脱税は犯罪ですが、時効があります。理論上は、脱税の時効期間が経過すると処罰を免れ、納税義務もなくなります。しかし、税務署は脱税を警戒して税務調査に力を入れているため、税金に関する時効成立は難しいのが実情です。
脱税が発覚すると、重い追徴課税を課される上に、悪質な行為が行われた場合には刑事事件として告発されることもあります。納税は国民の義務ですので、必ず期限までに申告して納付しなければなりません。
今回は、
- 脱税の時効期間
- 脱税の時効成立が難しい理由
- 脱税が発覚した場合のペナルティ
などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士と税理士による監修のもとで解説していきます。
その他にも、脱税と節税の違いや、脱税で逮捕されてしまったときの対処法もご紹介します。この記事が、時効によって脱税のペナルティから免れることが可能かどうかについて、気になる方のご参考となれば幸いです。
脱税 逮捕について詳しく知りたい方は以下の関連記事をご覧ください。
目次
1、時効が問題となる「脱税」とは?節税や申告漏れとの違いは?
脱税の時効を考える前に、まずは脱税とはどのような行為なのか、節税や申告漏れとはどのように違うのかを確認しておきましょう。
(1)脱税の意味
脱税とは、経理上の不正行為によって納税を免れる行為のことです。
具体的には、意図的に収入を過少に申告したり、領収証を偽造したりと架空の経費を計上して所得額を実際よりも少なく見せる行為や、税金の申告をしないケースです。所得税だけでなく、法人税・相続税・贈与税・消費税でも、脱税が行われるケースがあります。
これらの不正行為が発覚し、捜査機関に告発されて刑事罰の対象となった事例のことを「脱税」と呼ぶこともあります。
本記事では、まだ告発されていなくても追徴課税や刑事処罰の対象となりうる事例も含めて「脱税」と呼ぶこととします。
(2)節税との違い
「節税」も、納税額を抑える行為ですが、脱税とは異なります。
脱税が違法行為であるのに対して、節税は税法で認められた手段を活用して合法的に税金の負担を軽減させる行為です。
節税の方法は多岐にわたりますが、税法上の各種控除や特例を活用したり、余剰資金を経費に充てたりする方法が一般的です。
ただ、通常ではあり得ないと考えられる取引をことさらに行って経費を計上するような行為が目立つと、税務署に「租税回避」と判断され、追徴課税を課される可能性もあります。
租税回避とは、脱税のように刑事罰の対象となるような違法性はないものの、税法の想定しない一般的ではない方法によって、意図的に納税を免れる行為として追徴課税の対象とされる行為のことです。
また、節税のつもりでも、うっかりすると脱税に該当する行為をしてしまう危険性にも注意が必要です。節税をする際は、税法を正しく理解し、合法な範囲内で行わなければなりません。
(3)申告漏れとの違い
「申告漏れ」と呼ばれる事例も、脱税とは明白に異なります。
申告漏れとは、単純な計算ミスや帳簿への記載ミス、経費に当たらないものを誤って計上してしまったなどの過失によって、納税額を実際よりも少なく申告した事例のことです。意図的な工作などによって納税額をごまかそうという悪意がないので、刑事罰の対象となるような違法性はありません。
ただし、申告漏れも追徴課税の対象にはなります。
2、脱税に科せられる刑罰その他のペナルティ
脱税に対するペナルティには、刑事罰と追徴課税の2種類があります。どちらも、かなり重いペナルティが用意されていますので、しっかりと確認しておきましょう。
(1)刑事罰
脱税に科せられる刑事罰は、以下のとおりです。
①ほ脱犯
「ほ脱犯」とは、脱税犯の法律的な名称です。
偽りその他不正の行為によって税金の納付を免れた場合、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方に処せられます(所得税について、所得税法第238条1項)。
ただし、罰金については脱税した金額と同額まで引き上げられる可能性があります(所得税について、所得税法第238条2項)。
例えば、脱税額が5000万円の場合は5000万円の罰金を科せられる可能性があるということです。
なお、法人税、相続税、贈与税、消費税についてもそれぞれの法律に同様の規定があり、刑事罰も全く同じです。
②受還付犯
受還付犯とは、偽りその他不正の行為によって税金の還付を受ける犯罪のことです。
所得税、法人税、相続税、贈与税、消費税について、刑事罰はほ脱犯の場合と全く同じです。
③単純無申告ほ脱犯
単純無申告ほ脱犯とは、積極的な隠ぺい工作はないものの、意図的に申告書を法定期限までに提出せず、納税を免れる犯罪のことです。
刑事罰は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方に処せられます(所得税について、所得税法第238条3項)。
罰金については、やはり脱税した金額と同額まで引き上げられる可能性があります(所得税について、所得税法第238条4項)。
法人税、相続税、贈与税、消費税についてもそれぞれの法律に同様の規定があり、刑事罰も全く同じです。
④単純無申告犯
税金の無申告が意図的なものでなくても、正当な理由なく法定期限までに提出しなかった場合は単純無申告犯として刑事罰の対象となります。
③で解説した「単純無申告ほ脱犯」との違いは、無申告が意図的かどうかという点にあります。
刑事罰は1年以下の懲役または50万円以下の罰金です(所得税について、所得税法第241条)。
法人税、相続税、贈与税、消費税についてもそれぞれの法律に同様の規定があり、刑事罰も全く同じです。
ただ、情状により刑を免除することが可能とされていることと、違法性が乏しいケースがほとんどであることから、実際に単純無申告犯で処罰されるケースはほとんどありません。
(2)追徴課税
脱税が発覚すると、税務署から必ず追徴課税を課せられます。
刑事事件となった場合には、以下の追徴課税とは別に刑事罰を科せられることになるので、相当に重いペナルティとなってしまいます。
また、追徴課税は本来納付すべき税額の不足分に加えて支払わなければならないので、それだけでも重いペナルティであるといえるでしょう。
課税の種類 | 課税されるケース | 税率 |
過少申告加算税 | 申告期限内に申告したものの、税額を過少に申告した場合 | 10~15% |
無申告加算税 | 正当な理由なく申告期限までに申告、納税しなかった場合 | 5~20% (場合によっては10パーセント加算される) |
不納付加算税 | 源泉所得税を納付期限までに納めなかった場合 | 5~10% |
重加算税 | 意図的な隠ぺいや偽装によって無申告または過少申告をした場合 | 35~40%(場合によっては10パーセント加算される) |
延滞税 | 法定納期限までに納税しなかった場合 | 原則として 7.3~14.6% |
悪質なケースであるほど税率が高くなります。
刑事事件となるようなケースでは、最も重い重加算税が課せられる可能性が高いといえます。
なお、延滞税の税率には複雑なルールがありますので、必要に応じて国税庁のページでご確認ください。
3、脱税に時効はある?期間は何年?
本章では、脱税の時効について解説していきます。
時効にも、刑事事件としての時効(公訴時効)と、税務署との関係での時効とがありますので、それぞれについてご説明します。
(1)脱税の公訴時効期間は7年
刑事事件には、犯罪行為が行われてから一定の期間内に検察官が起訴できなければ、時効によって起訴できなくなる「公訴時効」という制度があります(刑事訴訟法第250条)。
時効期間は刑罰の重さに応じて定められており、脱税犯の時効期間は以下のとおりです。
- ほ脱犯…7年
- 受還付犯…7年
- 単純無申告ほ脱犯…5年
- 単純無申告犯…3年
以上の期間が経過するまでに起訴されなければ時効が成立し、処罰されることはなくなります。
その場合は逮捕、勾留されていても釈放されますし、前科もつきません。
(2)納税・追徴課税の時効期間は5年~7年
税務署との関係での時効には、「賦課権」の期限と、「徴収権」の時効とがあります。
賦課権とは、税務署が納税額を決定する権利のことで、「課税権」と言い換える分かりやすいでしょう。
賦課権の期限は申告期限から5年ですが、贈与税のみは6年とされています。ただし、偽りその他不正行為、つまり脱税行為があると7年となります。
これらの期限は正確にいうと「時効」ではなく「除斥期間」というものです。
除斥期間とは、時効のように完成が猶予されたり、更新されたりすることなく、定められた期間が経過すると確実に権利が消滅するものです。
もう一方の徴収権とは、確定した税額を税務署が取り立てることができる権利となります。
徴収権には消滅時効があり、時効期間は法定納期限から5年です。
ただし、消滅時効の期間は「更新」されることがあり、実際に時効が成立するケースは少ないのが実情です。この点については、後ほど「4」(4)で詳しく解説します。
税務署との関係での時効についてまとめますと、脱税の場合でも7年という賦課権の除斥期間があります。徴収権の時効期間(5年)は更新されやすいため、時効成立を期待することは難しいといえるでしょう。
4、脱税犯が時効で逃げ切るのは無理?
次に、脱税をしてしまった場合に時効で逃げ切ることができるのか、という問題について解説します。
(1)脱税は税務調査でほぼ公になる
税務署は、適正に税金を徴収するために、さまざまな調査を行う権限を有しています。
過少申告や無申告、申告漏れが疑われる場合には「税務調査」が行われるのです。
税務調査では、帳簿などの関係書類を徹底的に調べられ、さまざまな質問への回答や資力の提出も求められます。脱税が疑われる場合には、強制調査も行われます。
少額の過少申告や申告漏れなどは事実上見逃されることもあるかもしれません。
しかし、税務署は脱税の事案には特に目を光らせているため、不正はほぼ確実に公になると考えておかなければなりません。
(2)脱税の起訴率は極めて高い
脱税が発覚しても追徴課税さえ支払えばよいと考える人もいるかもしれませんが、そうはいきません。脱税犯の起訴率は極めて高いのです。
によると、所得税法違反・法人税法違反・消費税法違反の起訴件数は合計で208件、不起訴件数の合計は11件で、起訴率は95%となっています。
なお、相続税法違反の送検事例はありませんでした。
刑事事件全体で見ると、起訴件数10万6590件に対して不起訴件数15万2569件で、起訴率は41.1%にとどまっています(自動車による過失致死傷等および道路交通法等違反事件は除きます)。
刑事事件の中でも、脱税犯の起訴率がいかに高いかがお分かりいただけることでしょう。
脱税犯は、それだけ悪質な行為で、処罰する必要性が高いと考えられているのです。
(3)起訴されると有罪率も高い
日本の刑事裁判は、有罪率が99%を超えています。
つまり、脱税が発覚して送検、起訴されるとほとんど確率で有罪となり、処罰されると考えておく必要があります。
(4)納税・追徴課税の時効はリセットされることもある
脱税のペナルティを回避するために、時効成立を期待する人も少なくないことでしょう。
しかし、実際には脱税の時効が成立するケースは極めて少ないと言われています。なぜなら、消滅時効の期間には「更新」があるからです。一定の事由があると、それまでに進行していた時効期間がリセットされてゼロに戻るのです。その後は、また初めから時効期間が進行し始めます。
5年の間に税務署から請求を受けたり、一部でも税金を納付したり、納税の猶予を申請したりすると時効が更新され、そのときから5年が経過しなければ時効は成立しません。税務署も法律に従って適正に請求してきますので、基本的に消滅時効が成立することはないと考えるべきでしょう。
刑事事件における公訴時効についても、犯人が国外にいる場合と、犯人が逃げ隠れしているために起訴状が送達されなかったような場合、その間は時効が停止します。
結論として、脱税をしてしまったら時効成立を期待するのではなく、早めに申告して納税し、ペナルティをできる限り軽減することが得策であるといえます。
5、万が一、脱税で捜査されたときの対処法
脱税で捜査されてしまうと、起訴されて有罪判決を受け、刑罰を課せられる可能性が高いといわざるを得ません。
少しでも刑罰を軽くするためには、弁護士に依頼することが有効です。
逮捕され、身柄を拘束された場合でも、被疑者はいつでも弁護士を呼ぶことができますので、一刻も早く弁護士に接見に来てもらい、取り調べについてアドバイスを受けましょう。脱税が発生した背景の立証や、追徴課税の納付、身元引受人の確保などの弁護活動によって刑事処分を軽くしてもらえることが期待できます。事案の内容によっては、不起訴処分を獲得して刑罰を回避できる可能性もあります。
なお、脱税が発覚しても、税務調査を受ける時点で逮捕されることはありません。
刑事事件に発展する場合には、通常の税務調査の後、税務署による「犯則調査」というものが行われます。犯則調査で確保した証拠に基づいて捜査機関に告発され、脱税の程度が悪質、重大な場合、逮捕されるのはその後ということになります。
したがって、犯則調査を受けた場合には、その時点で弁護士に相談し、その後の対応についてアドバイスを受けることがおすすめです。
それ以前に税務調査の通知が来た時点で税理士に相談した上で、適切に対応することが理想的です。こちらの記事では、脱税犯で逮捕された事例を紹介していますので、ぜひ参考になさってください。
まとめ
脱税には時効があるものの、時効成立によって刑事責任や追徴課税を免れる可能性は非常に低いのが実情です。
放置していると、高額の追徴課税を課される上に、刑事罰として多額の罰金まで科せられる可能性がありますので、非常に危険です。
脱税をしてしまった場合には、早めに税理士・弁護士に相談して適切に対処しましょう。
告発される前に自主的に申告し、追徴課税を納めれば、刑事事件に発展する可能性はとても低くなります。
ベリーベスト法律事務所には、弁護士だけでなく税理士も在籍しているのでワンストップでの対応が可能です。
全国対応も可能ですので、脱税と聞いて心当たりがある方はお早めに当事務所へご相談ください。