会社がコロナ対策してくれないと困っている方はいませんか?
新型コロナウイルスへの感染を防止するためには、密閉・密集・密接といった「3密」を避け、ソーシャルディスタンス(人との接触距離や社会的距離)を確保し感染を予防することが重要です。
しかし、会社での仕事や通勤においては3密にさらされ、ソーシャルディスタンスの確保が難しい場面が多々あります。
政府はコロナ対策として、テレワークや在宅勤務をはじめさまざまな施策を企業に対して推進していますが、現実にはコロナ対策をしてくれない会社もあるようです。
そのため、いつか新型コロナウイルスに感染するのではないかという不安に怯えながら、会社に出勤し業務に取り組む方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、
- 会社にコロナ対策を行うべき義務があるのか
- 会社がコロナ対策をしてくれないときの対処法とは
- 万が一、新型コロナウイルスに感染してしまったときの対処法とは
といった問題について解説していきます。
ご参考になれば幸いです。
目次
1、会社がコロナ対策してくれない…会社には感染対策義務があるの?
まず、そもそも労働者が会社に対してコロナ対策をとるように求めることができる、法律上の権利はあるのでしょうか。
裏を返せば、会社に新型コロナウイルスへの感染を防止する対策をとらなければならない法的義務があるのかという点が問題となります。
(1)安全配慮義務
まず、会社は労働者が労働するに際して、その生命や身体の安全を確保するよう必要な配慮をする義務を負っています(労働契約法第5条)。
このような義務を安全配慮義務といいます。
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
引用元:労働契約法
また、労働安全衛生法上も、快適な職場環境の実現や労働環境の改善によって労働者の安全と健康を確保するようにする義務や、国の実施する労働災害防止のための施策に協力する義務について定められています。
第三条 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。
また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。引用元:労働安全衛生法
これらの規定に照らせば、会社は労働者が新型コロナウイルスに感染して生命や健康を害することがないように配慮する義務を負っているといえます。
そのため、会社は、コロナ対策のための政府の要請に協力するよう努める必要がありますし、労働者の中に新型コロナウイルスの感染者が出た場合など、必要に応じて労働者の感染を防止するためのコロナ対策を行う義務があります。
(2)具体的に会社が行うべきこと
コロナ対策として会社が具体的に何を行うべきかは、職種や職場環境、労働者の健康状態などさまざまな事情に応じて異なる部分もあります。
一般的には、以下のような対策が考えられます。
- テレワークや在宅勤務を認める
- 時差出勤や時短勤務を実施する
- 訪問営業や出張を中止する
- 会議は3密にならないように行う
- 職場の換気を徹底する
- マスクを配布する
- アルコール消毒液を設置する
- デスクの間隔を確保する
2、会社にコロナ感染対策を求める方法
労働者から会社に対してコロナ対策を求めたとしても、会社が、それにかかるコスト等を理由に聞き入れてくれない可能性があります。
そんなときは職場の労働者たちが団結して会社に要求することも1つですが、より実効性のある方法として以下のようなものもあります。
(1)衛生委員会の開催を求める
常時50人以上の労働者を使用する事業上では、衛生委員会の設置が義務づけられています(労働安全衛生法第18条第1項、労働安全衛生法施行令第9条)。
衛生委員会は月に1回以上開催しなければならず(労働安全衛生規則第23条第1項)、労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること等を調査審議し、事業者に対し意見を述べさせるものであるとされています(労働安全衛生法第18条第1項)。
また、その概要を記録した議事録は労働者に周知させなければならないとされています(労働安全衛生規則第23条第3項)。
以上を踏まえ、衛生委員会の設置が義務づけられている会社においては、労働者から衛生委員会の開催を求めることが考えられるでしょう。
衛生委員会に対して、前記「1(2)」でご紹介したテレワークや在宅勤務の導入等さまざまな対策を具体的に提案してみるとよいでしょう。
(2)労働組合に相談する
実際には、衛生委員会を設置している会社であっても、実質的に委員会が機能していない場合もあることでしょう。
そんなとき、労働組合があれば労働組合に相談してみるのも有効です。
労働組合には団体交渉権があり、会社は正当な理由がない限り団体交渉を拒むことはできません。
労働組合による団体交渉を通じてコロナ対策の実施を求めることによって、会社が具体的な対策を検討することが期待できます。
(3)労働基準監督署へ相談する
会社に労働組合がない場合や、労働組合による団体交渉でも会社に十分な対応がしてもらえない場合は、労働基準監督署に相談するのも1つの方法です。
労働基準監督署には、さまざまな労働問題について相談することができます。
会社が安全配慮義務を怠ってコロナ対策を実施しない場合についても、相談することが可能でしょう。
相談を受けた労働基準監督署は、必要に応じて会社に対して指導や是正勧告の措置を行うことができます。
これらの措置によって会社の対応の改善が期待できるでしょう。
3、会社がコロナ感染対策してくれないときの対処法
以上の方法を用いても会社がコロナ対策してくれない場合、会社に対し何らかの対策をとることを法的に強制する方法がないかと考えるかもしれませんが、残念ながら、そのような方法はありません。
実際のところ、労働者の側で、マスクを着用し、職場や通勤中には可能な限り他の人との物理的な距離を確保して会話は控えるなどの自衛策を講じるしかないのが実情です。
ただ、職場や通勤中に3密を避けられないため出勤を控えたいものの、会社が在宅勤務を認めてくれないために、仕方なく出勤しているという方もいらっしゃるでしょう。
では、会社が在宅勤務を認めてくれないときに自己判断で在宅勤務をした場合、法的にはどのような問題があるのでしょうか。
(1)自己判断による在宅勤務は慎重に
前記「1(1)」でご説明したとおり、会社には労働者の安全や健康を確保した上で労働ができるように配慮すべき義務があります。
新型コロナウイルスへの感染が拡大している現状においては、会社は安全配慮義務に基づいて、感染リスクを抑えるべく適切な安全確保措置をとる必要があるでしょう。
それにもかかわらず、会社が何らの検討もせずに労働者に通常どおり出勤を命じた結果、新型コロナウイルスに感染した労働者が現れた場合には、会社は安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。
会社が安全配慮義務を尽くさず、会社でいわゆるクラスターが発生したなどといったような場合には、労働者が自己判断で在宅勤務をしても、労務を提供したものとして、賃金全額の支払いを請求することができる可能性もあるでしょう。
しかし、安易な自己判断は禁物です。
自己判断による在宅勤務が正当な労務提供と認められるかどうかは、会社の安全確保措置の実施状況、出社による感染リスクの程度、在宅勤務が可能な職種かどうか、在宅勤務以外に感染リスクを下げる方法はなかったかなど、さまざまな事情を総合的に考慮して判断されることになるでしょう。
会社の安全確保措置が不十分であると感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そのような場合には、すぐに自己判断で在宅勤務とするのではなく、前記「2」でご説明した方法をとりながら、まずは会社に対し、出社による感染リスクの程度等も踏まえ、安全確保措置が不十分である旨申し入れ、適切な措置を講じてもらうよう努めた方が良いでしょう。
(2)やむを得ない欠勤による解雇は無効
会社から出勤を命じられても、家族に小さな子どもや介護が必要な高齢者がいるなどの理由で新型コロナウイルスへの感染をどうしても避けたいという方も多いでしょう。
そういった事情でやむを得ず会社を欠勤した場合、解雇されてしまうのではないかと不安に思われるのではないでしょうか。
しかし、会社が労働者を解雇するためには、客観的に合理的な理由が必要とされています(労働契約法第16条)。
新型コロナウイルスへの感染が拡大している現状において、労働者が、家庭の事情によってやむを得ずに欠勤した場合に、そのことのみをもってした解雇には、客観的に合理的な理由は認められないでしょう。
在宅勤務が可能であるにもかかわらず会社がこれを何ら検討せず、通常どおり出勤を命じた場合ならなおさらです。
4、コロナに感染してしまったときの対処法
ここまで、会社にコロナ対策を求める方法や自衛策について主に解説してきました。
次は、会社がコロナ対策しないために労働者が実際に新型コロナウイルスに感染してしまったときはどうすればよいのかについてご説明します。
(1)会社の休業補償
新型コロナウイルスに感染してしまったら、当面の間は会社を休まなければならないでしょう。
会社によっては、病気によって休業する場合の休業補償について就業規則に定められている場合もあります。まずは、就業規則を確認しましょう。
就業規則に休業補償に関する規定がないような場合でも、会社の「責に帰すべき事由」が認められる限り、平均賃金の最低60%以上の休業手当を請求することができます(労働基準法第26条)。
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。
引用元:労働基準法
新型コロナウイルスの感染経路の特定は必ずしも容易ではないでしょうが、会社がコロナ対策をしないために業務中に新型コロナウイルスに感染したということが認められる場合は、これを理由として休業をしても、私病による休業ではなく「使用者の責に帰すべき事由」による休業といえるでしょう。
したがって、その場合には、労働基準法第26条による休業手当の支給を受けることができます。
(2)労災の申請
業務中や通勤中に新型コロナウイルスに感染した場合は、労災を申請することができます。
労災と認定されれば、休業補償給付として平均賃金の80%が支給されます。
ただし、労災保険給付が支給されるのは休業4日目以降に限られ、休業当初の3日間については会社から休業補償を受ける必要があります(労働基準法第76条第1項、第84条第1項)。
なお、労災の認定を受けるためには、業務中または通勤中に感染したことが認められなければならないことに注意が必要です。
そのため、感染経路が不明の場合は認定を受けられないおそれもあります。
業務外においても、新型コロナウイルスへの感染リスクを抑えるよう常に心がけておくことが大切です。
(3)会社に対する損害賠償請求
会社から休業補償を受けるにせよ、労災保険給付を受給するにせよ、本来の賃金の100%の補償を受けることはできません。
しかし、会社に安全配慮義務違反が認められ、会社の安全配慮義務違反により労働者が新型コロナウイルスに感染し、入通院が必要となったというような場合には、会社に対して損害賠償として本来の賃金との差額や慰謝料の請求をすることができるでしょう。
ここで注意が必要なのは、会社の安全配慮義務違反と損害発生との間の「因果関係」を証明する必要があるということです。
すでに指摘したとおり、感染経路を特定するのは必ずしも容易ではありませんが、会社に対し、上記のような損害賠償請求をするためには、会社がコロナ対策をしないために業務中に新型コロナウイルスに感染したということを証明することが必要です。
もし、業務とは無関係な経路で新型コロナウイルスに感染した場合は、会社に対する損害賠償請求は認められないでしょう。
5、会社がコロナ感染対策してくれないときは弁護士に相談を
新型コロナウイルス感染症は生命にかかわる病気なので、会社がコロナ対策をしてくれないと労働者は常に不安を抱えながら労働しなければなりません。
会社にコロナ対策を求める方法は前記「2」でご紹介しましたが、弁護士に相談するのも有効な方法です。
やむを得ず欠勤した場合に労働基準法第26条に基づく休業手当が支払われなかったり、解雇されたり、新型コロナウイルスに感染して慰謝料等を請求する場合は、弁護士に依頼するのがおすすめです。
弁護士に依頼すれば、会社との交渉から裁判手続きまですべての手続きを依頼者の代理人として代行することができます。
まとめ
新型コロナウイルスに感染してしまったら会社に対する慰謝料等の請求も可能ですが、何より、感染しないことが重要です。
政府からもさかんにコロナ対策について警鐘を鳴らしているにもかかわらずコロナ対策をしない会社は、労働者の安全確保に対する意識が足りないといわざるを得ないでしょう。
職場や通勤における感染リスクにお悩みの場合は、早めに前記「2」の方法により会社にコロナ対策を求め、会社の対策不十分のために新型コロナウイルスに感染したような場合などには、弁護士に相談して法的に正しく対処しましょう。