窃盗罪の処罰については、刑法235条で規定されています。この罪には、万引き、置き引き、ひったくりなどが挙げられます。生活に困り食料品を万引きしてしまったり、友人の自転車を出来心で盗むような状況も考えられます。
この記事では、刑法235条の成立条件、逮捕される可能性のあるケース、そして軽い処分を受ける方法に焦点を当て、弁護士が分かりやすく解説します。
窃盗行為に不安を感じている方や、自身の行動が罪に該当するか気になる方にとっての手助けとなれば幸いです。
目次
1、刑法235条とは?
刑法235条とは、窃盗罪を規定する法律です。
窃盗罪の成立要件や刑罰など、刑法235条ではどのように規定されているのでしょうか?
(1)窃盗罪の成立要件
窃盗罪は、刑法で次のように定められています。
第二百三十五条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役刑又は50万円以下の罰金に処する。
引用元:刑法
この条項を基に窃盗罪の成立要件について詳しく解説していきます。
①他人の財物を
「他人の財物」とは、他人が占有する財物を指します。
「財物」は金銭や品物など有形物を指すことが一般的です。
ただし、例外的に電気は財物として扱われることが刑法で規定されています(刑法第245条)。
そのため、お店などでスマホやパソコンの充電を無断で行う行為には窃盗罪が成立する可能性があります。
「占有」とは、人が物を実力的に支配することをいいます。物を直接手に持っている場合であれば分かりやすいですが、たとえば、物を置いて離れた場合でも、「占有」が継続しており、窃盗罪が成立する可能性があります。
また、自分の所有物であったとしても、その物を他人が占有している場合、その人の意思に反して持ち去ってしまうと窃盗罪が成立する可能性があります。
例えば、他人に貸している状態や他の場所で保管している状態の物を無断で持ち出すようなケースが挙げられます。
②不法領得の意思をもって
「不法領得の意思をもって」という要件は条文に明記されていませんが、不法領得の意思が成立要件になります。
不法領得の意思とは、本来の物の所有者である権利者を排除して、他人の物を自分の所有物として扱い、経済的に利益を受ける意思やその物の用途にかなった使用をする意思のことをいいます。
なぜ不法領得の意思が要件として必要とされるのかというと、窃盗罪に当たる行為と他の行為を区別するためだと考えられています。
一時的に使用したのちに返却する意思で他人の物の占有を自己に移すことを「使用窃盗」といい、不法領得の意思が無い場合には、処罰されない可能性があります。
この使用窃盗と窃盗罪を区別するためには、権利者を排除する意思があるか否かが判断要素になります。
一方、他人の物を壊したり隠したりすることは毀棄・隠匿罪にあたります。他人の物を意思に反して持ち去る点では窃盗罪に類似しています。
しかし、持ち去った物を利用・処分する意思があるか否かという点で毀棄・隠匿罪と窃盗罪は区別されます。
つまり、窃盗罪にあたる行為か否かを判断するために、条文には記載されていない不法領得の意思が窃盗罪の成立に必要だと考えられているのです。
③窃取したこと
「窃取」とは、他人の財物を所有者の意思に反して自己または第三者の占有に移すことを指します。
窃取というと、一般的にはこっそりと盗み出すという意味で使われることもありますが、窃盗罪においては公然と盗み出した場合にも該当します。
(2)窃盗罪の刑罰
窃盗罪の刑罰は、刑法235条に「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」と定められています。
2022年の刑法改正により「懲役」が「拘禁」になる予定ですが、施行日は現時点では未定です。
窃盗罪の刑罰に関しては、その他にも次のように刑法で定められています。
第二百四十三条 未遂罪
第235条から第236条まで、第238条から第240条まで及び第241条第3項の罪の未遂は、罰する。
第二百四十四条 親族間の犯罪に関する特例
一 配偶者、直系血族又は同居の親族との間で第235条の罪、第235条の2の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯した者は、その刑を免除する。
二 前項に規定する親族以外の親族との間で犯した同項に規定する罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
三 前二項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
引用元:刑法
まず、窃盗罪は未遂であったとしても、処罰されることが刑法243条に定められています。
そのため、窃盗に失敗した場合でも、窃盗未遂罪として罰せられる可能性があります。
そして、窃盗罪には親族間の特例があり、親子や配偶者、その他同居の親族の間で窃盗を犯した場合は刑罰が免除されます(刑法244条1項)。
同居していない親族の間で窃盗が行われた場合は、告訴があれば処罰される可能性があります(同2項)。
なお、この規定は親族間の窃盗に関しての特例であり、親族ではない共犯者がいる場合、その共犯者にはこの規定は適用されません(同3項)。
(3)窃盗罪の加重類型
窃盗罪の加重類型として、「常習累犯窃盗」が挙げられます。
常習累犯窃盗は名前の通り、反復して窃盗を行っている場合に成立する犯罪です。
常習的に窃盗を行っていない者よりも常習性のある者を重く処するために法律で定められています。
常習累犯窃盗に関しては、刑法第235条の窃盗罪またはその未遂罪を常習的に犯し、前10年以内に窃盗又は他の罪との併合罪につき、3回以上6カ月の懲役以上の刑の執行を受けた者、もしくはその執行の免除を受けた者に対して科すと規定されています(盗犯等ノ防止及処分二関スル法律第3条)。
そして、常習累犯窃盗の刑罰は3年以上の有期懲役になります(同法律第2条)。
2、刑法235条の罪と関連する犯罪
窃盗罪と似たような犯罪行為であったとしても、少しの違いで別の犯罪が成立するようなケースもあります。
場合によっては、窃盗罪よりも重い刑罰が科せられる恐れがあります。
刑法235条の罪と関連する犯罪と、それぞれの違いや成立要件についてご紹介します。
(1)強盗罪(刑法236条)
暴力や脅迫により、反抗を抑圧して、他人の財物を奪い取った場合に成立する犯罪です。
他人の財物を奪い取る手段に暴力や脅迫が用いられるという点が窃盗罪とは異なります。
強盗罪の刑罰は5年以上の有期懲役と規定されています。
窃盗罪を犯した後に追いかけられたものの振り払って逃走した場合や、窃取した財物を取り返されたり逮捕されたりすることを免れるために暴行や脅迫した場合には、事後強盗罪が成立する可能性があります。
事後強盗罪は強盗と同様に扱われます(刑法238条)。
また、窃盗が未遂であったとしても被害者にケガをさせた場合、強盗致傷罪に当たる可能性があり、強盗致傷罪は無期または6年以上の懲役という重い刑罰が規定されています(刑法240条)。
(2)詐欺罪(刑法246条)
他人を欺いて財物や財産の交付や、財産上の利益を得ると詐欺罪が成立します。
相手を騙す意図をもって欺いて勘違いに陥れ、相手の側から財物の交付をさせる点で窃盗罪と異なります。
詐欺罪の刑罰は10年以下の懲役となり、窃盗罪のような罰金刑はありません。
(3)恐喝罪(刑法249条)
暴行や脅迫によって相手を怖がらせ、財物の交付や財産上の利益を得た時に成立する犯罪です。
財物の交付や財産上の利益を受けるための手段として脅迫や暴行を行う点で窃盗罪とは異なります。
恐喝罪の刑罰は、10年以下の懲役です。
相手が抵抗できないほどの暴行や脅迫を行った場合には、恐喝罪よりも刑罰の重い強盗罪が成立する可能性があります。
(4)横領罪(刑法252条)、業務上横領罪(刑法253条)
他人から頼まれて預かっている物を自分の物にしてしまった場合に成立する犯罪です。
業務として他人の物を預かっていて自分の物にしてしまった場合には、業務上横領罪が成立します。
横領罪は5年以下の懲役、業務上横領罪は10年以下の懲役が科せられます。
他人からの委託や業務として預かっている物が対象になるため、横領する対象物が窃盗罪とは異なります。
(5)占有離脱物横領罪(刑法254条)
「遺失物等横領罪」とも呼ばれ、遺失物や漂流物など他人の占有から離れた物を横領した場合に成立する犯罪です。
落とし物や忘れ物など所有者の占有、すなわち支配力が及ぶ範囲外の場所で横領が行われた場合に成立する犯罪であり、持ち主がすぐ隣にいるなど支配力の及ぶ範囲内で行われれば窃盗罪になります。
占有離脱物横領罪は窃盗罪よりも軽く、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金もしくは科料に処されることになります。
(6)不動産侵奪罪(刑法235条の2)
「不動産侵奪罪」とは、他人の占有する不動産について、その占有を排除して自己の支配下に置く行為を処罰するものです。
法定刑は、10年以下の懲役となっています。
窃盗罪(刑法235条)は不動産を対象としていません。そこで、不動産侵奪罪は、窃盗罪が対象としない不動産窃盗を処罰するものとして創設されました。
不動産の窃盗というのはイメージが難しいですが、具体的には、不法占拠などが考えられます。
なお、本罪にも刑法244条の親族間の特例が適用されます。
3、刑法235条で逮捕されることが多いケース
刑法235条の罪や関連する犯罪などについて解説してきましたが、刑法235条で逮捕されるのは具体的にどのようなケースなのでしょうか?
刑法235条で逮捕されることが多いケースとして、次のようなケースが挙げられます。
(1)万引き
万引きとは、買い物客を装って代金を支払わずに無断で商品を持ち去る行為です。
「万引き」という言葉が日常的に使われることが多いですが、刑法上では万引きは窃盗罪に該当します。
ただし、万引きが発見された際に逃亡し、追跡してきた相手に危害を加えるような行為があれば事後強盗罪が成立する可能性があり、その場合は強盗罪として窃盗罪より重い刑罰が科せられます。
(2)空き巣、車上荒らし
家や車に侵入し、財物を窃取する行為です。
典型的な泥棒がイメージしやすいでしょうか。
空き巣の場合、他人の居住地へ許可なく侵入した場合は、住居侵入罪(刑法第130条前段)も成立する可能性があります。
また、財物を窃取する際に所有者が現れ、暴力や脅迫行為を行えば強盗罪が成立する可能性があります。
(3)置き引き
置かれている他人の財物・財産を無断で持ち去る行為です。
置き引きをした場合、窃盗罪もしくは占有離脱物横領罪のどちらかに該当すると考えられます。
持ち去った財物が他人の占有状態にあったのであれば窃盗罪が成立しますし、他人の占有から離れていれば占有離脱物横領罪が成立します。
短時間もしくは所有者の近くに置かれている物を持ち去れば、窃盗罪に該当すると考えられます。
ただし、飲食店や宿泊施設などの施設内における忘れ物の場合、持ち主の占有はなくなっていても、店長や支配人などの施設管理者の占有状態にあると考えられる場合もあります。
そのため、こうした場合では窃盗罪が成立する可能性があります。
(4)スリ、ひったくり
他人の懐やバッグなどから財物をこっそり盗み出す行為をスリ、荷物を持った歩行者や自転車の前に乗せた荷物を奪い去る行為をひったくりといいます。
スリやひったくりも他人の財物を窃取する行為なので、窃盗罪に該当します。
ただし、ひったくりの際に相手に危害を加えれば、強盗罪や強盗致傷罪が成立する可能性があり、その場合は重い刑罰が科せられることになります。
(5)自転車窃盗、自動車窃盗
他人の自転車や自動車を盗む行為にも窃盗罪が成立する可能性があります。
もっとも、あとで返す意思があって一時的に使用したという場合であれば、使用窃盗として扱われる可能性があります。
使用窃盗であれば処罰されることはありません。
4、窃盗罪の時効は何年?
窃盗罪には公訴時効があり、時効期間は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。
時効に関する詳しい内容は、関連記事を参考にしてください。
5、窃盗罪で不起訴や軽い処分を獲得する方法
窃盗罪で逮捕されてしまった場合や逮捕されそうな場合、不起訴や軽い処分を獲得するためにできることがあります。
重い処罰を避けるためにも、次の方法で不起訴や軽い処分の獲得を目指しましょう。
(1)自首を検討する
自首とは警察へ自発的に犯罪の事実を申告し、その処分を認める行為です。
捜査機関に犯罪行為が発覚する前に自首をすれば、減刑できることが法律で認められています(刑法42条1項)。
ただし、必ず自首したからといって減刑されるとは限らず、裁判所の裁量によると考えられます。
自首をすれば逃亡する危険性がないと判断されやすくなるため、逮捕や勾留を回避できる可能性が高まるというメリットがあります。
捜査機関に犯罪が発覚した後、自主的に捜査機関に出頭した場合、自首にはなりません。
しかし、その場合でも、逃亡の危険性はないとの判断材料になりますし、反省を示していると評価されることも考えられ、逮捕や勾留を避けられたり量刑を軽くできたりする可能性が高まります。
自首に関する詳細は、関連記事をご覧ください。
(2)被害者と示談する
被害者と示談するということは、謝罪の意を表して弁済や慰謝料を支払うことを指します。
早期に示談を行えば、逮捕や刑事事件化することを防ぐことができる可能性があります。
また、逮捕や勾留された後でも、示談が成立することで早期釈放や不起訴を目指すことが可能になります。
逮捕後の流れと示談方法に関しては、関連記事を参考にしてください。
(3)クレプトマニアの場合は治療を受ける
クレプトマニアは「窃盗症」などとも呼ばれる精神疾患の一種です。
窃盗をしたいという欲求をコントロールできず、繰り返し窃盗を行ってしまいます。
一般的な窃盗の場合は、自分の欲しい物など一定の目的を持って窃盗を行います。
一方で、クレプトマニアの場合は窃盗する財物ではなく、窃盗をする行為自体が目的という特徴があります。
クレプトマニアは精神疾患なので、専門のクリニックでの治療をおすすめします。
クレプトマニアに関する詳細は、関連記事を参考にしてください。
6、刑法235条で逮捕されたとき・逮捕されそうなときは弁護士に相談を
刑法235条で逮捕されてしまった場合、または逮捕されそうな場合は、法律の専門家である弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談することで、不起訴や減刑を目指すための弁護活動を行うことができます。
被害者との示談も任せることができるため、早期から弁護士に依頼して示談を進めれば、被害届の取り下げも期待できるでしょう。
刑事事件へ発展した場合でも、弁護士が減刑に向けて弁護活動を行ってくれます。
窃盗罪をはじめとした刑事事件について、自分の力だけで、警察・検察に意見をすることや、示談交渉等を行うことは非常に難しく、精神的にも負担が大きくなります。
弁護士はあなたの味方になってくれる存在なので、精神的な支えにもなるでしょう。
刑法235条に関するQ&A
Q1.刑法235条とは
刑法235条とは、窃盗罪を規定する法律です。窃盗罪には、万引きや置き引き、ひったくりなどが挙げられます。
Q2.刑法235条で逮捕されることが多いケース
刑法235条で逮捕されることが多いケースとして、次のようなケースが挙げられます。
①万引き
万引きとは、買い物客を装って代金を支払わずに無断で商品を持ち去る行為です。
「万引き」という言葉が日常的に使われることが多いですが、刑法上では万引きは窃盗罪に該当します。
ただし、万引きが発見された際に逃亡し、追跡してきた相手に危害を加えるような行為があれば事後強盗罪が成立する可能性があり、その場合は強盗罪として窃盗罪より重い刑罰が科せられます。
②空き巣、車上荒らし
家や車に侵入し、財物を窃取する行為です。典型的な泥棒がイメージしやすいでしょうか。空き巣の場合、他人の居住地へ許可なく侵入した場合は、住居侵入罪(刑法第130条前段)も成立する可能性があります。また、財物を窃取する際に所有者が現れ、暴力や脅迫行為を行えば強盗罪が成立する可能性があります。
③置き引き
置かれている他人の財物・財産を無断で持ち去る行為です。置き引きをした場合、窃盗罪もしくは占有離脱物横領罪のどちらかに該当すると考えられます。持ち去った財物が他人の占有状態にあったのであれば窃盗罪が成立しますし、他人の占有から離れていれば占有離脱物横領罪が成立します。短時間もしくは所有者の近くに置かれている物を持ち去れば、窃盗罪に該当すると考えられます。
④スリ、ひったくり
他人の懐やバッグなどから財物をこっそり盗み出す行為をスリ、荷物を持った歩行者や自転車の前に乗せた荷物を奪い去る行為をひったくりといいます。スリやひったくりも他人の財物を窃取する行為なので、窃盗罪に該当します。
⑤自転車窃盗、自動車窃盗
他人の自転車や自動車を盗む行為にも窃盗罪が成立する可能性があります。もっとも、あとで返す意思があって一時的に使用したという場合であれば、使用窃盗として扱われる可能性があります。使用窃盗であれば処罰されることはありません。
Q3.窃盗罪の時効は何年?
窃盗罪には公訴時効があり、時効期間は7年です(刑事訴訟法250条2項4号)。
まとめ
他人の物を盗めば、刑法235条の窃盗罪として刑罰が科される恐れがあります。
窃盗罪に関連する犯罪の場合、窃盗罪よりも刑罰が重くなることも考えられます。
窃盗を行ってしまい、もしくは刑法235条に関連する犯罪をしてしまって不安になっているという場合は、早急に弁護士に相談して自首や被害者との示談などについて検討しましょう。
また、被害届が出されて逮捕されたという場合でも弁護士に依頼すれば示談や早期釈放に向けた活動を行ってもらえます。
窃盗罪では少しでも早く対処することが重要になってくるので、できるだけ早い段階で弁護士へご相談ください。