ケアハラスメントとは?ケアハラを防ぎ介護と仕事の両立を果たすための4ステップ

ケアハラスメント

ケアハラスメントとは、働きながら介護に追われている人への嫌がらせや、不利益な行為全般のことです。

仕事を休んだり、残業ができない等、介護によって仕事に影響が出ている人が、会社の上司や同僚、部下等から白い目で見られ、嫌がらせを受けてしまう場合があります。
そして、ハラスメントを受けている本人も周りの人に迷惑をかけているという負い目から我慢を重ねてしまうことが多いでしょう。

このような辛い状態に陥った場合、どのように解決すれば良いのでしょうか。

今回は

  • ケアハラスメントとは何か
  • ケアハラスメントはなぜ起こるのか
  • そもそも仕事と介護の両立のためにどのような制度が用意されているか
  • 両立支援制度をしっかり活用し、ケアハラスメントを防ぐにはどうすればよいか

などについて弁護士がわかりやすく解説します。

あなたがケアハラスメントを受けずに、介護と仕事の両立をはかっていくために、この記事がお役に立つことができれば幸いです。

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1、ケアハラスメント(ケアハラ)を考える上で知っておくべき、介護関連制度の概要

ケアハラスメント(ケアハラ)を考える上で知っておくべき、介護関連制度の概要

(1)介護休暇

この制度は、労働者が要介護状態の家族の介護などの必要な世話をするために、事業主に申し出ることによって、一回の年度に5労働日(要介護の家族が2人以上の場合は10労働日)まで、休暇を取得できるという制度です(法16条の5)。

(2)介護休業

介護休業とは、労働者が、要介護状態にある家族を介護するために、要介護者一人につき、要介護状態に至るごとに通算93日を限度として3回まで介護のための休業をすることができるという制度(法11条・12条・15条)です。

ただし、日雇い労働者には認められず(法2条1号)、アルバイト等の有期労働者については、1年以上継続雇用されており、介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6月を経過する日までに、労働契約が終了することが明らかでない者であれば認められます(法11条1項但書)。

(3)介護休業給付金

介護休業期間中の賃金については雇用保険制度から休業開始前賃金の67%が「介護休業給付金」として支給されます(雇用保険法附則12条)。

(4)介護のための所定労働時間短縮等の措置義務

事業主は、要介護状態にある家族を介護し、介護休業を行わない労働者(日雇い労働者を除く)が申し出た場合、3年以上の期間における①所定労働時間の短縮、その他就業しながら介護を容易にするための措置(②フレックスタイム制、③始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ、④介護サービス費用の助成)のうちの一つを、④を除き2回以上利用できる措置として講じなければならないとされています(法23条3項、規則74条3項)。

(5)所定外労働の制限

要介護状態にある家族を介護する労働者が請求した場合においては、事業主は、その労働者について、所定労働時間(契約等であらかじめ定められている労働時間)を超えて労働させてはならないとされています。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は適用対象外となり、また、継続雇用期間が1年に満たない労働者または1週間の所定労働日数が2日以下の労働者についても、労使協定の締結によって、適用対象外となります(法16条の9、規則44条)。

(6)時間外労働の制限

要介護状態にある家族を介護する労働者が請求した場合においては、事業主は、その労働者の労働時間について、1か月につき24時間、1年につき150時間を超えて延長してはならないとされています。
ただし、事業主の正常な運営を妨げる場合であったり、継続雇用期間が1年に満たない労働者または1週間の所定労働日数が2日以下の労働者については、適用対象外となります(法18条、規則52条)。

(7)深夜業の制限

要介護状態にある家族を介護する労働者が請求した場合においては、事業主は、その労働者を深夜(午後10時から午前5時まで)に労働させてはならないとされています。
ただし、事業の正常な運営を妨げる場合や継続雇用期間が1年に満たない者、請求に係る深夜において、常に被介護者を介護できるような同居の家族がいる場合や1週間の所定労働日数が2日以下の者、所定労働時間の全部が深夜にある者は請求できない点に注意が必要です(法20条)。

以上の制度の利用を労働者が申し出たこと、またはそれらの措置を労働者が実行したことを理由に、当該労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない(法16条、16条の7、16条の10、18条の2、20条の2、23条の2) とされています。
これに違反した事業主の法律行為は無効になりますし、違法性が認められますので、不法行為に基づく損害賠償請求の対象となりえます。

なお、不利益な取り扱いとは以下のようなものが挙げられます(平21厚労告509号参照)。

  • 解雇
  • 有期雇用契約の更新をしない、更新回数の上限を引き下げる
  • 正社員をパートなど非正規社員に切り替える
  • 降格
  • 自宅待機など業務に従事させない
  • 減給、賞与や人事考課等の不利益な査定
  • 不利益な配置転換
  • 従業員の意に反する労働時間等の制限

2、ケアハラスメント(ケアハラ)とは何か〜ケアハラスメントの具体例

ケアハラスメント(ケアハラ)とは何か〜ケアハラスメントの具体例

では、実際、ケアハラスメントとはどういうものなのでしょうか。

ケアハラスメント(ケアハラ)とは、働きながら介護に追われている人への嫌がらせや、不利益な行為全般のことです。
法令で定められた制度利用の際に嫌がらせという形で現れることがあります。

ケアハラスメントの具体例は以下の通りです。

(1)解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの

(例)
「介護休業したい」と申し入れたが、上司から「休むなら辞めろ」と言われた。あるいは、「男のくせに介護休業か。次の査定では昇進出来ないぞ」等と言われた。

(2)制度等の利用の請求を妨げたり、制度等の利用を阻害するもの

(例)
介護休業を請求したい旨、同僚に話したところ、「自分なら請求しない。請求するのはやめたらどうだ。」と繰り返し言われ、介護休業の請求を諦めざるを得なくなった。

(3)制度利用による嫌がらせ

(例)
介護のため残業を免除してもらったところ、上司から「残業出来ない人には大した仕事は任せられない」と繰り返し言われて雑務ばかり押し付けられた。あるいは「自分だけ短時間勤務しているなんて周りの迷惑を考えていない。」等とネチネチと嫌みを言われ、精神的に病んでしまった。

では、なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。

3、ケアハラスメント(ケアハラ)が起こる理由

ケアハラスメント(ケアハラ)が起こる理由

ケアハラスメントには、セクシャルハラスメントやマタニティーハラスメントとは異なる固有の問題があります。
長期化、深刻化しやすく、場合によっては離職にも結びつきかねない問題であるため、会社の経営上も見過ごせない重大な問題であるといえます。

以下、ケアハラスメントが起こる原因や問題について確認しましょう。

(1)セクハラ、マタハラと比べて理解が進んでいない

セクハラマタハラについては、政府も防止策に力を入れており、多くの人々に理解されてきていますが、介護にかかるハラスメントについては、まだまだ理解が不十分です。

「ケアハラスメント」という言葉自体初めて聞かれた方も多いのではないでしょうか。
理解されていないからこそ、横行しうる問題であるといえます。

(2)介護は始まりも終わりもわからない

妊娠出産や育児は、いつから始まり、いつ頃まで続くかは概ね見当がつきます。
その間は皆でサポートしましょう、という気持ちも起こりやすいでしょう。
しかし、介護はある時突然始まり、終わりの時期もわかりません。

突然仕事を続けることができず、上司や同僚、部下に自分の仕事を任せなければいけなくなる場合もあります。
このような時に、周囲の人たちが「なぜ私がこの仕事をやらなければいけないのか」「いつまで待てばいいのか」などと不満を抱えてしまうおそれがあります。

このように介護は始まりの時期も終わりの時期もわからないため、会社業務への影響も計り知れないところがあります。

では、このような問題を抱えたケアハラハラスメントにはどう対処していけばいいのでしょうか。

4、ケアハラスメント(ケアハラ)を予防するための法制度の概要

ケアハラスメント(ケアハラ)を予防するための法制度の概要

まずは、ケアハラスメント予防のための法制度があることを知ることが大切です。

2019年の女性活躍推進法等改正法によって、ケアハラスメント防止のための施策が強化されました。

育児介護休業法は、まず、国に対して、ケアハラスメント問題に対する事業主や国民の理解を深めるための広報・啓もう活動その他の措置を講ずるよう努めるよう義務づけています(法25条の2第1項)。

そして、事業主自身もケアハラスメント問題に対する関心理解を深めるとともに、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めることを義務づけられています(法25条の2第3項)。

また、事業主は、ケアハラスメント問題に対する労働者の関心と理解を深めたり、労働者が他の労働者に対する言動に注意を払うようにするために、研修の実施やその他の必要な配慮をすること及び、国の講ずる措置について協力するよう努めなければならないとされています(法25条の2第2項)。

なお、労働者自身もケアハラスメント問題について理解を深めるとともに、他の労働者に対する言動に必要な注意を払い、事業主の講ずる雇用管理上の措置(法25条1項)に協力するように努めなければならないとされています(法25条4項)。

以上のような義務があることを会社に告げることで、会社が予防策を打ち立ててくれる場合があるかもしれません。

5、ケアハラスメント(ケアハラ)の予防には「仕事と介護の両立」が鍵

ケアハラスメント(ケアハラ)の予防には「仕事と介護の両立」が鍵

では、ケアハラスメントを予防するために労働者自身ができることはあるのでしょうか。

ケアハラスメントの予防として、大切なのは「仕事と介護の両立」です。

以下、「仕事と介護の両立」のための7つのポイントを紹介します。

(1)職場に介護の事情を伝える

職場に自身の介護の状況を詳細に伝え、必要に応じて介護関連制度を利用することを相談すべきです。
会社の人事総務の担当者のみならず、上司、同僚、部下等にも素直に自身の介護の状況を伝えて、サポートを求めましょう。
事情を理解してもらうことはハラスメントを防ぐことにも繋がります。
なお、解説したように、介護関連制度の利用の際に解雇やその他の不利益を与えることはもちろんのこと、労働者が事業主に相談等(法25条1項)を行ったこと等を理由とする解雇その他の不利益取り扱いをすることも法律で禁止されています(法25条2項)。

(2)介護関連制度を利用する

1で解説した介護関連制度は仕事と介護の両立を目指して制定されたものですから、これを積極的に活用することで「仕事と介護の両立」を図ることができます。

(3)介護保険サービスを十分に活用する

地域包括支援センター等に相談し、介護支援の専門家であるケアマネージャーにお願いして介護保険サービスを十分活用することも大切です。

地域包括支援センターとは、介護・医療・保健・福祉など様々な視点で高齢者を支える地域の「総合相談窓口」のことです。全国に4,300か所以上設置されています。

介護予防の支援、さらに包括的支援事業(①介護予防ケアマネジメント業務、②総合相談支援業務、③権利擁護業務)をワンストップで実施してくれます。

ネットで「地域包括支援センター(都道府県市区町村名)」と検索すれば、最寄りのセンターを探すことができます。

なお、介護保険とは公的な保険制度であり、これを利用すれば、1割から2割の負担で介護諸サービスを利用することができます。
またケアマネージャーの費用についての負担は一切ありません。

(4)介護保険の申請は早めに準備する

介護保険の利用申請は早いうちにしておくことが肝要です。
利用申請から要介護認定されるまで2か月ほどかかる場合もあります。
決定された要介護認定の効力は申請日にさかのぼって有効になり、金銭的な負担もある程度解消できます。

(5)ケアマネージャーに相談する

ケアマネージャーは介護支援の専門家です。
職場の状況なども包み隠さず伝えて、しっかりサポートしてもらいましょう。

少しでも悩みがあればすぐにケアマネージャーに相談することが大切です。

(6)日ごろから家族や近所の人々とコミュケーションをとり、良好な関係を築く

介護は一人で行うにはあまりにも負担が大きいものです。
そこで、実際に介護が必要になる前から介護の方法等について家族とよく協議しておくことが大切です。
近所で頼れる人がいれば、いざというときの連絡などをお願いするのも手です。

なお、徘徊などの懸念がある場合、事前に警察に相談しておけば、いざというときに警察が迅速に対応しやすくなります。

(7)介護を深刻に考えすぎない、自分の時間も確保する

介護を一人で抱え込みすぎると、精神的・身体的な不調を来たすことがあります。

介護疲れで体調を崩したり、場合によっては、介護されている人へストレスをぶつけてしまうことがあるかもしれません。

そのような事態になる前に、ケアマネージャー等の専門家とよく相談したうえで、デイケア等の福祉サービスを積極的に活用することを検討しましょう。

6、ケアハラスメント(ケアハラ)への対処法

ケアハラスメント(ケアハラ)への対処法

それでもケアハラスメントを受けてしまった場合どうしたらいいのでしょうか。

(1)会社の相談窓口へ

会社は労働者からの相談に応じて、雇用管理上必要な措置をとらなければならないとされている(法25条1項)ため、会社の窓口に相談してみるのも一つの手です。

(2)職場の身近な人への相談

身近な同僚や上司、部下などにケアハラスメントを受けたことを相談し、理解や協力を求めることも一つの手です。
仲間は大いに越したことはないでしょう。

(3)公的機関への相談

社内での適切な対応が期待できない場合には、公的機関へ相談することも一つの手です。
相談先は全国の都道府県の労働局内に設置されている雇用環境・均等部(室)などです。
場合によっては是正指導や会社名の公表という措置を期待できます。

(4)弁護士への相談

弁護士に相談した場合、相談者の状況に応じた的確なアドバイスがもらえます。
そして、実際に弁護士に依頼した場合には、会社に対する損害賠償請求や会社から受けた解雇等の不利益措置の有効性を争うなど、交渉・審判・裁判等を通して、依頼者の代理人となって進めてくれます。

まとめ

総務省が2018年7月に公表した「平成29年就業構造基本調査結果」においては、約346万人もの方が介護をしながら仕事をしていることが報告されています。

過去1年間に「介護・看護のため」に離職した人は約9.9万人にものぼっており、介護離職の防止は、国家としても会社としても重要な問題になってきているといえます。

そして、介護離職の中には、ケアハラスメントが離職の原因になっているケースも少なからずあります。

本稿では、ケアハラスメントがなぜ起こり深刻化しやすいかを示し、その上で「仕事と介護の両立」という根本にさかのぼって、ケアハラスメントを防ぐ方法等について提案いたしました。

繰り返しになりますが、介護の問題は1人で抱え込まないことが大切です。
家族や職場の方など、身近な人たちの協力を求め、公的な支援を活用することで、ご自身の時間も大切にしてください。

この記事がそのためのお役に立てれば幸いです。

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