契約社員にはボーナスは出ないのでしょうか。
世の中には「ボーナスがなくてもその待遇で納得して仕事に就いたのだろう。就業規則や労働契約書で決められている。従わないのはわがままだ。」そんな考え方の人も見受けられるようです。
しかし、このような考え方は誤りです。
働き方改革の「同一労働同一賃金」とは、雇用契約の形態以外は同じであるのに、正社員か非正規社員かというだけで、賃金などの待遇に不合理な格差を設けてはならない、という国家の基本方針です。
ボーナスは金額も大きく、これまで不合理な待遇差の大きな要因でした。
「同一労働同一賃金」の実現のため、法律改正等が進められ、契約社員のボーナスの取り扱いは、厚生労働省の指針で明確化されました。
会社が勝手な対応をする事はもはや許されません。
今回は、
- 契約社員にも基本ボーナスが出る理由
- 「同一労働同一賃金」における契約社員のボーナスに対する考え方
- 最高裁判決で契約社員のボーナスが否定された?!
- 契約社員にボーナスが出ないときにはどのように対応するべきか
などについて弁護士がわかりやすく解説します。
契約社員のあなたが正当なボーナスを獲得するために、この記事がお役に立てば幸いです。
契約社員とは何か知りたい方は以下の関連記事もご覧ください。
目次
1、「契約社員にボーナスは出ない」は当たり前ではない!
契約社員という言葉は、雇用期間が定められている「有期雇用契約」の労働者を指しますが、そのうち、パートタイム労働者(短時間労働者)でなくフルタイムで働く人を指すことが一般的でしょう。
契約社員といえども正社員と同じような働き方をしている人がほとんどでしょう。
(1)正社員と契約社員についてボーナスの格差は著しい
厚生労働省の調査では、ボーナスの年間平均支給額は、無期雇用契約の正社員では年間約105万円、有期雇用契約の非正規社員(契約社員、パートアルバイトなど含む)は約22万円と、大きな差があります。
東京都の中小企業の実態調査によれば、契約社員の約32%には、そもそもボーナスが支給されていません。
正社員と契約社員について、働き方にそこまで大きな差があるとはいえない場合にボーナスが全く支払われないということであれば、これは働きに見合う処遇とは言えない状態です。
(参考)
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」
東京都「令和元年度契約社員に関する実態調査」(中小企業労働条件等実態調査の一環)
(2)2020年(2021年)4月からは変わった!
働き方改革の中で「同一労働同一賃金」が盛り込まれました。
これに伴い、法律が整備され、関係法令及び指針が、大企業は2020年4月から、中小企業も2021年4月から適用されています。
これにより、正規非正規というだけで、不合理な待遇差を放置することは許されないということがより明確になりました。
この詳細は次項でご説明します。
(参考)
「契約社員」の定義、賃金格差が生じた経緯、契約社員の意義などは、次の記事をご覧ください。
契約社員は一つの立派な働き方です。それに応じた待遇が得られるべきです。
2、契約社員にボーナスが出るきっかけとなる「同一労働同一賃金」とは?
(1)「同一労働同一賃金」とは
同じような働き方をしているのに、正規非正規というだけで不合理な待遇差を放置していれば、非正規労働者はやる気をなくします。
「同一労働同一賃金」は「不合理な待遇差」を解消することです。
理由なき格差をなくしていけば、契約社員をはじめとする非正規社員は、自分の働きぶりを評価されているという納得感が得られるでしょう。
これが働くモチベーションを誘引し、労働生産性が向上していくことに繋がります。
「同一労働同一賃金」は、少子高齢化に伴う労働力人口の減少のなかで、国全体の労働生産性向上をもたらすための政策なのです。
この「同一労働同一賃金」の実現のため、これに関連する法律が整備されました。
具体的には、期間の定めのあることによる不合理な労働条件の禁止を定めた労働契約法20条が削除され、同規定が改正前パートタイム労働法に統合されました。
この統合に伴い、改正前パートタイム労働法は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パートタイム・有期雇用労働法」といいます。)に変更されました。
(2)「同一労働同一賃金」における契約社員のボーナスの取り扱い
正規非正規のボーナス格差は、賃金格差の大きな原因となっています。
厚生労働省は、「同一労働同一賃金」に関して詳細な指針(「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(同一労働同一賃金ガイドライン)」)を出しており、ボーナスについては、具体的な考え方も明確に示しています。
以下の説明は、契約社員のみならずパートタイマーなどにもそのまま該当します。
ここでは、契約社員についての説明として、整理して解説します。
①「同一労働同一賃金」の基本的な考え方
「同一労働同一賃金」というのは、正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(パートタイム労働者・有期雇用労働者・派遣労働者)との間で、待遇差を一切許さない、という事ではありません。
「不合理な待遇差は認めない」ということであり、合理的な待遇差まで否定することではありません。
不合理であるか否かの考慮要素については、パートタイム・有期雇用労働法で定められています。
具体的には、待遇ごとに、業務の内容や業務に伴う責任の程度、人材活用の範囲、その他の事情のうち待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、待遇差が不合理か否かが判断されます(パートタイム・有期雇用労働法第8条)。
これらが正社員と同一ならば同一の待遇にすべきです(均等待遇。パートタイム・有期雇用労働法第9条)。
違いがあるなら違いに応じたバランスのとれた待遇にすべきです(均衡待遇。パートタイム・有期雇用労働法第8条)。
そして、同一労働同一賃金ガイドラインが、どのような待遇差が不合理か否かを、基本給、賞与、諸手当、福利厚生、教育訓練など項目ごとに具体的に示しています。
②ボーナスについての基本的な考え方
賞与は、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給されることが多いです。その場合、正社員と同じように貢献している契約社員ならば、その貢献に応じて正社員と同一の賞与が支給されるべきです。
一方で、貢献に一定の相違があるならば、その相違に応じた適切な賞与が支給されなければならない、とされています。
要するに正社員、非正規社員というだけで、合理的理由もなく待遇差を設けてはなりません。
③ボーナスについての具体例
ボーナスについて「問題とならない例」「問題となる例」が示されています。
ごくシンプルな例であり、どなたが読んでも納得できると思います。
(問題とならない例)
イ ボーナスについて、会社の業績等への貢献に応じて支給している場合に、正社員Xと契約社員Yの貢献度が同一なら、XとYには同一のボーナスを支給しています。
ロ 正社員Xは、生産効率及び品質目標の責任を負っており、目標が未達成ならば、待遇上不利益が課されます。一方で、契約社員Yは、このような目標について特段の責任は求められておらず、目標未達成でも待遇上の不利益は課されません。
このような場合に、Xに対してはボーナスを支給しているが、Yについては待遇上の不利益を課さない反面、ボーナスを支給していない。
(問題となる例)
イ ボーナスについて、会社の業績等への貢献に応じて支給している場合に、正社員Xと契約社員Yの貢献度が同じなのに、Yに対してXと同一のボーナスを支給していない。
ロ 正社員には職務内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかのボーナスを支給しているが、契約社員Yには支給していない。
(参考)
パートタイム・有期雇用労働法第8条、9条
厚生労働省同一労働同一賃金特集ページ
「同一労働同一賃金ガイドラインの概要」
「同一労働同一賃金ガイドライン」(全文:厚生労働省告示第430号)
(3)「同一労働同一賃金」による契約社員のボーナス以外の待遇変化
ここでは、ボーナス以外の待遇についても、簡単に触れておきましょう。
①基本給
基本給は、実際には様々な要素を考慮して決定されています。
能力経験に応じた職能給、業績成果に応じた成果給、勤続年数に応じた勤続給、などです。
これらの決定要素ごとに合理的で納得のできる内容にしなければなりません。
また、昇給についても、非正規だから昇給させないのは問題です。
能力向上や勤続年数などを考慮してふさわしい昇給が求められます。
②手当
手当には様々なものがありますが、これについても、非正規社員が正規社員と同一の条件下にあるならば、同一の手当の支給が求められています。
③福利厚生など(パートタイム・有期雇用労働法第12条)
法律上、事業主は、正規非正規の区別なく、福利厚生施設の利用の機会を与えることが義務付けられています。
④教育研修(パートタイム・有期雇用労働法第11条1項)
法律上、事業主に、正規と同一の業務を行う非正規労働者に対する教育訓練義務が課されています。
⑤退職金
退職金については、同一労働同一賃金ガイドラインでは具体的な基準は示されていません。
ただし、同一労働同一賃金ガイドラインの中では、具体例が示されていないものでも「不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」としています。
(参考)
パートタイム・有期雇用労働法第11、12条
3、最高裁判例で契約社員のボーナスが否定された?という勘違い
2020年10月に最高裁判所で「同一労働同一賃金」について立て続けに判決が出ました。
「手当については考慮してもらえたが、ボーナスは否定された。」そんな思い込みが広がっているようです。これは大きな間違いです。
(1)法改正前の事件
そもそもこれらの事件は、法改正前の事件です。
改正前の労働契約法20条は、労働条件の相違が不合理といえるかを判断する際に考慮できる事情について、何らの限定もしていませんでした。
しかし、改正後のパートタイム・有期雇用労働法は、待遇の性質・目的に照らし適切と認められる事情のみを考慮できると定めており、考慮できる事項を限定しています。
ボーナスについて問題となった大阪医科薬科大学事件の判決では、無限定に広範な事情を考慮しており、パートタイム・有期雇用労働法に沿っていないとの指摘もなされているところです。
そのため、同判決は、必ずしも法改正後も妥当する判決とはいえません。
(2)大阪医科大学事件の具体的内容
今回の原告は、名称はアルバイト職員ですがフルタイムで勤務しており、本稿でいう契約社員に該当するものと考えられます。
最高裁は、このアルバイト職員に賞与を支給しなかったのは違法ではない、としました。
しかし、次のような要素が考慮されて判決に至ったもので、契約社員に賞与を支給しないことが一般的に適法であると判断したものではありません。
- 大学でのアルバイト職員と教室事務員(正職員)とは職務に様々な差がある
- 正職員には配置転換がある
- 正社員の基本給は、職能給としての性質であった
- アルバイトから正職員への登用制度もある
(3)判決に異論も多い
学者や弁護士の意見も分れています。例えば、次のような議論が行われています。
「正職員とアルバイト職員の職務の様々な差というのも大きな差とは言えない。いくつもの考慮要素を組み合わせて、この事件限りの判断をしたのではないのか。」
「アルバイトから正職員への登用制度がなかったら、結論が変わったのではないか。」
労働問題で会社側の立場に立つ弁護士でも、次のような議論がされています
「ボーナスゼロというのは問題だ、少額でも支給しておくべきだ」
「正職員への登用制度をちゃんと設けて運用しないと、今後は、問題になりうる。」
4、2022年2月現在、ボーナスが出ていない契約社員が取るべき行動
契約社員のあなたにボーナスが出ていないとか、出ても雀の涙、というのであればどのように行動すべきでしょうか。
(1)会社に説明を求める
契約社員をはじめとする非正規社員は、正社員との待遇差の内容や理由などについて、会社に説明を求めることができます(パートタイム・有期雇用労働法第14条2項)。説明を求めたからといって、会社が不利益な扱いをすることは禁止されています(同3項)。
抽象的で通り一遍の説明では許されません。
事業主向けのマニュアルでは、次のように記載されています。
「説明に当たっては、短時間・有期雇用労働者が説明内容を理解することができるよう、資料を活用して、口頭で説明することが基本です。
この場合の資料としては、就業規則、賃金規程、通常の労働者の待遇の内容を記載した資料等が考えられます。
この他、説明すべき事項を全てわかりやすく記載した文書を作成した場合は、当該文書を交付する等の方法でも差し支えありません。」
ボーナスの説明について、次のような例が挙げられています
アルバイト社員を例にとっていますが、契約社員全般にも適用されるでしょう。
(待遇の目的)
「社員の貢献度に応じて会社の利益を配分するために支給します。」
(正社員との待遇の違いの有無と、ある場合その内容)
「アルバイト社員は店舗全体の売上に応じて一律に支給(ww 円~xx 円)しています。
正社員については目標管理に基づく人事評価の結果に応じて、基本給の0か月~4か月(最大 zz 円)を支給しています。」
(待遇の違いがある理由)
「アルバイト社員には売上目標がないので、店舗全体の売り上げが一定額以上を超えた場合、一律に支給しています。
正社員には売上目標を課しているため、その責任の重さを踏まえて、目標の達成状況に応じた支給とし、アルバイト社員よりも支給額が多くなる場合があります。」
(参考)
パートタイム・有期雇用労働法第14条
事業主向けマニュアル「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応~業界共通編」(上記の説明の事例は11ページに掲載されています。)
(2)行政ADR等を利用する
会社の説明に納得がいかないなら裁判外紛争解決手続(行政ADR)を利用することができます。
都道府県労働局で、無料・非公開の紛争解決手続をしてもらうことができます。
(3)弁護士からアドバイスをもらう
「同一労働同一賃金」の考え方は大変複雑で、簡単に理解できるものではありません。
自分の会社でも契約社員にボーナスが出るのか、どれくらいもらえるものなのか、会社にどのように交渉すべきなのか。
そのようなことについて、あらかじめ弁護士に相談しておけば、ADRも自信をもって利用できるでしょう。
さらに、自分でやるのは難しいということであれば、弁護士に会社との直接の交渉を任せることもできます。弁護士は、あなたの最強のサポーターとなるはずです。
(参考)厚生労働省パンフレット
正社員とパートタイム労働者・有期雇用労働者の間の不合理な待遇差が禁止されます!
まとめ
働き方改革の本来的な意味は多様な働き方を推進することです。
労働者が自分の状況に応じ、人生設計に応じて様々な働き方をすることが、ご本人や家族のためになるだけでなく、国家としても多くの人の労働参加が得られるようになり、生産性の向上にもつながります。
そのために、国は正規非正規を問わず不合理な待遇差の是正を求めています。
この趣旨をよく考えて、ご自身の働き方に見合った待遇をしっかりと求めてください。あなたのためだけではなく、この国の未来がかかっているのです。