相続放棄は、兄弟の財産を相続したくない場合にも可能な選択肢です。
兄弟が他界して、お葬式や四十九日の法要も終わった頃に、突然、兄弟の債権者と名乗る者から兄弟の借金を返済するように迫られる。対応が必要となりました。
ドラマのような話かもしれませんが、亡くなった兄弟に子がいなかったり、既に亡くなっていたりするような場合には十分起こり得る話です。
また、兄弟に子がいる場合でも、その方が相続放棄をすると、相続権が自分に回ってきた結果、借金を背負ってしまったという事例もあります。
仲の良い兄弟でも、生前、その財産状況まではなかなか把握していない場合が多いため、思わぬ借金が降りかかってくることがあるのです。
ただ、そのような場合でも、相続放棄をすることで、借金を背負わなくて済む方法があります。
ここでは、
- 兄弟の相続放棄を検討する際に知っておくべきポイント
について説明します。ご参考になれば幸いです。
相続放棄について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
目次
1、相続放棄をしたい!兄弟の相続放棄を検討しなければならない場面とは
通常、兄弟が亡くなった場合に、他の兄弟が亡くなった方の遺産を相続するということは多くありません。
亡くなった方の配偶者や子や親が相続人となるからです。
しかし、亡くなった方に子供がいなかった場合や、子供がいてもその方が相続放棄した場合等は兄弟の遺産を相続するという場面が生じます。
兄弟の遺産を相続するという場合に、プラスの財産だけなら良いのですが、亡くなった方に借金があったときは、借金も相続してしまう可能性があります。
そのため、相続をするか放棄をするかは慎重に判断しなければなりません。
まず、兄弟の遺産を相続することになる2つのパターンについて説明します。
(1)先順位の法定相続人がいない(死亡している)場合
ある方が亡くなった場合、まず、その子(子が亡くなっている場合は孫)が相続人となります。
この子や孫は第1順位の法定相続人といいます。
この第1順位の相続人がいないか、既に死亡している場合、遺産は、亡くなった方の親(親が亡くなっている場合は祖父母)が相続することになります。
この場合の親や祖父母を第2順位の法定相続人といいます。
第2順位の法定相続人である親や祖父母が既に死亡している場合、遺産は、兄弟姉妹が相続することになります。
兄弟姉妹は第3順位の法定相続人といいます。
このように、兄弟は、第3順位の法定相続人であるため、先順位(第1順位や第2順位)の法定相続人がいないか既に死亡している場合にはじめて相続人となるのです。
なお、相続において、配偶者は常に相続人となるので順位は関係ありません。
例えば、亡くなった方に配偶者と子がいた場合は、その配偶者と子が相続人となりますし、子がいなかった場合は、配偶者と第2順位の法定相続人である親が相続人となるのです。
(2)先順位の相続人が相続放棄をした場合
先順位の法定相続人がいる場合であっても、その方が相続放棄をした場合は、兄弟が遺産を相続する場合があります。
例えば、亡くなった方に第1順位の法定相続人である子がいる場合でも、その子が相続放棄をすると、その子は相続人でなくなるので、第2順位の法定相続人である親が相続人となります。
その親も相続放棄をすると、今度は、第3順位の法定相続人である兄弟姉妹が相続人となります。
このように、先順位の法定相続人が相続放棄をした場合も、兄弟が相続人となる場合があるのです。
先順位の相続人である兄弟の子や孫とは疎遠な場合もあるため、先順位の相続人が相続すると思っていたら、知らない間に相続放棄をしていた、ということもあります。
先順位の相続人が相続放棄すると、次の順位の相続人に相続権が回ってくる可能性があることを常に意識しておくべきです。
2、兄弟の遺産の相続放棄で注意すべき点
兄弟の遺産の相続放棄で注意すべき点は、次の3つです。
とても大切ですので確認してみてください。
(1)兄弟の遺産は把握できていないことが多い
一般的に、子は親の遺産を相続するので、親の遺産についてはある程度把握していることが多いと思います。
しかし、兄弟の遺産を相続するのは、先順位の法定相続人がいない(もしくは相続放棄した)という例外的な場合なので、生前に、兄弟にどの程度の遺産があるかを把握していることはあまり多くないと思われます。
特に、マイナスの財産である借金については、兄弟には隠していることも多いでしょう。
そのため、借金などないだろうと思って、兄弟の遺産を相続したところ、後になって相続した遺産を上回る借金があることが発覚した、というような事例が結構あるのです。
いったん遺産を相続してしまうと、後から相続放棄をすることが認められなくなる可能性があるので、相続をする前に、相続する遺産を上回るような借金がないかどうかをきちんと確認することが重要です。
(2)相続放棄には期限がある
(1)で述べたように、遺産を相続する際には、亡くなった兄弟に借金がなかったかどうかを確認することが大切です。
ただ、相続放棄には、「相続の開始を知ったときから3か月以内」という期限があるので注意が必要です。
この「相続の開始を知ったとき」というのは、通常は、亡くなった方が死亡したことを知ったときを指します。
ただ、先順位の法定相続人が相続放棄をした結果、相続人となった場合は、「先順位の法定相続人が相続放棄をしたことを知ったとき」となります。
(3)相続放棄は遺産分割協議とは違う
相続放棄をしたい場合は、必ず家庭裁判所で手続きをとる必要があります。
この点について、遺産分割協議で、自分は何も相続しないという合意をすれば放棄をしたことになると勘違いされている方もおられます。
しかし、遺産分割協議で相続しないという合意をしても、それはプラスの財産を受け取らない、という合意をしたにすぎません。
亡くなった方の借金は、正式に家庭裁判所で相続放棄をしない限り、遺産分割協議の内容にかかわらず、法定相続分に応じて支払う義務が生じてしまうので注意が必要です。
例えば、亡くなったあなたの兄に配偶者はいるが、子はおらず、両親や祖父母は既に亡くなっているとしましょう。
兄弟があなただけの場合、亡くなったお兄様の配偶者とあなたが法定相続人となります。
そして、この場合に、特に深く考えずに、お兄様の遺産はすべてお兄様の配偶者が相続する、という内容の遺産分割協議をしたとします。
この場合でも、お兄様に借金があると、あなたが法定相続分(この場合4分の1)に応じて借金を相続してしまう可能性があるのです。
3、兄弟の遺産の相続放棄をしたい場合の手続き方法
次は、兄弟の遺産の相続放棄をしたい場合の手続きについてご説明します。
(1)兄弟の遺産の相続放棄を行う場所
相続放棄は、必ず家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
兄弟の相続放棄を行う場合、その亡くなった兄弟が亡くなった時に住んでいた場所を管轄する家庭裁判所でしか手続きができない点に注意が必要です。
(2)兄弟の相続放棄に必要な書類
兄弟の相続放棄をする場合には、亡くなった方が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本が必要になります。
兄弟が相続人となるのは、先順位の法定相続人がいない(いても既に死亡した)か、先順位の法定相続人が全員相続放棄をした場合に限られます。
そのため、まず、先順位の法定相続人がいるかどうかを確認するために、亡くなった方が生まれてから亡くなるまでの全ての戸籍謄本を家庭裁判所に提出する必要があります。
また、家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄の申述書を作成し、前記の戸籍謄本等と合わせて提出します。
その際、収入印紙や郵便切手も必要になります(収入印紙は通常800円分、郵便切手は手続きを行う家庭裁判所によって金額が異なるが数百円程度であることが多い)。
(3)先順位の相続人がいる場合
亡くなった兄弟に子など先順位の相続人がおり、その相続人が相続放棄するために兄弟に相続権が回ってくる場合は、先順位の相続人の相続放棄が家庭裁判所で受理された後でないと相続放棄ができません。
亡くなった兄弟の子と疎遠な場合等もあるかもしれませんが、きちんと連絡を取って、その方の相続放棄が家庭裁判所に受理されたら連絡してもらう等の対処をしておくことが大切です。
4 兄弟の子(甥姪)が相続放棄を行う必要がある場合
兄弟の子(亡くなった方から見ると甥姪にあたる方)が、相続放棄を行う必要がある場合とはどんな場合でしょうか。
ある方が亡くなった場合に、その兄弟がその方より前に亡くなっていた場合は、兄弟の子(亡くなった方の甥姪)が相続人となります。
また、ある方が亡くなった後に、その兄弟にあたる方が、その後、亡くなった方の相続を放棄することなく亡くなってしまった場合も、その兄弟に子がいる場合、その方(最初に亡くなった方の甥姪にあたる方)が相続する可能性があるのです。
これらの場合、亡くなった方(相続する方からみると叔父叔母にあたる方)に借金があった場合、その借金を背負ってしまう可能性があります。
兄弟という間柄でさえ借金があるかどうかはわからない場合が多いのに、叔父叔母となると、借金の有無等がより把握しづらい関係です。
ただ、きちんと調査をして、相続するか放棄するかを決め、放棄するのであれば期限内に家庭裁判所で正式に手続きを取っておかないと、思わぬ借金を背負ってしまう可能性があるので、注意が必要です。
5 兄弟の相続放棄について相談したいときは
兄弟の遺産を相続するときには、兄弟が負っていた借金が思わぬ形で降りかかってくることを避けるためにも、慎重な判断が必要です。
借金がないことが明らかな場合は良いのですが、そうでない場合は、相続放棄をするかどうかを判断しなければなりません。
相続放棄には期限もあるので、迷われた場合は、早めに専門家に相談されると良いでしょう。
この場合の専門家は、法律や相続の専門家である弁護士が最適です。
既に相続放棄をすることが決まっていて、書類の作成だけを依頼したい場合は、司法書士でも相談をすることが可能です。
ただ、相続放棄をした方が良いかどうか迷っている場合には、弁護士にアドバイスを求められるのがよいと思います。
また、兄弟が亡くなってからしばらく経った後に、急に借金の存在が明らかになることもあります。
そのような場合に、既に兄弟が亡くなって3カ月が経過しているからといって常に相続放棄ができないとは限りません。
裁判例では、兄弟が亡くなって3カ月以上経過していても、「遺産や負債の存在を知ったとき」から3か月経過していなければ、相続放棄が認められた事案もあります。
このように、相続放棄が認められるかどうか微妙な場合も、まずは、弁護士に相談されるとよいでしょう。
まとめ
他界した兄弟に借金がある場合は、きちんと相続放棄の手続きをとることで、借金を相続しないようにすることが可能です。
ただ、相続放棄の期限を過ぎてしまったり、放棄する前に遺産の処分をしてしまったりすると、相続放棄ができなくなる可能性があります。事前の対策が必要となります。
もし、他界した兄弟に借金がある可能性がある場合は早めに専門家である弁護士に相談しましょう。
また、まさか兄弟にそんな借金があるとは思わなかったという方も少なくありません。
借金が判明していない場合であっても、相続をする際には、十分注意をし、少しでも不明な点があれば、事前に弁護士に相談されることをおすすめします。