恫喝(どうかつ)とは、人々を恐怖で支配する手段です。
たとえば、気に入らない相手に対して「調子に乗るな!」「家に火をつけるぞ!」といった脅しの言葉を投げかけることは、恫喝に当たる可能性があります。
今回は、
- 恫喝行為がもたらす可能性のある罪とその刑罰
- 恫喝行為によって逮捕された場合の手続きと影響
- 恫喝の罪を軽減するための適切な対処法
について解説します。
目次
1、恫喝(どうかつ)の意味とは?
恫喝とは「人をおどして恐れされること」を意味する言葉です。
「殺すぞ」「土下座しろ」といった、言葉を相手に発することや、「なんで仕事ができないんだよ」といった、職場でのパワーハラスメントも恫喝に該当するケースがあります。
「恫喝罪」という名前の犯罪は存在しませんが、場合によっては他の罪に問われる可能性がある点に注意してください。
2、恫喝で成立しうる罪の種類と刑罰
恫喝で成立しうる犯罪とその刑罰は以下のとおりです。
(1)軽犯罪法違反
捨てゼリフのようなつもりで放った暴言でも、恫喝として軽犯罪法違反にあたる可能性があります。
劇場・飲食店など不特定多数が出入りできる場所や、電車・バスなどの乗り物において、「著しく粗野または乱暴な言動で迷惑をかけた者」は軽犯罪法違反となります(同法第1条5号)。
「粗野」とは、下品で荒々しくて洗練されていないことです。
軽犯罪法違反の刑罰は「拘留または科料」です(同法第2条)。
拘留とは、刑事施設において1日以上30日未満の期間で拘束される刑罰をいいます。
科料とは、罰金と同様にお金を支払う刑で、金額が1000円以上1万円未満のものです。
(2)脅迫罪
恫喝で該当する可能性が高いのは脅迫罪です。
脅迫罪における「脅迫」とは、相手やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して何らかの害悪を加える旨を告知することをいいます。
たとえば「殺すぞ」であれば生命に対して、「殴るぞ」であれば身体に対して、害悪を告知しているといえます。
脅迫罪は、実際に危害を加えていないときに成立する犯罪です。金品を奪うなどの行動に出れば別の犯罪となる可能性があります。
脅迫罪の刑罰は「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」とされています(刑法第222条1項)。
(3)強要罪
恫喝が強要罪に該当する可能性もあります。
強要罪は、脅迫または暴行を用いて、相手に義務のないことを行わせたり、権利の行使を妨害したりすると成立する犯罪です。
たとえば、相手の行動に腹を立て、「土下座しないと殴るぞ」と言って土下座させれば強要罪にあたります。土下座は「義務のないこと」に該当するためです。
相手が実際に土下座しなかったとしても、強要未遂罪として処罰対象になります。
強要罪を犯すと「3年以下の懲役」に処せられます(刑法第223条1項)。
(4)威力業務妨害罪
恫喝が威力業務妨害罪に該当するケースもあります。
威力業務妨害罪は、何らかの威力を用いて人の業務を妨害すると成立する犯罪です。
「威力」とは、人の自由意思を制圧するのに足りる勢力をいいます。暴行や脅迫が典型例ですが、それらに限りません。
判例では、デパートでヘビをまき散らす行為や、机の引き出しに猫の死骸を入れる行為も「威力」に含まれるとされました。恫喝も程度によっては「威力」に該当する可能性があります。
「業務」とは、人が社会生活を維持するうえで反復・継続して行われることをいいます。
会社の営利活動はもちろん、政治活動、ボランティア活動などの非営利活動も広く業務に含まれます。
恫喝で威力業務妨害罪に問われる例として、お店で罵声を浴びせながら執拗にクレームを続けるケースが挙げられます。
威力業務妨害罪では「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」の刑罰が科されます(刑法第234条)。
(5)恐喝罪
恫喝して金品を奪うと恐喝罪になり得ます。
恐喝罪は脅迫や暴行によって相手を恐れさせ、財産を渡すよう要求する行為に成立します。
たとえば「金を払わないと命が危ないぞ」と恫喝する行為です。
相手が金品を交付しなくても恐喝未遂罪として処罰対象になります。
恐喝罪の法定刑は「10年以下の懲役」です(刑法第249条1項)。
(6)強盗罪
恫喝の程度がよりエスカレートすると、強盗罪に問われる可能性もゼロではありません。
強盗罪は、相手の反抗を抑圧する程度の脅迫や暴行により相手の財産を奪う行為に成立します。
相手の反抗を抑圧しない程度の脅迫や暴行にとどまる場合は、強盗罪ではなく恐喝罪の問題となります。
「相手の反抗を抑圧する程度」といえるかの判断基準は少し複雑ですが、たとえばナイフを示して金品を要求するケースをイメージしてください。
通常、このような状況を突きつけられた相手方は、生命または身体への危険を感じ、反抗することは困難になると考えられます。
もし強盗罪と判断されれば「5年以上の有期懲役(上限20年)」という重い刑罰が科されます(刑法第236条1項)。
3、恫喝で逮捕された実際の事例
実際に恫喝により逮捕された事例を3つご紹介します。日常生活におけるトラブルでもエスカレートすると警察沙汰にもなり得ることにご注意ください。
(1)コンビニの店員に土下座を強要した事例
2014年、コンビニエンスストアに来店した男女が店員の態度に言いがかりをつけ、土下座させたり、お詫びとしてたばこ6カートン(時価2万6700円相当)を要求したりしたとして、男女4人が恐喝罪の容疑で逮捕されたという事件がありました。
参考:コンビニ「土下座」事件で容疑者所属会社が謝罪 これはやり過ぎか、よくあることなのか?
この事例は加害者が金品を要求したことから恐喝罪で検挙されています。
店員に土下座をする義務はないため、土下座をするよう求める行為により強要罪にも該当します。
加えて、土下座の要求によって他の業務に支障が出るなど、店の営業が妨害されたため威力業務妨害罪にも該当します。
金品の要求がなければ、強要罪や威力業務妨害罪に問われた可能性が高いといえます。
このような事例は、迷惑な客が恫喝を行って逮捕されるケースとして典型的なものといえるでしょう。
(2)交通トラブルで相手を恫喝した事例
2018年、高速道路でクラクションを鳴らされたことに腹を立てた男が、脅迫罪で逮捕されたという事例があります。
男は窓を開けた状態で怒鳴りながら約3kmにわたって並走し、前方に回り込んで相手の車を強制的に停止させました。
その際に脅迫的な言葉を発したとのことです。
交通トラブルから脅迫や暴行に発展するケースは数多くあります。
近年はドライブレコーダーの普及によって証拠が残り、逮捕されやすくなっているといえるでしょう。
(3)衣料品店で罵声を浴びせて返品を迫った事例
2020年、いわゆる迷惑系ユーチューバーの男が、衣料品店で罵声を浴びせて商品の返品を迫ったとして、威力業務妨害と信用毀損の疑いで逮捕された事例がありました。
参考:店員に奇声、罵声、恫喝…へずまりゅう逮捕の問題動画、警察との口論シーンも 同行のわたきん「安易な考えだった」と懺悔
男は、店員に対し「偽物でしょ」「日本人をだまして楽しいですか」などと罵声を浴びせました。
店内で恫喝したうえ、その様子を撮影する行為は威力業務妨害罪に該当します。
一連の様子を収めた動画をユーチューブに投稿し、店の信用も傷つけられたことから、信用毀損罪でも逮捕されました。
報道によると、被害を受けた店舗の商品は正規品であったとのことですが、仮にクレームの内容が正当なものだったとしても、恫喝に当たると罪に問われる可能性があることに注意が必要です。
4、恫喝で逮捕されたらどうなる?
恫喝で逮捕されると、警察・検察で最大72時間にわたって取り調べなどの捜査を受けます。
この間は、家族であっても面会できないことが多いです。
さらなる捜査が必要と判断された場合、最大20日間も勾留されてしまいます。
勾留は、起訴して刑事裁判にするかを判断するための身体拘束期間です。
もし起訴されれば、そのまま裁判まで勾留が続く可能性もあります。
裁判の結果、罰金や執行猶予付き判決であれば釈放されるものの、懲役や禁錮の実刑判決が出ればそのまま収監されます。
もし逮捕後すぐに釈放されれば、まだ問題は少ないでしょう。
しかし、身体拘束が長期に及ぶと職場や家族にも発覚してしまい、仕事やプライベートへの影響は避けられません。
逮捕後の刑事手続きについてより詳しく知りたい方は、以下の関連記事をお読みください。
5、恫喝で逮捕されたときに罪を軽くするための対処法
恫喝で逮捕されると、起訴されて実刑判決がくだされるケースもあります。
重い処分を免れるにはどうすればよいのでしょうか?
(1)真摯に反省する
まずは自分が犯した罪を受け止めて深く反省し、それを示すことが必要不可欠です。
十分な反省の態度が認められれば、罪が軽くなる可能性があります。
内面において反省するのはもちろん重要ですが、その反省が他人からわからなければ意味がありません。
取り調べでの答え方や反省文の書き方がどうあるかで警察官や検察官からの印象が異なることはよくあります。
起訴された場合は、刑事裁判における法廷での振る舞い方などに注意して、裁判官に反省の深さが伝わるようにすることも大切です。
(2)被害者と示談交渉をする
被害者との示談は非常に重要です。
処分を決定するにあたって、被害が回復されているかどうか、被害者の処罰感情などが重視されています。
被疑者が被害の回復に努め、被害者が厳しい処罰を望んでいなければ、罪は軽くなる可能性が高いです。
重い処分を避けるためには、示談交渉を通じて恫喝の被害者に謝罪の意思を伝えて慰謝料を支払うなどして、許しを得る必要があります。
(3)身元引受人を立てる
身元引受人の確保も目指しましょう。
加害者の生活を監視・監督できる身元引受人がいると、起訴前であれば釈放される可能性が高まります。
起訴後の裁判においても、執行猶予判決を得るためには、今後の社会生活を支える身元引受人の存在が重要です。
家族や職場の上司など、責任を持って監督できる人を身元引受人としてください。
6、恫喝で罪に問われたときに弁護士に依頼するメリット
ご自身やご家族が恫喝で罪に問われてしまったら、すぐに弁護士に相談してください。
弁護士に依頼すると以下のメリットがあります。
(1)取り調べへの対応についてアドバイスが受けられる
警察や検察の取り調べにどう対応するかは、ケースバイケースであり難しい問題です。
取り調べで間違った内容を含んだ調書にサインしてしまうと、裁判で不利な証拠になってしまうリスクが否定できません。
他方で、事実に争いがないのであれば正直にすべて話してしまった方が早期の釈放につながるケースもあります。
弁護士に依頼すれば、取り調べについてのアドバイスを受けられるため、自分の置かれた状況に応じて最善の対応をとることが可能です。
(2)示談交渉を代行してもらえる
弁護士に依頼すると、示談交渉を代わりにしてもらえます。
加害者やご家族が自力で示談交渉をするのは事実上困難です。
特に恫喝された被害者については、報復を恐れて接触すら避けられてしまうでしょう。
もし被害者と面識がなければ、連絡先もわかりません。
しかし、弁護士とならば会ってもよいと考える被害者は多く、弁護士への依頼により示談交渉がスムーズに進みやすくなります。
交渉はプロである弁護士にまかせるのが得策です。
(3)不起訴処分や執行猶予付き判決の獲得に向けて活動してもらえる
もっとも避けたいのは、起訴されて実刑判決を受け、刑務所に収監されることでしょう。
弁護士は、まず不起訴処分となるように検察官に働きかけ、もし起訴されてしまっても罰金や執行猶予付き判決を獲得できるように弁護活動を行います。
反省の態度や被害者側の落ち度など、弁護士が加害者に有利な事実を見つけて法的な観点から説得的に主張することによっても、処分が軽くなる可能性は高まります。
まとめ
ここまで、恫喝について、成立する可能性のある犯罪や、逮捕されたときの対処法などを解説してきました。
怒りのあまりつい発してしまった言葉で、思わぬ処分を受けてしまうケースは少なくありません。
恫喝してしまった事実は変えられませんが、仕事やプライベートの影響を最小限にするために、真摯な反省や示談交渉など取り組むべきポイントがいくつもあります。
刑事事件は初動対応が非常に重要です。恫喝行為をしてしまった方やそのご家族は、すぐに弁護士にご相談ください。