B型肝炎給付金は時効期間の前後によって金額が変わります。
集団予防接種等が原因でB型肝炎に罹患した方は、国に対して国家賠償請求訴訟等を提起することにより、B型肝炎給付金を受給することができます。
このB型肝炎給付金には「除斥期間」が設定されており、除斥期間の経過前と経過後では、受給できるB型肝炎給付金の金額が大きく異なります。
この記事では、B型肝炎給付金について
- 除斥期間が設けられている理由
- 除斥期間経過前後のB型肝炎給付金の金額
- 除斥期間の起算点
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
また、除斥期間の前にB型肝炎訴訟での給付金の請求期限は国で定められています。
その期限を過ぎてしまうと感染症の給付金は請求手続きが出来なくなってしまいますので、これから請求を考えられている方や請求期間の確認をしたい方は、こちらの関連記事をご確認頂けると幸いです。
目次
1、B型肝炎訴訟における給付金の除斥期間とは?
そもそもB型肝炎給付金の「除斥期間」とは何なのか、どのくらいの期間なのか、なぜ設けられているのかなど、除斥期間についての基本的な事項を押さえておきましょう。
(1)20年が経過すると給付金の金額が大きく減る
B型肝炎給付金は、国に対して国家賠償請求訴訟等を提起した給付対象者に対して、国とB型肝炎訴訟原告団の間で過去に締結された基本合意書の内容をもとに定められた「特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法」(以下「特措法」といいます。)という法律に基づいて支給されるものです。
この特措法においては、給付金額の定めがありますが、後述のとおり基準となる起算点から20年間経過しているか否かによって、金額が異なり、20年が未経過の給付対象者と、20年が経過した給付対象者を比較すると、20年が経過した給付対象者に対するB型肝炎給付金は大きく減額されるというルールになっているのです。
この20年の期間のことを、以下で述べるように、根拠となる民法の考え方を基に「除斥期間」と呼んでいます。
(2)なぜ除斥期間が設けられているのか
B型肝炎給付金において、20年という期間が基準とされているのは、もともとB型肝炎給付金が「不法行為に基づく損害賠償」としての性質を持っていることに由来しています。
その根拠となっていたのは、改正前民法第724条ですが、具体的には以下のとおりです。
【改正前民法】
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)
第七百二十四条
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
上記のように、民法においては、「不法行為の時から二十年を経過」したか否かを基準に、大きく扱いが変わる定めになっています。
そのため、特措法においても20年という期間を基準に定めているのです。
(3)除斥期間と時効期間
上記のように、2020年4月1日施行の民法改正前には、「不法行為の時から20年」という期間が判例により「除斥期間」とされていましたが、同改正により、下記のように「時効期間」に統一されました。
【改正民法】
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 一被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
除斥期間と時効期間の違いに関しては、専門的な法律上の話になるため詳細は割愛しますが、簡単に説明すると、次のようになります。
「除斥期間」は原則として時間の経過により当然に権利が消滅してしまいます。これに対して、「時効期間」は「完成猶予」や「更新」の手段があり、さらに、仮に時効が成立していても、個々の事情により、その時効の効力を主張することが信義則違反あるいは権利濫用であるとして制限されることもあります。
この違いのため、今回の改正によって、より被害者が救済されやすくなることが期待されています。
(4)B型肝炎訴訟における除斥期間
上記のように、B型肝炎給付金が不法行為に基づく損害賠償としての性質を持つことから、本来は不法行為当時の改正前民法の規定に従い、不法行為の時から20年を経過すると請求できなくなるのが原則です。
ただし、実際には20年の経過後にB型肝炎給付金を請求する被害者も多かったことも事実です。
こうした被害者を一切救済しないということは、国が引き起こした事態・被害の深刻さから考えて無責任ではないかという議論がありました。
そのため、20年が経過した後であっても、金額自体は大きく減額されるものの、特例的に国から被害者に対する一定の給付を行う内容の合意がなされました。
このように、本来の除斥期間や時効期間が、権利が消滅し、請求ができなくなるのに対し、B型肝炎訴訟においては、大きく減額されるものの、請求自体はできることからすると、B型肝炎訴訟における20年の期間というものは、改正民法における時効期間、改正前民法における除斥期間と全く同じものではなく、その考え方を基にした独自の規定であるとも言えます。
2、除斥期間の20年の経過前後でB型肝炎給付金の金額はどのくらい変わる?
それでは、20年の経過前後で、実際に受け取ることのできるB型肝炎給付金の金額がどのくらい変わるのかについて見ていきましょう。
(1)死亡・肝がん・肝硬変(重度)の場合
給付対象者の中でもっともB型肝炎給付金の金額が高い「死亡・肝がん・肝硬変(重度)」のケースでは、20年の経過前であれば3600万円の給付金を受け取ることができます。
一方、20年経過後の場合には、B型肝炎給付金の金額は900万円にまで減額されます。
(2)肝硬変(軽度)の場合
「肝硬変(軽度)」のケースでは、20年の経過前であれば2500万円の給付金を受け取ることができます。
一方、20年経過後の場合、「現に当該肝硬変にり患しているもの又は現に当該肝硬変にり患していないが、当該肝硬変の治療を受けたことのあるもの」に該当する場合には600万円、そうでない場合には300万円の給付金を受け取ることができます。
「現に当該肝硬変にり患していないが、当該肝硬変の治療を受けたことのあるもの」とは、現状は治療はしてないが、B型肝炎に関してのインターフェロン製剤、核酸アナログ製剤、ステロイドリバウンド療法またはプロパゲルマニウムのいずれかの治療歴が医療記録等から認められる方をいいます。
(3)慢性肝炎の場合
肝硬変には至らないものの、「慢性肝炎」を抱えているケースでは、20年の経過前であれば1250万円の給付金を受け取ることができます。
一方、20年経過後の場合は、「現に当該B型肝炎にり患しているもの又は現に当該慢性B型肝炎にり患していないが、当該慢性B型肝炎の治療を受けたことがあるもの」に該当するかどうかでB型肝炎給付金の金額が異なり、該当する場合には300万円、そうでない場合には150万円の給付金を受け取ることができます。
(4)無症候性キャリアの場合
具体的な症状は出ていないものの、B型肝炎ウイルスに持続感染している「無症候性キャリア」のケースでは、20年の経過前であれば600万円の給付金を受け取ることができます。
一方、20年経過後の場合、無症候性キャリアの方が受け取ることができるB型肝炎給付金は50万円に過ぎません。
ただし、20年経過後の無症候性キャリアの方は、定期検査費用などについて、国から一定の助成を受けることができます。
3、B型肝炎訴訟の給付金除斥期間になる20年のカウント起算点はどこから?
これまで説明したように、B型肝炎給付金においては20年を経過しているか否かによって大きく金額が変わります。そのため、この20年の期間をいつからカウントするか(起算点)は非常に重要です。
(1)「不法行為の時」が起算点
B型肝炎給付金において請求額の減額の基準となる20年の期間は、民法における不法行為の時効期間(改正前においては除斥期間。)に合わせて、「不法行為の時」から起算するものとされています。
普通に考えれば、「不法行為の時」とは「感染した時」、つまり一次感染者の場合は集団予防接種を受けた時、母子感染者(二次感染者)の場合には出生時となりそうです。
しかし、B型肝炎の実態として、感染から相当な時間が経過してから具体的な症状が現れるというケースも多数見られます。
このような実態を踏まえると、感染時を不法行為の時として機械的に20年の期間経過により救済を制限してしまうのは、あまりにも被害者保護に欠けると言わざるを得ません。
そこで、患者の病状に応じて、一定の場合には20年の期間の起算点を後ろにずらす解釈が取られています。
(2)20年の期間の起算点を症状別に解説
被害者の症状に応じた20年の期間の起算点を具体的に見ていきましょう。
①無症候性キャリアの場合
無症候性キャリアの場合は、20年の期間の起算点は原則どおり「感染時」、つまり一次感染者の場合は集団予防接種を受けた時、母子感染者(二次感染者)の場合には出生時となります。
②慢性肝炎などを発症した場合
慢性肝炎などを発症した方については、その症状が発生した日が20年の期間の起算点となります。
③亡くなった場合
B型肝炎ウイルスへの感染が原因で亡くなった方については、死亡日が20年の期間の起算点となります。
4、慢性肝炎などを再発した場合、20年の期間はいつから起算される?
B型肝炎ウイルスへの感染が原因で慢性肝炎などを発症した方が、一度治癒した後に再発を引き起こした場合、20年の期間の起算点は1度目の発症と2度目の発症のどちらになるのでしょうか。
(1)原則として最初の発症時から20年の期間が進行する
再発の場合に20年の期間をいつから起算するかについては、最近裁判例が示されています。
最初に世間を沸かせたのが、福岡地裁平成29年12月1日判決です。この裁判では、まさに1度目の発症時と2度目の発症時のどちらが20年の起算点となるかについて争われ、判決は、再発時を起算点として原告側が勝訴し、話題を呼びました。しかしながら、同判決の控訴審である福岡高裁平成31年4月15日判決では、原審の判決を覆し、1度目の発症時が起算点であるとの判断で、原告側の逆転敗訴となりました。それ以降は原告の敗訴例が続いているようです。
福岡地裁令和2年6月23日判決でも、慢性肝炎の再発や長期継続は、病状の進行・拡大として当初の感染時に予見可能であることなどを理由として、20年の期間の起算点は1度目の発症時であると結論づけました。
今後上級審で異なる判断が示される可能性は残りますが、現時点での解釈としては、再発時の20年の期間の起算点は、原則として当初の発症時と考えるのが妥当でしょう。
(2)最初の発症とは質的に異なる再発の場合には再発時から起算
ただし同判決では、「再発時に質的に異なる損害が生じたとはいえないこと」についても、20年の期間の起算点を当初の発症時とする理由として挙げています。
このことを反対解釈すると、再発時の症状が当初発症時の症状と質的に異なるものである場合には、20年の期間の起算点は再発時になると考えられます。
たとえば、再発時の症状が当初発症時に比べて極端に重い場合など、当初発症した症状の延長線上にあるものとは考えられないケースでは、20年の期間の起算点を再発時としてB型肝炎給付金を請求できる可能性があるかもしれません。
5、除斥期間20年の期間とは別に、特措法上の請求期限がある
B型肝炎給付金を請求するにあたっては、20年の期間は給付金の金額を左右する非常に大事なポイントです。
一方で、20年の期間以外にも、B型肝炎給付金を請求するうえで注意しなければならないのが、特措法上の請求期限です。
(1)2022年1月12日までの訴訟提起等が必要
特措法第5条第1号は、特措法施行の日から起算して10年を経過する日までにB型肝炎給付金の請求を行わなければならないと定めています。
つまり、国によるB型肝炎集団感染の被害者がB型肝炎給付金を受け取るには、2022年1月12日までに、国に対して国家賠償請求訴訟を提起しなければなりません。
「B型肝炎訴訟の期限」についての詳細は冒頭でもご紹介しました、以下の関連記事をご覧下さい。
(2)請求期限は延長される可能性がある(しかし確実ではない)
実は、「特措法施行の日から起算して10年を経過する日まで」という期限については、もともとは「5年」とされていたものが一度延長されています。
推定されるB型肝炎感染被害者の数に比べて、実際に給付金を受け取った被害者の数があまりにも少なかったということが、当時期限が延長されたことの背景にあります。
現行法上の請求期限まで1年あまりを残す状況で、B型肝炎給付金を受け取った被害者の数は依然として十分とはいえないため、再び請求期限が延長される可能性はあるでしょう。
しかし、延長するかどうかはあくまでも立法府の判断により決定されるため、確実なことはいえません。
そのため、現行法で定められている期限までに、確実にB型肝炎訴訟を提起しておくことをおすすめします。
6、B型肝炎訴訟は弁護士に相談を
B型肝炎訴訟については、ご自身で訴訟を提起するのは大変な労力を要しますので、弁護士に依頼をして準備を進めることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所では、B型肝炎訴訟を請け負った経験を豊富に有しており、訴訟提起の準備から給付金の受給まで、依頼者の方をさまざまな面からサポートいたします。
依頼費用のご準備にご不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、ベリーベスト法律事務所では、B型肝炎訴訟については完全成功報酬制を採用しており、着手金や相談料等はいただきません。
そのため、事前に費用を工面するのが難しいという方にも、安心してご依頼をいただけます。
B型肝炎ウイルスへの感染でお悩みの方は、時効期間や特措法上の請求期限との関係もありますので、できる限りお早めにベリーベスト法律事務所の弁護士にご相談ください。
まとめ
B型肝炎給付金は、時効期間の経過前後で、受給できる金額が大きく異なります。
時効期間の起算点は症状の段階によって異なるため、詳しくは弁護士に相談をして、ご自身が時効期間の経過前・後のどちらであるのかを確認することをおすすめします。