再犯防止の重要性について考える際、家族の支えが必要不可欠です。
2019年11月6日、元タレントの田代まさし氏が覚せい剤取締法違反(所持)で「5回目」の逮捕をされました。
麻薬依存が再犯の主な理由として挙げられますが、再犯に対する疑問や防止策についても多くの方が考えていることでしょう。
国は、2012年7月に「再犯防止に向けた総合対策(以下、総合対策)」を決定し、初めて「出所受刑者などが、出所後(出所した年を含む)の2年以内に、刑務所などに再入所する割合」を「2021年までに20%以上減少させる」との具体的な目標を掲げました。
このように、国は再犯防止を重要な課題とし、積極的な対策を講じています。
今回は、
- 再犯の実態や原因
について探求した後、再犯防止の国の制度の一つである
- 更生緊急保護制度
について詳しく解説し、最後に
- 家族のサポートが果たす役割
をご紹介いたします。 皆さまの参考になれば幸いです。
警察に逮捕について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
1、再犯防止について知る前に~再犯の実態
まずは、再犯防止の必要性を実感していただくべく、現在、再犯の実態についてご紹介いたします。
(1)再犯者率は上昇
「再犯者率」は年々上昇しています。
再犯者率は、検挙された人の中に占める再犯者の割合のことをいいます。
犯罪白書によれば、刑法犯の再犯者率は平成9年以降一貫して上昇し続けており、令和3年度は「48.6%(17万5041人の検挙者中、再犯者が8万5032人」でした。
つまり、検挙された方の約半分が「再犯者」ということになります。
(2)覚せい剤での再入所、再犯が多い
覚せい剤については、出所後、再び覚せい剤で検挙される方が多いことが分かっています。
覚せい剤取締法違反の成人検挙人員のうち,同一罪名再犯者率の推移を見ると、近年上昇傾向にあり、令和3年は68.1%となっています。
出典:薬物犯罪 20歳以上の検挙人員中の同一罪名再犯者人員等の推移
2、どうして再犯に及んでしまうのか?
再犯防止のためには、まずは再犯の原因を突き止めることが大切です。
再犯に至る原因(理由)は、大きくは以下の3つを挙げることができます。
(1)帰住先がない、確保できていない
犯罪白書によると、令和3年度中、男女とも初入者(はじめて刑務所に入る方)よりも再入者の方が住居不定の割合が高い(男性初入者「14.3%」、男性再入者「22.6%」、女性初入者「7.4%」、再入者「9.9%」)ことが分かっています。
このことから、帰住先がないと犯罪を犯しやすいということが見えてきます。
ここで、一言で「帰住先」と言っても、退所した家族等を受け入れる者たちの受け入れ態勢によって、大きく変わってきます。
形式的な帰住先では、あまり意味はありません。
受け入れる者たちが、退所者を理解し、長期的に見守る意識と態勢がなければ、心の隙をつくように再犯の衝動が湧き上がってくる可能性が生じてしまいます。
出典:入所受刑者の居住状況別構成比(男女別、初入者・再入者別)
(2)職に就けない、就いていない
犯罪白書によると、令和3年度中、刑務所に再入所した方のうち無職者が「71.4%」、有職者が「28.6%」とのことです。
また、刑務所に入所後、仮釈放を許可された(この場合、必ず保護観察に付されます)ものの再犯などによって許可が取り消された方(すなわち保護観察が終了した方)のうち、無職者だった方が「7.6%」、有職者が「1.8%」とのことです。
このことから、無職であることと再犯に及ぶことについて、一定の関係が見えてきます。
出典:保護観察終了者の取消・再処分率の推移(男女別、年齢層別、罪名別、就労状況別)
(3)刑務所内での処遇が効果的ではない?
刑務所内では、単に刑務作業を行うだけでなく、入所者が更生し社会に円滑に復帰するための「矯正指導」が行われています。
矯正指導の中には、薬物依存に対する薬物依存離脱指導があります。
にもかかわらず、刑務所生活で溜まったストレスの解放から出所後、薬物の再犯に至る方も多いと言われています。
また、近年、問題となっているクレプトマニア(窃盗症)に対する効果的な指導、プログラムがなく、刑務所内での処遇には限界があるとの指摘がなされています。
矯正指導は、必要項目の漏れがないように、また効率的に行うために、一定の流れが組まれているものと思いますが、「指導」というのは概して「個人に合った」ものであることが求められます。
指導や教育とは、一人一人の心に刺さらなれば大きな効果を生まないのです。
とても難しい問題ですが、犯罪の被害数の減少や日本の未来のためにも、考え続けるべき問題だと思います。
3、帰住先がない、職に就けない人向け~更生緊急保護制度
国では、前記2で掲げた原因に対して一定の制度を準備しています。
この項では、その中の一つである「更生緊急保護制度」をご紹介いたします。
(1)更生緊急保護制度とは
更生緊急保護制度は、身柄を釈放されようとしている人が帰住先などに困っている場合に宿泊場所を提供し、保護期間中、就労のための援助をするなどして円滑な社会復帰を手助けするための制度です。
(2)更生緊急保護制度の対象者
更生緊急保護の対象者は以下の方々(抜粋)とされています(更生保護法85条1項1号から9号)。
①懲役、禁錮又は拘留の刑の執行を終わった者(1号)
仮釈放され仮釈放期間を無事経過した方、刑務所を満期出所した方です。
②懲役又は禁錮につき刑の全部の執行猶予の言渡しを受け、その裁判が確定するまでの者(3号)
判決で全部の執行猶予付き判決を言い渡された方です。
③懲役又は禁錮につき一部の執行猶予の言渡しを受け、その猶予の期間中保護観察に付されなかった者であって、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わったもの(5号)
判決で一部執行猶予付き判決の言渡しを受け、その後服役し、服役期間が経過して釈放された方(保護観察なし)です。
④訴追を必要としないため公訴を提起しない処分をうけた者(6号)
不起訴処分を受けた方です。
(3)更生緊急保護制度を受けるための条件、手続き
また、更生緊急保護制度を受けるためには以下の条件を満たしていることが必要です。
①本人が身柄を拘束されていたこと
在宅事件の被疑者、被告人は対象ではありません。
ただし、在宅事件でも、実刑判決を受け刑務所に収容された方は対象者となります。
②対象者からの申し出
本人が希望する限り、保護を受けることができます。
希望する場合は保護観察所に申し出ます。
③親族からの援助を受けることができず、若しくは公共の衛生福祉に関する機関その他の機関から必要な保護を受けることができない、あるいはこれらの援助若しくは保護のみによっては改善更生することができないと認められる場合
対象者からの申し出を受けた保護観察所が、対象者から聴取した話の内容や関係機関から提供された情報を基に、これらの条件を満たすかどうか判断します。
よって、対象者からの申し出があったからといって必ず保護を受けられるとは限りません(更生保護法86条1項)。
(4)更生緊急保護制度の内容(どんな保護を受けられる?)
更生保護法85条1項には、
- 「金品の給与又は貸与」
- 「宿泊場所の供与」
- 「宿泊場所への帰住の援助」
- 「医療、療養、就職又は教育訓練の援助」
- 「職業の補導」
- 「生活指導」
- 「生活環境の改善又は調整」
が挙げられています。
以下、これらの重要な部分について解説していきます。
①更生保護施設、自立準備ホームで暮らす
更生保護施設は、帰住先がない人に対し、国の委託を受けて上記保護を行う民間の施設です。
法務省のホームぺージによりますと、令和4年4月現在で全国に103の更生保護施設が設けられており,収容定員の合計は2405名です。
なお、国は、平成21年度から高齢者、障害者など自立が困難な対象者に対して特別な処遇を行う更生保護施設(指定更生保護施設)を設け、令和4年4月時点で、77の更生保護施設が指定されています。
また、平成25年度からは、薬物依存者に対する重点的な処遇を行う更生保護施設(薬物処遇重点実施更生保護施設)を設け、令和4年4月時点で、25の更生保護施設が指定されています。
保護を受けることができる期間は原則として「6か月」です(更生保護法85条4項)。
その期間内に、社会復帰に向けた準備をしなければなりません。
出典:法務省 再犯防止推進白書
②帰住先の確保に向けて
更生保護施設や自立準備ホームは一時的な住居に過ぎません。
そこで、退所後の帰住先の確保が問題となります。
対象者の中には保護期間中に更生し、親族の下での暮らしを希望される方もおられます。
そこで、保護期間中から、保護観察所や施設などから親族への働きかけが行われます。
希望されない場合は、就労の確保と同時に、雇用主のもとで生活できないか雇用主と調整が図られます。
また、国は入居を拒まない家主の登録制度、セーフティーネット住宅の入居者への家賃債務保証制度などを設けており、条件によっては活用することができます。
③就労に向けて
国は、対象者を雇用し、就労継続に必要な生活や助言などを行う方に奨励金を支給するなどして協力雇用主を積極的に開拓しています。
保護期間中は、就労について、この協力雇用主との調整が図られます。
また、保護観察中の方などを対象に、ハローワークと連携し、就労意欲の喚起、就職活動の方法に関する助言、就職面接への付添いなど行う「更生保護就労支援事業」が実施されています。
(5)更生緊急保護の重点実施の内容
更生保護といえば、刑務所を出所した方、保護観察の対象となった方が対象とイメージされがちです。
しかし、実はその段階までには至らない方(起訴猶予者)も更生緊急保護の対象とされることがあります。
それが、更生緊急保護の重点実施(施行段階)です。
更生緊急保護の重点実施が開始された平成25年10月当初は、7つ保護観察所でのみ実施されていましたが、現在では全国の保護観察所で実施されています。
①保護の対象者
対象者のうち、特に支援の必要性が高い不起訴処分(起訴猶予)を受けた方
②保護を受けるための条件
基本的に前記(3)と同様です。ただし、支援の必要性が高い起訴猶予者が対象という点が異なります。
③制度の内容(どんな保護を受けられる?)
保護期間中は更生保護施設、自立準備ホームに入居して生活します。
期間中に自立に向けた生活指導、就労に向けてハローワークなどと連携した就労支援、退所後の住居確保に向けた調整などが行われます。
4、再犯防止に向けて家族ができること
以上、前記3では国の制度をご紹介しました。
では、身近な存在である家族としては、ご本人の再犯防止にどう向き合っていけばよいでしょうか?
(1)再犯防止に協力する場合
再犯防止に協力する場合は、ご家族が拘束されているときから頻繁に面会するなどしてご本人と密にコミュニケーションをとりましょう。
その際、ご本人の要望を聞きつつ、選任されている弁護士や下記5でご紹介する相談先の意見を取り入れるなどして、ご本人の更生にとって何が最適かご本人とともに考えていきましょう。
(2)現時点では再犯防止に協力できない場合
ご家族の中には、「あれほど再犯しないと約束したのにまた犯罪を犯したのか。」「もう面倒みない。」など半ば更生を諦め、縁を切りたいなどと思われている方もおられるかと思います。
そうした場合でも、国の制度、つまり更生緊急保護制度に頼られてもよろしいかと思います。
しかし、対象者の中には、保護期間中に更生し、ご家族とともにやり直したいと希望され、それがご本人にとっても最適な更生プランであることも少なくはありません。
そのような場合は、ご本人の収容中、保護期間中に関係機関と相談しながら、ご本人の更生意欲、態度などを見極めてご本人を受け入れるかどうか判断されても遅くはありません。
5、困ったときの相談先
ご本人の更生のためにはご家族だけではなく、そのご家族を支える周囲の力も必要不可欠です。
そこで、最後に、再犯防止のための相談先をご紹介します。
(1)公的機関
①精神保健福祉センター
依存症などの相談を受け付けています。
各都道府県に最低1つを設置することが法律によって義務付けられています。
都道府県庁や政令指定都市市役所などに設置されています。
②保健所(保険福祉事務所)
保健所でも依存症などの相談を受け付けています。
市町村単位で設置されており、市民に身近な相談窓口です。
③保護観察所
更生緊急保護の対象となった方、裁判で保護観察付きの判決を受けた方、仮釈放された方の社会復帰、保護を担当する機関です。
各都道府県に最低1つは設置されています。
④地域生活定着支援センター
平成21年にから始まった「地域生活定着支援事業」に基づいて設置された機関です。
各都道府県に設置されています。
入所中、保護観察期間中のみならず、出所後、更生保護施設退所後もサポートしてくれる点が特徴です。
(2)公的機関以外
①専門病院
依存症治療を専門とする病院があります。
また病気の治療のみならず、治療後の社会復帰支援をサポートしてくれる病院もあります。
②自助グループ
依存症など同じ悩みを抱えた方々が自発的に集まって作ったグループです。
お住いの近くにどんな自助グループがあるかは市役所、保健所などにお問い合わせください。
③NPO法人
任意の非営利団体で、依存症などの同じ悩みを抱え方々とともに課題を解決していく団体です。
薬物依存症の方のためのダルク等は有名です。
まとめ
以上、再犯防止に向けた国の制度、取組みやご家族ができること、安心できる相談先などをご紹介してまいりました。
もっとも、更生緊急保護の制度は、必ずしも十分な活用がなされていないのが現状です。
最終的に更生できるかどうかはご本人の意思にかかっていますが、ご紹介した制度、相談先をうまく利用しながら、社会復帰を実現されることを願っております。