「内縁関係ってどうやって証明するの?」これは、パートナーと内縁関係にある人なら一度は感じたことのある疑問でしょう。戸籍を共にしている法律上の夫婦とは異なり、内縁関係にある男女には法律上の婚姻関係が存在しません。
今回は、内縁関係の証明が必要になる場面や内縁関係の証明方法について解説します。
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1、内縁関係の証明が必要になる場面
そもそも、内縁関係の証明はどんなときに問題になるのでしょうか?内縁関係の証明が必要になる場面について見ていきましょう。
(1)不貞行為等による慰謝料の請求
内縁関係にあるパートナーが不貞行為をしたとしましょう。このとき「法律上の婚姻関係にあるわけではないから、どうせ慰謝料は請求できないだろう」と考える人が少なくありません。確かに内縁関係にある男女は法律上の婚姻関係にはありませんから、相手が不貞行為をしたといっても、ただのカップルの浮気のように捉えられてしまう一面があります。
しかしながら、内縁関係にあることの証明ができれば、不貞行為をしたパートナーにはもちろん、内縁関係にあるパートナーの浮気相手にも慰謝料請求をすることができます。
籍を入れていなかったとしても、パートナーがあなたを裏切って別の異性と肉体関係を持ったのであれば、慰謝料請求をすることを検討しましょう。
なお、内縁関係の証明ができずただの恋人との同居関係でしかない場合や、不貞行為をした当時に内縁関係がすでに破綻していた場合等は慰謝料請求が認められないので注意してください。
(2)内縁解消時の財産分与
内縁関係は法律上の婚姻関係にはないので、通常の夫婦のような離婚による財産分与が認められないようにも思えますが、内縁関係の解消時にも法律上の婚姻関係に準じた保護が認められています。
すなわち、内縁関係の証明ができれば、内縁関係にあった期間中の二人の共有財産について財産分与が認められます。
内縁解消時の財産分与については、内縁関係の解消が正当な理由に基づくものである場合にも認められます。
なお、内縁関係の解消時、財産分与は認められますが、内縁関係にあったパートナーが死亡しても内縁配偶者に相続権が認められるわけではないのでこの点は注意しておきましょう。
また、財産分与が認められるのは内縁関係にあった期間中の共有財産ですので、内縁関係開始前の固有の財産については財産分与の対象になりません。
(3)内縁解消後の養育費の請求
内縁関係にある二人の間に子供がいる場合、内縁解消後に養育費を請求できる場合もあります。法律上の婚姻関係にはないからといって自分の子供の養育に関し何らの責任を負わなくて良いとするのは無責任でしょう。
内縁関係を解消する際は、内縁配偶者との間で子供の養育費や面会について話し合いをし、養育費を受け取る場合は公正証書等の形にしておくことが大切です。
(4)遺族年金の受け取り
内縁関係の場合でも、内縁配偶者が死亡した場合は遺族年金を受け取ることができます。内縁配偶者が遺族年金を受け取るには「事実婚の実体があったこと」「死亡した人によって生計を維持されていたこと」の2つを証明する必要があります。
2、内縁関係の証明方法
上記のような場面では、内縁関係を証明する必要が生じます。ここからは、内縁関係の証明方法について見ていきましょう。
(1)書類による内縁関係の証明方法
①住民票
書類による内縁関係の代表的な証明方法は住民票です。内縁関係を証明する上では住民票が最も証拠価値が高いといえるでしょう。
住民票の続柄の部分は、婚姻関係にある夫婦の場合は「妻」「夫」と記載されます。これに対し、婚姻関係にない夫婦の場合で住民票の続柄部分が「妻(未届)」「夫(未届)」となっている場合は、内縁関係にあると判断されやすいです。
法律上の婚姻関係にはないという点で同一の戸籍の届け出はしていないものの、それぞれに「妻」「夫」という夫婦関係の意思がある場合、「妻(未届)」「夫(未届)」という続柄の表記にできる場合があります。
また、住民票では世帯主を誰にするかという点が重要になります。
内縁配偶者一人を世帯主とする場合、住民票の続柄部分に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載することができますが、この場合、相手の住民票にあなたの氏名も記載されることになります(内縁配偶者が世帯主となり、あなたはその世帯の一員という表記になります)。
内縁配偶者のみを世帯主としたければ、内縁関係を隠している場合や内縁関係を解消した際に手続きが複雑になる点に注意しましょう。
一方、内縁関係にある者双方が世帯主になるという方法もあります。
この場合、相手の住民票に自分の氏名が記載されてしまう心配はありませんが、双方が世帯主なので住民票の続柄部分に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載することはできなくなります。
双方を世帯主とすると、一つ屋根の下に二人が同居しているだけという推定が働き、続柄部分に「妻(未届)」「夫(未届)」と記載している場合に比べると内縁関係の証明が弱くなります。
②賃貸借契約書
内縁の配偶者と同居している場合、賃貸借契約書の「同居人」部分に「内縁の妻」、「内縁の夫」、「妻(未届)」、「夫(未届)」と記載している場合があるでしょう。このような記載も内縁関係を証明する一つの証拠となります。
③被扶養者として記載されている健康保険証
内縁配偶者の「被扶養者」として記載された健康保険証も内縁関係を証明する一つの証拠となるでしょう。
健康保険証の「被扶養者」部分には、「被保険者の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子であって、その被保険者と同一の世帯に属し、主としてその被保険者により生計を維持するもの」が含まれます。
そのため、法律上の婚姻関係にない場合でも「被扶養者」に含まれます。ただし、内縁配偶者と同一世帯に属していることや年収が基準額未満であること等の条件を満たしていることが必要です。
④男性側の給与明細書(扶養人数の記載)
日本の企業には「扶養手当」や「家族手当」等の名目で手当を支給する企業があります。内縁配偶者の給与明細書に「扶養手当」や「家族手当」が記載されていれば(「扶養人数1名」等)、それも内縁関係を証明する一つの証拠になります。
⑤民生委員発行の事実婚証明書または内縁関係証明書
民生委員が内縁関係を証明する書類を作成してくれる場合があります(事実婚証明書や内縁関係証明書)。ただし、民生委員発行の書類があれば必ず内縁関係が証明されるわけではなく、書類の内容によって証拠能力は異なります。
⑥遺族年金証書等の写し
内縁の配偶者がすでに死亡しており遺族年金を受け取っている場合、遺族年金証書の写しが内縁関係を証明する証拠の一つになります。
(2)客観的事情による内縁関係の証明方法
上記は書類により内縁関係を証明する方法でした。上記の書類による証明の他に、以下の客観的事情があると、より内縁関係を証明できる確率が上がります。
①長期間の同居
生計を共にし、長期間同居していることは内縁関係を基礎付ける一つの要素です。どのくらいの期間同居していれば内縁関係が成立するのかについて明確な基準はなく、その他の要素を総合考慮して判断されます。
②結婚式や披露宴等を執り行ったこと
法律上の婚姻関係にはない二人でも、結婚式や披露宴等を執り行う場合があります。この場合、結婚式や披露宴等を執り行った資料や写真が内縁関係を基礎付ける一つの要素になることがあります。
③周りから夫婦として扱われている
周りの人の証言も内縁関係を基礎付ける一つの要素です。周りの友人や知り合いから夫婦のように扱われていれば、周りの人の証言も一つの考慮要素となるでしょう。
ただ、この証言については客観性が疑われることもありますので、あくまで補助的な要素となるケースが多いです。
④LINEやメールのやり取り
内縁配偶者とのLINEやメールのやり取りも内縁関係を基礎付ける一つの要素となりえます。生計を共にする内容や結婚意思があるような内容のやり取りが内縁配偶者との間で行われていた場合は、内縁関係を基礎付ける一つの要素になるでしょう。
また、内縁配偶者が周りの友人に「妻です」と紹介していたり、SNS等の媒体で夫婦であることを記載していたりすること等も内縁関係を推認させます。
⑤二人の会話を録音した録音テープ
内縁関係にある二人の会話を録音したテープや動画が内縁関係を証明する一つの考慮要素になる場合があります。
共同生活を前提とする会話や夫婦として生活していくことを連想させる会話等があれば内縁関係を基礎付ける要素になる可能性があります。
ただし、会話の内容によっては内縁関係を裏付けるとは言えないものもありますので、証拠能力があるかは会話の内容によって異なります。
3、内縁関係の成立が認められた裁判例
内縁関係の存否が争われた具体的ケースを見ていきましょう。
(1)内縁関係の終了に伴う相当額の財産分与請求が認められたケース(福岡家庭裁判所 平成30年3月9日審判)
内縁関係の終了に伴う財産分与の請求がなされた事案で内縁関係の存否が一つの争点となりました。
本件の申立人と相手方は相当期間の同居生活があったことや親族との交流があったこと等の事情が総合考慮され、内縁関係が成立していたと判断されました。
内縁関係が成立したことにより財産分与としての支払いが命じられました。
(2)内縁関係の存否が争われたケース(東京地方裁判所 平成23年11月7日判決)
内縁関係が不当に破棄されたことを理由に慰謝料の請求がなされた事案で、内縁関係の存否が争われました。
こちらの事案では、原告と被告の共同生活が長期間にわたって続いていたこと、対外的に原告は被告の姓を名乗っていたこと、親戚づきあいをしていたこと、周囲から夫婦として認識されていたこと等を総合的に考慮し内縁関係の成立が認められました。
内縁関係の成立が認められ、被告による内縁関係の破棄が相当な理由に基づくものではないと判断されたことにより慰謝料請求が認められました。
4、内縁関係の証明でお困りの場合は弁護士に相談を
内縁関係の証明が必要になるのは日常の些細なタイミングではなく、どちらかというとなんらかのトラブルや大きな問題が発生した場合です。ただでさえ法律上の婚姻関係にない内縁関係の証明は簡単とは言えません。
それに加えて、内縁配偶者と同居している際はお互いに内縁関係の意思があっても、トラブル発生後は内縁の配偶者が急に発言や態度を変えて「内縁関係などなかった」と言ってくる可能性も十分あり得ます。
トラブル発生後では書類や録音テープ等、内縁関係を証明する際に証拠となりうるものを集めにくくなるケースもあります。
内縁関係の証明が必要になりそうな場合や内縁の配偶者とトラブルが発生しそうな場合は早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
内縁関係の証明に関するQ&A
Q1.書類による内縁関係の証明方法とは?
- 住民票
- 賃貸借契約書
- 被扶養者として記載されている健康保険証
- 男性側の給与明細書
- 民生委員発行の事実婚証明書または内縁関係証明書
- 遺族年金証書等の写し
Q2.内縁関係の証明が必要になる場面には?
- 不貞行為等による慰謝料の請求
- 内縁解消時の財産分与
- 内縁解消後の養育費の請求
- 遺族年金の受け取り
Q3.客観的事情による内縁関係の証明方法とは?
- 長期間の同居
- 結婚式や披露宴等を執り行ったこと
- 周りから夫婦として扱われている
- LINEやメールのやり取り
- 二人の会話を録音した録音テープ
まとめ
内縁関係の証明は簡単とは言えませんが、内縁関係を証明することで慰謝料請求や遺族年金の受け取り等ができるケースもあります。初めから諦めるのではなく、内縁関係の証明が必要になりそうな場合は一度弁護士に相談をしてみてください。
内縁関係の証明は一つの事情のみで証明するというよりは複数の事情を総合考慮して判断されることが多いです。弁護士と一緒に内縁関係を証明できる事情や証拠を考えていきましょう。