認知されない子供は法律上の父親がいない状態となり、生きていく上でさまざまなデメリットを受けてしまう可能性があります。
今回は、
- 認知のメリット・デメリット
- 認知されない子供にとってのデメリット
- 認知してもらう方法
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が分かりやすく解説していきます。
目次
1、認知されない子供が受けるデメリットの一覧
認知されない子供は、父親がいない状態となります。実の父親はいるとしても、法律上は父親がいないものとして扱われるのです。そのことにより、具体的には以下のようなデメリットを受ける可能性があります。
- 母親が父親に対して養育費を請求できない
- 子供が父親に対して扶養を請求できない
- 父親が亡くなっても遺産を相続できない
- 父親がいないという精神的負担を抱える
要するに、子供・母親とも、父親のサポートを受ける法律上の権利が一切認められないということになります。社会生活上も、大きな精神的負担を抱えて生きていくことになりかねません。
2、そもそも認知とは?
以上のデメリットを回避するためには、父親に認知してもらうことが望ましいといえます。
そこで次に、認知とはどのようなものであるのかについて解説します。
(1)認知の意味
認知とは、婚姻していない男女間に生まれた子供について、男性が自分の子であることを法的に認めることを指します。
母親と子供との関係は出産によって明らかとなりますが、父親と子供との関係はそうではありません。そこで法律上、以下のケースでは父親と子供との親子関係が推定されます(民法第772条)。
- 母親が婚姻中に妊娠した場合
- 婚姻成立の日から200日経過後に出生した場合
- 婚姻解消の日から300日以内に出生した場合
これらのケースで出生した子供は「嫡出子」となり、自動的に父親(母親の夫)との間に法律上の親子関係が認められます。
以上の条件を満たさない子供は「非嫡出子」となり、そのままでは父親との法律上の親子関係が認められません。このような非嫡出子についても父親との法律上の親子関係を発生させるために創設された制度が、認知というものです。
(2)認知の効果
認知による効果は、父親と子供との間に法律上の親子関係が発生するということです。
血のつながった親子でも、非嫡出子は認知されない限り法律上の親子関係は発生しません。逆にいえば、たとえ血がつながっていなくても認知をすれば法律上の親子関係が発生します。 法律上の親子関係が発生することによって、具体的には子供と母親が次項「3」に掲げるメリットを得られます。
なお、認知の効果は出生のときに遡って生じます(民法第784条)。例えば、子供が5歳のときに認知してもらったとしても、そのときから父親との親子になるのではなく、生まれたときから親子だったということになります。
(3)認知できる期限
いつまでに認知しなければならないという期限は、基本的にありません。
子供が生まれる前でも、亡くなった後でも認知できます。ただし、子供が胎児の間に認知をするときは母親の承諾が必要です(民法第783条1項)。子供が亡くなった後に認知できるのは直系卑属(その子の子や孫)がいるときに限られ、その直系卑属が成人している場合はその承諾が必要です(同条2項)。
また、父親が亡くなった後も認知を求めることができますが、「認知の訴え」の方法による場合は父親の死後3年以内という期限があります(同法第787条但し書き)。
3、子供を認知してもらうメリット
父親に子供を認知してもらうことで得られる具体的なメリットは、以下のとおりです。
(1)法律上の養育費請求権が発生する
法律上、子供の養育費の請求権は親権者(多くの場合は母親)から非親権者(多くの場合は父親)に対して認められるものです。非嫡出子の養育費については、父親に認知されて初めて法律上の請求が可能となります。
認知されないままでも父親が任意に養育費を支払ってくれるケースもありますが、調停や審判などで強制的に支払いを求めるためには認知されている必要があります。
(2)親族としての扶養を請求できる
認知してもらうことで父親と子供は法律上の「直系血族」となりますので、子供から父親に対して扶養を請求できるようになります(民法第877条)。
養育費の請求権があくまでも親権者から非親権者に対して請求できる権利であるのに対して、扶養の請求権は子供から父親に対して直接請求できる権利です。したがって、子供は成人した後の学費などについても、扶養請求権を根拠として支払い求めることができる可能性があります。
(3)父親の遺産を相続できる
認知によって法律上の親子となりますので、父親が亡くなった場合には認知された子供が父親の遺産を相続できるようになります。つまり、法律上の相続権が発生するということです。
なお、以前は認知された非嫡出子の相続分は嫡出子の2分の1と民法で定められていましたが、民法改正により現在では非嫡出子と嫡出子の相続分に差はありません。したがって、父親に他の子供がいる場合でも、認知された子供は平等の割合で遺産分割を求めることができます。
(4)父親を親権者とすることも可能となる
認知されても子供の親権者は原則として母親のままですが、認知後は父母の協議によって父親を親権者として定めることも可能となります(民法第819条4項)。
この規定は母親にとって不利だと思われるかもしれませんが、ほとんどの場合は心配いりません。母親が継続的に子供を育てている以上は、認知した父親が唐突に親権を主張したとしても、この主張が認められることはまずないからです。
ただ、母親が病気や事故などの影響で、どうしても子育てが難しくなることもあるでしょう。その場合には、この規定に基づいて父親を親権者と定め、育ててもらうことも可能だということになります。
4、父親に子供を認知してもらう方法
父親に子供を認知してもらうためには、どうすればよいのでしょうか。
認知には「任意認知」と「強制認知」という2種類の手法がありますので、それぞれについて具体的な方法をご説明します。
(1)任意認知
任意認知とは、父親が自分の意思で自分が子供の父親であることを認めることです。
父親は自分の存命中には認知しなくても、遺言によって死後に認知することも可能です(民法第781条2項)。これも任意認知の一種です。
任意認知の手続きは、父親が役所に「認知届」を提出するだけで完了します。認知届が受理されると父親と子供との間に親子関係が発生します。
届け出の際には、認知届の他に以下の書類が必要です。
- 父親の印鑑
- 父親の本人確認書類(免許証・パスポートなど)
- 父親の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 認知される子の戸籍謄本(全部事項証明書)(届出をする市区町村に本籍がないとき)
その他にも、以下のようにケースに応じて書類が必要となることがあります。
認知のケース | 必要書類 |
成人の子の認知 | 認知される子の承諾書 |
胎児の認知 | 母親の承諾書 |
子の死亡後の認知 | 子の直系卑属(子や孫)の承諾書 |
遺言による認知 | 遺言書の謄本 |
届け出先は父親の住所地または本籍地の市区町村の役所ですが、胎児認知の場合は母親の本籍地の市区町村にある役所となります。
こちらの記事では、任意認知についてさらに詳しく解説しています。ぜひ、併せてご覧ください。
(2)強制認知
強制認知とは、父親の意思に反してでも子供との間に法律上の親子関係を創出することをいいます。父親が任意に認知をしてくれない場合は、法的手段を使って強制的に認知させることが可能です。
手続きとしては、家庭裁判所に「認知調停」を申し立てます。調停は話し合いの手続きですが、認知調停の場合は一般的にDNA鑑定による親子関係の調査も行われます。
鑑定の結果を踏まえて話し合いが行われますが、DNA鑑定の結果が「親子関係のある可能性が濃厚である」というものであれば、父親の意向にかかわらず認知を命じる旨の審判が下ります。
父親が亡くなった後に認知を求める場合は調停をすることができませんので、家庭裁判所に「認知の訴え」を提起します。親子関係の存在を証拠で証明することができれば、認知を命じる旨の判決が言い渡されます。
認知の訴えでも、通常はDNA鑑定の結果が最も重視されます。もし、父親のDNAを採取できるものが何もない場合は、他の状況証拠によって親子関係を立証していきます。
審判や判決が確定すれば、母親が認知届を提出することができます。その場合には審判書または判決書の謄本とその確定証明書を家庭裁判所から取り寄せ、認知届と一緒に役所へ提出します。提出先は、任意認知の届け出先と同じです。
こちらの記事では、強制認知についてさらに詳しく解説しています。ぜひ、併せてご覧ください。
5、認知されない子供のデメリットに関するよくある質問
認知のメリットや認知してもらう方法について解説してきましたが、認知されない子供のデメリットについてさらに詳しく知りたいという方もいらっしゃることでしょう。
ここでは、認知されない子供が生活していく上で受けるかもしれないデメリットに関して、よくある質問にお答えしていきます。
(1)戸籍はどうなる?
認知されない子供は、母親の戸籍に入ります。ただし、【父】の欄は空白になります。それによって法律上や行政上のデメリットが生じることはありませんが、子供が自分の戸籍謄本を見たときに精神的ショックを受ける可能性はあります。
なお、認知された場合も戸籍に変動はありません。【父】の欄に父親の氏名が記載されるだけです。
(2)母子手当はもらえる?
児童扶養手当(いわゆる「母子手当」)は、認知されていなくても受給できます。認知されているかどうかによって受給額が異なることもありません。
(3)パスポートは作れる?
認知されない子供も、パスポートを作ることはできます。
パスポートが作れないのは、戸籍がない場合や、一定の犯罪歴がある場合などです。母親が出生届を提出し、子供自身に特段の犯罪歴がなければ、パスポートを作ることに支障はありません。
(4)就職に影響はある?
子供が認知されていないからといって、就職に影響が出ることは原則としてありません。
採用側が応募者の戸籍謄本を取得することはできないので、基本的に認知の有無を採用側に知られることはないからです。
何らかの事情で採用側に認知の有無を知られる可能性はゼロではないかもしれませんが、まっとうな会社はそもそも、応募者の認知の有無などを問うことはありません。本人の能力や経験、熱意、人格などで採否を判断するはずです。
したがって、就職への影響を気にする必要はないでしょう。
(5)結婚に支障をきたすことはない?
結婚については就職とは異なり、認知の有無が影響を及ぼす可能性も否定できません。
通常、結婚相手の両親がどのような人であるのかは重要な関心事です。父親が最初からいないということになれば、結婚しようとする相手やその両親に難色を示される可能性がないとはいえません。
とはいえ、認知されないまま結婚して幸せな家庭を築いている人も数多くいます。認知されないからといって結婚できなくなると考える必要はないといえるでしょう。
6、子供を認知してもらうとデメリットもある?
認知には大きなメリットがある一方で、デメリットもあります。実際に認知を求める前に、以下のデメリットも頭に入れておきましょう。
(1)父親の相続トラブルに巻き込まれる可能性がある
法律上、遺産分割協議は相続人が全員で行わなければならないこととされています。そのため、父親が亡くなった場合には認知された子供も他の相続人と一緒に遺産分割協議に参加しなければなりません。そこにおいて、相続トラブルに巻き込まれる可能性があります。
相続したくない場合は相続放棄をすれば足りますが、適正な割合で遺産を取得したいにもかかわらず他の相続人に拒否されるような場合には、遺産分割調停を行わなければならないこともあります。
(2)父親の借金を相続するおそれがある
相続に関しては、父親の借金を相続する可能性があることにも注意が必要です。
相続は、被相続人(亡くなった人)の財産的な権利・義務の一切を承継するものですので、借金などマイナスの財産も承継されます。
父親が亡くなっても知らされず、認知された子供が気付かないうちに借金を相続していたというケースも珍しくありません。
このような場合は、借金を相続したことを知ってから3ヶ月以内であれば、相続放棄をすることによって借金の承継を回避することが可能です(民法第915条1項本文)。
(3)父親の介護や扶養を求められるかもしれない
前記「3」(2)でご説明したように、直系血族間には扶養義務があります。これは「相互義務」であり、親が子を扶養する義務だけではなく、状況によっては子が親を扶養する義務でもあります。
将来、父親に介護が必要となった場合や、年金のみでは生活費が足りない場合、病気や失業のために生活が苦しいような場合などに、父親から認知した子供に対して介護や扶養を求めてくる可能性があるのです。
この求めを拒否すると、家庭裁判所に「扶養請求調停」を申し立てられることがあります。実際にこのような法的手段をとられるケースはさほど多くありませんが、法的な扶養義務があるということは知っておくべきです。
7、子供の認知の問題で困ったら弁護士に相談を
父親と話し合っても認知に応じてくれない、認知調停を申し立てたいけれどやり方がよく分からない、そもそも父親がどこにいるのか分からない……などなど、子供の認知に関してはさまざまなお悩みがあることでしょう。
そんなときは、弁護士に相談することをおすすめします。状況に応じて、最適な解決方法を提案してくれるはずです。
弁護士は父親との話し合いや調停の申し立て手続きを代行することもできます。住民票などにより父親の居場所を調査することも可能です。 認知を求めた方がよいのかどうかで迷っているときも、弁護士が豊富な経験に基づいてアドバイスをしてくれます。
まとめ
子供がまだ小さい場合や、これから生まれてくるという場合は、一般的には認知してもらった方が子供のためになるケースが多いといえます。
ただし、父親の人格や生活状況も考慮した方がよいでしょう。養育費を支払えない人や、支払おうともしない人であれば、認知してもらってもメリットが少なく、将来のデメリットのみがのしかかることにもなりかねません。
判断に迷ったときは、まず弁護士にご相談ください。一人で悩まず、弁護士と一緒に最善の選択肢を考えていきましょう。