大麻でも、初犯だと刑が軽くなる-。
漠然とこのように思っている方は多いのではないでしょうか。
メディアから流れるニュースで使われるフレーズでもあります。
薬物、ことに大麻において初犯で逮捕された場合、その刑はどうなるでしょうか。初犯ということがどの程度考慮されるのか、気になるところかと思います。
そこで今回は、
- 大麻初犯で起訴される・実刑になる確率
- 大麻で不起訴となるケースや実刑になるケースの特徴
- 大麻初犯で逮捕されたらすべきこと
などを解説します。
現在、自身やご家族の方で思い当たる節がある方は参考にしてください。
大麻で逮捕されたらについて知りたい方は、以下の記事をご覧くだださい。
目次
1、大麻の初犯でも起訴される?実刑になる?
まずは大麻の初犯で起訴、実刑になる確率などをチェックしてみましょう。
(1)大麻初犯で起訴される確率
初犯での起訴率の正確なデータは発表されていないため、残念ですが正確な確率は分かりません。
ただ、法務省が毎年作成している犯罪白書によると、平成29年の大麻取締法違反による検挙者総数、起訴、不起訴人員、起訴率は以下のようになっています。
総数 | 起訴 | 不起訴 | 起訴率 |
4248人 | 2191人 | 2057人 | 51.6% |
※家庭裁判所に送致された検挙者は除く
上記の総数、起訴、不起訴人員などには初犯ではない方も含まれています。
よって上の表の起訴率は「大麻初犯の起訴率=51.6%」とはなりませんので、あくまでも目安程度に捉えておくようにしましょう。
大麻取締法違反自体の起訴率については、覚せい剤取締法違反における起訴率77.1%(平成29年)に比べると高くはないと言えそうです。
しかし、大麻取締法違反の51.6%という起訴率は、言い換えれば約2人に1人が起訴されているということになります。
その一方で、平成29年度の検察統計調査結果によると、平成29年の犯罪全体の起訴率は32.9%となっています。
このような犯罪全体の起訴率と比べても、その割合は決して低いとはいえません。
このような理由から、初犯の起訴率が明確ではありませんから、申し上げづらい点はありますが、大麻犯罪は初犯といえども楽観視するのは禁物とはいえるかと思います。
(2)大麻初犯で実刑になる確率
大麻取締法違反の有罪判決に関するデータを、以下にまとめましたのでご覧ください。
なお、以下のデータも初犯ではない方を含むものですので、あくまで目安程度に捉えておいてください。
有罪人員 | 実刑 | 執行猶予 | 一部執行猶予 | 実刑になる確率 |
1340人 | 189人 | 1151人 | 27人 | 14.1% |
【引用】司法統計 – 裁判所「刑事 平成29年度 34 通常第一審事件の有罪(懲役・禁錮) 人員 罪名別刑期区分別 全地方裁判所」
http://www.courts.go.jp/app/sihotokei_jp/search
http://www.courts.go.jp/app/files/toukei/953/009953.pdf
平成29年度の大麻取締法違反における実刑確率は14.1%となっています。
一方で全部執行猶予率は80%を超えています。
初犯ではない方を含めてもこれだけの割合で執行猶予となっていることからすると、大麻初犯の方が実刑になる確率は低いという見方ができるでしょう(※もちろん0%ではありません)。
ちなみに大麻取締法違反における刑罰は、以下のようになっています。
行為 | 罰則 |
所持・譲渡・譲受 | 5年以下の懲役 【営利目的】 7年以下の懲役 【営利目的】 200万円以下の罰金 |
栽培・輸出・輸入 | 7年以下の懲役 【営利目的】 10年以下の懲役 【営利目的】 300万円以下の罰金 |
なお、法律(大麻取締法)では、大麻犯への罰則は以下のように規定されています。
第二十四条 大麻を、みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、七年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、十年以下の懲役に処し、又は情状により十年以下の懲役及び三百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
引用元:厚生労働省
第二十四条の二 大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、五年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、七年以下の懲役に処し、又は情状により七年以下の懲役及び二百万円以下の罰金に処する。
3 前二項の未遂罪は、罰する。
引用元:厚生労働省
大麻における犯罪行為は所持、譲受、譲渡、栽培、輸出、輸入となっており、いずれも営利目的だと量刑が重くなる傾向にあります。
2、大麻初犯で不起訴とされるケースの特徴
大麻初犯では、どのような場合に起訴されるのでしょうか?
裏返しになりますが、不起訴と判断される事情が少なければ少ないほど、起訴される可能性は高まることになります。
そこで、以下、大麻初犯で不起訴と判断される要因にはどのようなものがあるかということを見ていくことで、起訴されるケースがどのようなものであるのかという問題を考えていきます。
一般的に、大麻初犯で不起訴と判断される要因には、主に以下のようなものがあります。
(1)証拠不十分による不起訴の場合
捜査の結果、起訴するに足りる証拠がないと検察官が判断した場合に、不起訴となることがあります。
例えば、大麻を所持していた者について、犯罪の故意があったこと(大麻を所持していたという認識があったこと、所持していた物が大麻であると認識していたことなど)が十分に証明できないと検察官が判断した場合には、証拠不十分により不起訴となる可能性があります。
また、証拠があっても、その証拠を得るための警察の捜査に重大な違法がある場合には、検察官がその証拠を裁判で利用することができないと判断し、不起訴と判断する場合があります。
ここでいう重大な違法とは、例えば警察官が必要な逮捕手続をとらずに逮捕を行い、その後逮捕手続の不足を隠すために虚偽の報告書を作成するなどした場合などが考えられます。
(2)以下のような情状を考慮した結果、起訴を猶予すべきと検察官が判断した場合
①犯行に至る経緯、動機
犯行に至る経緯や動機が強く非難できないようなものである場合には、不起訴と判断される事情となりえます。
②犯行の態様、程度
所持、使用等していた大麻の量が少ない等、犯行の態様や程度が悪質でない場合には、不起訴と判断される事情となりえます。
③年齢、生活状況
年齢が若いことや、生活が安定していることなどから更生の可能性が高いと判断されれば、不起訴と判断される事情となりえます。
④保護監督者の有無
親族等が再犯をさせないよう、更生のための監督を行うことを誓約している場合には、再犯可能性が低く、更生の可能性が高いために不起訴と判断される事情となりえます。
⑤前科前歴の有無
大麻犯については初犯でも、他に前科前歴がある場合は、再犯可能性があると判断されて起訴される事情となりえます。
⑥反省の有無
真摯に反省し、更生に向けて努力をしていると検察官が判断すれば、そのことが不起訴と判断される事情となりえます。
(3)不起訴とされるケースの特徴まとめ
つまり大麻初犯で起訴されやすいのは、上で解説した複数の要素、要因に当てはまらないケースであるといえます。
具体的には
- 営利目的や、使用、所持等した大麻の量が多いなど、犯行動機、犯行態様が悪質である場合
- 保護監督者がおらず、その他年齢や生活状況からみても再犯の可能性が高いと判断される場合
- 反省の色がまったく見られず、更生の見込みが低いと判断される場合
- 前科がある場合
などが挙げられます。
ただし、大麻初犯の場合は起訴されても執行猶予が付くことが多く、有罪判決がされた場合でも、量刑は懲役6ヶ月~2年程度となることが多いです。
先に引用した有罪判決に関する司法統計(裁判所「刑事 平成29年度 34 通常第一審事件の有罪(懲役・禁錮) 人員 罪名別刑期区分別 全地方裁判所」)によると、大麻取締法違反事件の約85.9%が全部執行猶予判決となっており、執行猶予なしの実刑判決となったケースでも、懲役1年未満が約46.6%、懲役1年以上2年未満を含めると約73%になります。
3、大麻初犯で実刑になるケースの特徴とは
前述のように、大麻取締法違反の初犯は懲役6ヶ月~2年で、執行猶予がつくことが多いです。
そのため、多くの方は「初犯だから実刑から免れることができる」と安心しがちです。
ただし、これは大麻初犯だからといって100%実刑にならないというわけではありません。
では、大麻初犯ではどのようなケースで実刑判決が下されることがあるのでしょうか?
この疑問に対する回答ですが、主には「所持していた大麻の量が非常に多く、かつ営利目的」などのケースが該当します。
先ほども解説したように大麻取締法違反は、個人使用目的よりも営利目的のほうが罰則が重くなりやすいです。
これに加えて大量の大麻(例:栽培20本、乾燥大麻約3㎏など)を所持していた場合は、「営利目的」「所持」「譲渡」「栽培」などの容疑が疑われますから、初犯から実刑判決が下される可能性もあります。
また、大麻に関しては初犯でも、過去に他の薬物等に関して同種の前科前歴があると再犯のおそれがあると判断される可能性が高まり、情状が悪くなりやすいでしょう。
もちろん十分な証拠が揃っているのにもかかわらず容疑を否認したり、反省の色が見られなかったりした場合も量刑が重くなる可能性は高くなります。
4、大麻初犯で逮捕されたら
仮に家族が大麻初犯で逮捕されたら、他の家族はその事実を知った瞬間からスピーディーな行動を心がけましょう。
一般的に刑事事件における逮捕後の流れというのは、以下のようになっています。
逮捕後の流れ | 拘束期間 |
逮捕~検察庁送致 | 48時間以内 |
送致~勾留請求 | 24時間以内 |
勾留 | 10日間~20日間 |
起訴後の勾留(なしの場合もあり) | 第一審の判決が下されるまで(単純所持であれば約2ヶ月ほど) |
大麻初犯で逮捕されたときに最も大事なのが、逮捕から勾留までの最大23日間の対応です。
逮捕、勾留された場合、一般的には起訴、不起訴の判断が下されるのが上記の最大23日間の期間となるためです。
よってこの期間に弁護士をつけ、不起訴処分の確率を少しでも高めることが大切です。
一般的に弁護士をつけることの意味や具体的なメリットは、以下のとおりです。
(1)早期釈放を目指し社会生活に支障をきたさない
弁護士をつけるメリットは、
- 早期釈放を目指せること
そして
- その結果として社会生活に支障をきたさずに済むこと
などが挙げられます。
大麻初犯で逮捕されると、まずは警察による取り調べ、そして検察に身柄を送る(いわゆる送検)という流れです。
送検が決定されると検察官が24時間以内に、勾留の必要性があるか否かを判断しなければなりません。
前述のように勾留は最短10日、最大で20日間となりますので、仮に勾留が決定されると学校や仕事を休む必要があり、最悪の場合は退学や退職処分が下される可能性もあります。
この不利益を避けるには、警察や検察による取り調べにおいて勾留の要件を満たさないことを主張する必要があります。
具体的には「逃亡の危険性があるか否か」「証拠隠滅のおそれがあるか否か」などです。
逃亡の危険性については、家族がある会社員や住所など身元がはっきりとしている学生であれば、逃亡の危険性が低いと主張しやすいと考えられます。
一方、大麻犯などの薬物犯罪では、薬物自体は比較的隠滅しやすいものであることや、余罪があることの多い犯罪類型であることなどから、一般に罪証隠滅のおそれが認められやすいと考えられます。
そのため、罪証隠滅のおそれがないことを主張するには、罪証隠滅をさせないよう監督することを誓約してくれる方を探すなどして、罪証隠滅のおそれがないといえる根拠を具体的に主張していくことが重要になります。
一般的には警察による取り調べが48時間以内、検察官による勾留の有無決定が24時間以内ですので、仮に釈放が決定された場合は72時間以内で身柄の拘束が解かれることになります。
つまり勾留なしと決定された時点で、ただちに釈放手続きがなされ、自宅に帰ることができます。
法律知識に乏しい被疑者の場合は、警察や検察官の取り調べにおいてどのような対応をすればよいかわかりません。
しかし、法律の専門家である弁護士をつけると、主張すべきポイントなどを教えてもらうことができますので、社会生活に悪影響を及ぼさない範囲での釈放も可能となります。
(2)不起訴を目指し前科をつけない
前述の起訴、不起訴のデータでも取り上げましたが、大麻取締法違反の不起訴率は約50%です。
これは覚せい剤など他の薬物関連と比較すると、高い割合です。
よって大麻事件の場合は、事案の内容次第では不起訴を目指せる可能性も十分にあります。
不起訴を目指すためには、どのような場合に不起訴とされるのかを知ることが大切です。
前述の「2、起訴されるケースの特徴とは」の中で、不起訴と判断される要因を記載していますので、こちらを参考にしてみてください。
(3)起訴されても執行猶予を獲得し社会生活をする中での更生を目指す
起訴が決定されると、約1ヶ月~1ヶ月半ほどで刑事裁判が開かれます。日本の刑事裁判の有罪率は99%を超えるともいわれているため、起訴されると有罪判決、そして前科がつく可能性は高いです。
ただし、大麻初犯の場合は、有罪判決を受けても比較的高い確率で執行猶予がつくことが多いため、起訴後は執行猶予獲得を目指す対応に切り替えるようにしましょう。
執行猶予とは有罪判決を受け、懲役が確定しても一定期間だけ刑の執行が猶予されることをいいます。
一例ですが懲役1年、執行猶予3年の場合は、刑務所に行くことなく釈放され、3年間執行猶予判決の取消しを受けずに過ごせば懲役1年の刑の執行を受けることはなくなります。
執行猶予判決が取り消される理由としては、執行猶予期間中に再度罪を犯したことが挙げられます。
仮に執行猶予期間中に、何かしらの罪を犯してしまった場合は、その罪の刑罰および大麻初犯で猶予されていた分の刑罰を合わせて科せられることになります。そのため、大麻初犯で執行猶予付き判決を受けても、数年間は油断することができません。
しかし、更生方法を考慮すると、刑務所よりも実際の社会生活のほうが大きな効果を見込むことができます。
弁護士はご家族と裁判に向けた打ち合わせをしたり、裁判後の入所先(薬物依存治療施設など)を確保したりするなど、執行猶予付き判決を目指すように務めてくれます。
よって、刑事事件や大麻事件に強い弁護士に依頼するというのは、社会生活での更生を目指す上では重要なポイントとなります。
5、大麻初犯で逮捕された場合|刑事事件に詳しい弁護士の探し方
ここまで解説してきたように、大麻初犯で逮捕された場合は、速やかに刑事事件や大麻事件に詳しい弁護士に依頼することが大切です。
刑事事件においては、自ら弁護士に依頼する私選弁護の他に、資力がない等の理由から弁護士が付けられないという事態を避けるため、国が費用を負担してくれる国選弁護という制度も用意されています。
しかし、国選弁護人は、費用面では大きなメリットがある一方、家族や被疑者が選任される弁護士を選ぶことはできません。
また、勾留決定後でなければ選任手続ができないため、逮捕直後から弁護活動をしてもらうということもできません。
また、各弁護士会の当番弁護士制度を活用する方法もありますが、こちらも無料での利用は初回の接見1回のみであり、その後は通常費用が発生することになりますので、限界があります。
そのため、逮捕直後からすぐに活動してもらいたい場合や、刑事事件に詳しい弁護士を選んで依頼したい、という場合には、私選弁護人を選ぶことが望ましいといえます。
ただし、刑事事件に詳しい弁護士の探し方などは一般の人ではわかりません。
一般的に刑事事件に強い弁護士とは、以下のような特徴、実績がある弁護士のことを指します。
- 逮捕されても早期の釈放を実現する
- 逮捕、勾留されても不起訴獲得を実現する
- 刑事裁判における執行猶予付き判決や無罪判決獲得を実現する
また、上記以外にも、被疑者を起訴するか否かの決定権を持つ元検察官の弁護士などは、起訴までの動きや流れや検察官の考えを熟知しているため、刑事事件では重宝されやすい存在です。
その他、刑事事件で早期釈放を目指す場合はスピードが重要となりますので、土日にも対応している弁護士だと安心でしょう。
なお、刑事事件に強い弁護士の探し方は、以下のページに詳細が記載されていますのでチェックしてみましょう。
まとめ
今回は大麻初犯における起訴や実刑の割合、大麻初犯で逮捕された場合に取るべき対処法などを解説しました。
一般的に大麻初犯で逮捕された場合は、執行猶予付き判決が下されることが多いですが、裁判までの準備が不足していると実刑になる可能性も出てきます。
よって仮に大麻初犯で逮捕された場合は、速やかに刑事事件に強い弁護士に依頼をするなどの対策を施すようにしましょう。
現在、大麻事件による逮捕などで疑問や不安を抱えている方はぜひ参考にしてください。