日本人の平均寿命は年々伸びてきており、令和元年度の日本人の平均寿命は、男性が81.41歳、女性が87.45歳という数字でした。女性の方が平均寿命が長いことから、妻よりも夫が先に亡くなるケースが多いと思われますが、当然、妻が先に亡くなるケースもあります。
夫としては、自分が先に亡くなる場合のことだけでなく、妻が先に亡くなった場合の相続も考えておく必要があります。
今回は、
- 妻が先に亡くなった場合の相続の対応はどうなるのか?
- 妻が先に亡くなった場合の相続財産
- 夫婦間相続における「相続税」の考え方
- 妻が先に亡くなった場合の上手な相続の仕方
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
この記事が、妻が先に死亡した場合の相続をお考えの方のご参考になれば幸いです。
法定相続人に関して詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください。
目次
1、妻が先に死亡した場合、相続はどうなる?
妻が先に死亡した場合には、法定相続人や法定相続分はどのようになるのでしょうか。
(1)夫は必ず相続人となる
相続が開始した場合に、遺産を相続することができる人のことを「法定相続人」といいます。誰が法定相続人になるかについては、民法によって明確に規定されています。
妻が死亡した場合には、妻の配偶者である夫は、常に相続人になることができます(民法890条)。この場合の「配偶者」とは、法律上の婚姻関係にある人のことをいい、事実上の婚姻関係である内縁の配偶者には、相続権は認められません。
そのほかの法定相続人に関しては、以下のように規定されています(民法887条、889条)。配偶者以外の相続人は、それぞれの順位に従って、先順位の相続人がいない場合に限って相続人になることができます。
①被相続人の子ども(第1順位)
②被相続人の直系尊属(第2順位)
③被相続人の兄弟姉妹(第3順位)
妻が死亡し、その後自分も死亡した場合にも、上記の法定相続人の順位に従って相続人が決められます。夫婦に子ども(や孫)がいなかった場合には、自身の親や兄弟姉妹が相続することになりますが、親や兄弟姉妹が自分よりも先に死亡しているケースでは、代襲相続によって甥や姪が相続することになります。
兄弟姉妹には遺留分(民法で最低限保障されている相続分)がありませんので、代襲相続によって相続する甥や姪にも遺留分は存在しません。そのため、兄弟姉妹(や甥・姪)が相続人になるケースでは、あらかじめ遺言書を作成しておくことによって、すべての遺産を特定の兄弟姉妹(甥・姪)に相続させることも可能になります。
(2)夫は妻の財産をどれくらい相続するか
相続が開始した場合にどのくらいの遺産を相続することができるかを定めた割合を「法定相続分」といいます。妻が先に死亡した場合の夫の法定相続分がどのくらいになるのかは、夫以外に誰が相続人になるかで変わってきます。
具体的な相続人の組み合わせと夫の法定相続分は、以下の表のとおりです。子ども、親、兄弟姉妹が複数いる場合には、それぞれに割り当てられた相続分をその人数で均等に分けることになりますので、夫の相続分に影響が及ぶことはありません。
法定相続人の組み合わせ | 法定相続分 |
夫のみ | すべて |
夫と子ども(第1順位) | 夫:1/2 子ども:1/2 |
夫と妻の親(第2順位) | 夫:2/3 妻の親:1/3 |
夫と妻の兄弟姉妹(第3順位) | 夫:3/4 妻の兄弟姉妹:1/4 |
2、妻が先に死亡したときの「相続財産」とは?
妻が先に死亡した場合には、どのような財産が「相続財産」に含まれることになるのでしょうか。
(1)妻名義の財産
相続財産に含まれるものは、妻が所有していたすべての財産です。土地・建物といった不動産や現金、預貯金、有価証券などのプラスの財産だけでなく借金や未払いの税金といったマイナスの財産についても相続財産に含まれます。
ただし、被相続人の一身専属権(民法896条)や祭祀に関する権利(民法897条)は、相続財産には含まれません。一身専属権としては、扶養請求権や各種年金受給権があります。また、祭祀に関する権利とは、系譜(家系図)、祭具(位牌、仏壇など)、墳墓(墓石、墓地)の所有権です。
(2)名義がない財産の考え方
不動産や預貯金のように名義によって判断することができる財産については、相続財産に含まれるかどうかを判断することが容易です。しかし、宝飾品や骨とう品、家財道具などの動産については、名義が登録されているわけではありませんので、夫の所有する財産なのか妻の所有する財産なのかがすぐにわからないことがあります。
何が相続財産になるかは、その財産の所有者が誰かによって決まります。誰がいつ誰のお金で購入したのかを1つ1つ見ていく必要があります。名義がない財産が被相続人の所有物かどうかについては、相続人全員で確認しながら進めることになります。ただし、家財道具などの一般的な動産については、ほとんど価値がないものが大半なため、「動産一式」などとして相続人の1人(これまで一緒に暮らしていた人など)が相続することが多いといえます。
3、夫婦間相続における「相続税」の考え方
夫婦間の相続における「相続税」に関しては、相続税法上以下のような制度があります。
(1)配偶者控除制度を利用すれば多くのケースで相続税は発生しない
相続税の配偶者控除とは、配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した額が、1億6000万円または配偶者の法定相続分のいずれか多い額までであれば相続税が課されないという制度です。法定相続分どおりに遺産を分割するケースでは、配偶者にかかる相続税はゼロになるという非常に魅力的な制度です。
相続税の配偶者控除は、残された配偶者の生活保障への配慮、相続財産形成に対する配偶者の寄与が大きいこと、二次相続が比較的早く起きることなどから認められています。配偶者控除によって相続税がゼロになるとしても相続税申告書を税務署に提出する必要がありますので注意しましょう。
なお、相続税の配偶者控除は、配偶者にとって非常に有利な制度ですが、使い方を間違えてしまうと二次相続で多額の相続税を負担することになる可能性があります。相続税の配偶者控除を利用する場合には、二次相続も考えた上で、検討するようにしましょう。
(2)妻の相続開始前に、夫名義に変更するのはOK?
相続税の負担を避けるために、妻の生前に妻名義の財産を夫名義に変更することは可能なのでしょうか。名義変更をする方法としては、「贈与」と「売買」が考えられますが、売買の方法では、妻名義の財産が夫に移転しますが、対価が夫から妻に移転することになるため、結果として相続税対策にはなりません。
そのため、相続税対策としては、一般的に贈与の方法が用いられます。
当事者間で有効な贈与契約が締結されれば、所有権は妻から夫に移りますので、妻を被相続人とする相続の開始前に夫名義に変更することができます。
しかし、後述する「おしどり贈与」はありますが、贈与した財産の価額によっては、贈与税がかかることになります。また、相続開始前3年以内の贈与については、その贈与分を相続財産に含めて相続税を計算するという「生前贈与加算」という制度もあります。
そのため、相続した場合の相続税と贈与した場合の贈与税を比較したうえでどちらにメリットがあるのかをよく検討した上で行うようにしましょう。
4、相続税の観点から見る!妻が先に死亡した場合の上手な相続の仕方
夫婦間での相続に関しては、相続税法上の有利な制度がありますので、それらを利用することによって、相続税の負担を抑えることが可能です。
(1)妻名義の財産が少ないケース〜おしどり贈与を利用
夫婦の財産の大半について名義が夫である場合に、夫が先に死亡すると、妻が死亡したときに開始する二次相続での相続税負担を軽減するため、夫が死亡したときに開始する一時相続の際に、子どもに多く相続させることがあります。
同じ場合で、妻名義の財産があまりないときには、妻が先に死亡すると、うかうかしていると夫が死亡したときの子どもへの相続税が大きな負担になることがあります。
そのような場合には、「おしどり贈与」と呼ばれる贈与税の配偶者控除の特例を利用することによって節税対策になることがあります。これは、婚姻期間が20年以上の夫婦間での贈与に使うことができる特例です。
この特例を利用することによって、居住用不動産またはそれを取得するための金銭の贈与がなされた場合に、基礎控除110万円のほかに、最大で2000万円まで控除することができます。
相続税は、保有する財産の金額に偏りがある夫婦よりも、平準化されている夫婦の方が金額が低くなる傾向にあります。そのため、財産の多い夫から財産の少ない妻におしどり贈与を利用して財産を移転することによって、相続税を減らす効果が期待できる場合があります。
そして、妻が死亡した場合に、遺言や遺産分割協議によって子どもに遺産を相続させることができれば、二次相続による子どもの負担も軽減できる可能性があります。
(2)妻名義の財産が多いケース〜二次相続まで考えた上で配偶者控除を利用
夫名義の財産に比べて妻名義の財産が多い場合には、一次相続の段階から二次相続のことを考えた対策を行っていく必要があります。
相続税の配偶者控除を利用することによって、夫が妻の遺産をすべて相続したとしても1億6000万円の範囲内であれば相続税はゼロです。しかし、二次相続が発生した場合には、もはや配偶者控除は使えませんので、一時相続で夫にすべての財産をまとめてしまうと、子どもに対しては高額な相続税が課税されることになります。
そのため、一次相続の段階から配偶者への相続財産の分配を多くせずに、子どもに対して多めに相続分を渡しておくことで、全体としての税額を減らすことが可能となる場合があります。
また、年間110万円までであれば贈与税が非課税になるという基礎控除の制度がありますので、そのような制度も有効に利用しながら相続時の相続財産を減らす方策を考えるのが適当な場合もあります。
どの方法が適当かは財産の内容や価額、家族構成によっても異なりますので、事前に税理士や弁護士にご相談されるとよいでしょう。
5、相続問題でお困りの際は弁護士へ相談を
相続が開始した場合には、遺産の調査、遺産の評価、遺産分割の方法などさまざまな局面で相続人同士の対立が生じる可能性があります。
相続人同士の話し合いでは、感情的な対立が生じることも珍しくありませんので、円滑な話し合いを進めていくためには、専門家である弁護士に依頼して相続手続きを進めていくことがおすすめです。
相続開始前に弁護士に相談をすることによって、あらかじめ予想される争いに関しては、事前に対策を講じることで相続人同士の争いを回避することが可能になる場合があります。
また、相続の場面では各種制度を利用することによって、大幅に税金を減額することができる場合もあります。そのためには、生前に必要な対策を講じることが重要です。
ベリーベスト法律事務所では、弁護士だけでなく税理士も所属していますので、相続に関する法的なアドバイスだけでなく、税金面からもサポートをすることができます。相続問題に関する有効な対策を検討されている方は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。
まとめ
配偶者が先に死亡するということは誰にも起こりうる出来事です。妻が先に死亡したとしても、慌てることがないように事前に十分な相続対策を講じておくことが重要です。
遺言や贈与といった法的な対策だけでなく、相続税や贈与税などの税金面の対策も必要になりますので、一度専門家に相談をしてみるとよいでしょう。