借金に対して時効の援用をする際には、書面による通知が必要です。この通知のことを「時効援用通知書」と呼び、正しい書き方が求められます。また、時効の援用を主張する際には注意が必要です。
具体的には、
時効援用通知書に含まれるべき情報
正しい書き方の例
時効の援用を主張する際の注意点
などについて詳しく解説します。時効に関する全般的な情報については、関連する記事も併せてご覧ください。
時効の援用全般については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、時効の援用を通知する際の書き方について知る前に〜時効援用通知書とは
時効が完成している状態で時効の援用をすると、本来支払うべきであった債務を支払わなくて済むようになります。そのため、時効の援用については、後から
- 「言った」
- 「言わない」
のトラブルが発生しないよう、書面の形で意思表示することが大切です。
時効の援用について意思表示する書面を時効援用通知書と呼びます。時効援用通知書を内容証明郵便の形式で通知しておけば、あとからトラブルになった際にも時効援用通知書を証拠として提出することができます。
2、時効援用通知書に記載すべき項目
時効の援用は、その後の債務(権利を持つ人に対して特定の行為や金銭を与えなくてはいけない義務)の支払いを左右する重要なものですから、時効援用通知書の書き方を事前に確認し必要な項目をしっかり記載していく必要があります。
書き方が不十分であったがために時効の援用が認められない場合、債権者(お金を貸した人)に時効の完成を止める猶予を与えてしまうことにもなりかねませんので、十分注意していきましょう。
(1)時効を援用する日付
まずは時効の援用をする日付を書きます。消滅時効が完成する前に時効を援用しても時効は完成しません。時効援用日をしっかり書面に書き、消滅時効完成後に時効の援用の意思表示をしている旨を示しましょう。
(2)差出人とその連絡先
時効援用通知書には、時効の援用の意思表示をする
- ご自身の名前
- 連絡先
を必ず書きましょう。
赤の他人が全く関係のない債務に関して時効の援用の意思表示をすることはできません。必ずあなたがご自身の債務に関して時効の援用の意思表示をしていることがわかるように、ご自身に関する情報を書いておきましょう。
(3)債権の内容を特定する情報
時効援用通知書を出して時効の援用の意思表示をするわけですから、どの債権(特定の人に特定の行為や金銭を請求できる権利)に関して消滅時効が完成しているのかを明らかにする必要があります。特に複数の債権がある場合は、しっかり特定しなければ時効の援用の意思表示として認められない可能性がありますので注意しましょう。
最低でも
- 債権者
- 債務者(お金を借りた人)
- 債権
の内容を記載しなければ債権の内容を特定することができません。
借り入れをしたケースでは、
- 借り入れ日
- 借り入れ金額
- 会員番号
なども書いておきましょう。
(4)時効が完成していること
時効の援用の意思表示をする場合は、時効が完成している旨を時効援用通知書に記載する必要があります。消滅時効の起算日(期間を数える最初の日)がはっきりわからないとそもそも時効が完成しているのかもわかりません。
そのため、時効の起算日を明確に書き、その起算日から時効期間が経過している旨を記載しましょう。
借り入れをしている場合で最終返済日がわかっている場合は、「最終返済日である平成〇年〇月〇日の翌日からすでに〇年が経過しており」と記載しておくと安心です。
(5)消滅時効を援用する旨の意思表示
時効援用通知書には、時効が完成した旨だけでなく、時効の援用の意思表示についても記載する必要があります。万が一時効の援用の意思表示を記載していないと、時効援用通知書としての機能を果たしません。
それどころか、債権者に時効の完成を止める猶予を与えてしまうことにもなりかねません。時効の援用の意思表示は必ず記載するようにしてください。
時効の援用の意思表示については「本書をもって時効を援用いたします」などと一言記載すれば問題ありません。
(6)信用情報機関からの登録情報の削除
時効の援用を主張し未払いの債務が消滅した場合、消費者金融やクレジットカード会社などから、信用情報機関に対し、時効の援用が行われたことを通知してもらう必要があります。
時効援用通知書に「本書面を受け取った後、速やかに信用情報機関に対し、登録情報の削除依頼をお出しください」などと記載しておきましょう。なお、こちらの項目については必須項目ではなく、これを書き忘れたとしてもそのほかの項目の記載により時効の援用の意思表示がされていれば、時効の援用自体は有効となります。
3、【例文付き】時効援用通知書の書き方
続いて、時効援用通知書の書き方を具体的に見ていきましょう。時効援用通知書については、後から
- 「言った」
- 「言わない」
のトラブルが発生しないよう、書き方を事前に確認し内容証明郵便で送るようにしてください。
(1)文字数について
内容証明郵便で送る場合、文字数は形式が決まっています。
①縦書きの場合
縦書きの場合、「1行20字以内、1枚26行以内」となります。
②横書きの場合
横書きの場合、
- 「1行20字以内、1枚26行以内」
- 「1行13字以内、1枚40行以内」
- 「1行26字以内、1枚20行以内」
のいずれかとなります。
(2)用紙に指定はあるのか?
用紙について指定のものはなく、手書きでもパソコンを使って入力したものをプリントアウトしたものでも大丈夫です。
手書きの場合、文字数をいちいち数えるのが大変ですので、内容証明専用の用紙を購入していただき文字を書くのが一般的です。
(3)押印について
内容証明郵便を送る場合、差出人の押印が必要となります。差出人の押印は実印である必要はなく、認印でも問題ありません。
(4)発送の方法〜同じ内容の文書を3部用意する必要がある
内容証明郵便を用意する場合、1部だけでは足りず、同じ内容の文書を3部用意する必要があります。
内容証明郵便を送る際の封筒ですが、封筒には文書内に記載したとおりの差出人及び受取人の住所・氏名を記載する必要があります。
(5)費用について
内容証明郵便を出す場合、一般の郵便物の料金以外に別途料金がかかります。謄本の枚数により料金は異なり、
- 1枚:440円
- 2枚:700円
- 3枚:960円
- 4枚:1220円
- 5枚:1480円
となっています。
(6)実際に例文を確認~時効援用通知書の見本
①借金の場合
以下は借金の場合における時効援用通知書の見本になります。
時効援用通知書 |
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令和○年〇月〇日 |
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東京都〇〇区 |
〇〇消費者金融株式会社 代表者代表取締役 〇〇〇〇殿 |
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東京都〇〇区 〇〇〇〇 印 |
電話番号 03-〇〇〇〇-〇〇〇〇 |
FAX番号 03-〇〇〇〇-〇〇〇〇 |
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前略 貴社は私に対し、以下に記載する内容の貸金の返還請求をしておられますが、私が貴社より借り受けた当該債務については、最終弁済日の翌日(平成〇年〇月〇日)からすでに5年以上が経過しており、時効が完成しております。 |
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契約番号:〇〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇 |
借入人氏名:〇〇〇〇(ふりがな) |
生年月日:昭和〇〇年〇月〇日 |
住所:東京都〇〇区〇〇 |
当初借入額:〇〇万円 |
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つきましては、私は貴社に対し、本通知書をもって上記貸金債権について、消滅時効を援用しますので、その旨ご通知いたします。 |
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貴社におかれましては、本書面を受領後速やかに信用情報機関宛てに適切な通知をして、登録された事故情報を抹消されますよう、併せてお願い申し上げます。 |
②売掛金の場合
以下は売掛金の場合における時効援用通知書の見本になります。
消滅時効援用通知書 |
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株式会社○○ 御中 |
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貴社は弊社に対して下記債権を請求されていますが、既に消滅時効期間が経過しているため、本書面をもって、下記債権の消滅時効を援用します。 |
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記 |
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【債権の種類】 売掛金(商品代金債権) |
【契 約 日】 平成○年○月○日 |
【支払約定日】 平成○年○月○日 |
【残 元 金】 金○○○○○○円 |
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これにより、私の債務は消滅いたしますので、今後、請求等をされないようにお願いいたします。 |
なお、時効更新事由があると主張される場合には、本状到着後2週間以内に、その根拠資料を私まで郵送してください。 |
また、本書面は、債務の内容も含め、債務の承認をするものではありませんので、念のため申し添えます。 |
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令和○年○月○日 |
東京都〇〇区 |
株式会社○○○○ |
代表取締役 ○○○○ 印 |
4、時効援用通知書送付から債権が消滅するまでの流れ
時効援用通知書を送付してから債権が消滅するまでの流れを確認していきましょう。
- まずは、時効援用通知書を内容証明郵便で発送
- 時効援用通知書発送後、消滅時効が完成していれば、時効により債権が消滅
この際、債権者からの連絡や債権者の承諾は不要です。時効完成について争いがある場合は、債権者から連絡が来る可能性があります。
5、時効の援用を主張する際の注意点
時効の援用を主張する際の注意点もおさえておきましょう。
(1)時効が完成しているかを確認すべき
時効の援用を主張する際、まずは時効が完成しているかについてしっかり確認しましょう。相手が金融やその他の分野でのプロ(業者)である場合、うっかり時効が完成するようなミスを犯すことはあまり考えられません。
引越しなどを繰り返して時効が完成したかのように見える場合でも、業者が以下のような時効の更新(もしくは完成猶予)行為をしていれば時効は完成しません。
- 裁判上の請求、支払督促(民法147条1項1号、2号)
- 強制執行(民法148条1項1号)
- 催告(民法150条1項)
- 債務者の承認(民法152条1項)
(2)時効完成前に債権者に時効援用通知書を送ると債務者側にリスクあり
時効完成前に債権者に時効援用通知書を送ると、債権者に債権の存在や時効完成のリスクを認識させてしまう可能性があります。時効援用通知書を送る際は、時効が完成しているのかどうか十分確認しましょう。
(3)債務の承認に該当することがないようにする
時効援用通知書を送る際は、自身が債務の承認をしたことにならないよう「債務の承認をするものではない」旨の一言を入れておくと安心です。
6、時効援用通知書の書き方について不安を覚えた場合は弁護士に相談
以上のように、時効の援用をする際は様々な事項をしっかり確認・検討する必要があります。確認を怠ったばかりに自身に不利な結末になる可能性さえあります。
少しでも不安がある方は、時効援用通知書を出す前に一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に相談をすることで、
- 時効期間
- 時効完成の有無
- 時効援用通知書の書き方
などを確認することができます。
まとめ
時効の援用の意思表示をする場合、その意思表示で債権が消滅することもあれば、その意思表示が引き金となり債権者の時効完成の猶予につながってしまう場合もあります。時効の援用については十分確認してから行う必要があります。
少しでも不安がある方は、時効の援用の意思表示をする前に一度弁護士にご相談ください。