営業妨害で訴えられるかもしれないと心配されている方もいらっしゃるでしょう。ウソの出前注文やネット掲示板での爆破予告など、営業妨害行為には気をつけなければなりません。
これらの行為は業務妨害罪や民事上の不法行為に該当し、軽く考えると逮捕や損害賠償のリスクが生じる可能性があります。
今回は、営業妨害に関連する犯罪や逮捕後の手続き、そして罪に問われた場合の対処方法について詳しく説明しています。法的なトラブルを避けたい方にとって、この情報が役立つことを願っています。
目次
1、営業妨害とは
まずは、営業妨害とはどのような行為のことをいうのか、そして、営業妨害をするとどのような犯罪が成立しうるのかを確認していきましょう。
(1)営業妨害の意味
営業妨害とは、法律用語ではないので明確な定義があるわけではありませんが、一般的に事業者の営業活動を妨害する行為を総称する言葉として用いられています。
例としては以下が挙げられます。
- SNSで「食事に虫が入っていた」とウソの情報を流す
- 店で長時間にわたって不当なクレームを言い続ける
営業妨害は犯罪となるケースがあり、民事上も不法行為として損害賠償責任が発生する可能性があります。単なるいたずらのつもりであっても、営業妨害は重い代償を負いかねない行為です。
(2)営業妨害で成立しうる犯罪
営業妨害は法律用語ではなく、「営業妨害罪」という犯罪は存在しません。
とはいえ、行為の内容によっては次の犯罪が成立する可能性があります。
- 偽計業務妨害罪(刑法第233条後段)
- 威力業務妨害罪(刑法第234条)
- 電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法第234条の2)
- 信用毀損罪(刑法第233条前段)
- 名誉毀損罪(刑法第230条)
- 脅迫罪(刑法第222条)
- 不退去罪(刑法第130条後段)
- 公務執行妨害罪(刑法第95条1項)
以下で、これらの犯罪が成立するケースについて詳しくみていきます。
2、営業妨害が偽計業務妨害罪に該当するケース
まずは、営業妨害が偽計業務妨害罪に該当するケースをご紹介します。
(1)偽計業務妨害罪とは
偽計業務妨害罪は、「虚偽の風説を流布し」または「偽計を用いて」、相手の「業務」を妨害する犯罪です(刑法第233条後段)。
「虚偽の風説を流布し」とは、客観的真実に反する噂・情報を不特定または多数の人に伝播させることを意味します。簡単にいうと、ウソの噂を不特定多数の人に対して流すことをいいます。内容が真実であれば該当しません。
「偽計」とは、相手をだましたり、無知・勘違いを利用したりすることを指します。
「業務」とは、人が社会生活を維持する上で反復・継続して行われることです。営利活動だけでなく、政治活動、ボランティア活動、サークル活動なども業務に含まれます。ただし、職業等の社会生活上の地位に基づく活動であることが必要となりますので、娯楽目的の活動、趣味としてのスポーツなどの個人的活動、日常の家事等は含みません。
以上をまとめると、偽計業務妨害罪はウソの噂を流したり、相手をだましたりして、会社などの活動を妨害する行為によって成立する犯罪です。
なお、結果として実際に業務が妨害されなくても、妨害されるおそれが生じる行為であれば、偽計業務妨害罪が成立します。
(2)偽計業務妨害罪に当たる具体的な行為
偽計業務妨害罪に該当する具体例は次のとおりです。
- 警察に虚偽の通報をした
- 最初から行くつもりがないのに飲食店に予約を入れた
- 勝手に「本日休業」との貼り紙を店舗の入り口に掲示した
(3)偽計業務妨害罪の罰則
偽計業務妨害罪の罰則は「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
懲役とは、刑務所に入って刑務作業をさせられる刑罰です。悪質な偽計業務妨害については、執行猶予が付かずに懲役の実刑判決になる可能性があります。
3、営業妨害が威力業務妨害罪に該当するケース
営業妨害が威力業務妨害罪に該当するケースもあります。
(1)威力業務妨害罪とは
威力業務妨害罪は「威力」を用いて相手の「業務」を妨害する犯罪です(刑法第234条)。
「威力」とは、人の自由意思を制圧するのに足りる勢力を示すことをいいます。簡単にいうと、威迫的な行為によって、相手にプレッシャーをかけて怯えさせることです。暴行や脅迫がわかりやすいですが、次の項目で示すように、それらに至らない程度の威迫行為であっても、広く認められます。
「業務」は、偽計業務妨害罪と同様に、職業等の社会生活上の地位に基づいて、社会生活を維持する上で反復・継続して行われることです。実際に業務に対する妨害の結果が生じなくても、妨害されるおそれが生じれば威力業務妨害罪が成立します。
(2)威力業務妨害罪に当たる具体的な行為
偽計業務妨害罪の具体例は次のとおりです。暴行・脅迫以外の行為でも成立します。
- デパートでヘビをまき散らした
- 航空機内でマスク着用を拒否して大声を挙げた
- ネット掲示板で殺害予告をした
(3)威力業務妨害罪の罰則
威力業務妨害罪を犯すと、偽計業務妨害罪と同じく「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されます。実刑判決がくだされる可能性もあります。
4、営業妨害が電子計算機損壊等業務妨害罪に該当するケース
やや特殊なケースですが、営業妨害が電子計算機損壊等業務妨害罪に該当する事例も想定されます。
(1)電子計算機損壊等業務妨害罪とは
電子計算機損壊等業務妨害罪とは、コンピュータを対象とする業務妨害を罰する犯罪類型です(刑法第234条の2)。
業務に使用するコンピュータに対し、以下の行為により動作障害を引き起こして「業務」を妨害すると成立します。
- コンピュータを物理的に破壊する
- コンピュータのデータを破壊、消去する
- コンピュータに虚偽の情報や不正な指令を与える
- その他の方法でコンピュータを誤作動させる
(2)電子計算機損壊等業務妨害罪に当たる具体的な行為
たとえば、次の行為に電子計算機損壊等業務妨害罪が成立します。
- 会社のパソコンにウイルスを送りデータを消去させた
- 放送会社のホームページの天気予報画像をわいせつ画像に書き換えた
- サイトに異常なアクセスをして障害を引き起こした
(3)電子計算機損壊等業務妨害罪の罰則
電子計算機損壊等業務妨害罪の罰則は「5年以下の懲役又は100万円以下の罰金」です。コンピュータを対象とする行為は影響範囲が広くなりうるため、偽計業務妨害罪・威力業務妨害罪と比べて重い刑罰となっています。
5、営業妨害がその他の犯罪に該当するケース
営業妨害は、業務妨害罪のほかにも以下の各犯罪に該当する可能性があります。
(1)信用毀損罪
営業妨害が信用毀損罪に該当するケースもあります。
信用毀損罪とは、「虚偽の風説の流布」や「偽計」により「信用を毀損」する行為に成立する犯罪です(刑法第233条前段)。
「虚偽の風説の流布」や「偽計」の意味は、偽計業務妨害罪におけるものと同様です。
「信用」には人の支払能力や支払意思に関する社会的な信頼に加えて、販売される商品の品質に関する信頼も含みます。経済的側面に関する信頼が対象であり、人柄への信頼を傷つける行為は信用毀損罪の対象には含まれません。
信用毀損罪が成立する典型例としては、根拠なく「あの会社は倒産寸前だ」とウソの噂を流した場合が挙げられます。
信用毀損罪の法定刑は、偽計・威力業務妨害罪と同様に「3年以下の懲役又は50万円以下の罰金」です。
(2)名誉毀損罪
営業妨害により相手の名誉を傷つけると名誉毀損罪に問われるかもしれません。
名誉毀損罪は、不特定または多数人に伝わるように事実を示して人の名誉を傷つけると成立する犯罪です(刑法第230条)。
信用毀損罪・偽計業務妨害罪とは異なり、示した事実が真実か虚偽かは問いません。真実を広めたとしても名誉毀損罪が成立するケースがあるので、注意してください。
名誉毀損罪を犯すと「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」に処せられます。
(3)脅迫罪
営業妨害の手段として人を脅迫することにより脅迫罪が成立する可能性もあります(刑法第222条)。
「脅迫」とは、相手やその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対して、何らかの害悪を加える旨を告知することです。
たとえば、店にクレームをつけて「返金に応じないと殴るぞ」と脅せば脅迫罪が成立します。
脅迫罪の刑罰は「2年以下の懲役又は30万円以下の罰金」です。
(4)不退去罪
店や会社の管理者から立ち去るように指示されたにもかかわらず応じなければ、不退去罪が成立します。
不退去罪は、建物などから退去するよう要求されているのに応じず、居座ることで成立する犯罪です(刑法第130条後段)。
たとえば、飲食店での食事中に騒ぎを起こし、店長から退店を命じられたのに拒否すれば不退去罪が成立します。
不退去罪の法定刑は「3年以下の懲役又は10万円以下の罰金」です。
(5)公務執行妨害罪
警察や役所などで業務を妨害する行為をすると公務執行妨害罪となるケースが考えられます。
公務執行妨害罪は、職務中の公務員に対して暴行・脅迫を加えることによって成立する犯罪です(刑法第95条1項)。
たとえば、市役所の窓口でクレームをつけた末に公務員に暴力をふるうと、公務執行妨害罪が成立します。
公務執行妨害罪の罰則は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金」です。
6、営業妨害の罪で逮捕されたらどうなる?
営業妨害が犯罪に該当して逮捕されると、警察や検察で最大72時間にわたって身柄を拘束され、取り調べなどの捜査がなされます。逮捕中は家族であっても面会できません。
引き続き身柄を拘束しての捜査が必要な場合には、逮捕に続いて勾留されることがあります。勾留期間は最大で20日間にも及びます。勾留期間中に、検察官が起訴するかどうか、すなわち裁判にするかどうかを決定します。
事案の内容によっては起訴後も引き続き勾留され、その場合は裁判が終わるまでは保釈されない限り身体を拘束されるため、仕事やプライベートへの重大な影響が避けられません。
どの段階においても、できる限り早く釈放してもらえるように活動することが重要です。
逮捕後の刑事事件における手続きの流れをより詳しく知りたい方は、以下の記事をお読みください。
7、営業妨害の罪に問われたときの対処法
営業妨害で罪に問われそうな場合にはどうすればよいのでしょうか?
対処法をご紹介します。
(1)妨害行為をやめる
まずは妨害行為をただちにやめましょう。妨害行為を続けていると相手の怒りがさらに高まり、場合によっては、警察への通報等がなされ、刑事事件化してしまう可能性もあります。
お店などへの営業妨害を何度も繰り返している場合には、今後の行為をやめてください。ネット上の書き込みをしているのであれば、すぐに削除しましょう。
(2)被害者と示談する
処分を軽くするためには、被害者との示談が重要です。
検察官や裁判官が処分を決定する際に、被害者の処罰感情は重視されています。被害者が厳しい処罰を望んでいないケースでは、不起訴処分や執行猶予付き判決を獲得できる可能性が高いです。
ただし、示談には金銭が必要になります。営業妨害により生じた損害の他にも、慰謝料を請求されることもあります。交渉次第では減額してもらえる可能性もあるので、被害者に対して真摯に謝罪した上で、丁寧に交渉することが大切です。
(3)情状を改善する
反省の態度を示すなど情状面の対策も重要です。情状が最後の決め手となって処分が軽くなるケースもあります。
もっとも、ただ「反省しています」と口で言うだけでは説得力が足りません。再犯を防ぐための具体的な方策を考えたり、生活を指導監督する人を用意したりする必要もあります。
8、営業妨害で訴えられたら弁護士に相談を
営業妨害をしてしまったら弁護士にご相談ください。
弁護士に依頼する大きなメリットは、示談交渉を任せられる点です。営業妨害をした本人が交渉に臨むのは、被害者感情を考えると適切ではありません。そもそも、身体拘束されていれば物理的に不可能です。弁護士に交渉を代行させて示談がまとまれば、不起訴処分や執行猶予付き判決の可能性が高まります。
また、逮捕・勾留により身体が拘束されている場合には、弁護士に依頼して早期釈放を目指しましょう。弁護士は身体拘束の不当性を裁判所に主張したり、検察官への働きかけをしたりして、少しでも早く身柄を解放してもらえるように全力を尽くします。
刑事手続きは時間との勝負です。すぐに弁護士にご相談ください。
営業妨害に関するQ&A
Q1.営業妨害とは?
営業妨害とは、法律用語ではないので明確な定義があるわけではありませんが、一般的に事業者の営業活動を妨害する行為を総称する言葉として用いられています。
Q2.営業妨害で成立しうる犯罪とは?
- 偽計業務妨害罪(刑法第233条後段)
- 威力業務妨害罪(刑法第234条)
- 電子計算機損壊等業務妨害罪(刑法第234条の2)
- 信用毀損罪(刑法第233条前段)
- 名誉毀損罪(刑法第230条)
- 脅迫罪(刑法第222条)
- 不退去罪(刑法第130条後段)
- 公務執行妨害罪(刑法第95条1項)
Q3.営業妨害が偽計業務妨害罪に当たる具体的な行為とは?
- 警察に虚偽の通報をした
- 最初から行くつもりがないのに飲食店に予約を入れた
- 勝手に「本日休業」との貼り紙を店舗の入り口に掲示した
まとめ
ここまで、営業妨害について、成立しうる犯罪、逮捕されたときの対処法などを解説してきました。
営業妨害をすると、偽計業務妨害罪、威力業務妨害罪などが成立する可能性があります。
いたずらや嫌がらせのつもりで、軽い気持ちでしてしまった行為が、思いのほか重大な犯罪になってしまうケースは珍しくありません。事態が深刻化しないよう、お早めに弁護士にご相談ください。