刑事事件の報道で、『懲役3年執行猶予5年』という表現を聞いたことはありませんか?この点について疑念を抱いた方もいるでしょう。
『懲役』とは具体的に何を指すのでしょうか?また、『執行猶予』とは実刑と何が異なるのでしょうか?
今回は、執行猶予を得るために必要なステップや、執行猶予が認められない場合の実刑判決への備えについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士がわかりやすく解説します。刑事事件に巻き込まれた際の指針として、ぜひご活用ください。
実刑については以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、懲役とは?
まずは、懲役の意味、懲役刑が科されるとどうなるかなど、懲役についての基礎知識を解説します。
(1)身体の自由が拘束される刑罰
懲役は刑罰の一種で、「自由刑」に該当します。
自由刑とは、身体の自由を制限される刑罰です。懲役刑が科されると、一定期間刑務所に入れられて自由な行動ができなくなります。
懲役は、国民にとって重要な権利である身体の自由を制限する刑罰であるため、罰金などの財産刑に比べて重い刑罰といえます。
(2)刑務作業が科せられる
懲役は刑務作業が科される点が特徴です。同じ自由刑である禁錮という刑罰では刑務作業が強制されておらず、この点が懲役と禁錮の違いです。
刑務作業には以下の4種類があります。
- 生産作業
- 社会貢献作業
- 職業訓練
- 自営作業
①生産作業
木工、金属加工などで物品を生産する作業です。生産された製品は一般の人も購入できます。
②社会貢献作業
社会貢献になる作業を行います。除雪作業や除草作業が具体例です。
③職業訓練
出所後の就職が有利になるように、職業に必要な免許や資格を取得したり、知識や技能を習得したりします。溶接、フォークリフト、自動車整備、介護など様々な職業訓練が実施されています。
④自営作業
受刑者が生活するために必要な作業です。炊事、洗濯などが挙げられます。
(3)無期懲役と有期懲役の違い
懲役刑は、期間が決まっているか否かによって「無期懲役」と「有期懲役」に分けられます。
無期懲役には期間の定めがありません。とはいえ、無期懲役となった場合でも一生刑務所に入るとは限らず、10年以上経過すれば仮釈放される可能性があります。
実際には、仮釈放までは30年以上要するケースがほとんどです(参考:法務省|無期刑受刑者の仮釈放について)。
無期懲役が法律で定められているのは、殺人罪、強盗致死傷罪などの重大犯罪に限られます。
有期懲役は期間の定めがあり、判決の際に「懲役3年」などと年数が指定されます。有期懲役の期間は1か月以上20年以下です(刑法12条1項)。
複数の犯罪にまとめて問われている場合には、最高で30年になる可能性があります。
(4)懲役中の生活
懲役刑が科されると、基本的には刑務所で生活しなければなりません。
刑務所では午前6時台に起床、午後9時就寝といった規則正しい生活を送ります。日中は刑務作業を行い、食事は3食提供されます。
夕食後には自由時間もあり、テレビや読書といった娯楽を楽しむことも可能です。
とはいえ、勝手に部屋から出られず、食事内容も選べないなど不自由な生活であるのは間違いありません。
2、執行猶予とは?
続いて、執行猶予について意味や条件などの基礎知識を解説します。
(1)有罪判決を受けても直ちに刑罰を科せられない制度
執行猶予とは、有罪判決を受けた刑罰について、再び犯罪を行うなどの問題を起こさずに一定期間が経過すれば、その効力が失われるとする制度です。
たとえば、「懲役1年執行猶予2年」という判決が下されたとき、再び犯罪を行うなどの問題を起こさずに2年間が経過すれば、懲役1年の刑は消滅し、刑務所に入る必要はなくなります。
「猶予」という言葉から「猶予期間が過ぎた後に刑罰を受ける」と勘違いされる方もいるでしょう。
実際には、何事もなく執行猶予期間が経過すれば、言い渡された刑罰を科されずにすみます。
(2)全部執行猶予と一部執行猶予
執行猶予には「全部執行猶予」と「一部執行猶予」があります。
全部執行猶予では、期間が満了すれば刑のすべてが科されなくなります。
「懲役3年執行猶予5年」であれば、猶予期間の5年が経過すると懲役3年のすべてが免除され、一切刑務所に入る必要がありません。
一部執行猶予は、刑のうち一部についてだけ執行猶予が付く制度です。
判決は「懲役2年、その刑の一部である懲役6月の執行を2年間猶予する」といった形になります。
この場合、1年6か月の懲役刑を受けた後、執行猶予の2年間を問題なく過ごせば残りの6か月の懲役刑は科されなくなります。
一部執行猶予は、2016年から施行された制度です。
たとえば、常習性が強い薬物犯罪などで活用されています。全部執行猶予とは異なり、必ず一定期間は刑に服する必要がある点に注意してください。
以下、この記事では、全部執行猶予を前提にして解説しています。
(3)執行猶予のメリット
執行猶予のメリットは、刑務所に入らずに社会生活を送れる点です。
執行猶予付き判決が確定すれば、有罪であるにもかかわらず収監を免れ、身体拘束されていてもすぐに釈放されます。
執行猶予期間中は身体的には自由であり仕事もできるため、早期の更正や社会復帰が可能になります。
ただし、執行猶予が付いても有罪判決である以上、前科にはなってしまい、就職などで不利益を受ける可能性は否定できません。
(4)執行猶予付き判決が得られる条件
全部執行猶予を付けられる法律上の条件は刑法25条1項に示されています。
まず、言い渡される刑が「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」でなければなりません。
殺人・現住建造物放火といった重大犯罪では基本的に執行猶予は付かないとお考えください。また、罰金で執行猶予が付くケースは実際にはほぼありません。
言い渡される刑が「3年以下の懲役・禁錮」であることを前提に、以下のうちいずれかを満たせば執行猶予が付く可能性があります。
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない。
- 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、執行が終わった日、または執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない。
禁錮以上の刑とは、懲役・禁錮を指します。罰金刑を過去に受けたことがあっても執行猶予が付く可能性はなくなりません。
これらの条件を満たした上で、裁判官が適切だと判断すれば執行猶予が付きます。
法律上、執行猶予の期間は1年以上5年以下とされています。
判例によると、実際は懲役・禁錮の年数の1.5~2倍程度になるのが一般的です。たとえば、懲役2年であれば執行猶予は3~4年程度になります。
3、実刑判決とは?
執行猶予付き判決と対比されるのが実刑判決です。執行猶予付き判決と実刑判決はどう違うのでしょうか?
(1)実際に刑罰が科せられる判決
実刑判決とは、執行猶予が付与されず、有罪判決の後で直ちに刑罰が執行される判決です。
懲役の実刑判決が確定した場合には、すぐに刑務所で服役しなければなりません。
判決によっては年単位で刑務所に入る必要があり、社会からは隔絶されてしまいます。
(2)実刑判決と執行猶予付き判決の違い
実刑判決と執行猶予付き判決の違いは、すぐに刑務所に入るか否かという点です。
実刑判決であれば確実に刑に服さなければなりません。執行猶予が付けば、ひとまず自由になり、猶予期間を何事もなく満了すれば刑務所に収監されずにすみます。
同じ有罪判決であっても、実刑判決と執行猶予付き判決には大きな違いがあるのです。
4、執行猶予を獲得するためにやるべきこと
ここまでで、同じ有罪判決でも、執行猶予付き判決と実刑判決は大きく異なることがご理解いただけたのではないでしょうか。
執行猶予付き判決を獲得するためには、裁判官から「執行猶予を付けるにふさわしい」と判断されなければなりません。
本章では、執行猶予を付けるためにやるべきことを解説します。
(1)真摯に反省している態度を示す
反省の態度を裁判官にアピールしてください。反省が伝われば、裁判官が「刑務所に入らずに更正できる」と考える可能性が高まります。
方法としては、
- 反省文を書いて証拠として提出する。
- 法廷において反省の態度を示す。
- 弁護士会や慈善団体に贖罪寄付をする。
といったものなどがあります。
(2)被害者と示談する
被害者がいる犯罪では、被害者との示談が非常に重要です。裁判官が刑罰を決定するにあたって被害者の感情は重視されていると考えられます。
とはいえ、示談交渉は簡単ではありません。
加害者やその家族が直接被害者に接触して示談を進めるのは困難であり、脅迫による証拠隠滅を疑われるおそれもあるためオススメしません。
被害者との示談を考えている場合には、早めに弁護士に依頼して交渉を任せましょう。
(3)身元引受人(指導・監督者)を確保する
家族などの身元引受人を用意するのも大切です。加害者の生活を監督し、再犯を防ぐ存在がいれば、裁判官としても執行猶予付き判決を出しやすくなります。
親族に身元引受人になってもらうのが難しければ、勤務先の上司などに監督してもらうのもひとつの方法です。
(4)犯罪を行う原因となるものを断つ
裁判官に、再犯の可能性が高いと思われてはいけません。そこで、犯罪を行ってしまう原因となるものを断つ努力をする必要があります。たとえば、酒や薬物に対する依存症が犯罪に深く結びついている場合は、医師の診断を受けたり、自助グループに参加したりするなどの方法などが考えられます。
5、執行猶予期間が終わるまでの注意点
執行猶予が付いたからといって、その時点で刑罰の可能性がなくなるわけではありません。
執行猶予期間が終わるまでの注意点を理解し、日々の行いに気をつけてください。
(1)執行猶予は取り消されることもある
猶予期間中に別の犯罪をした場合などに、執行猶予は取り消される可能性があります。
猶予期間中に罪を犯して執行猶予が取り消されると、元々受けていた刑に服さなければなりません。その上、新たな犯罪についての刑罰も加算されてしまい、その分だけ長い期間、刑務所に収監される結果になります。
以下のケースでは、執行猶予が必ず取り消されてしまいます(刑法26条)。
- 猶予期間中に新たな罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
- 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
- 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき(ただし、その刑につき執行が終わった日又はその執行の免除を受けた日から五年以内に禁固以上の刑に処せられたことがない者、その刑の全部の執行を猶予されていた者、に該当する場合は除く。)。
また、以下のケースでは、必ずではないものの、裁判官の判断によって執行猶予が取り消される可能性があります(刑法26条の2)。
- 猶予期間中に新たな罪を犯して罰金に処せられたとき。
- 保護観察付きの執行猶予期間中に遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
- 猶予の言渡し前に他の犯罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。
(2)決して罪を犯さないこと
執行猶予期間中は決して罪を犯してはなりません。
新たな罪について禁錮以上の判決が出ると、ほぼ確実に以前の罪の執行猶予が取り消されます。
執行猶予が取り消されると、以前の刑に新たな刑が加算され、その分だけ長い期間刑務所に収監されます。
たとえば、「懲役1年執行猶予2年」の判決後の執行猶予期間中に、罪を犯して「懲役3年」の判決を受けると、合計4年も服役しなければなりません。
また、新たな罪について罰金で済んでも、以前の執行猶予が取り消される可能性があります。
交通違反であっても、起訴されて罰金刑を受け、執行猶予が取り消されるリスクは否定できません。
執行猶予期間中は、あらゆる犯罪を行わないように、特に注意して過ごしてください。
(3)保護観察が付された場合は条件を厳守すること
執行猶予に保護観察が付いていた場合には、保護観察の条件を守ってください。
保護観察が付くと、保護司に定期的に面会し、生活状況の報告などをしなければなりません。
保護司の指示に従わないと執行猶予が取り消されてしまう可能性があります。十分に注意して生活しましょう。
6、懲役の実刑判決を受けてしまったときはどうすればいい?
執行猶予を獲得できず、懲役の実刑判決を受けてしまったらどうすればよいのでしょうか?
刑が短縮されるのかを含めて対処法をご紹介します。
(1)控訴をする
実刑判決に納得がいかなければ、判決を不服として控訴が可能です。
控訴して上級の裁判所で再度判断を仰げば、執行猶予付き判決を獲得できるケースもあります。
(2)実刑が避けられない場合は早期の仮釈放を目指す
犯罪の性質や被害の重大性により、実刑が避けられないケースもあります。その場合でも刑務所での態度が良ければ、早期の仮釈放により刑期の実質的な短縮が可能です。
仮釈放について詳しくは以下の記事を参照してください。
懲役刑には矯正という目的もあります。規律正しく労働に励む生活習慣を身につけるきっかけになるため、デメリットばかりではありません。
仮釈放を目指して考えや生活を見直せば、より早く社会復帰できるでしょう。
懲役と執行猶予に関するQ&A
Q1.懲役とは?
懲役は刑罰の一種で、「自由刑」に該当します。
自由刑とは、身体の自由を制限される刑罰です。懲役刑が科されると、一定期間刑務所に入れられて自由な行動ができなくなります。
懲役は刑務作業が科される点が特徴です。
Q2.執行猶予とは?
執行猶予とは、有罪判決を受けた刑罰について、再び犯罪を行うなどの問題を起こさずに一定期間が経過すれば、その効力が失われるとする制度です。
Q3.実刑判決とは?
実刑判決とは、執行猶予が付与されず、有罪判決の後で直ちに刑罰が執行される判決です。
懲役の実刑判決が確定した場合には、すぐに刑務所で服役しなければなりません。
まとめ
ここまで、懲役や執行猶予に関連して、その意味やとるべき行動について解説してきました。
執行猶予付き判決には、刑務所での服役を避けられるという大きなメリットがあります。被害者との示談交渉をはじめとして、早くから行動すると執行猶予となる可能性が高まります。
ご自身やご家族が犯罪の加害者となってしまった場合には、すぐに弁護士にご相談ください。