「占有離脱物横領」という犯罪をご存じでしょうか?
耳慣れない犯罪ですが、例えば落とし物を拾って自分の物にしたときに成立します。
ゴミを再利用しようとして拾ったケースなど、自覚のないうちに逮捕されてしまうこともあります。
そこで今回は
- 占有離脱物横領の構成要件
- 占有離脱物横領と他の犯罪の違い
- 占有離脱物横領で逮捕された場合の流れ
などについて解説します。
この記事が、身近な人が占有離脱物横領で逮捕された方の手助けとなれば幸いです。
逮捕全般については以下の関連記事をご覧ください。
1、占有離脱物横領とは?
(1)落ちている現金・ゴミ・放置自転車を自分の物にすると犯罪になる
占有離脱物横領は、落とし物など人の占有から離れた物を、自分の物にした場合に成立する犯罪です。以下のような行為が該当するとされています。
- 落ちていた現金を拾って警察に届けず自分の物にした
- 歩道上に放置されていた自転車に乗ってその場を立ち去った
ゴミを拾って再利用しようとした場合など、悪いことをしたつもりがなくても成立する可能性がある犯罪です。
無意識のうちに犯してしまわないように注意してください。
(2)占有離脱横領の刑罰・時効期間
占有離脱物横領で有罪になると「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料」が科されます(刑法254条)。刑罰としては軽い部類の犯罪であり、被害額が少なく初犯であれば軽い処分となる可能性が高いです。
占有離脱物横領の時効期間は3年です。3年経過して時効が成立すると罪に問われることはなくなります。
2、占有離脱物横領の構成要件
(1)対象は「遺失物」「漂流物」「その他占有を離れた他人の物」
占有離脱物横領の対象となるのは
- 「遺失物」
- 「漂流物」
- 「その他占有を離れた他人の物」
です。
「遺失物」とは、わかりやすくいうと落とし物のことで、誰かが置き忘れてしばらく経った財布などが該当します。
「漂流物」とは、水中にある遺失物のことをいいます。川の中の落とし物や、洪水で流された物が漂流物の例です。
「その他占有を離れた他人の物」とは、誤って占有した物や逃げ出してきた家畜などです。誤って占有した物の例としては、店員の間違いで多く渡されたつり銭が挙げられます。
(2)「横領」すること
(1)で説明した対象物を「横領」すると占有離脱物横領となります。
「横領」とは、他人の物を「自分の物にしよう」という意思に基づいて自己の支配下におくことをいいます。
「後で警察に届けよう」と思って落とし物の財布を拾った場合には、「自分の物にしよう」としていないため、占有離脱物横領は成立しません。
3、占有離脱物横領と他の犯罪の違い
(1)占有離脱物横領と遺失物横領とは同じ意味
占有離脱物横領にあたる行為に対して「遺失物横領」という言葉が使われることもあります。
呼び方の違いにすぎず、これらは同じ意味だと考えて差し支えありません。
(2)占有離脱物横領と横領との違い
横領(単純横領)は、他人から委託を受けて手元に預かっている物について、それを自分の物にしてしまうことをいいます。
例えば、知人から保管しておくように言われたブランド品を無断で売却した場合に成立します。
これに対して、占有離脱物横領が成立するためには、他人から委託されている必要はありません。委託関係の有無が両者の違いになります。
(3)占有離脱物横領と窃盗との違い
窃盗は、他人が占有している物を自分の物にした場合に成立します。
占有離脱物は他人の占有を離れた物について成立するため、他人の占有の有無が両者の違いです。
被害者が置き忘れた物を犯人が盗ったケースでも、時間が経たないうちに被害者が置き忘れに気がついたときに置き忘れた場所からそれほど離れていない場合には窃盗罪になることがあります。
判例では、行列が進んでいるときにカメラを置き忘れた事例において、5分後に20メートル離れた場所で被害者が気づいたことを理由にカメラに対する被害者の占有を認め窃盗罪が成立するとしました。
この事例では被害者の占有が残っていると判断されたのです。
どこまでの範囲について他人の占有があると認められるかの明確な基準はなく、占有離脱物横領と窃盗とをはっきりと線引きできないケースもあります。
4、占有離脱物横領で逮捕された場合の流れ
(1)微罪処分で済むこともある
警察に逮捕されたとしても、微罪処分で済むこともあります。
微罪処分とは、警察から検察に事件が送られずに、事件を終了とすることです。
検察に送られるかどうかは、逮捕されてから48時間以内に決められます。
占有離脱物横領は重罪ではないので、被害額が少なく、十分反省している場合には微罪処分のケースも多いです。
(2)最大20日間の勾留
検察に事件が送られた場合には、検察官が勾留請求してさらなる捜査をするか決めます。
勾留された場合の期間は10日間です。捜査が終わらないと、さらに10日間勾留が延長されるので、最大で勾留日数は20日間になります。
占有離脱物横領では、勾留まではされずに在宅で捜査がなされるケースが多いですが、もし勾留されると長期間拘束されてしまう可能性もあります。
(3)検察官が起訴するかを判断する
勾留された場合、在宅で捜査が進んだ場合のいずれについても、検察官が起訴して裁判にかけるかどうかを決めます。
勾留されていれば勾留期間中に起訴するかが判断されますが、在宅であれば判断時期に決まりはありません。
検察官は、
- 犯人の性格
- 年齢
- 境遇
- 犯罪の重さ
- 犯行後の情況
などを総合的に考慮して起訴するかを決めます。
占有離脱物横領では、特に悪質というわけでなければ、不起訴となる可能性も高いでしょう。
(4)裁判で判断を受ける
もし検察官が起訴した場合には、裁判が開かれて刑罰が決定されます。
上述したように、占有離脱物横領で科される刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料」です。
略式起訴された場合には、書面での判断となり、法廷は開かれません。
略式起訴には被疑者の同意が必要で、科されるのは罰金刑もしくは科料のみになります。
5、占有離脱物横領で弁護士に依頼するメリット
(1)早期の身柄解放を目指せる
弁護士に依頼すると、早期の釈放を目指せます。
占有離脱物横領は比較的軽微な犯罪であるのはたしかです。
しかし「証拠を隠すのではないか」などと判断されれば、勾留により長期間にわたって身柄を拘束されます。
弁護士は検察官に働きかけをすることにより、勾留の可能性を下げるよう活動します。
拘束されて仕事や日常生活に影響がないようにするため、弁護士の力を借りるとよいでしょう。
(2)示談交渉をしてもらえる
弁護士は被害者との示談交渉も行います。
示談が成立すれば不起訴となる可能性が高くなります。不起訴であれば前科がつかないため、今後の人生を考えると示談の有無は非常に重要です。
示談交渉を自ら行うのは困難ですので、交渉に慣れた弁護士への依頼が効果的といえます。
(3)裁判になっても最後までサポート
もし起訴されてしまったとしても、弁護士は裁判までサポートします。
無実の場合はもちろん、有罪であっても少しでも刑が軽くなるように、法廷での質問や有利な事情の主張を行います。
まとめ
ここまで、占有離脱物横領の成立要件や他の犯罪との違い、逮捕された場合の流れなどを解説してきました。
占有離脱物横領は比較的軽い犯罪とはいえ、起訴されて有罪となり前科がつく可能性もあります。弁護士に早めに相談して、適切な対応をとってもらうことがオススメです。