあるので、退職日までに有給休暇を取得するようにしましょう。
3、残ったままの有給休暇は退職前に買い取ってもらえるのか?
有給休暇が残ったまま退職することは避けたいと考えても、退職日まで忙しくて有休を消化できないという場合もあるでしょう。
有給休暇は買い取ってもらえるという話を耳にしたことがあるという方もいるかもしれませんが、実際に有給休暇の買取りは可能なのでしょうか?
(1)原則的には有給の買取りは禁止されている
有給休暇は労働基準法に定められているものなので、労働者には取得する権利があります。
また、有給休暇を買い取ることは労働基準法39条に違反するとして、原則的に禁止とされています。
有給休暇はあくまでも労働者にリフレッシュしてもらうという目的の制度なので、休暇を与えずに有給休暇の買取りを行えば、制度の趣旨に反してしまうことになるからです。
労働者から買取りの請求することも同様に認められません。
裁判例では、「労働者が現実に休暇を取得することを要するものと解される」と述べているものもあり、会社からも労働者からも有給休暇の買取りを求めることはできないという結論になります。
ただし、次のような場合には、合意によって有給休暇の買取りが、事実上認められることもあります。
- 法定基準を上回って与えられている有給休暇
- 時効となる有給休暇
- 退職時に未消化となっている有給休暇
(2)会社によって買取りの可否は異なる
有給休暇の買取りは原則的に禁止されているものの、退職で消滅してしまう有給休暇を買い取ってもらうことは違法になりません。
ただし、会社によって買取りの可否が異なるという注意点があります。
退職時に未消化である有給休暇の買取りに関する規定が法律上にはないため、買い取るか否かは会社側が自由に選択できます。
退職時の有給休暇の買取りに関して就業規則に記載している会社もあるので、就業規則に買取制度が記載されていれば、退職時に未消化であった有給休暇を買取してもらえます。
しかし、就業規則に記載されていない場合は、会社へ直接確認することが必要です。
4、有給休暇が残ったまま退職する事にならないようにできる3つの事
有給休暇が残ったまま退職すれば、本来取得できた休暇を捨てることになってしまいます。
有給休暇を残して退職してしまわないようにするには、退職前に有給休暇の扱いについて考えておく必要があります。
(1)退職日の数カ月前から少しずつ消化する
有給休暇が残ったまま退職することにならないようにするには、退職よりも数カ月前から有給休暇を計画的に少しずつ消化しましょう。
有給休暇を取得することに後ろめたさを感じる方もいるようですが、有給休暇は労働者に与えられた権利であり、会社は有給休暇の取得を拒否することはできません。
しかし、突然まとめて有給休暇を取得すれば、職場の周囲の人に迷惑をかけてしまう恐れがあります。
そのため、退職の数カ月前から少しずつ仕事を調整し、有給休暇を取得していくことがおすすめだと言えます。
(2)退職時に有給休暇を取得する
有給休暇は、退職時にまとめて消化することも可能です。
最終出勤日の後にまとめて有給休暇を取得すれば、退職日まで会社には出勤していないものの給料を貰えることになるのです。
退職時にまとめて有給休暇を取得したいという場合には、退職の1ヵ月ほど前には会社に退職の意と有給休暇の取得について伝えることをおすすめします。
ただし、この場合には転職に関する注意点があります。
有給休暇を消化中の状態で転職すれば、新しい会社と前の会社の二重就労になってしまいます。
どちらの会社にも許可を取っているのであれば問題ありませんが、二重就労は雇用保険の二重加入などトラブルになってしまう恐れがあります。
そのため、新しい転職先が決まっている状態で退職する場合には、二重就労の状態となることを避けるためにも、有給休暇を取得するタイミングには注意をする必要があります。
(3)会社へ有給休暇の買取りを相談する
有給休暇の取得がどうしても難しいという場合には、会社へ有給取得の買取りについて相談してみましょう。
会社によっては有給休暇の買取制度を導入している場合もあるので、退職時に残ったままの有給休暇を買い取ってもらえる可能性があります。
有給休暇が買取になる場合、有給休暇の買取価格は「過去3カ月の平均賃金」や「標準報酬月額の日割り額」になることが一般的です。
就業規則に
- 有給休暇の買取りの可否
- 買取価格
について記載されている場合もあるので、会社へ相談する前に就業規則も確認してみてください。
5、解雇された場合、残ったままの有給休暇はどうなるのか?
合意退職や自主退職など、退職の仕方はいくつかありますが、会社から解雇されたというような場合もあるでしょう。
解雇される場合、
- 将来の解雇を予告されるか(労働基準法上、原則として少なくとも30日前に解雇の予告をしなければならないとされています。)
- 解雇予告手当を支払うことで即日解雇されるか
どちらかになります。
解雇の予告がされた場合であれば、そこから解雇日まで有給休暇を消化してもらうように会社へ相談することができます。
しかし、即日解雇された場合には有給休暇を消化することは難しくなります。
即日解雇の場合は、通知された日に雇用契約は終了し、その後に有給休暇に関する請求をしても、会社には応じる義務がありません。
6、残った有給休暇の消化を会社に拒否された場合にできること
退職前に残ったままの有給休暇を消化したい旨を会社に伝えたものの、会社から有給休暇の消化を拒否されてしまったというようなケースもあるでしょう。
もし会社から有給休暇の消化を拒否された場合には、どのように対処すべきなのでしょうか?
(1)会社側は原則、有給休暇の取得を拒否できない
有給休暇の取得は法律によって労働者に与えられた権利であり、会社は原則的に有給休暇を拒否することはできません。
もし合理的な理由もなく有給休暇を拒否した場合には、労働基準法第39条に違反することになり、同法119条1号によって、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることになっています。そのため、会社に有給休暇の取得を拒否された場合には、違法であると主張することができるのです。
ただし、会社には有給休暇に対して「時季変更権」という権利が法律で認められています。
時季変更権とは、労働者が有給休暇を取得することで事業の正常な運営を妨げる場合には、有給休暇を与える日を変更することができるという権利です。
事業の繁忙期に有給休暇を取得しようとすれば、会社側は時季変更権を行使する可能性があります。ただし、時季変更権は有給休暇の取得時期を変更する権利であり、有給休暇の使用を拒否する権利ではありません。
(2)労働組合や労働基準監督署に相談する
残った有給休暇の消化を会社に拒否された場合には、ご自身の加入する労働組合や労働基準監督署に相談しましょう。
労働組合に相談することで、有給休暇の消化について掛け合ってもらうことが期待できます。また、労働基準監督署に相談して労働基準法違反であることが認められた場合には、会社への指導や勧告を行ってもらえます。
労働組合や労働基準監督署へ相談する場合には、会社の違法行為を立証するための証拠を集めるようにしましょう。
(3)弁護士に相談する
労働組合や労働基準監督署に相談しても、会社とのトラブル解決にはならないこともあります。
残ったままの有給休暇の消化に関して会社とトラブルに発展してしまったという場合には、弁護士に相談することも検討してみてください。弁護士であれば、代理人になって会社とのトラブル解決に向けて交渉を行うことができます。裁判や労働審判に発展する場合にも、そのまま弁護士に依頼することが可能です。
まとめ
有給休暇が残ったまま退職してしまうことにならないように、日頃から有給休暇は少しずつ取得するようにしましょう。
どうしても退職までに有給休暇を全て取得することが難しい場合には、退職時にまとめて有給休暇を取得することや、会社へ買取りを相談することもできます。
しかし、有給休暇の取得自体に否定的な使用者もいるかもしれません。合理的な理由なく有給休暇の取得を拒否することは違法であり、場合によってはパワハラに該当することもあります。
有給休暇を残したまま退職することでトラブルに発展した場合や、会社の対応へ疑問を感じている場合には、一人で抱え込まずに労働問題の経験豊富な弁護士に相談してみてください。