性犯罪においては、未遂でも厳正に処罰されます。一部では『未遂=罪に問われない』との誤解も生まれがちですが、性犯罪はその例外であり、未遂であっても法的責任を問われることがあります。
では、具体的にはどのような行為が性犯罪の『未遂罪』に該当するのでしょうか。また、未遂罪に対する刑罰はどれほど厳格なのでしょうか。
この記事では、
- どのような状況で性犯罪の『未遂罪』が成立するか
などを、具体的な事例を交えて解説していきます。
なお、性犯罪には刑法以外にも軽犯罪法などで規定されたものがありますが、ここでは主に刑法上の性犯罪に焦点を当てています。
性犯罪の基本については、以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、性犯罪を防ぐために知っておきたい「未遂」とは?
未遂とは、ある特定の犯罪(罪)の実行に着手したものの、何らかの理由によってその犯罪を実現できなかったことをいいます。
未遂については刑法43条に規定されています。
刑法43条
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
自らの意思で犯罪を中止した結果、犯罪を実現できなかった場合を中止未遂(刑法43条但書)、それ以外の理由で犯罪を実現できなかった場合を障害未遂(刑法43条本文)といいます。
2、性犯罪の未遂罪を見る前に知っておきたい〜刑法上の主な性犯罪
刑法に規定されている主要な性犯罪をご紹介します。
(1)強制わいせつ罪
強制わいせつ罪は刑法176条に規定され、未遂を処罰する規定は刑法180条に設けられています。
「強制わいせつ」とは、簡単に言うと、相手の意思に反して、力を加え、わいせつな行為をすることです。
しかし、これでは内容がざっくりしすぎています。
犯罪になるのかならないのかは大きな問題ですから、できるだけ細かく「どんな行為が犯罪なのか」が決められていなければなりません。
条文を見ると、「強制わいせつ罪」とは、「暴行・脅迫」を用いて(対象者が13歳未満の場合は「暴行・脅迫」は不要です)、「わいせつな行為」をすること、と定義されています。
暴行や脅迫には程度があり、裁判では、多くの場合、この「程度」が問題になることもあります。
単に「暴行」といっても、相手が力尽きるほどの強い(又は長時間の)暴行から、軽く一発叩くような「暴行」もあります。
同じように、「脅迫」も、「応じなければ一発殴る」というものから、「親族の命を危険な目に遭わせる」というものまで、幅があるのです。
この点、強制わいせつ罪にいう「暴行」は、「被害者の意思に反してわいせつ行為を行うに足りる程度」で足り、「力の大小強弱は必ずしも問わない」とされています。
【強制わいせつ罪の具体例】
- 他人の家に侵入し、寝ている女子の意思に反し、その女子の肩を抱き、左手で陰部に触れた事例
- 女子の意思に反して、指を陰部に挿入することは、それ自体暴行を用いてわいせつ行為をしたものと認定された事例
- 相手方の感情を無視し、暴行をもって接吻(キス)を要求した事例
(2)強制性交等罪
強制性交等罪は刑法177条に規定され、未遂を処罰する規定は刑法180条に設けられています。
「強制性交等」とは、相手の意思を無視して性交等をすることです。
強制性交等罪での「暴行・脅迫」の程度は、「相手方の反抗を著しく困難にする程度のもの」とされています。
対象者が13歳未満の場合は「暴行・脅迫」は不要です。
【強制性交等の具体例】
- 交通事故を起こした女性(20歳)に対し、「大ごとにはしたくないでしょう。」などと言って脅迫した上、乳房や陰部を触り、後頭部を手で押さえつけるなどの暴行を加えて口腔性交をした場合
- 成人男性が、インターネットを介して知り合った11歳の女子と性行為をした事例
(3)準強制わいせつ罪・準強制性交等罪
準強制わいせつ罪は刑法178条1項、準強制性交等罪は刑法178条2項に規定され、未遂を処罰する規定は刑法180条に設けられています。
「準」とは、「準優勝」「準会員」などから分かるように「それに近いもの」を意味します。
強制わいせつ罪や強制性交等罪に近いのですが、「暴行・脅迫」がないという点で異なります。
「強制」は相手の意思を無視することですが、暴行や脅迫を使わずに相手の意思を無視する方法もあるはずです。
たとえば、被害者がお酒で酩酊していれば、暴行も脅迫も使うことなく相手の意思を無視することができます。
【準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の具体例】
- 被害者を催眠状態にして、性行為を行った場合(準強制性交等罪)
- 医師が、治療上必要であるかのように誤信させ、陰部に薬を挿入するふりをして性交した場合(準強制性交等罪)
- モデル志願者としてスカウトした女性に、モデルとして売り出していくには全裸での写真撮影が必要であると誤信させ、全裸の写真を撮影した場合(準強制わいせつ罪)
(4)監護者わいせつ罪、監護者性交等罪
監護者わいせつ罪は刑法179条1項、監護者性交等罪は刑法179条2項に規定され、未遂を処罰する規定は刑法180条に設けられています。
この犯罪は、強制わいせつ罪や強制性交等罪と同様、わいせつ行為や性交等を処罰するものですが、行為者が「監護者」である点に特徴があります。
監護者は、被監護者からすれば、最も頼りにしている立場の人間であるはずです。
状況問わず相手の意思は無視されていると推定されるため、上の3つの犯罪のような条件はありません。
ただ、18歳未満であることを要するため、19歳以上になっている場合は適用されません。
【監護者わいせつ罪、監護者性交等罪の具体例】
- 実の親が、同居している実子(14歳)と入浴した際に実子の乳房を直接手で揉んだ場合(監護者わいせつ)
- 養父として監護者であることによる影響力があることに乗じて、被害者(16歳)と性交をした場合(看護者性交等)
3、それぞれの犯罪においての「未遂罪」とは?犯罪の「実行に着手」したこと
前記「1」でも触れたように、未遂罪となるには、各罪の「実行に着手」したことが必要です。
「実行の着手」の意義については様々な説がありますが、大まかには「(結果を発生させるだけの)危険な行為に着手すること」と理解しましょう。
ここでは、各罪における「実行の着手」が何なのか、具体例を使ってご説明します。
(1)強制わいせつ罪の未遂
実行の着手は「暴行・脅迫」が開始された時点です。
【具体例】
女性の乳房を触ろうと(わいせつな行為をする意図がありながら)女性を押し倒したところ(暴行)、そのまま逃げられてしまった。
なお、「暴行」それ自体が「わいせつな行為」の場合は、「わいせつな行為」をしたと同時に既遂となります。
(2)強制性交等罪の未遂
実行の着手は「暴行・脅迫」が開始された時点です。
【具体例】
被害者と性交等をする目的で被害者を押し倒し、スカート、下着を脱がせたところ、パトカーの音がしたのでその場を立ち去った。
なお、強制性交等罪は、男性が主体の場合は自己の陰茎を女性の膣内に一部挿入した時点(射精の有無を問わない。女性が主体の場合はその逆)で既遂となります。
(3)準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の未遂
①「心神喪失または抗拒不能の状態に乗じ」る場合の実行の着手
「わいせつ行為」ないし「性交等」を開始した時点です。
【具体例】
睡眠中の被害者宅に押し入り、被害者の上に馬乗りになって胸を揉もうとしたところ、被害者が目覚めて抵抗されたためその場を立ち去った場合(準強制わいせつ未遂)。
②「心神を喪失させ」もしくは「抗拒不能にさせ」る場合の実行の着手
その手段としての行為(被害者を心神喪失または抗拒不能の状態に陥れる行為)が開始された時点です。
【具体例】
被害者と性交等をするつもりで本来なら人が熟睡する程度の睡眠薬を水に混ぜて被害者に飲ませたところ、意外にも被害者が熟睡しなかったことから性交等をするには至らなかった場合(準強制性交等未遂罪)。
(4)監護者わいせつ罪、監護者性交等罪の未遂とは
実行の着手は、「わいせつ行為」または「性交等」が開始された時点です。
【具体例】
娘と性交等をしようと思い、娘の膣内に陰茎を挿入しようとしたところで娘が大泣きしたのでやめた場合(監護者性交等未遂罪)
4、性犯罪の未遂罪が成立した場合の刑の重さはどうなるの?
未遂罪が成立した場合、中止未遂の場合は刑が減軽又は免除されます。障害未遂の場合は、裁判官の判断により、刑が減軽される可能性があります。
未遂罪が成立し、刑が減軽された場合、法定刑は以下のとおりとなります。
(1)強制わいせつ罪の場合
法定刑:6月以上10年以下の懲役
未 遂:3月以上5年以下の懲役
(2)強制性交等罪の未遂の場合
法定刑:5年以上の有期懲役
未 遂:2年6月以上10年以下の懲役(減軽により執行猶予が可能となる)
(3)準強制わいせつ罪・準強制性交等罪の場合
準強制わいせつ罪は強制わいせつ罪と同様。
準強制性交等罪は強制性交等と同様。
(4)監護者わいせつ罪、監護者性交等罪の場合
監護者わいせつ罪は強制わいせつ罪と同様。
監護者性交等罪は強制性交等罪と同様。
5、性犯罪を防ぐために|相手の承諾があれば無罪?
上記でご紹介した性犯罪は被害者を守るために設けられた罪ですから、対象者が性行為に承諾(同意)した場合、罪は成立しません。
(1)どのような場合に承諾があったといえるか
問題は、どのような場合に承諾があったといえるのかという点です。
①対象者の年齢
まず、刑法に規定されているとおり、対象者は13歳以上でなければなりません。
なお、13歳未満の者を13歳以上の者と誤信していた場合でも、そう信じるにつき合理的な理由がなければ犯罪が成立してしまうことがあります。
②承諾が行為時に存在すること
行為後承諾したかのように見えた、というケースもあるかもしれません。
しかし、法律的には、行為後の承諾は承諾とは認められず、行為時に拒んでいたのであれば承諾があったとは言えません。
③その承諾が真意に基づくものであること
当事者の間にはさまざまな感情があるにはあるのでしょうが、その当時の状況等から、対象者の承諾が真意に基づいてなされたものであることが求められます。
(2)「承諾しているはず」と誤解(誤信)したら?
承諾の誤解(誤信)とは、被害者の本来の承諾がないにも関わらず、承諾があるものと思った、ということです。
承諾があったと誤解している場合は、犯罪の「故意」がなかったとして、無罪となることもあります。
承諾があると誤信してしまった場合には、これをしっかりと立証していくことが重要です。
性犯罪は類型的に、第三者がいない密室等で行われることも多く、どちらの言い分が真実なのかわからないことも多くあります。
被害者側に嘘や誇大表現がある場合もあれば、加害者側に嘘や思い込みがある場合もあります。
いずれにしても、間違った判断は絶対に避けられるべきです。
被害者の承諾があったと誤信してしまった場合には、なぜ承諾があったと誤解をしたのか、関係性や行為当時の詳細な状況から、心の動きを整理して、具体的に説明していきましょう。
6、未遂だが性犯罪を犯してしまったかもと思ったら弁護士に相談を
以上の通り、一定の性犯罪では未遂も罪に問われます。
いつ逮捕されるかと不安になるより、今できることは弁護士に相談してみることです。
(1)弁護士に「相談」するメリット
今は、初回の相談は無料とする法律事務所も増えています。
弁護士に相談すれば、今後の見通し等を聞くことができますから、ぜひ活用していきましょう。
今、逮捕されるのか、されたらその先どうなるのか、不安でいっぱいではないでしょうか。
相談するだけでも、不安を取り除くことができると思います。
弁護士が逮捕の可能性があると判断した場合には、警察が動く前に相手方と示談交渉を進められる場合もあります。
(2)弁護士に「依頼」するメリット
弁護士に依頼すると、弁護士は次のような弁護活動をしてくれます。
①犯罪の成立を認めない場合
依頼者が無罪を主張する場合には、それを前提として活動します。
無罪であることを裏付けられる証拠を収集したり、取り調べの対応をアドバイスしたりします。
裁判になれば、証拠をもとに、無罪を主張していくことになります。
②犯罪の成立に争いがない場合
被害者が特定されている場合は、連絡先を把握した上で被害者とコンタクトを取ってもらい、示談交渉を進めてもらえます。
なお、性犯罪の場合、ご自身で被害者とコンタクトを取ることは避けるべきです。
弁護士が示談を成立させることができれば、
- そもそも逮捕されない
- 不起訴になる
- 刑が軽くなる
といったように、有利な結果につながる可能性が高くなります。
まとめ
以上、性犯罪の未遂について解説しました。
未遂であっても犯罪が成立することがおわかりいただけたと思います。
近頃は、SNSやアプリがきっかけで出会った男女間で、性犯罪に関するトラブルが起こることも多くなってきています。
もし、お悩みのことがあれば、いつでもご相談ください。
弁護士が全面的にバックアップいたします。
一人で悩まず、ともに前を向いて対応していきましょう。