交通事故による在宅起訴での対応について不安を抱えていませんか?交通事故を起こし、自宅に届いた「起訴状」に戸惑うことでしょう。
今回は、「在宅起訴」について詳しく解説します。
この記事が皆さまのお役に立てれば幸いです。
交通事故の加害者について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、交通事故でもありうる在宅起訴とは?
刑事事件において「在宅」とは、厳密意味の法律用語ではありませんが、身柄を拘束されていないことを意味します。
また「起訴」とは、被疑者を刑事裁判にかけることを求める検察官の意思表示のことをいいます。
つまり、「在宅起訴」とは、身柄拘束されていない被疑者を刑事裁判にかける検察官の意思表示をいいます。
起訴された人(被告人)は刑事裁判を受けなければなりません。
ただし、「起訴」には「正式起訴」と「略式起訴」の2種類があり、「正式起訴」された場合は、公開の法廷に出廷し裁判を受けなければなりませんが、「略式起訴」された場合の裁判手続は書面のみの審理となりますから、法廷に出廷する必要はありません。
2、在宅起訴されるまで、起訴された後の流れ
この項では、「在宅起訴されるまで」と、「起訴された後の流れ」を簡単にご紹介いたします。
(1)在宅起訴されるまで(正式起訴、略式起訴共通の手続の流れ)
前記1のとおり、「在宅」とは身柄を拘束されていないことを意味しますから、
- 事故発覚当時から拘束されない場合
- 拘束されたが何らかの事情で釈放された場合
の両方を含みます。
後者について、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれがない、その他釈放すべき特別な事情(例えば、ご家族に要介護者がおり、交通事故を起こした人が介護しなければ生活できないなど)が認められる場合には釈放され事件は「在宅」となる場合があります。
起訴される前は、警察から取調べを受けたり、交通事故現場での実況見分の立会いを求められるなどします。
在宅事件の場合、警察の捜査が終わった段階で事件は検察庁へ送致されます。
そして、検察庁でも警察と同様、取調べを受けます。そして、検察官の捜査が終わってはじめて起訴されます。
(2)起訴された後
①正式起訴の手続の流れ
正式起訴されると、裁判所から起訴状という書類の謄本があなた宛てに書留で送達されます。
あなたはその起訴状にかかれた事実を基に、刑事裁判に向けて主張やそれを裏付ける証拠を準備する必要があります。
正式起訴され、裁判で有罪とされた場合は、通常、懲役刑、あるいは禁錮刑を科されます。
② 略式起訴の手続の流れ
略式起訴された場合は、正式起訴と異なり、起訴状謄本は送達されません。
略式起訴された場合は、裁判官が「被告人を罰金〇〇円に処する」など記載した略式命令謄本が送達されます。
そして、通常、その略式命令謄本に起訴状が添付されています。
上記のとおり、略式起訴され略式命令が出た場合は、罰金刑を科されます
なお、検察官が略式起訴するためには本人の書面による同意が必要とされています。
3、交通事故で起訴されない場合(不起訴の場合)、略式起訴される場合、正式起訴される場合
交通事故を起こしたとしても、全ての事件につき起訴されるわけではありません。
起訴されない場合(不起訴となる場合)も多いでしょう。
そこで、交通事故において、起訴されない場合、あるいは起訴されるとして、略式起訴される場合、正式起訴される場合とはどんな場合でしょうか?
交通事故と一口にいっても内容は様々ですから、以下では、一例を挙げさせていただきます。
ただ、共通していえることは、交通事故で起訴か不起訴か、略式起訴か正式起訴かを区分する大きな要素は「事故態様」、「被害の程度、処罰感情」、「示談の有無」で、これらの事情を総合考慮して決せられます。
(1)起訴されない場合(不起訴の場合)
被害者の怪我の程度が重くなく、示談が成立し、被害者の処罰感情が強くない場合は起訴されないことが多いでしょう。
しかし、例えば、赤色信号を看過した場合など事故態様が悪質である場合は起訴されることもあります。
(2)略式起訴される場合
(1)に対して、被害者の怪我の程度が軽くない場合、略式起訴される可能性が大きくなります。
ただし、この場合でも、事故態様が前方不注視など比較的軽微なものであったり、任意保険を通じて被害弁償や示談が済んでいる場合などは起訴されないか、略式起訴されても罰金額が低額にとどまることもあり得ます。
(3)正式起訴される場合
事故態様が悪質な場合、被害者の怪我の程度が非常に重い場合、被害者を死亡させた場合などは正式起訴される可能性が大きくなります。
4、交通事故で問われうる罪、罰則は?
この項では、交通事故で問われうる主な罪やその罰則についてご紹介いたします。
(1)過失運転致死傷罪
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(以下、「法律」といいます。)5条に規定されている罪です。
罰則は「7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金」です。
(2)危険運転致死傷罪
法律2条の1号から6号までに危険運転の類型が規定されています。
人を負傷させた場合は「15年以下の懲役」、死亡させた場合は「1年以上の有期懲役(上限20年)」です。
(3)その他
① 飲酒、無免許運転をした場合
酒気帯び、酒酔い、無免許の場合は道路交通法違反(以下、「道交法」といいます。)に問われます。
酒気帯び運転の罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(道交法117条の2の2第3号)、酒酔い運転は「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(同法117条の2第1号)、無免許運転は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(同法117条の2の2第1号)です。
また、(1)の過失運転致傷罪も(2)の危険運転致死傷罪も、無免許運転だった場合は刑が加重されます(「法律」6条)。例えば、過失運転致死傷罪を犯した者が、その罪を犯したときに無免許運転をしていた場合には10年以下の懲役となります(「法律」6条4項、5条)。
② ひき逃げをした場合
ひき逃げも道路交通法違反に問われます。
ひき逃げは、救護義務違反と事故報告義務違反に分かれ、前者の罰則は、人の死傷が運転者の運転に起因する場合は「10年以下の懲役又は100万円以下の罰金」(道交法117条2項、1項)、それ以外の場合は「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」(同法117条1項)です。後者の罰則は「3月以下の懲役又は5万円以下の罰金」(同法119条1項10号)です。
5、交通事故で在宅起訴された場合の量刑相場
前記3でもご紹介したとおり、交通事故の内容は様々であって一概に「この事故だから、この量刑」と決めることはできません。
ただ、量刑を決める判断要素も、やはり前記3でご紹介した「事故態様」、「被害の程度、処罰感情」「示談の有無」によるところが大きいかと思われます。
前記4でご紹介した危険運転致死傷罪は「懲役刑」のみ規定されています。
したがって、起訴されるとすれば必ず正式起訴されます。
同罪は、事故態様が悪質と考えられますから、被害の程度が軽微でない限り実刑とされる可能性もあります。
これに対して、過失運転致死傷罪については罰金刑が規定されています。
被害者を死亡させた場合は正式起訴されることがほとんどで、禁錮刑が選択されることが多いです。
禁錮1年以上は覚悟しておかなければならないでしょう。
また、仮に罰金刑を選択された場合でも金額が大きくなることは覚悟する必要があるでしょう。
被害者を負傷させた場合は、負傷の程度が軽微であれば略式起訴されることがあり、罰金刑が選択されます。
罰金額は被害者の怪我の程度などによります。
6、在宅起訴された場合に知っていただきたい4つのこと
この項では、在宅起訴された場合に知っていただきたい点につき、正式起訴された場合と略式起訴された場合とに分けてご紹介いたします。
(1)正式起訴された場合
① 起訴状謄本が届く
前記2(2)でもご紹介しましたように、正式起訴されれば起訴状謄本があなた宛てに書留で送達されます。
起訴状謄本には、あなたがいつ、どこで、どんな事故、違反をしたのか書かれてあります。
起訴状謄本は裁判の準備に向けての大切な書類ですから必ず受け取りましょう。
②弁護人を私選か国選にするか選ばなければならない
交通事故の刑事裁判は必要的弁護事件といって、弁護人が選任されていなければ開くことができません。
そこで、あなたが在宅起訴されるまでに私選の弁護人を選任していない場合は、起訴状謄本の送達と同時に、あなた宛てに弁護人を選任するかどうかを確認するための書類が届きます。
ここで、あなたは私選の弁護人を選任するか、国選の弁護人を選任するかの判断することとなります。
なお、期限内に回答しない場合、あるいは選任を希望しない旨回答した場合は、裁判所により国選の弁護人が選任されます。
③ 法廷に出廷しなければならない
裁判を受けるには裁判所の法廷に出廷しなければなりません。
裁判所から期日を指定されますから、都合がつかない場合は、裁判所に連絡するか、弁護人にその旨伝えて期日を調整してもらいましょう。
住居不定の場合、正当な理由なく呼び出し(召喚)に応じない、又は応じないおそれがある場合は身柄を拘束されることもありますから、注意が必要です。
(2)略式起訴された場合
前記2(3)でもご紹介しましたように、略式起訴され裁判官により略式命令が出されると、略式命令謄本があなた宛てに書留で送達されます。
略式命令は、通常の手続きを簡略化して出された命令ですから、命令を受け取ったあなたは、命令を受け取った日から14日以内は正式裁判を請求する権利を有しています。
正式裁判の申し立てをする場合は、略式命令を出した裁判所に申立書を提出しなければなりません。
そして、仮に、受理された場合は、前記(1)②と同様、弁護人を選任しなければなりません。
まとめ
在宅起訴についてご理解いただけましたでしょうか?
在宅起訴されると、何の前触れもなくご自宅に起訴状謄本や略式命令謄本が届きます。
そんな場合に備えて、少しでも在宅起訴に関して理解を深められ、不安を取り除いていただくことができればと願っております。